エチオピア高地の土壌侵食と森林再生から考える、土地と暮らしの未来
世界地図で見る自然環境問題|エチオピア
斜面に沿って、幾重もの線が続いている。
エチオピア高地で進められている土地再生では、段々畑や土の畦、植生の回復を組み合わせ、雨水と土が一気に斜面を下るのを抑えている。森林の減少や土壌侵食によって弱った土地に、再び生産力を取り戻すための取り組みだ。worldbank.org
その仕事は、土や水の扱い方だけでは決まらない。
手をかけた土地を、これからも使い続けられるのか。木が育つまでの間、家畜の餌や燃料をどこで得るのか。再生によって生まれる利益は、誰に届くのか。
エチオピアの高地で起きていることをたどると、自然環境の回復を支える、人と土地の関係が見えてくる。
収穫を支える土が、斜面から失われる
エチオピアの自然環境を、一つの風景で語ることはできない。乾燥した低地もあれば、多くの人が農業を営む高地もある。
本稿で目を向けるのは、長く耕作が続いてきた高地の斜面だ。
森林の減少や植生の劣化が進んだ場所では、雨にさらされた土が流れ出しやすくなる。土地の生産力が落ちることは、その土地に依存する小規模農家の食料や収入に直接影響する。世界銀行も、高地における土壌侵食、森林減少、農業生産性の低下を、結びついた課題として挙げている。worldbank.org
土は、作物を立たせるための地面であると同時に、水や養分を蓄える場所でもある。
その表層が失われれば、次の雨が降っても、以前と同じようには作物を育てられない。
さらに、雨に依存する農業では、降雨の変動や干ばつへの対応も必要になる。すでに劣化した土地で暮らす人ほど、気候による打撃を受けやすいと指摘されている。blogs.worldbank.org
一年の収穫を支えるものの一部が、雨のたびに斜面を下っていく。
土壌侵食は、地形の変化であるとともに、暮らしの基盤が少しずつ薄くなる問題でもある。
雨水の速度を落とし、植物が育つ条件を整える
高地の土地再生では、斜面に段差や畦を設けたり、侵食が進む溝を補修したりする土壌・水保全が行われてきた。
こうした対策に、植林や農地で樹木を育てる方法、傷んだ斜面の利用を制限して植生の回復を待つ方法などを組み合わせている。Springer Nature Link
水が勢いよく流れ下る場所に、途中でとどまる余地をつくる。植物が根を張り、再び地表を覆える条件を整える。
一つの工事で完結する仕事ではない。雨の後に畦が壊れていないかを確かめ、植物の育ち方を見ながら、補修や管理を続ける必要がある。
世界銀行が2026年6月に公表した報告では、同国のCALM事業によって、2025年9月までに約256万ヘクタールが持続可能な土地管理の対象となった。放牧などの利用制限や、土壌・水保全などを含む面積であり、すべての土地で生態系の回復が完了したという意味ではない。worldbank.org
面積の大きさは、取り組みの広がりを示す。
その中で何が回復したかは、一つひとつの土地で確かめていくことになる。
植えることと、育ち直す力を守ること
森林を取り戻す方法には、苗木を植えるほかに、土地に残る植物の再生を助ける方法がある。
エチオピアで広く使われてきたのが、「エクスクロージャー」と呼ばれる、放牧などの利用を制限する区域の設定だ。家畜による採食や踏みつけなどの圧力を抑え、草や低木、樹木が育ち直す条件をつくる。必要に応じて、侵食対策や補植も組み合わせる。ieg.worldbankgroup.org
エチオピア森林開発庁の事業でも、新たな植林とともに、天然更新を人が助ける方法が位置づけられている。Ethiopian Forestry Development
自然に任せるという言葉だけでは、その仕事を十分に表せない。
育ち始めた植物を守り、回復を妨げる要因を減らし、必要な手入れをする。FAOも、こうした再生を長く続けるには、周辺住民が計画と実施に関わり、その利益を受けられることが重要だとしている。fao.org
土地が持っている回復力を見つけ、それが働けるようにする。
そのためにも、人の判断と継続的な関与が必要になる。
丘を休ませる間、家畜はどこで草を食べるのか
放牧を制限すれば、植生の回復を促せる。
しかし、それまで家畜を連れていっていた人にとっては、使える場所が減ることにもなる。
世界銀行の独立評価部門IEGは、エチオピアの事業について、利用制限が土地の再生に役立つ一方、代わりの飼料確保が支援されなければ、畜産や家計を弱める可能性があると指摘している。区域を交代で休ませ、部分的な利用を続ける工夫も確認された。ieg.worldbankgroup.org
自然を守るための線を地図に引くと、その線は、人の移動や労働にも作用する。
どの場所を、いつまで休ませるのか。草を刈って利用できる時期をどう決めるのか。利用を減らす人の負担を、誰が支えるのか。
回復した風景だけを見ていると、そこに至るまでの調整は見えにくい。
けれど、その調整こそが、再生を続けられるかどうかを左右する。地域の暮らしを支える選択肢とともに、保全の方法を考える必要がある。
土地を守る意欲を支える、使い続けられる安心
畦をつくり、木を育て、土の状態を改善するには、時間も労力もかかる。
その効果が十分に現れるのは、数年先かもしれない。
もし、手をかけた土地を将来も使えるかどうかわからなければ、長期的な投資をためらうのは自然なことだ。
エチオピアの土地再生では、農家の土地保有・利用に関する権利を文書で明確にする取り組みも進められている。世界銀行は、権利の安定が、土壌や水分を保つ対策、樹木の育成などへの投資を後押しすると説明している。blogs.worldbank.org
ここで重要なのは、土地を守る利益を、その土地に関わる人が将来も受け取れることだろう。
今日つくった畦が、来年の自分の畑を支える。育てた木が、家族の暮らしに役立つ。共同で守った斜面の利益を、地域で分かち合える。
そうした見通しがあってこそ、先の長い仕事を引き受けやすくなる。
女性の土地に関する権利を明確にすることも、この取り組みの一部だ。証明書を渡すことに加え、技術指導や地域の意思決定への参加を支える必要性も示されている。blogs.worldbank.org
土を守る仕組みの中に、権利を守る仕組みがある。
自然環境と社会制度は、同じ斜面の上でつながっている。
苗木を植えた日から、再生を確かめる時間へ
植えた苗木の本数は、活動の規模を伝えやすい。
その後、何本が育ち、どんな植生が成立するかによって、土地に生まれる変化は異なる。
2025年に公表されたオロミア州の研究では、過去の植林事業を調べ、苗木の生存に地域、気候条件、樹種、植林地の利用権などによる違いがあることを報告している。研究者たちは、土地に合う樹種の選定、苗木の質、植え方、地域の参加などの重要性を指摘した。Springer Nature Link
植える瞬間の成果を、その後の管理へつなげられるか。
乾季を越えられたか。土の流出が抑えられたか。農業や家畜の飼育を続ける条件が改善したか。
再生を評価する時間は、植林の一日よりも、ずっと長い。
その時間を支える費用や人の仕事まで見渡すことで、苗木の本数の先にある成果が見えてくる。
土地の未来を、暮らしの未来として考える
エチオピア高地の土地再生には、斜面に手を入れる技術と、人の関係を整える仕事が重なっている。
土が流れにくくなること。
植物が育ち直せること。
その間も、人が生活を続けられること。
そして、手をかけた土地から生まれる利益を、地域の人が受け取れること。
どれか一つだけで、長期的な回復を支えるのは難しい。
丘に緑が戻るまでには、人が待たなければならない時間がある。その時間を、将来への見通しを持って過ごせるようにする。
エチオピアの事例は、自然再生を進めるために、暮らしの安心をどう築くかという問いを投げかけている。
EDITOR’S NOTE — NEOTERRAIN
斜面に築かれた畦は、土と水をとどめる。
それを築いた人が、次の年も、その先も土地に関われること。回復を待つ間の暮らしが支えられること。その条件まで含めて、一つの畦は機能し続けるのだろう。
丘を守る仕事を、明日の収穫につなげる。
風景の回復を見つめるとき、その土地に未来を託す人の存在も、見失わずにいたい。
参考資料
- 世界銀行|エチオピアの土地管理事業CALMの進捗(2026年6月)
- IEG|自然資源管理と脆弱性の軽減に関する評価・第4章
- 世界銀行|エチオピアの女性農家の気候適応と土地の権利
- エチオピア森林開発庁|国家森林部門開発プログラム
- FAO|天然更新を助ける森林再生の基本手順
- Discover Agriculture|オロミア州の植林における苗木の生存と生育(2025年)
- Environmental Monitoring and Assessment|エチオピア高地の環境課題と土地再生(2025年)
※本記事は公開資料に基づいて構成しています。現地取材や関係者へのインタビューは行っていません。

