韓国コスメを知ったきっかけは、一本の動画だったかもしれない。
使ったときの色、肌にのせた質感、紹介する人の表情。気になって調べるうちに、別の人のレビューや、店頭で試した感想にも出会う。商品を買ったあとには、自分もその体験を誰かに伝える。
この流れは、日本でも身近になっている。
では、日本と韓国のマーケティングには、どのような違いがあるのだろう。
「日本は慎重、韓国は流行に敏感」。そう説明すると、わかった気にはなる。しかし、その言葉だけでは、企業が何を設計しているのかが見えてこない。
今回注目したいのは、消費者の性格よりも、商品に出会い、確かめ、購入し、人に伝えるまでの仕組みである。
日本の@cosme、韓国のOLIVE YOUNG、NAVERのライブコマース、Coupangの配送。その具体的な事例から、信頼と流行が生まれる過程を読み解いていこう。
1.日本と韓国を「慎重」と「衝動」で分けると、見誤る
新しい商品が短期間で広がると、「消費者が流行に乗りやすいから」と考えたくなる。
しかし、購入までの時間が短いことと、何も確かめずに買うことは同じではない。
動画で使い方を見られる。配信中に質問できる。店頭で試せる。配送の見通しが立つ。条件に合えば返品もできる。
こうした仕組みがそろえば、買い手は短い時間でも必要な確認を済ませられる。
反対に、広告は魅力的でも、色の違いがわからず、配送日も不明で、問い合わせ先も見つからなければ、購入は止まる。
つまり、購買の速さは、消費者の気質だけでなく、企業が取り除いた障害の数によっても変わる。
韓国のマーケティングを見るとき、この視点は重要だ。「勢いのある広告」をまねる前に、その勢いを受け止める売り場やサービスを見ておく必要がある。
2.@cosmeとOLIVE YOUNG——どちらも、商品選びを編集している
化粧品の売り場に立つと、選択肢の多さに圧倒される。
成分、価格、肌との相性、使い心地。メーカーの説明だけでは判断しづらい。ここで役割を持つのが、商品と生活者の間に立って、選び方を整える存在である。
日本の@cosmeは、口コミやランキングを通じて商品を探せる美容情報サイトだ。実店舗の@cosme STOREでも、人気商品やランキング形式の陳列を取り入れ、商品を試す機会と情報をつないでいる。[1]
他の人の評価を読み、自分の条件に近い声を探し、実際に確かめる。これは、選択の根拠を積み重ねる仕組みと捉えられる。
一方、韓国のOLIVE YOUNGが聖水に設けた「OLIVE YOUNG N Seongsu」では、ポップアップやカフェ、商品体験、個別の美容サービスなどを組み合わせている。企業の説明によれば、店舗にはK-pop関連の売り場やライブコマース用のスタジオもある。[2]
この店では、商品を選ぶことが、文化に触れたり、新しい自分の姿を想像したりする体験と重なる。
二つの事例を比較すると、@cosmeでは「他者の評価が選択を助ける仕組み」、OLIVE YOUNG N Seongsuでは「体験のなかで新しい関心を生む仕組み」が見えてくる。
ただし、これは両社の一部の特徴を取り出した比較だ。@cosmeにも発見やイベントがあり、OLIVE YOUNGにも評価やランキングがある。日本と韓国の消費者全体を、二つに分ける話ではない。
共通しているのは、商品をただ並べるだけでは、選びやすさは生まれないということだ。
売り場もメディアも、選択肢を編集する仕事を担っている。
3.ライブコマースは、通販番組に「質問できる時間」を加える
日本には、テレビ通販やインフォマーシャルで、商品の価値を映像にして伝えてきた蓄積がある。
悩みを示し、使い方を見せ、実演や体験談を通じて理解を助け、購入へつなぐ。その表現は、映像制作とマーケティングが密接につながる領域だ。
韓国では、ライブコマースが重要な販売手段の一つになっている。米国商務省の市場情報は、特にファッションや美容分野で、実演とコメントによる質問が組み合わされていると説明する。NAVERも、Shopping Liveをリアルタイムの買い物と利用者との交流のためのサービスとして紹介している。[3][4]
注目したいのは、スマートフォンで見られることに加えて、説明の順番をその場で変えられることだ。
たとえば、服を紹介する配信を考えてみよう。
「小柄な人が着ると、丈はどのくらいですか」
「この生地は、光に当てると透けますか」
こうした質問が出れば、売り手は丈や生地を見せる。あらかじめ用意した訴求より、その瞬間の疑問が説明を動かす。
これは、完成した映像を届ける仕事に、顧客の反応を読みながら説明を編集する仕事が加わることを意味する。
もちろん、生配信なら必ず売れるわけではない。実演のわかりやすさ、質問への誠実な対応、商品自体の適合性が必要になる。
映像制作の視点から見れば、ライブコマースは、演出力と営業力、顧客理解を同時に求められる場所なのだ。
4.「早く届く」は、購入の理由を変える
広告は商品への関心を生む。しかし、購入の最後の一押しが、商品とは別のところにあることも多い。
「必要な日に間に合う」
「受け取りの負担が小さい」
「条件が合えば返品できる」
こうした購入条件だ。
韓国のCoupangは、WOW会員向けに、対象商品の当日配送や翌朝配送などを提供している。また、対象となるRocket Delivery商品には、到着後30日間の無料返品を案内している。ただし、自己都合の返品は未使用品が条件で、Rocket Freshなどは同制度の対象外。配送も地域や商品によって条件が異なる。[5]
この事例から考えられるのは、物流が購買へのためらいを減らす役割も持つということだ。
欲しくなったときに、届く時期を確かめられる。購入後の対応も見通せる。すると、消費者が判断するときの条件が変わる。
日本にも、速い配送や受け取り方法を選べるサービスがある。「韓国は速く、日本は遅い」という単純な比較ではない。
見るべきなのは、その市場や販売先で、どこまでのサービスが期待されているかである。
同じ商品、同じ広告でも、配送や返品の条件によって、買いやすさは変わる。広告表現だけを比較していては、この差を見落としてしまう。
5.聖水の店と原宿の店——土地が、ブランドの意味を変える
マーケティングはスマートフォンの画面だけで完結しない。
どこで商品に出会ったか。その土地で、何を見て、どんな時間を過ごしたかも、商品の記憶に重なる。
OLIVE YOUNG N Seongsuがある聖水と、@cosme TOKYOがある原宿。両社の公式情報から、それぞれの店舗がこうした街に置かれていることが確認できる。[1][2]
店舗が街の体験の一部になれば、買い物の意味も広がる。
家に帰って商品を使うとき、成分や機能だけでなく、訪れた場所の印象を思い出す。商品は、旅や休日の記憶を持ち帰るものにもなる。
ただし、街に店を出せば、その魅力が自動的にブランドへ移るわけではない。
街の雰囲気と、店舗の表現がつながっているか。訪れた人が、自分の言葉で体験を語れるか。写真を撮ることだけで終わらず、商品を理解する機会があるか。
土地の力を借りるにも、編集が必要になる。
これはNEOTERRAINのL=Landに通じる視点だ。所在地は地図上の点であると同時に、商品の受け止め方を変える文脈でもある。
6.「話題になる」と「選ばれ続ける」の間には、仕事がある
韓国の美容やファッションの事例を見ると、商品、空間、映像、文化をつなぐ方法から、多くを学べる。
ただし、話題になったことと、継続して使われることは別だ。
魅力的な映像で初回購入が生まれても、使い心地が期待に届かなければ、その後の評価は変わる。店の体験が印象的でも、商品が生活に合わなければ、再購入は続かない。
日本のブランドにも同じ課題がある。
品質を丁寧に説明しても、存在を知ってもらえなければ、選択肢に入れない。長く使われている実績があっても、新しい顧客が自分との接点を見つけられなければ、関心は生まれない。
ここには、二つの仕事がある。
一つは、使ってみたいと思う入口をつくること。
もう一つは、使ったあとに、また選びたいと思えること。
どちらか一方だけでは、ブランドは育ちにくい。
日本と韓国の比較から考えたいのは、どちらが優れているかではなく、自分たちの事業では、この二つがどこで途切れているかだ。
7.PSELで見る、流行と信頼のつながり
NEOTERRAINのPSELを使うと、今回の比較は四つの問いに整理できる。
P=Product:商品と使う体験
実際に使ったとき、何がよいのか。機能や品質が、生活者の必要に応えているか。
S=Story:理解と共感への道筋
口コミ、実演、ブランドの物語を通して、自分が使う理由を見つけられるか。
E=Energy:試したくなる気持ち
動画、店舗、配信者との交流が、発見の楽しさや参加したい気持ちを生んでいるか。
L=Land:購入を支える環境
街、販売プラットフォーム、配送、言語などが、その関心を実際の購入へつないでいるか。
この四つがつながると、広告で生まれた期待は、商品を使う体験へ引き継がれる。
反対に、どこかが途切れると、話題にはなっても買われない。買われても使われない。使われても人には伝えられない。
流行をつくることは、このつながりを整える仕事でもある。
流行の速さの向こうに、設計された安心がある
日本と韓国は、互いの商品や表現が行き来する市場である。二つの国を、正反対の消費文化として描くには、共通するものが多い。
だからこそ、比較する価値がある。
似た悩みを持つ人に、どのような情報を届けるのか。
気になった商品を、どこで確かめられるのか。
購入したあと、どのような体験が待っているのか。
違いは、そのつなぎ方に現れる。
日本の口コミと売り場の連携。韓国の体験型店舗、ライブコマース、配送の仕組み。今回の事例は、消費者の関心を購入へ、購入を次の信頼へつなぐ工夫を示している。
流行が速いとき、その表面には、映像やデザインや話題性が見える。
その下には、試せる場所、質問できる時間、届く見通しがある。
マーケティングを学ぶとは、その見えにくい仕事まで読むことなのだ。
参照資料
[1]アイスタイル:@cosmeのEC・店舗・海外で取り扱い希望の方へ / @cosme公式サイト
[2]CJ NEWSROOM:CJ Olive Young N Seongsu: Redefining Retail
[3]米国商務省:South Korea eCommerce Live Commerce
[5]Coupang公式:WOW会員サービスに関するFAQ(韓国語)
※企業のサービス内容は公式説明に基づき、そこから導くマーケティング上の意味は本稿の考察として記述しています。事例は両国の市場全体を代表するものではありません。配送・返品などの条件は2026年10月2日の確認時点。
NEOTERRAIN JOURNALでは、マーケティングやクリエイティブ、社会の変化を、表面的な手法ではなく、その背景にある構造から読み解いています。
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