クリエイティブを生み出す「問い」の設計
「何か面白いアイデアはありませんか」
「若い人に刺さる動画を考えてください」
「SNSで話題になる企画にしたいです」
クリエイティブの現場では、こうした依頼から企画が始まることがあります。
しかし、いざアイデアを出そうとしても、どこかで見たような表現しか浮かばない。会議では案が広がるばかりで、何を基準に選べばよいか分からない。ようやく企画が決まっても、商品や企業の課題と結びついていない。
その原因は、参加者の発想力が不足しているからとは限りません。
そもそも、考えるための「問い」が曖昧なのかもしれません。
良いアイデアは、何もない場所から突然生まれるものではありません。顧客や商品、社会の中にある矛盾や違和感を見つけ、それを適切な問いへ変えることで生まれます。
クリエイティブを考える前に必要なのは、答えを急ぐことではなく、何を問うべきかを決めることです。
「面白いアイデアを」という依頼が難しい理由
「面白いものをつくる」という言葉は、自由に見えて、実は考える範囲が広すぎます。
誰にとって面白いのか。何を知ってもらうための面白さなのか。見た後に、どのような変化を起こしたいのか。これらが決まっていなければ、企画者は無限の選択肢から答えを探さなければなりません。
すると、発想は流行している映像表現や、過去に成功した広告、競合他社の事例へ引き寄せられます。
「最近はショート動画が伸びている」
「有名人を起用すれば目立つ」
「感動的なストーリーにしよう」
これらは表現の選択肢であって、企画の出発点ではありません。
手段から考え始めると、完成したものは整っていても、「なぜ、この表現でなければならないのか」が説明できなくなります。
マーケティングは、答えではなく「問うべきこと」を見つける
マーケティングというと、分析によって正解を導き出す仕事だと考えられがちです。
しかし、データや調査結果が、そのまま企画を教えてくれるわけではありません。
売上が落ちている。若年層の認知が低い。Webサイトからの問い合わせが少ない。こうした数字は、起きている現象を示しますが、その背景にある人間の気持ちまでは説明してくれません。
なぜ知っているのに選ばれないのか。
なぜ必要性を感じているのに行動しないのか。
なぜ商品の機能を説明しても価値が伝わらないのか。
数字の奥にある矛盾を問いに変えることで、初めてクリエイティブが向き合うべき課題が見えてきます。
マーケティングの役割は、表現を決めることではありません。市場と顧客を観察し、「私たちは本当は何を解くべきなのか」を明らかにすることです。
課題を、そのまま企画の問いにしない
企業が抱えている課題と、顧客が感じている問題は同じとは限りません。
企業側の課題が「新商品の売上を伸ばしたい」だったとしても、顧客は企業の売上について考えていません。
顧客が考えているのは、自分の生活や仕事についてです。
「自分に本当に必要なのか」
「いま使っているもので十分ではないか」
「失敗したくない」
「違いがよく分からない」
したがって、「どうすれば新商品が売れるか」という企業側の問いを、そのまま企画の出発点にしても、顧客の心には近づけません。
たとえば、次のように問いを変換します。
「どうすれば、この商品を若者に売れるか」ではなく、
「若い人は、どんな瞬間にこの問題を自分のこととして感じるのか」
「商品の機能をどう伝えるか」ではなく、
「顧客は、どんな不安が解消されれば試してみようと思えるのか」
「企業の技術力をどう見せるか」ではなく、
「その技術によって、顧客の日常はどう変わるのか」
企業の目的を、顧客の視点から答えられる問いへ翻訳する。ここに、マーケティングとクリエイティブをつなぐ重要な仕事があります。
良い問いが持つ5つの条件
問いは、抽象的であればよいわけではありません。発想を広げながら、目的から外れない問いをつくる必要があります。
1.顧客が主語になっている
「私たちは何を伝えたいか」だけでなく、「顧客は何を感じ、何に迷っているか」から考えます。
企業を主語にすると、商品説明へ向かいやすくなります。顧客を主語にすると、体験や感情の変化へ発想を広げられます。
2.答えが一つに決まっていない
「動画をつくるべきか」という問いでは、答えは実施するか、しないかに限られます。
一方、「商品の価値を、自分の生活と結びつけて感じてもらうにはどうすればよいか」という問いなら、映像、記事、体験、イベント、接客など、複数の可能性を考えられます。
良い問いは、手段を固定せず、発想の余地を残します。
3.具体的な変化を含んでいる
「ブランドを好きになってもらう」だけでは、何が起きれば成功なのか曖昧です。
知らない状態から興味を持つ。不安な状態から納得する。自分には関係ないと思っている状態から、自分の課題として捉える。
顧客の現在地と、目指す状態を問いに含めることで、企画の方向が明確になります。
4.矛盾や障壁に向き合っている
人が動かないところには、何らかの理由があります。
便利なのに使われない。必要なのに先送りされる。知られているのに選ばれない。評価されているのに購入されない。
こうした矛盾には、顧客自身もうまく言葉にできていない心理が隠れています。その障壁を捉えた問いは、表面的な商品訴求ではない企画を生みます。
5.その企業だから答える意味がある
どの会社にも当てはまる問いからは、どこかで見たような企画が生まれやすくなります。
企業の歴史、技術、現場、顧客との関係、土地とのつながり。その企業が持つ固有の資産と問いが結びついたとき、模倣されにくいクリエイティブになります。
問いは、発想を狭めるのではなく深くする
条件を定めると、自由な発想ができなくなると感じる人もいるかもしれません。
しかし、何でも自由につくってよいと言われるより、向き合うべき問いが明確なほうが、アイデアは深くなります。
たとえば、「自由に映像を考えてください」という依頼では、表面的なスタイルの違いしか出ないことがあります。
一方で、「高品質だと理解されているのに、高価格への納得が生まれないのはなぜか」という問いがあれば、素材、製造工程、開発者の思想、利用者の実感、商品が生まれた土地など、価値を支える背景へ視点を広げられます。
良い問いは、選択肢を減らす枠ではありません。
関係のない方向へ発想が散らばることを防ぎ、掘るべき場所を示すものです。
最初の答えを、すぐに企画にしない
問いを立てると、私たちは早く答えを出したくなります。
しかし、最初に浮かぶ答えは、多くの場合、誰もが思いつく答えです。
若者に届けたいからSNSを使う。信頼を伝えたいから専門家を出す。感動させたいから家族の物語を描く。
これらが間違いとは限りませんが、問いを一段深く掘る必要があります。
なぜ若い人に届いていないのか。専門家の説明があっても信頼されないとすれば、何が不足しているのか。家族の物語が、その商品である必然性はどこにあるのか。
答えに対して、もう一度「なぜ」と問う。
この往復によって、一般的な施策が、その企業固有の企画へ変わっていきます。
良い企画は、驚く答えよりも、鋭い問いから始まる
クリエイティブの価値は、誰も見たことのない奇抜な表現だけにあるわけではありません。
誰もが見過ごしていた顧客の気持ちに気づくこと。企業が当たり前だと思っていた価値を、別の角度から捉え直すこと。言葉になっていなかった矛盾を、見える形にすること。
その出発点にあるのが、問いです。
アイデアが出ないとき、発想法を増やす前に確認したいことがあります。
私たちは、誰のどのような変化をつくろうとしているのか。
顧客が動かない本当の理由は何か。
そして、この企業だからこそ答えるべき問いになっているか。
問いが変われば、見える情報が変わります。見える情報が変われば、表現の可能性も変わります。
良いクリエイティブは、答えを競うところからではなく、問うべきことを見つけるところから始まります。
あなたの企画は、どのような問いから始まっていますか
表現のアイデアを出す前に、市場や顧客を観察し、企業が本当に向き合うべき課題を問いへ変える。それだけで、企画の方向と判断基準は大きく変わります。
NEOTERRAINでは、映像や記事をつくる前に、企業、商品、顧客、現場にある情報を整理し、そのプロジェクトが答えるべき問いを設計します。
手段を先に決めるのではなく、顧客の認識や感情をどう変えたいのかから考える。そこから、その企業にしかつくれないストーリーと表現を導き出します。
企画が広がらないとき、見直すべきなのはアイデアの数ではなく、出発点となる問いかもしれません。

