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ジョージア|なぜ、この国はワインを土に埋めるのか?

ぶどう畑と山並みの下に、地中の大きな甕「クヴェヴリ」を描いた断面風イラスト。「土の下で、文化が熟す。」の文字が重なる。
ぶどう畑と山並みの下に、地中の大きな甕「クヴェヴリ」を描いた断面風イラスト

クヴェヴリがつなぐ、発酵と暮らしの文化

ワインを育てる場所と聞くと、木の樽が並ぶ地下室を思い浮かべるかもしれない。

けれど、ジョージアの伝統的なワイン蔵では、床に丸い口が並ぶ風景に出会う。その下に埋まっているのは、「クヴェヴリ」と呼ばれる大きな陶器の甕だ。ぶどうはこの器の中で発酵し、ワインとして育っていく。

なぜ、わざわざ土に埋めるのか。

その問いをたどると、温度を安定させる工夫だけでなく、土を器にする職人の技や、家族の間で受け継がれてきた知恵が見えてくる。一杯のワインは、いくつもの仕事と時間につながっている。

薄暗い石造りの空間に三つの大きな甕が並び、左の甕の下部に琥珀色の液体を透かして描いたイメージイラスト。
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土の下に、ワインを育てる環境をつくる

ジョージアは、黒海の東側、南コーカサスに位置する国だ。この土地で受け継がれてきたクヴェヴリは、ワインの醸造、熟成、貯蔵に使われる。卵のようにふくらみ、底に向かって細くなる形が特徴的だ。

地中に埋める理由の一つが、温度の変化を和らげることにある。

外の空気は昼夜や季節で温度が変わる。土の中はその影響を受けにくく、甕の中の環境を安定させやすい。土は器の材料であると同時に、その器を包み、ワインづくりを支える環境にもなる。UNESCO Intangible Cultural Heritage

ただし、土に埋めれば、あとは自然がすべて仕上げてくれるわけではない。

発酵中の管理や甕の洗浄、澱からワインを移す時期の判断など、人の手が欠かせない。自然の働きを生かす製法には、その働きを見極める技術が必要になる。

幾重にも重なる青い山並みを背景に、ぶどう畑と小さな石造りの建物を描いた絵画風イラスト

皮と種に触れる時間が、味わいを変える

クヴェヴリのワインづくりでは、果汁に加え、ぶどうの皮や種、ときには茎を使う。こうした部分に触れながら発酵・熟成することで、色や香り、渋みが変化していく。

白ぶどうからつくられるワインも、淡い色になるとは限らない。皮などと長く接触させることで、金色や紅茶を思わせる琥珀色になることがある。アンバーワイン、あるいはオレンジワインと呼ばれるものだ。UNESCO Intangible Cultural Heritage

ここでいうオレンジは、果物のオレンジを原料にするという意味ではない。白ぶどうを皮とともに仕込むことで生まれる色合いを表している。

また、クヴェヴリは器と製法に関わる言葉であり、アンバーワインはワインのスタイルを表す言葉だ。クヴェヴリでは赤ワインもつくられ、アンバーワインが必ずクヴェヴリでつくられるわけでもない。National Wine Agency

器、ぶどう、仕込み方。その組み合わせが、一杯の個性を形づくる。

木のテーブルに置かれた琥珀色のワインと白ぶどう

一つの国に、一つの製法があるわけではない

「ジョージアの伝統製法」とまとめても、その中には地域差がある。

ジョージア国立ワイン庁の説明によると、東部のカヘティでは、果汁に対応する皮や種などの全量を使う方法がある。一方、西部のイメレティでは、その一部を加える方法が伝わっている。

接触させる期間も一律ではない。ぶどうの品種や色、発酵の進み方、周囲の条件などによって変わる。National Wine Agency

したがって、「クヴェヴリに入れれば、どこでも同じ味になる」とは考えにくい。同じ器の文化を共有しながら、土地ごとにつくり方が分かれている。

その違いに目を向けると、伝統は固定された一つのレシピというより、条件に応じた判断の積み重ねとして見えてくる。

粘土のついた手で、ワイン醸造用の甕「クヴェヴリ」の口縁と胴を整える様子を描いた絵画風イラスト

約8,000年前の痕跡が語ること

ジョージアのワインを紹介するとき、しばしば「8,000年」という時間が登場する。

2017年に学術誌PNASで発表された研究は、ジョージアの新石器時代の遺跡から出土した土器を分析し、紀元前6000~5800年ごろのぶどうのワインを示す証拠を報告した。

現在からおよそ8,000年前。この地域ではすでに、ぶどうを発酵させて飲む営みがあったと考えられる。PNAS

一方、この発見をもって、現在のクヴェヴリ製法が、まったく同じ形で8,000年間続いてきたと断定することはできない。

古い土器に残ったワインの痕跡と、甕を地中に埋めて醸造する具体的な技術の歴史は、分けて捉える必要がある。PNAS

それでも、土器とぶどう、そして発酵の関係を、人がはるかな昔から探ってきたことは興味深い。今、食卓に置かれた一杯の背後には、長い試行錯誤の歴史が広がっている。

ワインのグラスや陶器のピッチャー、パンを置いた食卓を囲み、世代の異なる人々が語り合う様子を描いた絵画風イラスト。

受け継がれるのは、甕を使う暮らし

2013年、「ジョージアの伝統的なクヴェヴリによるワイン製法」は、ユネスコの無形文化遺産の代表一覧表に記載された。

注目したいのは、器だけでなく、それをつくり、使い、伝える営みが文化として位置づけられていることだ。UNESCO Intangible Cultural Heritage

ユネスコは、家族や近隣の人々、友人、親族が収穫やワインづくりに関わり、その中で知識や経験が伝えられると説明している。

年長者の作業を見る。ぶどうの手入れを覚える。収穫し、搾る。甕をつくるための土や、成形、焼成の仕事に触れる。

知恵は、作業を共にする時間の中にある。

そして、できたワインは日々の暮らしや祝い、宗教的な行事にも関わる。ぶどうを育てる場所、ワインを仕込む場所、それを分かち合う食卓が、人のつながりを通じて結ばれている。UNESCO Intangible Cultural Heritage

一杯の向こうに、どんな仕事があるのか

クヴェヴリのワインをたどると、醸造家の手前に、もう一つのものづくりがあることに気づく。

甕をつくる仕事だ。

大きな器を成形し、乾燥させ、焼き上げる。その器を使う人がいて、ぶどうを育てる人がいる。一杯のワインは、農業と陶工の技術、発酵の知識が交わるところに生まれる。National Wine Agency

日本の味噌や醤油、日本酒についても、原料の産地や発酵の管理、仕込みに使う道具までたどれば、似た問いが立ち上がる。私たちが味わうものを、誰の、どんな仕事が支えているのか。

伝統を未来につなぐには、その味が選ばれることに加え、器をつくる仕事や、手入れを覚える機会が続くことも大切になるだろう。

ワインを土に埋める。

その風景には、自然の条件を読み取り、人の手で環境を整えてきた知恵がある。

グラスに注がれた琥珀色の向こうに、地面の下の大きな甕を想像してみる。そこから、ぶどう畑へ、職人の仕事場へ、誰かの食卓へと、視線が広がっていく。

土地を知ると、いつもの一杯が少し違って見える。


※本記事は公開資料に基づいて構成しています。

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