エリトリアのマングローブから考える、紅海の生態系と沿岸の未来
世界地図で見る自然環境問題|エリトリア
乾いた陸地から海へ目を向けると、その境目に緑がある。
アフリカ北東部、紅海に面するエリトリア。その沿岸や島々には、潮の満ち引きにさらされながら育つマングローブが分布している。国の生物多様性戦略にも、海岸を安定させ、生きもののすみかとなり、沿岸の暮らしを支える生態系として位置づけられている。faolex.fao.org
この森には、魚が育つ場所としての価値がある。燃料や家畜の餌として利用される価値もある。
そのため、森を守ろうとすると、食べものや燃料、漁業や放牧のあり方まで考える必要が出てくる。
エリトリアのマングローブをたどると、乾燥地の生活と海の生態系が、岸辺の細い緑を通してつながっていることが見えてくる。
海の豊かさは、岸辺でも育まれる
マングローブは、海水の影響を受ける潮間帯に育つ、塩分に耐性を持つ樹木や低木の総称だ。
水面から見える葉や枝の下には、根が広がっている。その複雑な構造が、魚やさまざまな海の生きものに、餌を得たり、身を隠したりする場所を提供する。fao.org
海の生産力を考えるとき、私たちの視線は、沖へ向かいやすい。
けれど、多くの魚や甲殻類が育つ場所として、岸辺の環境も重要だ。マングローブには、波の力を弱め、海岸の侵食を抑える働きもある。UNEP – UN Environment Programme
漁へ出る人が使う海と、陸に根を下ろす森。
その二つは、水の中でつながっている。岸辺の植生を守ることは、漁業を支える環境の一部を守ることでもある。
ラクダが葉を食べる、乾燥地の海岸
エリトリアでマングローブにかかる圧力の一つが、家畜による採食だ。
生物多様性条約に提出された国の報告書には、ラクダなどによる採食や、燃料・建築用の木材採取によって、植林したマングローブが損なわれた事例が記されている。Eritrea (English version)
海の森にラクダが関わっているという事実は、この場所の環境を考える手がかりになる。
陸上の草木が限られる地域では、海岸の緑も、家畜を養う資源となる。暮らしに必要な木を得る場所でもある。
だからこそ、利用を止めるという判断には、その後の生活をどう支えるかという問いが伴う。
国際農業開発基金(IFAD)の漁業資源管理事業の監督報告書でも、マングローブの保全を進めるには、燃料としての利用に代わる選択肢や、地域が保全に関わる利益を用意する必要性が指摘されている。ifad.org
森にかかる負荷を減らすには、人が使える資源や収入の選択肢を増やすことも必要になる。
一本の道路が、森に届く水を変える
マングローブは海辺に育つが、その状態は陸側の水の流れにも左右される。
エリトリアの国家生物多様性戦略・行動計画(2026〜2030年)には、マッサワとアッサブを結ぶ道路の建設によって川から海への流れが遮られ、アケロ村付近のマングローブが枯れた事例が記載されている。faolex.fao.org
道路は、人や物を運び、生活を支える。
同時に、つくる場所や構造によっては、それまで続いていた水の道を変えてしまう。
この事例から考えられるのは、森の変化を、木が立っている場所だけで判断できないということだ。海岸へ届く水、その途中にある構造物まで視野に入れる必要がある。
暮らしの基盤を整える仕事と、生態系を守る仕事。その両方を、水の流れに沿って考えることが求められる。
減少だけでは語れない、回復の記録
エリトリアのマングローブを、「失われ続ける森」として一括りにすることもできない。
国の報告書では、沿岸全体の被覆面積が増加したという調査結果が紹介されている。一方で、特定の場所では採食や水の流れの変化による劣化が報告されている。Eritrea (English version)
全体として緑が増えることと、個々の森が健全であることは、別々に確かめる必要がある。
最新の国家戦略には、2023年に行われたダフラク諸島の植林地の調査も記されている。育った木に花や種が見られ、魚やカニ、鳥などが利用する場所になっているという。faolex.fao.org
木が育ち、その周囲に生きものが集まり、次の世代の植物が育つ条件が生まれる。
回復を見つめるには、面積とともに、そこで続いている営みを見ることが大切なのだろう。
苗木が育つための、水と土地の条件
マングローブ再生では、植林が目に見える活動になりやすい。
しかし、苗木を植える前に、その場所に森が育つ条件があるかを確かめなければならない。
FAOは、マングローブ再生の失敗につながる主要な要因として、樹種と水文条件の不適合を挙げている。潮で水に浸かる頻度や深さなどが、その木に適しているかどうかが重要になる。fao.org
場所によっては、伐採などの圧力を減らすことで自然な回復を待てる。水の流れを修復し、その後に必要な植林を行う方法もある。fao.org
エリトリアのズラで計画された地域主導の再生事業でも、植え付けとともに、適切な場所の選び方を学ぶ研修が組み込まれている。海洋資源省や地域の代表、女性組織などが関わり、保全と漁業者の暮らしの改善を目指す設計だ。sgp.undp.org
植えた木を、育つ木へつなげる。
そのための仕事は、苗木を地面に置くより前から始まっている。
森を守る人が、海の恵みを受け取れるように
2025年12月、IFADと地球環境ファシリティ(GEF)は、エリトリアの沿岸・海洋生態系を対象とする新たな投資を発表した。
計画には、劣化したマングローブ3,500ヘクタールの再生と、漁業に関わる生計の支援などが盛り込まれている。これは今後目指す規模であり、回復済みの面積ではない。ifad.org
自然再生を地域の仕事として続けるには、守る側にも将来への見通しが必要だろう。
木を切らずに済む燃料をどう確保するか。家畜の餌をどう得るか。漁業や加工、販売による収入をどう安定させるか。
過去のIFADの監督報告書でも、地域による資源管理には、利用のルールと利益を公平に分ける仕組みが必要だとされている。ifad.org
苗木の本数や保護区の面積とともに、こうした仕組みが機能しているかを見ていくことが、再生の持続性を考えるうえで欠かせない。
海と陸の境目から、暮らしを見渡す
エリトリアのマングローブは、いくつもの役割が重なる場所にある。
魚が育つ場所であり、海岸を守る植生であり、人や家畜が資源を得る場所でもある。その状態には、潮の満ち引きと、陸から流れてくる水、人の利用が関わっている。
このつながりを見渡すと、森を守る取り組みに必要なものも広がってくる。
適切な場所での植林。水の流れへの配慮。家畜や燃料の問題への対応。地域が管理に関わり、その利益を受け取れる仕組み。
岸辺の緑を長く残すには、その周りで続く暮らしまで見つめる必要がある。
乾いた大地の先で、海の森が暮らしを支えている。
その森を支える条件を、一つずつ整えていくことが、紅海沿岸の未来につながっていく。
EDITOR’S NOTE — NEOTERRAIN
紅海のマングローブを調べていると、ラクダと魚が、同じ森を通してつながっていることに気づく。
葉を食べる家畜。その根元を利用する海の生きもの。木を燃料として使う人と、海へ漁に出る人。
それぞれに必要なものがあり、その重なりの中に、保全の難しさと手がかりがある。
海と陸の境目に育つ森を、暮らしのつながりから考える。
エリトリアの岸辺は、自然を守る視野を、少し広げてくれる。
参考資料
- エリトリア国家生物多様性戦略・行動計画(2026〜2030年)
- エリトリア政府|生物多様性条約第6次国別報告書(2019年)
- FAO|マングローブの生態
- FAO|マングローブの再生と管理
- UNEP|マングローブが果たす役割
- GEF小規模無償資金プログラム|ズラの地域主導マングローブ再生事業
- IFAD|エリトリア漁業資源管理事業・監督報告書(2019年)
- IFAD|エリトリアなど3か国への気候適応投資(2025年12月)
※本記事は公開資料に基づいて構成しています。現地取材や関係者へのインタビューは行っていません。

