買い物をするとき、私たちは何を見ているだろう。
価格、味、使いやすさ。パッケージの美しさや、知っているブランドの名前。商品を選ぶための情報は、目の前にいくつも並んでいる。
一方で、その商品を育てた土地や、つくり手が受け継いできた知識は、棚の上では見えにくい。
ブラジルのアマゾンに暮らす先住民の生産活動をたどると、商品を違う角度から見ることができる。そこでは、食べ物や工芸品が、土地、暮らし、知識、収入と結びついている。
その関係を市場にどう伝えるのか。この問いは、日本の地域産業やブランドづくりにもつながっている。
本記事では、バニワとサテレ・マウェという二つの先住民族に関する公開資料をもとに、日本での商品訴求と比較しながら考える。ブラジル全体や、アマゾンの先住民すべてを代表する比較ではない。以下のマーケティング上の読み解きは、事例を踏まえたNEOTERRAINの考察である。
小さな調味料に、誰の仕事が入っているのか
ブラジル北西部、リオ・ネグロ流域には、バニワの人々が暮らしている。
彼らの生産物を販売するブランドが「Arte Baniwa」だ。先住民組織と支援団体が連携し、かご細工や唐辛子調味料などを市場につないでいる。[1]
その一つが、唐辛子を乾燥させて粉にし、塩を加える「ジキタイア」である。バニワの女性たちが畑や庭で育てる多様な唐辛子からつくられる。[2]
ここで注目したいのは、商品の説明に女性たちの仕事が明確に位置づけられていることだ。Origens Brasilの紹介では、この生産は女性たちの重要な収入源であり、その仕事を評価する機会にもなっていると説明されている。[2]
日本の売り場を想定すると、唐辛子調味料は「辛さ」「香り」「どんな料理に合うか」といった訴求が考えられる。もちろん、味や使い方は大切だ。食卓で使い続けてもらうには、商品としての魅力が必要になる。
そこに、もう一つの説明を加えてみる。
誰が育て、誰が加工し、その仕事がどのように暮らしを支えているのか。
すると、比較する対象が変わる。同じ容量、同じ価格帯の調味料という見方に、つくり手の仕事や土地との関係が重なる。
マーケティングは、目の前の商品から見えなくなっている仕事を、もう一度見えるようにする営みでもある。
「珍しいもの」で終わらせない
遠い土地の商品は、珍しさで注目を集めやすい。
「アマゾン」「先住民」「伝統」という言葉には、強いイメージがある。しかし、そのイメージだけで売ろうとすると、つくり手が広告の背景になってしまう。
必要なのは、商品を生み出す人を、事業の主体として伝えることだ。
ISAの資料では、バニワの唐辛子販売による収入は、先住民組織OIBIの口座に入り、事業計画に沿って管理されると説明されている。加工やラベル貼り、容器詰めを担う拠点も紹介されている。[1]
ここから考えられるのは、物語と事業の仕組みを一緒に見る必要性である。
「伝統を守っています」という説明に加え、誰が運営し、どのように収入につなげているのかを示す。その具体性が、物語を支える。
ただし、公開資料だけで利益配分の詳細や、すべての参加者への還元まで確認できるわけではない。商品を扱う企業やメディアには、分かることを伝え、分からないことを美しい言葉で埋めない姿勢が求められる。
日本の地域ブランドでも、同じ問いを置ける。
生産者の写真を載せるだけで十分だろうか。地域名をパッケージに入れれば、地域への貢献を説明したことになるだろうか。
つくり手の物語を使うなら、つくり手がどのように事業に関わっているかまで見たい。
グアラナは、誰が育てる技術をつくったのか
もう一つの事例が、サテレ・マウェとグアラナの関係だ。
グアラナは飲料の原料として知られる植物である。ISAの民族紹介では、サテレ・マウェは野生のグアラナを栽培植物へと育て、加工方法を発展させた人々として説明されている。グアラナは、彼らの経済活動だけでなく、起源を語る物語にも深く関わっている。[3]
市場に出た原料は、成分や用途で説明されやすい。
しかし、その植物を利用できるようにするまでには、栽培や加工に関する知識がある。その知識を育てた人々の名前が見えなければ、商品の説明から重要な一部分が抜け落ちる。
これは、日本の発酵食品や工芸を考えるときにも役立つ視点だ。
例えば、ある食品を「栄養成分」で紹介することと、「地域で受け継がれた製法」で紹介することは、異なる価値の伝え方になる。どちらか一方で十分とは限らない。
技術や知識を誰が育ててきたのか。その来歴を確かめて伝えることは、ブランドの説得力をつくると同時に、知識の担い手を正しく位置づけることにもなる。
日本との比較で見えてくる、価値の説明範囲
日本にも、産地、職人、製法、季節を大切にする商品はある。したがって「日本は機能、先住民は関係性」と二分することはできない。
比較すべきなのは国民性ではなく、商品を説明するときに、どこまで視野に入れるかである。
| 視点 | 商品単体を中心にした説明 | 土地やつくり手まで含めた説明 |
|---|---|---|
| 味・品質 | どんな特徴があるか | その特徴を生む栽培や加工の知識は何か |
| 産地 | どこでつくられたか | その土地と生産活動はどう関わっているか |
| 物語 | ブランドが何を語るか | 当事者が何を語り、どう関わっているか |
| 価格 | 他の商品と比べていくらか | 何の仕事や工程に対して支払うのか |
| 継続 | 販売をどう増やすか | 生産者が営みを続けられる条件は何か |
これは、商品の基本性能を軽視する提案ではない。味や品質の説明を、背景にある仕事や土地までつなげる考え方だ。
また、背景を伝えれば必ず高く売れるわけでもない。購入しやすさ、使い方、品質、供給の安定性なども必要になる。
物語は商品を選ぶ理由になり得る。その物語を支える事業の仕組みが、価値を届け続ける条件になる。
PSELで読む、商品と暮らしのつながり
NEOTERRAINのPSELを使うと、今回の事例は四つの視点で整理できる。
Product|生活のなかで役に立つもの
唐辛子調味料もグアラナも、具体的な利用価値がある。文化的な背景を持つ商品であっても、何に使い、どんな魅力があるかを伝える必要がある。
日本の地域商品でも、由来の説明と、購入後の使い方をつなげたい。物語に関心を持った人が、生活のなかで使い続けられるようにするためだ。
Story|語る人と、語られる人
商品に関する物語を、誰が語っているのか。
企業が編集する場合でも、当事者の言葉や意向を確かめることが大切になる。外から見た魅力と、つくり手が伝えたいことは、必ずしも一致しない。
物語を魅力的に整える仕事には、語り手の立場を見失わない責任がある。
Energy|営みを続ける力
PSELのEnergyをここでは、仕事を続けるための収入、意欲、組織運営の力として読む。
バニワの事例では、女性たちの生産活動と収入が結びついている。[2] マーケティングの成果を考える際にも、売上の先に、つくり手の仕事がどう続くかという視点を置ける。
Land|価値を生み出す条件
土地は、生産物の背景に写る風景だけではない。
栽培や加工の知識は、その土地の条件と関わりながら育つ。土地を商品の由来として伝えるなら、生産が続く条件にも目を向ける必要がある。
日本の地域産業でも、産地名を使うことと、産地の将来を考えることをつなげたい。
日本のマーケティングに持ち帰れること
今回の事例から持ち帰りたいのは、広告表現の作法以上に、商品を見る順番である。
まず、商品を知る。次に、それを生み出す仕事を知る。そして、その仕事が続く条件を知る。
例えば、地域の食品を紹介するなら、味の特徴に加えて製法や生産者の役割を確かめる。工芸品なら、意匠に加えて素材や技術の担い手を知る。事業への還元を訴求するなら、その仕組みを確認する。
そのうえで、購入者にとって意味のある言葉に編集する。
「地域を応援しよう」と呼びかける前に、その商品が魅力的である理由と、地域との具体的な関係を伝える。買う人の納得と、つくる人の継続をつなぐことが、マーケティングの仕事になる。
商品の向こう側を、どこまで見ているか
アマゾンの先住民の営みを、日本のマーケティングのための教材として消費するだけでは、今回の問いは浅くなる。
彼らは知識を育て、商品をつくり、市場に関わる当事者である。その仕事を具体的に知ることで、私たち自身の商品を見る目も変わっていく。
小さな調味料の向こうに、畑と女性たちの仕事がある。
飲料原料の向こうに、植物を育て、加工してきた知識がある。
日本の売り場にも、まだ十分に伝わっていない仕事や土地との関係があるはずだ。
商品を届けるとき、その価値を生んだ人と土地まで届けられているだろうか。
遠いアマゾンの事例は、私たちの足元に、その問いを返してくれる。
参照資料
本記事は公開資料に基づく考察であり、現地取材による記事ではありません。事例の解釈を、各民族全体の価値観や消費行動へ一般化していません。
- Instituto Socioambiental(ISA)「Arte Baniwa」
https://pib.socioambiental.org/pt/Arte_Baniwa - Origens Brasil「Pimenta Baniwa」
https://origensbrasil.org.br/produto/pimenta-baniwa - Instituto Socioambiental(ISA)「Sateré Mawé」
https://pib.socioambiental.org/en/Povo:Sater%C3%A9_Maw%C3%A9
NEOTERRAIN JOURNALでは、マーケティングやクリエイティブ、社会の変化を、表面的な手法ではなく、その背景にある構造から読み解いています。
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