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鳥取県|砂丘を守るために、草を抜く。——鳥取砂丘の草原化と、動き続ける自然

風紋が広がる鳥
風紋が広がる鳥取砂丘と草の群落、日本海を描いた水彩画風イラスト

砂の斜面を、風が渡っていく。
その表面には、細い波のような模様が続いている。

鳥取砂丘を訪れた人の多くは、広がる砂と、その向こうの日本海に目を奪われるだろう。けれど、この風景を支えているものは、目の前の砂だけではない。

山から砂を運ぶ川。岸へ砂を寄せる海。そして、砂粒を動かす風。
長い時間をかけてつながってきた働きが、砂丘の姿をつくっている。

その鳥取砂丘で、長年、課題になっていることがある。
草が増え、砂が動きにくくなる「草原化」だ。

緑が増えることは、自然が豊かになること。
私たちが抱きがちなその感覚を、この場所は静かに問い直す。

Contents

1.砂丘は、山と川と海がつくった風景

鳥取砂丘の砂は、もともと山の岩石に由来する。

中国山地の花こう岩などが風化してできた砂が、千代川によって日本海へ運ばれる。海の流れや波によって海岸へ届き、さらに風によって陸へ吹き上げられる。その積み重ねが、鳥取砂丘を形づくってきた。[1][2]

足元の一粒は、山から旅をしてきたものでもある。

砂丘は、砂がそこに積もれば完成するわけではない。風によって砂が移動し、表面に風紋を描き、斜面の表情を変え続ける。

私たちが「鳥取砂丘らしい」と感じる風景には、この動きが欠かせない。

砂を残すことと、砂を動かし続けること。
その両方を考えなければ、この場所は守れない。

2.草が根づくと、砂が動かなくなる

鳥取県立博物館の解説によると、鳥取砂丘では1970年代ごろから砂の移動が少なくなり、本来の砂丘には生育していなかった内陸性の植物の侵入・定着が目立つようになった。その中には、外国から入ってきた外来植物も含まれる。[3]

草が定着すると、砂の移動がさらに抑えられる。
砂が動きにくくなると、植物が定着しやすくなる。

こうした連鎖によって、砂地が草に覆われていく。

県立博物館は、砂丘で見られる外来植物として、オオフタバムグラやコマツヨイグサなどを紹介している。[3]

ここで気をつけたいのは、草原化を「外国の植物が増えた問題」だけで説明できないことだ。

砂を動かしていた条件が変わり、そこへ植物が入り、その植物がさらに条件を変えていく。景観の変化の奥には、風と砂と植物の関係の変化がある。

3.暮らしを守った林が、砂丘にも影響した

では、なぜ砂が動きにくくなったのか。

鳥取県のガイドラインは、戦後に本格的に植林された飛砂防備保安林の影響や外来植物による草原化に加え、海域からの砂の供給量の減少を、砂丘景観が損なわれてきた背景に挙げている。[4]

砂丘にとって重要な砂の移動も、その周囲で暮らす人にとっては、飛砂として防ぐ必要がある。

そのための林には、生活を守る役割がある。一方、砂の移動を抑えることは、砂丘の環境にも影響を及ぼす。

この歴史は、植林を単純に失敗として語れるものではない。

暮らしを守るために必要だった働きと、砂丘を保つために必要な働き。その間で、どこに、どのような環境を残すのかを考える必要がある。

鳥取砂丘の問題は、私たちが自然に求めるものが、一つではないことを映している。

4.砂丘には、砂丘の緑がある

草原化が問題だからといって、砂丘に生える植物をすべて取り除けばよいわけではない。

鳥取砂丘には、ハマヒルガオやハマニガナなど、砂地の環境で生きる植物がある。イソコモリグモやカワラハンミョウなど、砂丘の環境に適応した動物も暮らしている。[3]

一見すると何もないように見える砂の上にも、生きものの居場所がある。

草原化への対策では、本来の砂丘植物と、砂丘へ侵入・定着した植物を区別して考えることが欠かせない。

守るべきものを「砂の景色」だけに絞れば、そこに暮らす小さな命を見落としかねない。反対に、緑の量だけで自然の豊かさを測れば、砂丘という環境そのものの価値を捉えにくくなる。

鳥取砂丘から見えてくるのは、生物多様性を、緑の多さだけでは語れないということだ。

森には森の、湿地には湿地の、砂丘には砂丘の生き方がある。その違いを残すことも、自然を守る仕事なのだと思う。

5.風が働ける場所を、人が取り戻す

鳥取砂丘では、調査や実験を経て、1994年度から県による本格的な除草作業が進められてきた。環境省は、継続した取り組みによって砂の移動が回復してきたことを紹介している。[5]

さらに2004年度からは、県民らによるボランティア除草が続けられている。2026年にも、鳥取市が参加を呼びかけている。[6]

人の手で、草を抜く。
その先で、風が砂を動かす。

この作業を、観光写真に写る砂地を整えるだけの仕事と捉えると、その意味は小さくなってしまう。

除草が目指しているのは、砂が動く条件を取り戻すことだ。

人が風紋を描くことはできない。けれど、風が風紋を描ける環境を支えることはできる。

砂丘の保全には、自然の働きに場所を返すような、人の関わり方がある。

6.次に砂丘を見るとき、何を見るか

鳥取砂丘を訪れたとき、砂の稜線や日本海だけでなく、その足元にも目を向けてみたい。

砂の上を渡る風。
小さな植物が根づく場所。
生きものが残した、かすかな跡。

そして、この景観を次の世代へ渡すために続けられてきた、調査や除草の積み重ね。

そこまで知ると、観光地として見慣れた砂丘にも、別の奥行きが生まれる。

自然を守るために、木を植える場所がある。
自然を守るために、草を抜く場所もある。

必要な行為は、その土地の成り立ちによって変わる。

鳥取砂丘で守ろうとしているのは、同じ形の風景ではない。
明日も風が吹き、砂が動き、新しい模様が生まれることだ。

砂丘を未来へ残すとは、風が仕事を続けられる場所を残すことなのかもしれない。


参考資料(2026年11月3日確認)

  1. 鳥取県立博物館「鳥取砂丘」
    https://www.pref.tottori.lg.jp/265288.htm
  2. 国土交通省「日本の川―中国―千代川」
    https://www.mlit.go.jp/river/toukei_chousa/kasen/jiten/nihon_kawa/0709_sendai/0709_sendai_00.html
  3. 鳥取県立博物館「鳥取砂丘の生物・大山の生物・中国山地の生物」
    https://www.pref.tottori.lg.jp/item/1078059.htm
  4. 鳥取県「鳥取砂丘におけるイベント等利用に関するガイドライン」
    https://www.pref.tottori.lg.jp/secure/310571/sakyu%20use%20guideline%201.pdf
  5. 環境省「鳥取砂丘景観復元事業」
    https://www.env.go.jp/park/sanin/effort/nature.html
  6. 鳥取市「『鳥取砂丘除草ボランティア2026』参加者募集中です」
    https://www.city.tottori.lg.jp/page/41988.html
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