昨夜、オンラインショップで青い器を見つけた。
釉薬の色が気に入った。けれど、家には似た大きさの皿がある。食卓に置くところを少し想像して、画面を閉じた。
翌朝、もう一度ページを開く。値段も写真も昨日と同じだ。購入ボタンの上に、小さく一行だけ増えている。
「残り1点」
昨日までは、「この器を使うだろうか」と考えていた。今は、「次に見たとき、まだ買えるだろうか」と考えている。
器は変わっていない。変わったのは、いつまで選べると思っていたかだ。
1.クッキーが2枚しかないと、何が変わるのか
1975年、心理学者のスティーブン・ウォーチェルらは、瓶に入ったチョコチップクッキーを使って、数の少なさが商品の評価にどう関わるかを調べた。
瓶に入っているクッキーは、条件によって2枚か10枚。最初から2枚の条件に加え、途中で10枚入りの瓶が2枚入りの瓶に取り替えられる条件もあった。
クッキーが少ないと、参加者はより魅力を感じた。また、最初から少ない場合よりも、たくさんあったものが途中で少なくなった場合に、価値を高く評価した。最初の実験では、味そのものの評価に統計的に有意な差は見られなかった。uni-muenster.de
同じ2枚でも、初めから2枚だったのか、10枚から2枚に減ったのかで、受け取り方が違う。買い物に置き換えると、昨日まで買えたものが、今日は手に入らなくなりそうだと知ったときに近い。
「残り1点」は、在庫の数を知らせると同時に、あとで決めるつもりだった人に、その判断をいま考え直すきっかけを与える。
2.同じ「残りわずか」でも、なぜ少ないかで意味は変わる
クッキーの実験では、数が減った理由も変えていた。予想外に多くの人が食べたために減ったと説明された場合は、手違いで減ったと説明された場合より、評価が高かった。研究者たちは、ほかの人が欲しがったことが、クッキーの魅力を判断する手がかりになった可能性を挙げている。uni-muenster.de
売り場でも、同じ「残り1点」に、違う背景がありうる。
よく売れて、今ある在庫が一つになった。窯から出た今回の器のうち、この色合いのものが一つ残った。そもそも展示品を一つだけ販売している。
客が次に知りたいことも変わる。よく売れている定番品なら、再入荷を待てるかどうか。焼き上がりに個体差のある器なら、写真の品が届くのかどうか。展示品なら、状態はどうか。
残数を知ることで生まれる疑問に答えられるか。 そこまで考えると、どの情報を数字のそばに置くべきかが見えてくる。
3.「残り5席」と「日曜まで」では、急ぐ理由が違う
「残り5席」は、ほかの人が申し込めば、締切前でも席がなくなるという知らせだ。「申込は日曜まで」は、いつまでに判断すればよいかを示している。
プラヴィーン・アガルワルらは、数量限定と期間限定のメッセージを比較した。二つの研究では、数量限定のほうが購買意向を強く高め、ほかの消費者との競争を感じることが、その関係に関わっていた。ここで測ったのは、購入しようと思う度合いだ。tandfonline.com
実務では、どちらが強い言葉かを考える前に、何が実際に限られているかを確かめたい。たとえば工房見学なら、受け入れられる人数と、準備のために予約を締め切る日がある。二つを分けて書けば、参加者は予定を立てやすくなる。
| 販売や申込の条件 | 表示の例 |
|---|---|
| 定番品の在庫が少なく、再入荷を予定している | 現在の在庫は残り1点。次回入荷は12月中旬予定。 |
| 写真の現品を販売する | 写真の器をお届けします。現品1点。 |
| 会場の定員で受付を締め切る | 定員12名。残席5名。定員に達し次第、受付終了。 |
| 製造の都合で予約を締め切る | 予約は日曜18時まで。お渡しは翌週土曜。 |
「限定」という一語でまとめると見えなくなる違いがある。条件を具体的に伝えると、顧客は今買うか、次の機会を待つかを判断できる。
4.工房の事情を、写真とコピーで伝える
ある陶器の工房が、窯から出た器を一枚ずつオンラインで販売するとする。同じ形でも、釉薬の流れや焼き色に違いがある。工房の狙いは、その違いを見たうえで、使いたい一枚を選んでもらうことだ。
その狙いなら、商品ページの中心に置くのは、購入者に実際に届く器の写真になる。全体に加えて、釉薬がたまった縁や、光を受けたときの色を見せる。写真のそばに、**「写真の器をお届けします」**と添える。「現品1点」という表示は、その一枚を選ぶための情報として働く。
定番品なら、見せ方は変わる。追加生産が決まっていれば、再入荷の目安を伝える。時期が読めないなら、希望者が入荷通知を受け取れるようにする。在庫数を表示する場合は、色やサイズごとの実際の在庫に合わせて更新する。
クリエイティブの判断は、赤い文字でどれだけ目立たせるかより手前にある。どの商品について、何が限られていて、次にどうできるか。 それがわかると、写真、コピー、ボタンにそれぞれ何を担わせるかが決まる。
5.購入が早まったのか、選ばれる理由が伝わったのか
在庫表示を変えたあと、販売数だけを見ても、何が起きたかはわかりにくい。もともと買うつもりだった人が、予定より早く注文したのかもしれない。現品の写真を見て、どの一枚が届くか納得して選んだ人もいるだろう。
振り返るなら、注文までにかかった時間に加え、売り切れ後にどんな問い合わせが来たか、購入者がどこを気に入ったかも見たい。
「次はいつ入りますか」という問い合わせが多いなら、再入荷の案内を見つけやすくする。「写真の色に惹かれた」という声があれば、次の販売でも、器ごとの色の違いがわかる撮影を続ける理由になる。
数字でわかるのは、注文がいつ入ったか。言葉からわかるのは、その一枚がなぜ選ばれたかだ。次の売り場を考えるには、どちらも役に立つ。
EDITOR’S NOTE — NEOTERRAIN
器をつくる人にとって、一枚ごとに色が違うことは、窯を開けるたびに目にすることかもしれない。買う人にとっては、その違いが、どの皿を家に迎えるかを決める理由になる。
「残り1点」と表示された画面で、もう一度、器の写真を見る。縁にたまった青は、昨日もそこにあった。
買えるうちに買いたいと思ったのか。この青を、毎日の食卓で見たいと思ったのか。商品ページをつくる側にできるのは、その違いを自分で考えられるだけの情報を届けることだ。
NEOTERRAIN JOURNALでは、マーケティングやクリエイティブ、社会の変化を、表面的な手法ではなく、その背景にある構造から読み解いています。
新しい記事や思考のヒントを受け取りたい方は、メールマガジンにご登録ください。

