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会話は、なぜ買う理由になるのか。

Colorful painterly illustration of two people interacting at a market stall, with a translucent smartphone outline and the Japanese headline “Conversation becomes a reason to buy
日本とベトナム|会話が、買う理由になる
Contents

日本とベトナムに学ぶ「人の近さ」と「買いやすさ」のマーケティング

商品を手に取り、売り手に尋ねる。
「これは、どう使えばいい?」
返ってきた説明にうなずき、もう一度、商品を見る。

買い物には、情報を集めるだけでは説明できない時間がある。
誰かとのやり取りを通じて、自分の暮らしに商品を置いてみる時間だ。

ベトナムの市場や小さな店、そしてライブ販売の広がりを眺めると、この「会話」がデジタルの中でも形を変えて働いていることが見えてくる。

日本にも、商店街の対面販売、テレビ通販、店頭の実演など、説明する人とともに商品を理解する文化がある。

二つの国を比べながら考えたいのは、顧客が安心して一歩を踏み出せる購買体験を、どう作るかという問いである。

※冒頭は購買場面を表すイメージであり、現地取材の描写ではない。本稿は両国の国民性を分類するものではなく、小売・ECの事例をもとにしたマーケティングの考察である。

1.ベトナムの買い物は、一つの形に収まらない

ベトナムを「昔ながらの市場の国」とだけ捉えると、いま起きている変化を見落とす。

米国商務省の食品市場ガイドは、ベトナムでオンラインによる食品購入が拡大する一方、伝統市場、屋台、実店舗の食料品店が依然として重要な役割を担っていると説明する。[1]

目の前の商品を見て買う場所と、画面の向こうから商品が届く場所。
それらが同時に生活を支えている。

この状況を、単に「古い商いから新しい商いへ」という一本道で捉える必要はない。

市場には、実物を確かめられる良さがある。
オンラインには、移動せずに商品に出会える良さがある。
同じ人が、買うものや状況によって使い分けることもできる。

マーケティングが向き合うのは、売り場の新しさではなく、その場で顧客が何を解決したいかだ。

2.小さな商いにも、デジタルの入口がある

その変化を示す具体的な事例がある。

ベトナム商工省によると、2025年にソンラ省で行われたEC研修には、企業、協同組合、生産・販売事業者、市場の管理者、小商人など、100人を超える参加者が集まった。

研修ではライブ販売の撮影や視聴者とのやり取り、オンライン店舗づくりなどを実践した。地域の農産物を扱う事業者が、デジタルを通じて販路を広げる取り組みである。[2]

ここで興味深いのは、ライブ販売が大企業や著名人だけの手段として扱われていないことだ。

地域で商いを続ける人にも、商品を説明し、質問に答え、遠くの顧客に届けるための入口が用意されている。

この事例からは、「商いの規模が小さいこと」と「伝えられる相手が少ないこと」は、必ずしも同じではなくなると考えられる。

ただし、画面を開けば自動的に売れるわけではない。見やすい商品紹介、適切な説明、注文後の対応まで含めて、商いの力が問われる。

3.ライブ販売が縮めるのは、何の距離か

ライブ販売の価値を「動画で商品を売ること」とだけ捉えると、その働きが見えにくい。

例えば衣服を買おうとしている人が、画面越しに尋ねる。

「生地は薄いですか?」
「袖の長さはどのくらいですか?」
「普段のサイズを選んで大丈夫ですか?」

売り手が布を動かし、寸法を示し、答える。
顧客は説明を、自分の身体や生活に引き寄せて理解する。

これは想定例だが、ライブ販売の重要な機能を表している。

商品説明ページでは整理しきれない個別の疑問に、やり取りを通じて対応できることだ。

ここには二つの距離がある。

一つは、商品が自分に合うか分からない「理解の距離」。
もう一つは、誰が責任を持って売っているのか分からない「信頼の距離」。

人が登場し、質問に答えることで、それらが縮まる可能性がある。

ただし、親しみやすさだけで品質は保証できない。商品の条件、価格、返品対応などの情報が確かであってこそ、会話が安心につながる。

4.日本にもある「人が説明する」商い

日本では、テレビ通販の実演、店員の接客、専門店の相談、ネット上のレビューなど、さまざまな方法で商品を理解してきた。

例えばテレビ通販では、商品の特徴を説明するだけでなく、使用場面を見せ、使い方や注意点を伝えることができる。

ライブ販売には、さらに視聴者の問いをその場の説明に戻せるという特徴がある。放送型の説明と双方向の説明では、不安を解く方法が異なる。

一方、ECでは注文や配送、問い合わせなどの手続きを整えることが、購買を支える。

日本の物販系BtoC-EC化率は、経済産業省の2024年実績の調査で9.8%だった。オンライン取引は拡大しているが、買い物全体を置き換えたわけではない。[3]

両国の違いを、「日本は仕組み、ベトナムは人」と固定することはできない。

人の説明と、取引の仕組み。その組み合わせを、顧客に合わせてどう設計するか。

そこが比較から学べる本質である。

5.決済も、信頼を伝える接点になる

買うと決めても、支払いの手前でためらうことがある。

商品は届くのか。
説明どおりのものなのか。
問題が起きたとき、誰に連絡すればよいのか。

ベトナム商工省が2024年に掲載した記事は、ECにおける商品への不信と代金引換の利用を結びつけて説明するとともに、現金管理や受取拒否など、売り手側の負担も指摘している。[4]

ここから分かるのは、決済が単なる最後の手続きではないことだ。

支払い方法は、顧客が感じる不安と、事業者が担うリスクの両方に関わる。

代金引換を設ければすべて解決するわけではない。受取時に確認できる範囲も、販売店や配送条件によって異なる。

だからこそ、広告を強くするだけでなく、次の問いに答える必要がある。

  • 支払総額は、いつ分かるのか。
  • 配送の見通しは、どこで確認できるのか。
  • 返品・交換の条件は、理解できるか。
  • 問題が起きたときの連絡先は、見つけやすいか。

買いやすさとは、操作の少なさだけではない。
納得して先へ進めることでもある。

6.「見つけてもらう」と「買ってもらう」をつなぐ

SNSで商品を見つける。
動画で興味を持つ。
質問して理解する。
条件を確認して注文する。

これらの間に大きな断絶があると、顧客の関心は途中でほどけてしまう。

例えば、動画で便利さを見せたのに、商品ページに使用条件がない。
ライブで説明した価格と、注文画面の総額の関係が分かりにくい。
質問には親切に答えるのに、購入後の問い合わせ先が見当たらない。

どれも、伝え方と取引の設計がつながっていない状態だ。

ベトナムの2026〜2030年のEC発展計画は、企業や小規模事業者の能力向上、物流や決済の基盤、地域間の格差縮小などを課題に掲げている。[5]

デジタル化には、画面の外側の仕事も必要になる。

日本の企業にも通じる問いだ。
顧客が興味を持ってから、手元に届き、使い始めるまで。
その流れのどこに、不安や手間が残っているだろうか。

7.PSELで読む、日本とベトナム

P|Product:商品と一緒に、何を提供するか

商品そのものに加えて、使い方の理解、選び方、受け取りやすさまで考える。良い商品を、顧客が自分に合うと判断できる状態にする。

S|Story:どんな言葉で、暮らしにつなぐか

生産の背景だけでなく、「いつ、どこで、どう役立つか」を伝える。会話の中で、商品説明が顧客自身の生活の話へと変わっていく。

E|Energy:誰の仕事が、安心を支えるか

売り手の説明、質問への応答、梱包、配送、購入後の対応。画面で見える人の魅力と、見えない人の仕事がそろって、信頼が続く。

L|Land:どんな場所で、買い物が行われるか

都市と地方、実店舗へのアクセス、物流の条件、地域の産品。土地は物語の背景であると同時に、商品が届く範囲と方法を決める条件でもある。

8.日本の企業が試せること

この比較を、実務に置き換えてみよう。

まず、問い合わせの言葉を集める。
「サイズが分からない」「使い方が難しそう」「届く日が心配」。

それらは、顧客が買う前に立ち止まる場所を教えてくれる。

次に、その問いに答える実演を作る。
商品の全体像だけでなく、迷いが生じる部分を見せる。必要なら、合わない用途や使えない条件も説明する。

そして、説明と購入後の体験をつなぐ。
動画で示した使い方を同梱資料にも載せ、問い合わせ窓口を分かりやすくする。

会話で分かったことを、商品、ページ、案内の改善へ戻すのである。

こうすれば、質問はその場限りの接客で終わらない。次の顧客が迷わないための材料になる。

9.画面の向こうにも、商いをする人がいる

市場で交わされる言葉。
テレビで見せる実演。
スマートフォンに届く質問。

場所や技術は変わっても、そこには同じ問いがある。

「自分に合うものだろうか。」
「安心して買えるだろうか。」

ベトナムの小さな商いとデジタルの接続、日本の通販や接客の蓄積を重ねて見ると、これからのマーケティングに必要な姿が見えてくる。

人が理解を助ける。
仕組みが約束を支える。
会話から得た気づきが、次の商品と体験を育てる。

買う理由は、商品説明の中だけにあるのではない。やり取りの中で、少しずつ形になることもある。

画面の向こうにも、商品を選ぶ人がいる。
その迷いを知ろうとするところから、商いはもう一度、近くなる。


参考資料
[1] 米国商務省「Vietnam – Agriculture」
https://www.trade.gov/country-commercial-guides/vietnam-agriculture
[2] ベトナム商工省「ソンラ省における企業・小商人向けライブ販売・EC研修」(2025年の研修)
https://moit.gov.vn/thuong-mai-dien-tu/son-la-tap-huan-ky-nang-livestream-cho-doanh-nghiep-va-tieu-thuong-thuc-day-ung-dung-thuong-mai-dien-tu.html
[3] 経済産業省「令和6年度電子商取引に関する市場調査の結果」(2024年実績)
https://www.meti.go.jp/press/2025/08/20250826005/20250826005.html
[4] ベトナム商工省「持続可能なECに向けた取引の確保」
https://moit.gov.vn/tin-tuc/chuyen-doi-so/dam-bao-giao-dich-trong-thuong-mai-dien-tu-huong-den-phat-trien-thuong-mai-dien-tu-ben-vung.html
[5] ベトナム商工省「2026〜2030年の国家EC発展計画」
https://moit.gov.vn/tin-tuc/phe-duyet-ke-hoach-tong-the-phat-trien-thuong-mai-dien-tu-quoc-gia-giai-doan-2026-2030.html

※マーケティング上の比較と提案は、上記資料をもとにした本稿の考察。

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