NEOTERRAINの書籍・Tシャツ・トートバッグを公開中

なぜ、「売上No.1」と「私に合う」は違うのか?

コーヒー豆の袋を手にする女性客と、試飲用のカップを差し出す店員を描いた水彩画。「みんなの一番。私の一番。」の文字。
コーヒー豆の袋を手にする女性客と、試飲用のカップを差し出す店員を描いた水彩画

多くの人に選ばれる安心と、自分の暮らしに合う納得。人気の表示から、マーケティングの役割を考える。

売り場で、二つの商品を手に取る。

一つには、大きく「売上No.1」と書かれている。もう一つは、見慣れない名前だが、説明を読むと自分の使い方に合っていそうだ。

少し迷って、No.1のほうを買う。

多くの人が選んでいるなら、失敗しにくいだろう。

ところが使ってみると、悪い商品ではないのに、どこかしっくりこない。機能は豊富だが、操作が複雑だった。評判の香りが、自分には少し強かった。

売れていることは、確かな実績である。

それでも、その実績が、目の前の一人に合うことまで約束するわけではない。

私たちは「みんなが選んだ」という情報から、何を読み取っているのだろう。そして企業は、その安心を、どうすれば購入後の納得につなげられるのだろうか。

Contents

1.売上が答える問いと、顧客が知りたい問い

まず、「売上No.1」が何を示しているのかを整理したい。

適切な根拠に基づく売上No.1であれば、一定の期間、対象市場、販売経路などの条件のもとで、販売金額や数量が最も大きかったことを示す。

一方、顧客が知りたいのは、たとえば次のようなことだ。

自分の部屋で使いやすいか。
毎日の手入れを続けられるか。
必要な機能が、無理なく使えるか。

この二つは、異なる問いである。

情報判断の手がかりになることそれだけでは分からないこと
売上金額・数量の順位対象市場での販売実績個人の用途や好みとの相性
顧客満足度調査対象者による評価自分も同じ評価をするか
口コミ・レビュー投稿者の使用経験投稿者と自分の条件が同じか
仕様・使用条件必要な条件を満たすか実際の使い心地や感覚

売上、満足度、口コミは、それぞれ役立つ情報だ。ただし、互いに置き換えることはできない。

「たくさん売れた」が「誰にとっても使いやすい」に変わるわけではないからだ。

2.それでも、「みんなが選んでいる」は頼りになる

初めて買うものについて、すべてを調べるのは難しい。

出張先の昼食。贈り物の菓子。使ったことのない仕事道具。

比較にかけられる時間が少ないとき、他者の選択は手がかりになる。

すでに使った人がいる。一定の支持を得ている。そうした情報から、品質や使い勝手を推測できるかもしれない。

このように、他者の行動を判断の材料にする見方は、社会的証明や観察学習の考え方につながる。

ただし、人気の情報は、単純に「さらに一番人気へ人を集める」だけとも限らない。

TuckerとZhangが2011年に発表した研究では、結婚関連サービスの紹介サイトで人気情報を提示する実験を行った。すると、同程度の人気を持つ事業者同士でも、対象顧客が限られる事業者のほうが、幅広い層に訴求する事業者より訪問を集める結果が得られた。著者らは、対象が狭いにもかかわらず人気があることが、品質を推測する材料になりうると説明している。Management Science

これは、購入や満足度そのものを示した結果ではない。それでも、人気の数字は、商品やサービスの特徴と組み合わされて解釈されることが分かる。

顧客が見ているのは、「何人が選んだか」だけではない。

「どんな条件の商品を、それだけの人が選んだのか」という意味でもある。

3.人気商品が、かえって迷いを増やすこともある

人気の表示は、選択を簡単にしてくれる。

そう思いがちだが、場合によっては逆のことも起こる。

たとえば、コーヒーを買う場面を考えてみたい。

自分は酸味が穏やかで、深く焙煎した味が好きだ。その条件で候補を絞ったところに、別の豆へ「当店人気No.1」の札が付いている。

説明を読むと、華やかな酸味が特徴だという。

好みだけなら選ばない。それでも、人気と聞くと気になる。

「自分が知らない、おいしさがあるのかもしれない」

こうして、いったん絞った候補が増える。

Goodmanらの2013年の研究は、大きな品ぞろえの中で「ベストセラー」「受賞商品」などの推奨表示が、好みの明確な消費者に与える影響を検討した。三つの実験では、こうした表示が好みとの葛藤を生み、検討する候補を増やし、意思決定を難しくする場合が示された。好みが明確でない場合や、選択肢が少ない場合には、その影響は弱まった。Wiley Online Library

人気の表示は、迷いを減らすこともあれば、新しい迷いを生むこともある。

売り場にNo.1の札を増やす前に、顧客がどの段階で、何に迷っているのかを考える必要がある。

4.「みんなと同じ」が、魅力にならない商品もある

失敗したくない買い物では、多くの人が使っていることが安心につながりやすい。

一方、自分らしさを表したい買い物では、同じ情報が別の意味を持つことがある。

音楽、服装、髪形。

その選択が「自分はどんな人か」と結び付くと、人気であることを歓迎する人もいれば、少し距離を置きたくなる人もいるだろう。

BergerとHeathが2007年に発表した研究では、音楽や髪形など、アイデンティティを象徴すると捉えられる領域で、参加者が多数派と異なる選択をしやすい傾向が示された。そこには、望まない人物像や集団と同一視されたくないという動機が関わっていた。Stanford Graduate School of Business

もちろん、人気商品を避ける人のほうが自分を理解している、という話ではない。

同じ人でも、商品や場面によって求めるものは変わる。

出張用の充電器には、広く使われる安心を求める。休日に着る服には、自分の感覚に合うものを探す。

マーケティングでは、商品を通じて顧客が何を得たいのかまで見る必要がある。

5.No.1は、何の一番なのか

ここまでの話には、前提がある。

人気や実績の情報が、内容に見合う根拠を持っていることだ。

売上No.1、満足度No.1、知名度No.1。どれも「No.1」だが、測っているものは違う。

消費者庁は2024年9月、「No.1表示に関する実態調査報告書」を公表した。第三者の主観的評価を指標とする表示を中心に調査し、表示内容に見合った調査が行われていない事例などを指摘している。消費者庁

顧客が情報の意味を理解するには、次のような条件が重要になる。

  • 何を比較した順位なのか
  • いつの実績や調査なのか
  • どの市場・販売経路が対象なのか
  • 誰に、どのように尋ねた評価なのか
  • 販売実績なのか、利用者の評価なのか、イメージなのか

条件は、数字を正しく読むための情報である。

企業にとっても、「一番です」と言うだけでなく、その一番が何を意味するかを伝えることが、信頼につながる。

6.企業は、安心の先に「合う理由」を用意する

では、実績のある企業は、No.1を使わないほうがよいのだろうか。

そうではない。

実績は、初めての顧客が検討を始める手がかりになる。そこから、個々の使い方に合うかを判断できるようにすることが大切だ。

ここからは、研究を踏まえた実務への提案である。

たとえば、掃除機なら、販売実績に加えて、住まいや使い方による違いを伝える。

持ち上げて階段を掃除するのか。広い床をまとめて掃除するのか。収納場所はどのくらいあるのか。

必要なのは、機能の羅列を、顧客が自分の生活へ置き換えられる情報にすることだ。

顧客の疑問伝えたい情報
持ち運びやすいか重量、持ち方、階段で使う場面
自宅に置けるか寸法、収納に必要な空間
手入れを続けられるか清掃手順、頻度、必要な作業
自分の用途に十分か対応できる条件と、苦手な条件

企業間取引でも同じ問いがある。

「導入企業数が多い」という実績は参考になる。ただ、そのまま自社での使いやすさを示すわけではない。

自社と近い規模の事例、担当者に必要な作業、導入後の支援範囲が分かれば、判断を進めやすくなる。

「多くの人に選ばれた理由」と「あなたが選ぶ理由」を、つなげて伝える。

広告や営業提案には、その仕事がある。

7.一番を取っていない企業にも、伝えられる価値がある

市場全体での販売実績が小さくても、特定の課題に深く応えられる企業はある。

小さな施設で使いやすい道具。ある素材の加工に強い工場。複雑なテーマを丁寧に整理できる制作会社。

そうした企業が、自分の価値を伝えるために、必ずしも順位をつくる必要はない。

どんな相談に応えられるのか。何を得意とするのか。どんな条件では、別の方法が適しているのか。

具体的な事例と説明があれば、顧客は自分との相性を考えられる。

たとえば、「幅広い制作に対応します」だけでは、依頼する側は判断しにくい。

「現場で話を聞き、専門的な内容を整理し、映像と記事へ展開します」と示せば、仕事の進め方が見える。さらに実例があれば、期待する成果との距離を確かめられる。

人気の大きさとは別に、顧客が判断できる情報を増やす余地がある。

EDITOR’S NOTE — NEOTERRAIN

旅先の店で、いちばん人気の菓子を買う。

それは、その土地を知る入口になる。

けれど、店の人と話しているうちに、隣の棚の小さな包みが気になることもある。

「甘さが控えめなものなら、こちらもあります」

その言葉で、選ぶ理由が少し変わる。

みんなが選んだものを知ることと、自分に合うものを見つけること。その二つは、行き来できる。

人気は、出会いの入口になる。

その先で、使い方を想像し、好みを確かめ、自分の暮らしへ持ち帰る。

企業が届ける情報も、そこまで伴走できたらと思う。

売れているという事実の隣に、一人の生活が見えているだろうか。

NEOTERRAIN JOURNALでは、マーケティングやクリエイティブ、社会の変化を、表面的な手法ではなく、その背景にある構造から読み解いています。

新しい記事や思考のヒントを受け取りたい方は、メールマガジンにご登録ください。

つくる力を、届く力へ。

映像・記事・SNS、マーケティングや企画など、
現場で培った「伝わるコンテンツ」のヒントをお届けします。

この記事が響いたら、シェアしていただけると嬉しいです。
  • URLをコピーしました!
Contents