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水に守られてきた湿地が、なぜ燃えるのか——アルゼンチン・パラナ川デルタの火災

水の土地が、燃えている。
アルゼンチン・パラナ川デルタの湿地火災

世界の環境地誌|アルゼンチン

川の水が、いくつもの流れに分かれる。流れの間には島ができ、低い土地に草が育つ。水鳥が休み、魚が身を隠し、人は船で行き来する。

アルゼンチンを流れるパラナ川のデルタは、水と陸が季節によって入れ替わるような場所だ。洪水のときには水が広がり、水位が下がれば草地が姿を現す。その変化の中で、湿地の生きものと人々の暮らしが形づくられてきた。

ところが、この水の土地で、大規模な火災が起きた。

2020年と2022年には、デルタの島々や氾濫原で火災が相次ぎ、煙は川の対岸にある都市にも届いた。NASAの衛星観測も、2022年にパラナ川沿いの湿地で広がる火と煙を捉えている。modis.gsfc.nasa.gov

なぜ、湿地が燃えるのか。その答えを探すには、火だけでなく、川の水位と土地の使い方を見る必要がある。

Contents

湿地は、いつも水に沈んでいるわけではない

「湿地」という言葉から、一年中水に覆われた風景を想像するかもしれない。パラナ川デルタは、そうした静かな水面だけでできているわけではない。

川の増水と減水によって、島や草地の状態は変わる。ある時期には水に浸かり、別の時期には地面が露出する。植物や動物も、この水の変動に適応してきた。

アルゼンチン政府が紹介するデルタのラムサール条約登録湿地では、洪水と乾燥が交互に訪れる環境が、多様な植物や動物の生息場所をつくっている。魚にとっては、餌場や隠れ場所、繁殖に関わる場所にもなる。Argentina.gob.ar

つまり、水位が下がること自体は、この土地にとって異常とは限らない。重要なのは、どれほど低い水位が、どれほど長く続くか。そして、地面が乾いたとき、そこにどのような火の使われ方が重なるかだ。

川の水位が下がると、火は広がりやすくなる

水位が低い時期には、ふだん水に守られている場所も乾きやすくなる。枯れ草などの植物が乾燥すれば、いったん火がついたときに燃え広がる危険が高まる。

2020年の火災をめぐり、アルゼンチン政府は、パラナ川の著しい低水位と多数の火災が重なった状況を記録している。2021年には、低水位や少雨が続く見通しを踏まえ、島々の燃えやすい植物の状態を調べる取り組みも進められた。Argentina.gob.ar

しかし、川の水位が下がったことだけで、火災の原因を説明することはできない。乾燥は火が広がりやすい条件をつくる。火がどこから生まれ、どう扱われたかは、別に考えなければならない。

この区別は大切だ。気象や水位だけに原因を求めれば、土地での火の利用や管理という、人が変えられる部分を見落としてしまう。

草を焼くという土地利用

デルタの島々では、牧畜をはじめとする生産活動が行われてきた。草地を管理するために、火が使われることもある。

火を使う行為を、すべて同じものとして扱うことはできない。使う時期、場所、規模、その後の管理によって、結果は変わる。ただ、乾燥と低水位が続くときには、限られた範囲の火として始まっても、制御が難しくなる。

アルゼンチンの研究機関CONICETが収録する研究は、パラナ川デルタにおける草地管理のための火の利用と、近年の降雨・水位の変動を、火災を考えるうえでの要素として扱っている。また、土地利用の変化や、湿地に堤を築いて水の出入りを変えることも、デルタの環境に影響する。CONICET

かつて水が出入りしていた場所を、堤で囲んで使う。水位が下がった土地に、さらに利用の手を加える。その積み重ねは、川が再び増水したときの水の戻り方にも関わる。

火災は、一本のマッチだけを見ても分からない。火が広がった土地が、どのように使われ、どのように変えられてきたかまで見て、初めて輪郭が現れる。

煙は、川の対岸に届く

湿地の火災は、燃えている島だけの問題では終わらない。

パラナ川の西岸にあるロサリオとその周辺では、デルタの火災に由来する煙が問題になった。CONICETが収録する研究には、2020年以降、島々の火災による煙が都市部へ及んだことを扱うものがある。CONICET

湿地は都市から離れた「自然の場所」に見えるかもしれない。けれど、川を挟んだ向こう側で火が燃えれば、煙は風に乗って人の暮らす場所へ届く。

デルタの保全は、鳥や魚の生息地を守ることにとどまらない。都市で暮らす人々の空気や、周辺地域の安全にもつながっている。

火を消した後に、何を戻すのか

大規模な火災が起きれば、まず消火が必要になる。しかし、火が消えたところで湿地の問題が終わるわけではない。

焼けた場所に、どの植物が戻るのか。土壌はどのような状態にあるのか。次の増水のとき、水は以前と同じように広がるのか。再び乾燥したとき、火災を防げるのか。

パラナ川デルタは、一つの自治体だけで管理できる広さではない。川と島々は複数の州にまたがる。アルゼンチンでは、国とブエノスアイレス州、エントレ・リオス州、サンタフェ州が関わる、デルタの保全と持続可能な利用のための枠組み「PIECAS-DP」が設けられている。Argentina.gob.ar

水の流れには行政上の境界がない。煙にもない。だからこそ、火災の監視、土地利用、湿地の回復を、川全体のつながりの中で考える必要がある。

水と陸の間を、残しておく

湿地は、利用されていない土地ではない。水が広がる場所、草が育つ場所、魚や鳥が生きる場所として働いている。牧畜など、人の営みが重なってきた場所でもある。

アルゼンチン政府は、湿地が生物多様性を支え、洪水や干ばつの影響を和らげる役割を持つと説明している。そうした働きは、湿地に水が出入りし、環境が変化することとも結びついている。Argentina.gob.ar

パラナ川デルタの火災が示すのは、湿地が「水のある場所」だから安全だとは言えないということだ。川の水位が下がり、植物が乾き、そこに火の利用や土地の改変が重なると、水に育まれた土地も燃える。

川が増えたり減ったりする余地を残すこと。土地を使う人と、対岸で暮らす人の双方を見て、火を管理すること。

水と陸のどちらかに決めきれない場所だからこそ、デルタには、その揺らぎを受け止める管理が必要なのだ。


参照資料

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