同じ菓子でも、渡すときの言葉が変わる。場所、記憶、人との関係から、お土産のマーケティングを考える。
旅先の小さな店で、菓子を一箱買う。
店の人が包んでいる間、窓の外を眺める。坂道の向こうに海が見える。さっき歩いた路地には、まだ雨の匂いが残っている。
帰宅して、箱を渡す。
「ここへ行ってきたんです」
その一言とともに、旅先の話が始まる。
もし同じ菓子を、自宅近くの店で買っていたら。
味も、材料も、箱も同じかもしれない。それでも、渡すときの言葉は少し変わるだろう。
商品そのものは変わっていない。けれど、買った場所と、そのときの経験が重なっている。
お土産を考えることは、私たちが商品の何に価値を感じているかを考えることでもある。
1.お土産は、商品の機能だけでは説明できない
菓子なら、おいしいこと。器なら、使いやすいこと。
それらは大切な価値だ。しかし、お土産を選ぶときには、別の条件も入ってくる。
この土地らしいか。
旅のことを思い出せるか。
相手に渡しやすいか。
話のきっかけになるか。
2023年に発表された鈴木涼太郎・花井友美・金振晩の研究は、幅広い世代の男女700人を対象とするWeb調査から、お土産に求める要素を分析した。
食品のお土産では、「確実性」「ギフト性」「ネタ・ユニークさ」「地域性」「経験・思い出」「有名性」の六つの因子が抽出された。非食品でも、地域性や経験・思い出、ギフト性など、複数の要素が確認されている。jstage.jst.go.jp
これは、どの要素を加えれば必ず売れるかを示した実験ではない。
それでも、お土産の評価が、おいしさや使いやすさだけで構成されていないことを捉える手がかりになる。
お土産は、使うもの、味わうものであると同時に、経験を持ち帰り、人へ渡すものでもある。
2.同じ商品に、異なる「買った経験」が重なる
ここで、二つの買い物を想像してみたい。
同じ工房でつくられた、同じ型の湯呑みがある。
一つは、通販で注文して届いた。もう一つは、旅先で工房を訪ね、つくり手の話を聞いて買った。
器の品質が同じでも、後者には、手に取った場所や会話の記憶がある。
使うたびに、それらを思い出す人もいるだろう。
中国・済南の伝統工芸を対象とした2023年の質的研究では、インタビューや観察を通じて、お土産、人、場所の結び付きが検討された。研究は、工芸品のお土産を、土地の意味や文化を理解する接点として捉えている。PMC
この研究から、現地で買えば必ず高く評価される、とまでは言えない。
ここから考えられるのは、購入をひとつの出来事として見ることだ。
誰から買ったか。何を知ったか。どんな景色の中で選んだか。
そうした経験が、商品の使い心地とは別に、その人にとっての意味をつくることがある。
通販で届いた器にも、贈られた日の記憶や、使い続ける中で生まれる意味がある。現地購入だけに、価値のある経験が存在するわけではない。
3.「現地で買った」と「現地でつくられた」は違う
お土産を考えるとき、混同しやすいことがある。
買った場所と、つくられた場所は、必ずしも同じではない。
さらに、材料の産地、技術が育った土地、デザインの題材になった場所も、それぞれ異なる場合がある。
| 場所との関係 | 確かめられること |
|---|---|
| 現地で買った | 購入した場所や体験 |
| 現地でつくられた | 製造・加工された場所 |
| 地域の材料を使っている | 原料と土地との関係 |
| 地域の技術を受け継いでいる | つくり方と文化の関係 |
| 地域の風景や物語を表している | デザインや題材との関係 |
これらは、それぞれ異なる価値になりうる。
地名の入った雑貨を旅の記念として大切にする人もいる。地域の材料や技術に関心を持ち、工芸品を選ぶ人もいる。
企業が伝える際には、どの関係があるのかを具体的に示したい。
「この土地のものです」という一言を、材料、工程、つくり手の情報へと開いていく。
そうすれば、顧客は自分が何に価値を感じて選ぶのかを、確かめやすくなる。
4.自分の記念と、人への贈り物では、選ぶ基準が変わる
自分用なら、大きくて少し重い器でも、気に入れば持ち帰りたくなる。
職場に配る菓子なら、人数、日持ち、個包装かどうかが気になる。
どちらもお土産だが、使われる場面が違う。
しかも、贈る人が魅力に感じたことと、受け取る人が重視することは、必ずしも一致しない。
Baskinらが2014年に発表した贈り物の研究では、贈り手は受け手に比べて贈り物の魅力的な属性を重視し、受け手は利用のしやすさなどの実行可能性をより重視する傾向が示された。お土産に限定した研究ではないが、贈る側と受け取る側の視点の違いを考える手がかりになる。msbfile03.usc.edu
お土産の場面に引き寄せれば、次のように考えられる。
旅先では特別に感じた食品でも、受け取った人には調理の手間が大きいかもしれない。美しい大箱でも、一人暮らしの相手には量が多いかもしれない。
旅の思い出を渡すことと、相手の暮らしに合うものを渡すこと。その両方を見る必要がある。
商品を企画する企業にとっても、買う人だけでなく、受け取る人の場面まで想像することが大切になる。
5.「そこでしか買えない」以外にも、選ばれる理由はつくれる
地域の商品を売るとき、「限定」は分かりやすい訴求だ。
ただし、限られた場所でしか売っていないことだけでは、その商品を選ぶ理由が十分に伝わらない場合もある。
なぜ、この土地でつくられているのか。
どんな食べ方があるのか。
誰が、どんな工程を担っているのか。
こうした情報を知り、試し、話を聞くことで、購入の意味が深まる可能性がある。
ここからは、研究を踏まえた実務への提案だ。
たとえば、地域の発酵食品を販売するなら、原料の説明に加えて、日常の食べ方を試してもらう。工芸品なら、製造工程の一部や、使う際の工夫を見せる。
顧客が帰宅したあとに話せる、具体的な発見をつくるのである。
「珍しいものを買った」から、一歩進んで、
「この地域では、こうやって使うそうです」
と伝えられる。
その一言は、商品と土地を結び付け、受け取った人の関心を開くきっかけにもなる。
6.土地の背景を、クリエイティブにどう落とし込むか
地域の歴史を詳しく書けば、魅力が伝わるとは限らない。
売り場で見る人には時間がないかもしれない。贈られた人には、その土地の予備知識がないかもしれない。
そこで、伝える内容と、伝える場面を組み合わせる必要がある。
たとえば、「その土地を知らない人にも、商品を通じて関心を持ってもらう」という目的なら、次のように考えられる。
| 顧客の疑問・気持ち | 伝える内容 | 表現の例 |
|---|---|---|
| なぜ、この土地のお土産なのか | 材料や技術との具体的な関係 | 包装に短い説明と産地の写真 |
| 誰かに話せることが欲しい | 工程や食文化の小さな発見 | 一つの工程に絞ったイラスト |
| 相手に喜んでもらえるか | 味、量、使い方、保存条件 | 中身と利用場面が分かる表示 |
| 帰宅後も楽しみたい | 食べ方、手入れ、再購入方法 | 同封カードや案内ページ |
大切なのは、地域の情報を、顧客が使える情報にすることだ。
その際、由来や伝承と、確認できる製造の事実は、区別して伝える。長い歴史を持つように見せるために、曖昧な物語を足す必要はない。
いま、誰が何をつくっているのか。その具体性も、十分に語る価値を持っている。
7.旅の一度きりで終わらない関係へ
お土産を気に入っても、商品名を忘れてしまうことがある。
店の場所は覚えていても、どう注文すればよいか分からない。贈られた人には、そもそも販売店の情報が届いていない。
そのままでは、よい経験があっても、次の購入へ進みにくい。
そこで、旅のあとまで見据える。
商品名とつくり手が分かる。食べ方や手入れ方法を確かめられる。気に入ったら、追加で注文できる。
現地での購入体験と、帰宅後の再購入をつなぐ設計だ。
旅先で初めて買い、自宅から再び買う。それは、「そこで買った価値」がなくなったということではない。
現地での出会いをきっかけに、商品そのものへの好みや信頼が育った、と捉えることもできる。
施策を評価するときには、現地の販売数に加えて、帰宅後の問い合わせ、再購入、贈られた人からの注文なども見たい。
土地の思い出が、日常の選択へつながっているか。その変化まで捉えると、お土産の役割は広がる。
EDITOR’S NOTE — NEOTERRAIN
箱を開けると、菓子が並んでいる。
一つ食べれば、いつかはなくなる。けれど、渡すときに交わした話は、少し残る。
あの街には坂道が多かった。
店の人が、食べ方を教えてくれた。
雨が上がるまで、軒先で待っていた。
お土産には、品物だけでは持ち帰れないはずの時間が、重なることがある。
その経験を、すべて包装に印刷することはできない。
だからこそ、現地で何に触れ、誰と話し、何を知って帰るのかが大切になるのだと思う。
「ここへ行ってきたんです」
その言葉の続きをつくることも、地域の商品を届ける仕事の一つなのだ。
NEOTERRAIN JOURNALでは、マーケティングやクリエイティブ、社会の変化を、表面的な手法ではなく、その背景にある構造から読み解いています。
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