白い砂浜と穏やかな海。その風景を求めて、人々はカリブ海のアンティグア・バーブーダを訪れる。
けれども、浜辺の美しさをつくり、守っているものは、浜辺だけにあるのではない。沖合のサンゴ礁、浅瀬の海草藻場、陸と海の境界に根を張るマングローブ。波が岸へ届くまでに、海の中にはいくつもの生態系が重なっている。
この国の気候変動に関する報告書は、サンゴ礁が砂浜の形成と保護に関わり、マングローブが土砂をとらえて侵食を抑える役割を持つと説明する。一方で、サンゴ礁の機能低下やマングローブ、海草藻場の減少も報告している。海岸の風景を支える自然が、圧力を受けている。V3
波が岸に届くまで
サンゴ礁は、海岸の沖側に広がる生きものの構造物だ。波のエネルギーを弱めるとともに、砂浜を形づくる過程にも関わる。海草藻場は浅い海底の砂を安定させ、魚介類が育つ場所になる。そしてマングローブの根は、海と陸が接する場所で土砂を受け止める。V3
それぞれの働きは異なる。だから、一つを残せば海岸全体が守られるわけではない。沖のサンゴ礁から浅瀬、湿地、砂浜までをつながった環境として見ることが大切になる。
もちろん、健全なサンゴ礁やマングローブがあっても、強いハリケーンの被害を完全に防げるわけではない。2017年のハリケーン・イルマでは、バーブーダ島の建物やインフラが甚大な被害を受け、住民はアンティグア島へ避難した。沿岸の自然を守ることは、防災をそれだけに任せるという意味ではない。避難、建築、排水などと重ねて、リスクを減らすための一つの備えだ。V3
バーブーダ島のラグーンが支えるもの
バーブーダ島のコドリントン・ラグーンには、マングローブ、海草藻場、干潟、砂浜、サンゴ礁が連なる。国際的に重要な湿地として登録されており、魚やロブスターが育つ環境であるとともに、海鳥の営巣地を訪ねる観光にも関わっている。Service d’information sur les Sites Ramsar
マングローブは、海岸に並ぶ木々というだけではない。根元は生きものの隠れ場所になり、周辺の海草藻場やサンゴ礁とも関係を持つ。アンティグア・バーブーダの報告書によれば、国内にはアンティグア島に36カ所、バーブーダ島に9カ所のマングローブ湿地があり、土砂の捕捉や海岸侵食の抑制、生きものの繁殖・成育に役立っている。V3
そのラグーンも、大きな嵐の影響から切り離されてはいない。国の環境報告書は、コドリントン・ラグーンのマングローブ湿地がハリケーン・イルマで大きな被害を受け、報告時点では十分に回復していなかったと記している。自然は海岸を支える一方、自らも被害を受け、回復に時間を要する。environment.gov.ag
美しい海を使うこと、守ること
アンティグア・バーブーダにとって海岸は、暮らしの場であり、観光を支える場所でもある。砂浜に近い土地ほど開発の価値は高く見える。しかし、海岸の形を変えたり、陸から汚れや土砂が流れ込んだりすれば、その場所を魅力的にしている生態系にも負担がかかる。
国の気候変動報告書は、サンゴ礁などの機能低下に関わる要因として、繰り返すハリケーンのほか、未処理の排水、侵食による土砂の流入、船舶や浚渫による損傷を挙げている。海の変化には、気候による広域の影響と、地域で管理できる負荷の両方がある。V3
海水温の上昇は、サンゴの白化を引き起こす世界的な脅威だ。その対策には温室効果ガスの削減が欠かせない。一方、排水や開発に伴う土砂の流出を抑え、船の利用や工事の影響を管理することは、地域で進められる。傷んだサンゴを移植する取り組みもあるが、海を傷める原因を残したままでは、再生を支えにくい。UNEP – UN Environment Programme
観光と保全は、別々の仕事ではない。国連環境計画は、カリブ海の観光を支える健全なサンゴ礁を守るため、観光事業者が保全や再生に関わる方法を示している。海の魅力を利用する側にも、その状態を見続け、負荷を減らす役割がある。UNEP – UN Environment Programme
自然の働きを、まちの計画に入れる
沿岸を守るには、自然の回復だけでなく、人が造る設備も必要だ。重要なのは、どちらか一方を選ぶことではなく、地形と生態系を理解して組み合わせることにある。
アンティグア島北西部のマッキノン流域では、湿地の回復とともに、排水路や雨水をためる施設を整える適応事業が進められている。ここでは海岸の沖側だけでなく、雨水が陸から海へ向かう道筋も防災の対象になっている。国の環境当局は、南部の防波堤計画についても、海洋生息地や水質、海岸の変化を評価する環境影響評価を公表している。Adaptation Fund
サンゴ礁やマングローブを「天然の防波堤」と呼ぶことはできる。ただ、その言葉だけでは、生きものが育つ場所であり、漁業や観光を支え、嵐の後には自らも回復を必要とする姿が見えにくくなる。
アンティグア・バーブーダの海岸を守るとは、砂浜だけを残すことではない。沖から陸まで続く自然のつながりを見て、そこに暮らす人々の備えと重ねていくことだ。波が岸へ届く前に、海の中で何が起きているか。その問いから、海岸の未来を考えたい。

