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日本とキューバのマーケティング比較|選ばれる前に、約束を守れるか

Colorful illustration juxtaposing a Japanese shop worker carrying boxes beside stocked shelves and two men exchanging a plate of food outside a Cuban restaurant. Japanese text reads, “Trust is built behind the shelves.”
日本とキューバのマーケティング比較|信頼は、棚の裏側でつくられる

品ぞろえを磨く日本と、供給の不確実性が商売を左右するキューバ。二つの市場から、マーケティングと「届け続ける力」の関係を考える。

商品を買うとき、私たちは味や価格、デザインを比べている。

その手前には、あまり意識しない前提がある。

店が開いていること。欲しい商品があること。表示された条件で買えること。そして、次に訪れたときにも、ある程度同じ体験ができること。

この前提が揺らぐと、マーケティングの問いも変わる。

「どうすれば選ばれるか」に加えて、「何を、どこまで約束できるか」が重要になる。

日本とキューバの比較は、その見えにくい土台を考える入口になる。

ただし、日本のすべての店で供給が安定しているわけでも、キューバのすべての商売が同じ条件にあるわけでもない。本稿では、日本のコンビニエンスストアと、キューバの小売・飲食を手がかりに、事業環境が売り方をどう変えるかを見ていく。

Contents

1.日本の品ぞろえを支えているのは、棚の裏側にある仕組み

日本のコンビニに入ると、おにぎり、弁当、飲み物、日用品が並ぶ。

その便利さは、商品をたくさん置くことだけで生まれているわけではない。

セブン‐イレブンは、商品ごとの販売情報を扱うPOSシステムや、異なるメーカーの商品をまとめて運ぶ共同配送などを発展させてきた。品ぞろえの背後には、情報と物流の仕組みがある。[1]

売れ方を確認し、次の注文を調整する。天候や周辺の動きを考え、必要な商品を必要な量だけ用意する。

もちろん予測は外れる。欠品も廃棄も起きる。それでも、改善を重ねるための基盤がある。

ここから見えてくるのは、日本の小売の強みを「消費者が品質に厳しい」という国民性だけでは説明できないということだ。

細かな需要に応える売り方は、その需要に対応できる調達、配送、店舗運営と一緒に育っている。

顧客が「いつもの商品」を期待できるのは、店の裏側で、その期待を支える仕事が続いているからだ。

2.キューバでは、「売れた理由」の読み方が変わる

キューバでは、供給の制約を含めて売上を読む必要がある。

Reutersは2025年7月、政府の暫定データに基づき、2024年の小売販売額で非国営部門が55%を占めたと報じた。ただし、これは数量ではなく金額の比率であり、部門間の価格差にも注意が必要だ。[2]

この数字を、そのまま「消費者が民間のブランドを好むようになった」と解釈するのは早い。

選ばれた理由には、好みだけでなく、そこで商品を入手できたという事情も入りうる。

同じことは、売れなかった商品にも当てはまる。

売上が少ないのは、人気がなかったからかもしれない。しかし、入荷しなかった、営業できなかった、価格が予算に合わなかった可能性もある。

売上は、買いたい気持ちと、実際に買える条件が重なった結果である。

この視点は、キューバだけに必要なものではない。日本でも、欠品した商品の売上がゼロだったからといって、需要がゼロだったとは言えない。

販売データを見るときは、「いくつ売れたか」と一緒に、「どのくらいの時間、買える状態にあったか」を見る。

国を比較することで、普段使っている数字の読み方まで見直せる。

3.電気や物流は、ブランドの約束に含まれている

キューバでは、電力の不安定さも事業環境を考えるうえで外せない。2025年3月には、全国的な送電網の停止が報じられた。[3]

ここからは、マーケティング上の含意を考えてみたい。

飲食店なら、電気は照明だけの問題ではない。冷蔵、調理、食材の保管に関わる。小売店でも、扱える商品や営業の継続に影響しうる。

魅力的なメニューを告知できても、食材を安全に保管し、予定どおり提供できなければ、その告知は顧客との約束を果たせない。

こうした環境では、商品を増やす判断にも別の重みが生まれる。

種類を増やせば、調達先や保管条件、調理工程も増える。選択肢の豊かさが、そのまま営業の安定につながるとは限らない。

何を確実に提供するのか。何は状況次第なのか。変更があったとき、どう知らせるのか。

これは販促の外にある業務ではなく、顧客体験をつくる仕事である。

日本の事業者にも、災害や物流の混乱、原材料不足に直面したとき、同じ問いが返ってくる。

4.パラダールから考える、「変わっても信頼される店」

キューバの公式観光サイトは、民間のレストランやカフェを「パラダール(paladar)」として紹介している。[4]

パラダールという名前だけで、店の規模、価格帯、調達方法まで一括りにはできない。ただ、民間飲食店を考える入口として、興味深い存在だ。

ここで、供給に変動がある飲食店を想定してみよう。以下は特定の店の実例ではなく、比較から導く運営の例である。

毎日同じ料理を約束するのが難しいなら、その日に提供できる料理を先に知らせる。代替の食材を使うなら、注文前に説明する。待ち時間が延びるなら、顧客が別の選択をできる段階で伝える。

メニューが変わることと、店への信頼が失われることは、必ずしも同じではない。

顧客が困るのは、変更そのものに加えて、変更を知らされず、選び直す余地を失うことだからだ。

大切なのは、すべてを固定することではなく、変わる部分を顧客が理解できるようにすること。

「何があるか」を正確に伝える短い案内が、華やかな広告以上に役立つ場面もある。

5.不足を「希少性」として美化しない

マーケティングでは、限定商品や数量限定が購買のきっかけになる。

しかし、供給不足と、販売戦略としての限定は区別したい。

限定品は、買わなくても別の選択肢を取れることが多い。一方、生活に必要な物資が不足する状況では、選択肢そのものが狭まる。

それを「手に入らないから魅力的」「不便だから温かい」と表現すると、暮らす人が負担している時間や費用が見えなくなる。

キューバを紹介する際も、音楽、街並み、食文化といった魅力を伝えることと、生活上の制約を情緒的に飾ることは分けて考えたい。

現地の事業者の工夫に目を向けるなら、「何もないのに工夫する人」という描き方で終わらせない。

何を調達し、どう判断し、どんな説明で顧客との関係を守っているのか。具体的な仕事として見ることで、その人の技術や責任が伝わる。

6.PSELで読む、日本とキューバ

Product、Story、Energy、Landの四つの視点で、今回の比較を整理してみる。

ここでの違いは国民性の分類ではなく、取り上げた事業環境から見えるマーケティングの課題である。

視点日本のコンビニから見える課題キューバの小売・飲食から見える課題
Product|商品需要を読み、品ぞろえと数量を調整する調達や保管の条件を踏まえ、提供できる商品を決める
Story|物語新商品や品質の違いを、選ぶ理由として伝える店の魅力に加え、提供条件や変更を理解できるよう伝える
Energy|動かす力選びやすさや新しい提案で、購買を促す入手の見通しや正確な案内で、判断の負担を減らす
Land|土地・基盤情報、配送、店舗網が細かな需要への対応を支える電力、物流、制度、所得などが事業の可能性を左右する

とくにLandは、背景として添えるだけでは足りない。

土地や基盤の条件が変われば、成立する商品も、守れる約束も変わる。

同じ広告表現を別の国へ持っていく前に、その広告が前提としている営業や供給の条件を確認する必要がある。

7.日本の小さな店にも返ってくる、三つの問い

この比較を、日本の店づくりやブランド運営に持ち帰るなら、三つの問いが役立つ。

一つ目は、「看板商品を、どこまで安定して提供できるか」。

売りたい商品と、継続して届けられる商品を照らし合わせる。商品数を増やす前に、調達や保管、担当者への依存を確認する。

二つ目は、「売れなかった理由を、好みだけで判断していないか」。

販売数に加えて、欠品時間や問い合わせ、代替品の購入も見る。買えなかった人の存在を拾うことで、データの見落としを減らせる。

三つ目は、「変更を、選び直せる時点で伝えているか」。

欠品、納期の変更、メニューの差し替えを、顧客が予定を立て直せる段階で知らせる。説明のタイミングも、サービスの品質に含まれる。

いずれも、大きな広告予算がなくても着手できる。

商品の魅力を磨くことと、その魅力を届ける条件を整えること。二つをつなぐところに、長く続く商売の強さがある。

選ばれる理由は、届ける仕組みの中にもある

日本とキューバの比較から見えるのは、豊かさや便利さの単純な順位ではない。

マーケティングの前提が、どこに置かれているかの違いである。

品ぞろえを細かく調整できる環境では、「どれを選んでもらうか」が大きな課題になる。

供給の不確実性が高い環境では、「何を届けられるか」「変わったときにどう伝えるか」の重みが増す。

そして、この二つの問いは、どちらの国の事業にも存在する。

華やかな広告の裏側で、店は今日も商品を受け取り、保管し、並べ、説明する。

ブランドの約束は、言葉で始まり、届ける仕事によって守られる。


参考資料

[1]セブン‐イレブン「イノベーションの歴史」

[2]Reuters「Cuban private sector overtakes state in retail sales value amid economic crisis」(2025年7月29日)

[3]Reuters「Cuba’s electrical grid fails, widespread blackouts reported」(2025年3月15日)

[4]Cuba Travel「Gastronomy」

※数値・出来事には資料の対象年を記載。事例から導く運営上の提案は、本稿の考察である。

NEOTERRAIN JOURNALでは、マーケティングやクリエイティブ、社会の変化を、表面的な手法ではなく、その背景にある構造から読み解いています。

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