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ジョージアと日本のマーケティング比較|ワインと日本酒に学ぶ「文化を選ぶ理由に変える」方法

Illustration of a terracotta vessel, amber wine, grapes, and Japanese sake cups against mountains and terraced fields, with Japanese text meaning “Beyond taste, there is a land.”
ジョージアと日本|味の向こうに、土地がある

グラスに注がれたワインの向こうに、誰かの家の食卓が見える。
おちょこに注がれた日本酒の向こうに、田んぼや水、酒蔵の仕事が見える。

飲み物は、喉を潤す商品である。同時に、その土地の暮らしに触れる入口にもなる。

コーカサス地方の国、ジョージアと日本。二つの国の酒造りと食文化を比べると、マーケティングの問いが浮かび上がる。

土地に根づく文化を、初めて出会う人の「選ぶ理由」に、どう変えるのか。

この記事では、ジョージアの伝統的なワイン造りと宴席文化、日本の酒造りと酒蔵観光を比較する。国民性全体を分類するのではなく、具体的な文化と、その伝え方からマーケティングへの示唆を考える。

Contents

土の器が、製法を物語に変える

ジョージアには「クヴェヴリ」という卵形の大きな土器を使う伝統的なワイン造りがある。地中に埋めた器でワインを発酵・貯蔵するこの方法は、2013年にユネスコ無形文化遺産の代表一覧表に記載された。知識や技術は家族や地域の人々の間で受け継がれ、収穫や醸造にも共同で関わる。

ここで注目したいのは、器の形が、そのまま「知りたくなる入口」になることだ。

なぜ、土の器なのか。なぜ、地中に埋めるのか。誰がつくり、誰が受け継いできたのか。

製法の説明から、人や土地への関心が生まれる。マーケティングの視点では、独自性を短い言葉や一つの画像で伝えやすい、強い手がかりになると考えられる。

ただし、ジョージアのワインがすべてクヴェヴリでつくられるわけではない。また、伝統製法というだけで味の好みや品質が一律に保証されるわけでもない。文化への関心を、実際の商品理解につなぐ説明が必要だ。

日本酒にも、人と土地のつながりがある

日本では、麹菌を用いた伝統的な酒造りの知識と技術が、2024年にユネスコ無形文化遺産の代表一覧表に記載された。対象は日本酒という商品そのものの認定ではなく、受け継がれてきた知識と技術である。

ユネスコは、杜氏や蔵人による技術の伝承だけでなく、原料を供給する農家を含む地域とのつながりにも言及している。

ジョージアのワインと日本の酒造りには、共通する土台がある。どちらも、一本の瓶の背後に、人の仕事と地域の関係があることだ。

しかし、初めて日本酒を買う人にとって、精米歩合や醸造用語が並ぶだけでは、選ぶ手がかりが足りない場合がある。

「どんな料理と合わせるとよいのか」「どんな香りや口当たりなのか」「どんな時間に楽しめるのか」。技術の説明と、飲む人の暮らしをつなぐ言葉があって、専門知識は購入を助ける情報になる。

ジョージアの宴席は、飲む時間に意味を与える

ジョージアの伝統的な宴席は「スプラ」と呼ばれる。そこでは「タマダ」という乾杯を取り仕切る人が、言葉を通じて場を進める。食事やワインとともに、客人への歓迎や、人々のつながりを表す時間がつくられる。

これは本来、販売のための仕組みではない。暮らしの中で育まれた文化だ。

それを踏まえてマーケティングの視点で読むと、商品価値を考える範囲が広がる。

ワインの価値は、瓶の中の味だけでは完結しない。誰と食卓を囲み、どんな言葉を交わすか。その体験が、飲んだものの記憶と結びつく。

商品を紹介するときにも、「何が優れているか」に加えて「その商品があることで、どんな時間が生まれるか」を描ける。

たとえば贈り物なら、上質な箱の写真だけでなく、受け取った人と食卓を囲む場面を見せる。食器なら、形の美しさとともに、料理を盛り、誰かと分け合う様子を伝える。

商品の使用場面を描くことは、顧客が自分の暮らしの中に、その商品を置いてみるための助けになる。

日本の酒蔵観光は、背景を確かめる入口になる

日本政府観光局は、各地の地酒や酒蔵を、地域を訪れる楽しみとして紹介している。日本でも、商品を入口に、その背景にある場所や仕事へ触れる体験が提供されている。

酒蔵を訪れ、つくり手の話を聞き、地域の料理と合わせて味わう。そこで得られるのは、味についての知識だけではない。

「この人たちがつくっている」「この場所から生まれた」という実感である。

スプラと酒蔵観光は同じ仕組みではない。前者は宴席の文化、後者は訪問体験としての取り組みだ。それでも、マーケティング上は、商品を人や場所との関係に結びつけるという共通点を見いだせる。

ここから考えられるのは、地域ブランドに必要なのが、知名度を上げる広告だけではないということだ。知った人が味わえる場所、質問できる機会、購入できる導線まで整えてこそ、関心を次の行動につなげられる。

「伝統がある」だけでは、選ぶ理由にならない

伝統、歴史、職人技。地域の商品を紹介するときによく使われる言葉だ。

だが、長い歴史を持つ商品は数多い。歴史の長さだけを並べると、違いが見えにくくなる。

必要なのは、歴史を、今日の顧客が理解できる価値に翻訳することである。

以下は実際の広告の引用ではなく、伝え方を考えるための例だ。

伝える内容背景の説明暮らしにつなぐ説明
ワインの製法地中に埋めた土器で醸造する土器やつくり手を紹介し、そのワインの香り・口当たりに合う料理を案内する
日本酒の技術麹や温度を細かく管理する技術が生む味の特徴を、飲み方や料理との組み合わせで説明する
地域の歴史長く受け継がれている誰が何を受け継ぎ、今の暮らしの中でどう楽しめるかを示す

背景を伝えた後に、顧客の「それは自分にとって、どんな意味があるのか」に答える。ここに、文化を価値に変える編集の仕事がある。

PSELで読む、ジョージアと日本

NEOTERRAINのPSELの視点を使うと、商品と文化の関係を整理できる。以下は、紹介した事例に基づく編集上の解釈である。

視点ジョージアのワイン・宴席文化日本の酒造り・酒蔵体験マーケティングへの問い
Product/商品ワインと伝統的な醸造方法酒と麹を用いる技術初めての人にも味や使い方が伝わるか
Story/物語家族や地域で受け継ぐ営み杜氏・蔵人や農家の仕事誰が、何を、なぜ受け継いでいるか
Energy/熱量乾杯の言葉と食卓で生まれる交流つくり手との対話や味わう体験どんな時間が心に残るか
Land/土地ブドウを育て、酒造りを営む地域米、水、酒蔵を支える地域この場所と商品の関係を説明できるか

四つの視点がつながると、商品は単独のモノではなく、その土地を理解する入口として見えてくる。

一方で、物語ばかりが先行し、味や価格、購入方法がわからなければ、顧客は選べない。文化への敬意と、買い手への具体的な案内を、同じ設計の中に置く必要がある。

一瓶を売ることは、土地への入口をつくること

ジョージアと日本を比べて見えてくるのは、文化を持つことと、文化が伝わることの間にある距離だ。

地域では当たり前の器も、製法も、食卓の習慣も、外から来た人には新鮮に映る。しかし、その意味が伝わらなければ、珍しいものとして眺められるだけで終わることもある。

だから、つくる人の論理と、選ぶ人の暮らしをつなぐ。

なぜこの器なのか。なぜこの場所なのか。どんな味なのか。誰と、どう楽しめるのか。

その問いに一つずつ答えることで、土地の物語は、顧客が手に取れる価値になる。

一瓶の酒を届けることは、その土地の時間に触れる、小さな入口をつくることでもある。

参照資料

NEOTERRAIN JOURNALでは、マーケティングやクリエイティブ、社会の変化を、表面的な手法ではなく、その背景にある構造から読み解いています。

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