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日本とパプアニューギニアのマーケティング比較──「欲しい」の前に、「買える」はあるか

An artistic collage of Japanese shop shelves and a Papua New Guinean market beneath green mountains, with Japanese text asking, “Before wanting it, can you buy it?”
日本とパプアニューギニアのマーケティング比較|購買アクセスと信頼

商品を知り、気になり、買う。
日本でマーケティングを考えるとき、この流れは自然に見える。

けれど、商品を知っても、近くに売り場がなかったら。
買うお金があっても、支払いに使える手段がなかったら。
説明が届いても、自分の生活にどう役立つのかが伝わらなかったら。

「欲しい」と「買う」の間には、広告だけでは越えられない距離がある。

日本とパプアニューギニアを比較すると、その距離が見えてくる。言語、地形、流通、金融。そして、商品を説明する人との関係。マーケティングを、暮らしの条件から考え直してみたい。

Contents

ひとつの国を、ひとつの市場と考えない

パプアニューギニアは、ニューギニア島の東半分と周辺の島々からなる国だ。オーストラリア外務貿易省は、800を超える言語が存在する、文化的にきわめて多様な国と紹介している。世界銀行も、人口の約85%が農村部で暮らすとしている。

ただし、言語の数がそのまま独立した市場の数になるわけではない。地域を越えたコミュニケーションに使われるトク・ピシンもあり、都市と農村、沿岸と高地の条件にも違いがある。

ここから導けるのは、「全国向けのメッセージを用意すれば、全国で同じように伝わる」とは限らない、ということだ。

日本でも、都市と地方、年齢、職業、家族構成によって商品への期待は変わる。それでも日本語で説明を広く共有し、流通網を通じて商品を届けるという設計は、多くの事業で出発点になりやすい。

パプアニューギニアでは、その出発点自体を地域ごとに確かめる必要がある。

何語で伝えるのか。誰が説明するのか。どこで買えるのか。買ったあと、誰に相談できるのか。

市場を理解するとは、人口を数えるだけではない。その人の暮らしまで、商売がつながる道を見つけることでもある。

「選ばれる工夫」と「利用できる仕組み」

日本では、似た商品が同じ売り場に並ぶ場面が多い。

そこで企業は、味、機能、価格、デザイン、ブランドの物語を磨く。「なぜ、これを選ぶのか」という理由をつくる仕事だ。

一方、販売拠点や移動手段に制約がある地域では、その前に確かめるべきことがある。

「そもそも、これを利用できるのか」。

これは、パプアニューギニアに競争やブランドが存在しないという意味ではない。都市の小売市場と、遠隔地の生活では、解決すべき課題の順番が変わるということだ。

広告を見て店に来たのに、商品がない。
一度買えても、次に必要になったときに手に入らない。
使い方がわからないまま、問い合わせ先も見つからない。

こうした状態では、認知が増えても、継続利用につながりにくい。

この視点から見ると、在庫、配送、説明、修理は、顧客が価値を受け取れるかどうかを左右するマーケティングの要素になる。

BSP銀行に見る、生活の近くに接点をつくる発想

具体例として興味深いのが、BSP銀行のエージェント・バンキングだ。

同行はパプアニューギニアで、地域の代理店などを通じ、入金、出金、支払いといった金融サービスを提供している。公式サイトには、農村部や遠隔地への接点として、300を超える代理店拠点が紹介されている。

利用者にとって重要なのは、遠くの支店に行かなくても、生活圏の中で必要な取引ができることだ。

マーケティングの観点から読むと、これは「銀行を知ってもらう」活動に加え、「銀行を使える場所をつくる」設計といえる。

さらに、代理店の要件には、安定した携帯通信や電源、現金などの残高の維持が含まれる。

接点を増やすだけでは、サービスは成立しない。通信がつながり、電源があり、必要な現金を扱える。その条件がそろって初めて、顧客への約束を実行できる。

ここに、広告表現だけを見ていては捉えにくいマーケティングの仕事がある。

なお、この事例はサービスの提供方法を示すものであり、代理店の存在だけで売上や信頼の向上が実証されたと断定するものではない。

翻訳とは、生活の場面まで伝えること

言語が多様な社会では、説明をどの言葉で届けるかが重要になる。

ただし、文章を別の言語に置き換えれば、価値が伝わるとは限らない。

たとえば、ある道具の広告で「高性能」「時間短縮」と伝えたとする。その言葉だけでは、どんな作業で、どれほど役立つのかまではわからない。

どの仕事が楽になるのか。
誰が使えるのか。
壊れたらどうするのか。
必要な消耗品は近くで買えるのか。

こうした問いに答えることで、機能は生活の価値になる。

これは日本でも同じだ。金融商品、住宅設備、介護サービス、企業向けのシステム。説明は日本語で書かれていても、顧客の生活や仕事に結びついていなければ、意味が遠いままになる。

「正しく説明した」と「自分に必要だとわかった」の間にも、距離がある。

マーケティングに必要な翻訳とは、その距離を縮める仕事だ。

市場の価値は、そこで安心して商売できることにもある

パプアニューギニアの市場を考えるうえでは、売り手の環境も見逃せない。

UN Womenは、同国の市場で働く女性たちへの支援を進めてきた。2021年の活動報告では、12の市場で販売者の組織化を支援したことや、市場運営のためのツールキットを紹介している。

市場は、商品を並べる場所であると同時に、生産者や販売者が収入を得る生活の基盤でもある。

そこで安全に働けるか。運営について意見を伝えられるか。継続して出店できるか。

これらは、消費者に商品が届き続けるための条件でもある。

マーケティングを購入者の心理だけで考えると、こうした売り手側の条件が視野から落ちやすい。

けれど、売り手が無理なく商売を続けられなければ、買い手の選択肢も続かない。顧客体験を支えているのは、接客や広告に加えて、その背後にある商売の環境なのだ。

日本とパプアニューギニアを、比較の視点で整理する

以下は国民性の分類ではなく、事業を設計するときの比較の視点である。

視点日本の多くの市場で考えやすい課題パプアニューギニアの地域条件から見える課題
商品並んだ選択肢の中で、選ぶ理由をつくる入手、利用、補充まで成立させる
言葉特徴をわかりやすく説明する使用言語と生活の文脈を確かめる
接点店舗やオンラインで購入を円滑にする地域で利用できる拠点と運営条件を整える
信頼品質、実績、接客、保証などで支える説明者、窓口、継続供給を地域で確かめる
継続再購入する理由や習慣をつくる次も買え、相談できる状態を維持する

両国には、いずれの課題も存在する。違いは、それぞれの地域や商品で、どの課題が購入を妨げているかにある。

PSELで読む、価値が暮らしに届くまで

NEOTERRAINのPSELの視点で、この比較を捉えてみる。

P|Product:使い続けられるところまで、商品を考える

性能やデザインに加え、保管、補充、修理、支払いまで含めて考える。

手に入れられて、使えて、次も利用できる。そのつながりがあって、商品の価値は生活に定着する。

S|Story:その土地の生活に、意味を結びつける

企業が語りたい物語と、顧客が必要としている説明は、いつも一致するわけではない。

「私たちの商品は優れている」から一歩進み、「あなたのどんな場面に役立つのか」を伝える。そのためには、現地の言葉と暮らしへの理解が必要になる。

E|Energy:届け続ける人の力を見る

商品を運ぶ人、売る人、説明する人、問い合わせに答える人。

彼らの仕事が持続できる条件をつくることが、顧客への価値を持続させる。販売者の負担や収入、運営への参加も、事業の設計に含めたい。

L|Land:土地を、事業の前提として読む

地形、距離、居住の分布、通信、電源。

同じサービスでも、場所によって必要な提供方法は変わる。土地を理解することは、配送や接点の設計を具体的にすることだ。

日本のマーケティングも、「買える」を問い直せる

パプアニューギニアとの比較から、日本の事業にも問いが返ってくる。

自分たちは、顧客が買えることを当たり前にしていないか。

近所に店がない人。
オンライン手続きで途中から進めなくなる人。
説明を読めても、何を選べばよいかわからない人。
購入後の相談先が見つからず、不安を抱える人。

その人たちにとって、必要なのは新しい広告かもしれないし、別の購入窓口や、話を聞いてくれる担当者かもしれない。

認知されているのに売れないとき、メッセージの弱さだけに原因を求めると、顧客が立ち止まっている場所を見失う。

商品を知ったあと、何が購入を難しくしているのか。購入したあと、何が継続利用を難しくしているのか。

その道筋を確かめることも、顧客理解である。

商品を届けることは、約束を届けること

商品には、企業からの約束がある。

役に立つこと。
必要なときに手に入ること。
困ったときに相談できること。

その約束は、広告の中で語られ、店頭で確かめられ、日々の使用によって評価される。

日本とパプアニューギニアの比較は、マーケティングを、暮らしの中で約束を実行する仕事として見つめる機会になる。

どれほど魅力的に語っても、届かなければ使えない。
一度届いても、続かなければ頼れない。

「欲しい」を生む工夫と、「買える」「使える」を支える仕組み。その両方がつながったところに、長く選ばれる理由が育っていく。


参考資料

NEOTERRAIN JOURNALでは、マーケティングやクリエイティブ、社会の変化を、表面的な手法ではなく、その背景にある構造から読み解いています。

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