NEOTERRAINの書籍・Tシャツ・トートバッグを公開中

雨を待つ大地に、雨を受けとめる力を

赤土の侵食斜面と、水路に設けられた石積み、遠くに広がる丘陵を描いた水彩画。「降る雨を、次の実りにつなぐ。」の文字。
赤土の侵食斜面と、水路に設けられた石積み、遠くに広がる丘陵を描いた水彩画

エスワティニの干ばつと土壌侵食から考える、水と暮らしの再生

世界地図で見る自然環境問題|エスワティニ

雨が降らなければ、作物は育たない。

けれど、雨が降ったからといって、土地が潤うとは限らない。地表を覆う草が減り、土が流れやすくなった場所では、激しい雨が、次の収穫を支える土まで運び去ってしまう。

南部アフリカにあるエスワティニでは、繰り返す干ばつとともに、土壌侵食や土地の劣化が、農業と暮らしを揺さぶっている。エスワティニ環境基金は、農地だけでなく、草地や森林でも劣化が進み、水資源や生物多様性への影響が広がっていると指摘する。Eswatini Environment Fund

水が足りないことと、降った水を土地に残せないこと。

この二つが重なる場所で、自然環境の問題は、畑の収穫や家畜の命、子どもが教室で過ごす時間につながっている。

Contents

雨の揺らぎが、食卓まで届く国

エスワティニは、南アフリカとモザンビークに接する内陸国だ。世界銀行は、繰り返す干ばつなどの気候による打撃が、農村の生計を弱め、貧困の削減を難しくしていると説明している。World Bank Group

農村では、トウモロコシ栽培と家畜の飼育を組み合わせた小規模農業が、食料と収入を支えている。一方、商業農業では、輸出向けのサトウキビ生産が重要な位置を占める。FAO

同じ国で降る雨でも、それを利用する条件は同じではない。

IMFの2024年の報告書によれば、エスワティニの農業の約8割は、灌漑ではなく雨に依存している。雨の時期や量の変化は、種をまく判断から作物の生長まで、広い範囲に影響する。elibrary.imf.org

雨を待つことは、その年の食料と収入を待つことでもある。

だからこそ、干ばつへの備えには、天気の予測とともに、限られた水を生かせる土地や設備が必要になる。

乾いた土地を、雨が削っていく

土地の劣化は、一つの原因だけで進むわけではない。

FAOは、エスワティニの農業・食料システムに関わる課題として、過放牧、単一作物への依存、非効率な水利用などを挙げている。そこへ干ばつや洪水、極端な気温が重なり、生産を支える環境への負担が増している。FAO

草や植物が失われた斜面では、土を守る覆いも薄くなる。

その土地に強い雨が降ると、水は土とともに斜面を下る。細い流れが集まり、地面を削り、やがて深い侵食溝へと広がっていく。

国南部のシモイニでは、「ドンガ」と呼ばれる深い侵食溝が拡大し、道路や家畜、人の安全を脅かしてきた。UNDPは、強い降雨と植生の劣化、不安定な土壌が重なり、侵食が進んだと報告している。United Nations Development Programme

雨が降らない時期に弱った土地が、雨の降る時期にも傷つく。

干ばつと侵食は、別々に扱うだけでは捉えきれない問題なのだ。

貯水池の寿命は、上流の土にも左右される

水不足への対策として、貯水池や灌漑設備は大切だ。

ただし、水をためる器をつくれば、その働きがいつまでも続くわけではない。

エスワティニ水・農業開発公社(ESWADE)は、国内のある流域で、小規模灌漑用貯水池の建設に向け、上流の土壌侵食と土砂の流入を調べている。斜面から流れ出す土砂が、下流の貯水池にたまれば、利用できる容量や設備の寿命に影響するからだ。EWADE

この関係をたどると、水の設備と自然環境の境目は、思っているほど明確ではない。

畑へ水を送るために、上流の草地を守る。貯水池を長く使うために、斜面の侵食を抑える。

設備の働きを支えているのは、設備の外側にある土地でもある。

一枚の畑だけでなく、雨が集まり、川へ流れる範囲全体を見渡す必要がある。

石を積み、水の勢いをやわらげる

シモイニでは、侵食溝の安定化に向け、石を金網に詰めた「蛇籠」を使う取り組みが進められている。水の流れる勢いを弱め、土がさらに削られるのを抑えるためだ。United Nations Development Programme

大きな構造物が一度に風景を変えるような再生ではない。

流れの途中に石を置き、崩れやすい場所を補強し、その後の雨で何が起きるかを確かめる。土地に起きている変化を読みながら、手を入れ続ける仕事だ。

こうした対策を長く機能させるには、工事の費用だけでなく、点検や補修を担う人、資材を確保する仕組みも必要になる。

土地の再生を考えることは、その土地を誰が見守り続けるのかを考えることでもある。

水が学校に届くと、学ぶ時間が戻る

水と土地の問題が、教育にまでつながる事例もある。

UNDPによると、シモイニのマチャナ小学校では、子どもたちが学校で使う水をくむため、約2キロメートル歩いていた。湿地や湧水を保護し、太陽光発電を利用したポンプと貯水タンクを整備したことで、200人以上の児童が学校で安定して水を利用できるようになった。United Nations Development Programme

水が届くことで、授業の中断が減る。

自然環境を守る価値は、こうした日常の変化にも表れる。給食をつくれること。手を洗えること。水くみのために教室を離れずに済むこと。

湿地の保護とポンプの設置を組み合わせたこの事例は、生態系の回復と生活基盤の整備を、一緒に考える意味を示している。

農家だけに、適応の負担を背負わせない

エスワティニでは、干ばつに強い作物や灌漑、水管理の改善などを盛り込んだ「国家干ばつ計画2030」の見直しも進められている。FAOが2026年5月に報告した協議では、関係機関の役割や政策の連携、実施に向けた投資などが議論された。fao.org

作物を変えるにも、水をためるにも、資金や技術がいる。放牧の方法を変えるなら、家畜を飼う人たちの合意や、代わりの飼料をどう確保するかという問題も生まれる。

環境への負荷を減らそうという呼びかけだけでは、暮らしの選択肢は増えない。

UNDPなどが支援する、エスワティニを含む南部アフリカ3か国の2027〜2032年の計画でも、農地単位の対策と、流域の森林・湿地・草地の再生を結びつける方針が示されている。地域が計画づくりや資金の使い方に関わることも、その柱だ。UNDP Climate Change Adaptation

上流で土地を守る人と、下流で水を使う人。

その間にある負担と利益を、どのように分かち合うのか。自然再生には、社会の仕組みを整える仕事も含まれている。

次の雨を、次の暮らしにつなぐために

エスワティニの環境問題から見えてくるのは、水の量と土地の状態を、切り離せないということだ。

雨が少ない年をどう乗り越えるか。

同時に、雨が降ったとき、その水をどう生かすか。

草が根を張れる土地を残す。侵食の進む場所を補修する。湿地や湧水を守り、必要な水を暮らしへ届ける。

それぞれの取り組みがつながった先に、雨の変化に耐えられる地域が育っていく。

降る雨の量を、人は自由に決められない。

それでも、次の雨が土を奪うのか、次の収穫を支えるのか。その違いに、働きかけることはできる。

EDITOR’S NOTE — NEOTERRAIN

水不足と聞くと、私たちは空を見上げる。

エスワティニの事例をたどると、その視線は足元にも向かう。草の根、崩れかけた斜面、流れの途中に積まれた石。そして、学校へ水を届ける管。

自然環境を守る仕事は、こうした一つひとつを通して、人が暮らし続けられる条件を整えている。

雨を待つ大地に、雨を受けとめる力を。

その先には、畑の収穫と、子どもたちの学ぶ時間がある。


参考資料

※本記事は公開資料に基づいて構成しています。現地取材や関係者へのインタビューは行っていません。

この記事が響いたら、シェアしていただけると嬉しいです。
  • URLをコピーしました!
Contents