NEOTERRAINの書籍・Tシャツ・トートバッグを公開中

秋田竿燈まつりは、なぜ稲穂を空に掲げるのか。

秋田竿燈まつりを描いた水彩イラスト。夜空に提灯を掲げる人びとの上に「この灯りを、町が支えている。」の文字。
稲穂に見立てた灯りを掲げる秋田竿燈まつり。町が受け継いできた技と祈りを描いたイラスト

眠り流しから生まれた灯りと、町が磨いた技

知的観光シリーズ|秋田県・秋田市

夜の通りに、提灯の列が立ち上がる。

竿はゆっくりとしなり、灯りは風を受けて揺れる。その下で差し手は、手のひらから額へ、肩へ、腰へと支える場所を移していく。秋田竿燈まつりの見せ場は、その高さだけではない。倒れそうで倒れない灯りを、身体と町の人びとが支えていることにある。

俵の形をした提灯を、稲穂に見立てる竿燈。なぜ秋田の人びとは、稲穂を夜空へ掲げるようになったのだろうか。秋田市観光・イベント情報総合サイト アキタッチ+(プラス)

Contents

はじまりは、夏の「眠り」を流す行事

竿燈の原型とされるのは、「ねぶり流し」だ。

夏の暑さに伴う眠気や災いを払い、無病息災を願う行事である。秋田市によれば、笹竹に灯籠や短冊を付けて練り歩く七夕の習俗、お盆に精霊を迎える高灯籠の風習などが結びつき、江戸時代中期に現在の竿燈につながる形が生まれたとされる。豊作への願いも、そこに重なっていった。kantou.gr.jp

「この日に誰かが竿燈を発明した」という単純な始まりではない。夏を無事に越えたいという祈りが、いくつもの土地の習俗を取り込みながら、秋田独自の灯りになったのである。

1789年の紀行文には、長い竿に多くの灯火を付け、太鼓とともに町を練り歩く「ねぶりながし」が記されている。少なくとも江戸時代後期には、竿燈の原型が秋田の風俗として知られていた。kantou.gr.jp

稲穂の形に託したもの

竿燈の提灯は俵を、全体の姿は実った稲穂を思わせる。そこには、厄を払い、五穀豊穣を願う意味が込められている。秋田市観光・イベント情報総合サイト アキタッチ+(プラス)

しかし、竿燈を「豊作祈願の祭り」とだけ捉えると、もう一つの大切な動きが見えにくくなる。もとの「眠り流し」は、災いを払い流す行事でもあった。秋田市が紹介する現在の行事でも、祭りの翌朝には、竿燈の先端に飾った御幣を川へ流す「御幣流し」が行われる。空へ掲げる願いと、水へ流す災い。その両方が竿燈の歴史につながっている。city.akita.lg.jp

五十キロの灯りを、身体で支える

最も大きい「大若」は、竿の長さが約12メートル、重さが約50キロ、提灯は46個。差し手は継竹を足して高さを増しながら、しなる竿の釣り合いを取る。kantou.gr.jp

技には、次の差し手へつなぐ「流し」、手のひらに掲げる「平手」、そして「額」「肩」「腰」がある。目を奪われるのは腰に乗せた瞬間かもしれない。だが、その一瞬を成り立たせるのは、竿の動きを読み、支え、次の人へ渡す一連の技だ。太鼓と笛の囃子も、その場のリズムをつくる。kantou.gr.jp

見上げる観客には一本の巨大な灯りに見えても、竿燈は一人の力だけで立っているわけではない。

町の行事が、祭りになった

秋田の竿燈は、久保田城下の町の人びとによって受け継がれてきた。現在も町内に加え、学校や企業などの団体が参加する。大小の竿燈には「大若」「中若」「小若」「幼若」があり、異なる大きさを通じて、技に触れる入口も設けられている。秋田市観光・イベント情報総合サイト アキタッチ+(プラス)

祭りの姿も時代とともに変わった。研究によれば、1931年に発足した秋田市竿灯会は妙技会を始め、1965年以降、実行委員会が主催する「竿燈まつり」という形になった。1980年には「秋田の竿灯」が国の重要無形民俗文化財に指定されている。古くからの祈りを残しながら、技を披露する場や運営の形を整えてきた歴史がある。jstage.jst.go.jp

灯りの下を見て歩く

竿燈を観るなら、まず空に広がる稲穂のような姿を見上げたい。そして次に、視線を灯りの下へ戻してみる。

差し手の足の運び。竿が傾いたときの身体の向き。次の人へ渡す間合い。囃子を奏でる人びと。そこには、夏を越える願いを、町の技として受け継いできた時間が見える。

竿燈は、願いを高く掲げる祭りだ。その灯りを毎年立ち上げるために、町の人びとは地上で技をつないでいる。


EDITOR’S NOTE — NEOTERRAIN

本記事は現地取材ではなく、秋田竿燈まつり公式サイト、秋田市、文化庁の資料および研究論文をもとに構成しました。起源については伝承や習俗の重なりとして捉え、成立年を断定していません。国の文化財指定名称は「秋田の竿灯」です。

参考資料

この記事が響いたら、シェアしていただけると嬉しいです。
  • URLをコピーしました!
Contents