竹林は、美しい。
まっすぐに伸びる竹。
風に揺れる葉の音。
光が差し込む青竹の道。
日本の風景の中で、竹林はどこか静かで、清らかな印象を持っている。
京都・嵯峨野の竹林のように、観光資源として多くの人を惹きつける場所もある。
竹細工、竹垣、茶道具、箸、籠、建材、そしてタケノコ。
竹は、日本人の暮らしと長く結びついてきた素材でもある。
けれど、その竹林がいま、各地の里山で環境問題になっている。
人が管理しなくなった竹林が、周囲の雑木林や農地へ広がっていく。
竹が密生し、地面に光が届かなくなる。
他の草木が育ちにくくなり、生き物のすみかが単調になっていく。
竹林は美しい。
しかし、放置された竹林は、里山のバランスを変えてしまうことがある。
竹は、なぜ広がるのか
竹は成長が早い。
地上に見える竹だけでなく、地下には地下茎が広がっている。
その地下茎から次々とタケノコが出て、竹林は周囲へ広がっていく。
手入れされた竹林では、不要な竹を伐り、タケノコを収穫し、密度を調整する。
光が入り、風が抜け、人が歩ける空間が保たれる。
しかし、管理されなくなると、竹は急速に密生する。
細い竹、古い竹、倒れた竹が入り混じり、足を踏み入れることも難しい荒れた竹林になる。
竹そのものが悪いわけではない。
問題は、竹を使い、手入れし、循環させる人の関わりが弱くなったことにある。
使われなくなった竹
林野庁は、竹が昔から身近な資材として生活に利用されてきた一方で、近年は生活の洋風化、プラスチックなど代替材の登場、安価な輸入品の増加などによって、竹材やタケノコの国内生産量が減少傾向にあると説明している。
かつて竹は、生活の中にあった。
籠、ざる、箸、物干し竿、竹垣、農具、建材、祭りの道具。
タケノコは春の食文化を支え、竹林は地域の手によって管理されていた。
しかし、暮らしの道具が変わり、竹製品の需要が減り、山に入る人も減った。
竹を伐っても使い道が少なくなり、管理の担い手も高齢化していった。
その結果、国内には管理不足の竹林が多く見られるようになった。
放置竹林とは、単に竹が伸びすぎた場所ではない。
人と竹の関係が切れた場所でもある。
竹林が広がると、里山はどう変わるのか
竹林が周囲へ広がると、里山の風景は少しずつ変わっていく。
もともと雑木林だった場所に竹が入り込む。
コナラやクヌギなどの落葉広葉樹の下に竹が伸びる。
農地の縁や斜面、ため池の周辺にも竹が侵入する。
竹は密生すると、林内を暗くする。
地面に光が届きにくくなり、下草や若い木が育ちにくくなる。
雑木林には、本来、多様な植物が育ち、それに昆虫や鳥、小動物が関わっていた。
けれど、竹が優占し、林床が暗く単調になると、そこにすむ生き物の種類も変わっていく。
つまり、竹林の拡大は、単なる景観の変化ではない。
里山の生物多様性を変える問題でもある。
里山は、放置では守れない
環境省は、里地里山について、原生的な自然と都市との中間に位置し、集落、二次林、農地、ため池、草原などで構成される地域だと説明している。
そして、里地里山の環境は、農林業などに伴う人間の働きかけを通じて形成・維持されてきたものだとしている。
ここが重要だ。
里山は、人が関わらないことで守られてきた自然ではない。
人が薪を取り、落ち葉を集め、田畑を耕し、池を管理し、木や竹を使うことで維持されてきた自然である。
だから、人が離れすぎると、里山は必ずしも豊かな自然へ戻るわけではない。
ナラ枯れが広がる。
シカが下草を食べ尽くす。
竹林が雑木林を覆っていく。
耕作放棄地に外来植物が広がる。
それぞれは別々の現象に見える。
しかし根底には、人と里山の関係が弱くなったという共通点がある。
竹林は、防災の問題にもなる
竹林の拡大は、生物多様性だけでなく、防災の観点からも語られる。
荒れた竹林では、古い竹や倒竹が積み重なり、斜面の管理が難しくなる。
竹の地下茎は浅く広がるため、急傾斜地では大雨や地盤条件によって斜面の安定性が問題になることもある。
もちろん、すべての竹林が危険というわけではない。
手入れされた竹林は、美しい景観であり、資源でもある。
しかし、密生し、倒れ、管理されない竹林が増えれば、災害時のリスクや管理コストは高まっていく。
山の問題は、山だけで終わらない。
斜面が崩れれば、土砂は川へ流れ、下流の地域や海の環境にも影響する。
竹林の問題もまた、里山、川、地域の暮らしにつながっている。
竹を厄介者で終わらせない
竹林の拡大は問題である。
しかし、竹をただ厄介者として扱うだけでは、解決にはならない。
竹は、本来、優れた資源でもある。
成長が早く、軽く、しなやかで、加工しやすい。
建材、家具、紙、繊維、竹炭、竹チップ、バイオマス、土壌改良材、舗装材、クラフト、食材。
活用の可能性は多い。
林野庁も、竹はバイオマス資源であり、その利活用の推進は低炭素社会の実現に貢献するだけでなく、竹林の適正な管理にもつながるとしている。
つまり、放置竹林の問題は、竹を排除する話ではない。
もう一度、竹を使う仕組みをつくれるかどうかの問題でもある。
竹林整備は、地域の再編集である
放置竹林を整備するには、人手が必要だ。
竹を伐る。
運び出す。
処理する。
使い道をつくる。
継続的に管理する。
一度伐っただけでは終わらない。
翌年も、その次の年も、タケノコや若竹は出てくる。
竹林整備には、継続的な関わりが必要になる。
だからこそ、地域全体で仕組みをつくる必要がある。
地域住民。
自治体。
企業。
学校。
NPO。
職人。
飲食店。
観光事業者。
デザイナーやクリエイター。
竹を伐る人だけでなく、使う人、伝える人、商品にする人、体験に変える人が必要になる。
竹林整備は、単なる環境保全ではない。
地域資源をどう再び循環させるかという、地域の再編集でもある。
竹の美しさを、管理の美しさへ
竹林は、美しい。
けれど、その美しさは、放っておけば保たれるものではない。
人が入り、間引き、風を通し、光を入れ、使い続けることで、美しい竹林は維持される。
これは、里山全体にも言えることだ。
自然を守るとは、何もしないことではない。
特に里山のように、人と自然が長く関わってきた場所では、適切に関わり続けることが守ることになる。
竹林の問題は、そのことを分かりやすく示している。
美しい竹林と、荒れた放置竹林。
その差は、自然の違いではなく、人の関わりの違いでもある。
放置された里山で、何が起きているのか
放置された里山では、静かに変化が進んでいる。
竹林が広がる。
雑木林が暗くなる。
下草が消える。
生き物のすみかが単調になる。
斜面の管理が難しくなる。
地域の資源が使われないまま増え続ける。
それは、過疎化や高齢化、産業構造の変化、暮らしの道具の変化が、自然環境に現れた姿でもある。
竹林が広がるということは、竹が強すぎるというだけではない。
人間が竹を使わなくなったことの結果でもある。
だからこそ、問いはこうなる。
竹をどう減らすか。
それだけではなく、竹をどう使い直すか。
竹林をどう地域の資源に戻すか。
里山と人の関係をどう結び直すか。
里山は、使うことで守られる
これからの里山保全には、「使う」という視点が欠かせない。
木を使う。
竹を使う。
落ち葉を使う。
水辺を使う。
農地を使う。
地域の人だけでなく、都市の人、企業、学校も関わる。
使うことは、消費することではない。
循環の中に戻すことだ。
竹林が広がる里山は、危機であると同時に、地域資源を見直す入口でもある。
竹を伐ることから、ものづくりが始まるかもしれない。
竹を使った体験が、観光になるかもしれない。
竹林整備が、環境教育になるかもしれない。
竹チップや竹炭が、地域の循環資源になるかもしれない。
放置された里山で起きていることは、単なる自然の異変ではない。
人と自然の関係が途切れた場所で、もう一度、関係をつくり直せるかという問いである。
竹林が広がる。
その風景の奥には、使われなくなった資源と、忘れられた里山の記憶がある。
里山は、放置では守れない。
使い直すことで、もう一度、守ることができるのかもしれない。
参考・引用元
- 林野庁「竹のはなし」
竹が昔から身近な資材として利用されてきたこと、生活の洋風化、プラスチック等代替材の登場、安価な輸入品の増加などにより竹材やたけのこの国内生産量が減少傾向にあり、管理不足の竹林が多く見られるようになったことが説明されています。
URL:https://www.rinya.maff.go.jp/j/tokuyou/take/index.html - 林野庁「竹の利活用推進に向けて」
竹材やたけのこの生産減少、竹林拡大による森林の公益的機能への影響、竹の利活用推進に関する情報が整理されています。
URL:https://www.rinya.maff.go.jp/j/tokuyou/take-riyou/index.html - 環境省「里地里山とは」
里地里山が原生的な自然と都市との中間に位置し、集落、二次林、農地、ため池、草原などで構成され、人間の働きかけを通じて形成・維持されてきた地域であることが説明されています。
URL:https://www.env.go.jp/nature/satoyama/top.html - 環境省「里地里山と生物多様性」
里地里山が多様な自然環境を有し、自然資源の供給、景観形成、水源かん養、国土保全、生物多様性など多くの役割を担ってきたことが説明されています。
URL:https://www.env.go.jp/nature/satoyama/seibutu.html - 神戸市「里地里山における生物多様性保全の取り組み」
竹林を放置すると里山や里地などに侵入し、樹木の健全な成長を阻害するなど、多様な自然環境が失われ、生物も減っていくことが説明されています。神戸市では1970年に竹林面積が約150haだったものが、2023年には推定1,000ha程度に拡大しているとされています。
URL:https://www.city.kobe.lg.jp/a66324/kurashi/recycle/biodiversity/satotisatoyamahozen.html
竹林が広がる風景は、単なる自然の変化ではありません。
それは、人と里山の関係が弱くなったことを知らせるサインでもあります。
NEOTERRAIN Journalでは、海・山・空で起きている日本の自然環境問題を、これからも現場とデータの両方から見つめていきます。
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