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台湾と日本のマーケティング比較|夜市と一杯のお茶から考える、価値の届け方

Illustration of a Taiwanese night market and a Japanese storefront, with iced tea and green tea in the foreground. Japanese text reads, “A cup of tea holds a philosophy of commerce.”
台湾と日本のマーケティング比較|一杯のお茶に、商いの思想がある

夕暮れになると、街の表情が変わる。

台湾の夜市には、湯気の立つ料理、調理する手元、店先に集まる人々がある。商品を知ることと、その場所を楽しむことが、ひとつの体験になっている。

一方、日本のコンビニでは、整理された棚や商品情報、一定の手順で提供されるサービスが、短い時間の買い物を支えている。

どちらも、暮らしのすぐそばにある商いだ。しかし、価値が伝わる順序に注目すると、マーケティングの異なる工夫が見えてくる。

本稿では、台湾の夜市・茶飲料と、日本のコンビニなどの事例を通じて、顧客との接点を考える。台湾にも緻密な品質管理があり、日本にも対話や活気を生かす商いがある。ここで比べるのは、それぞれの事例に見える「価値の届け方」である。

Contents

1.夜市では、商品が街の体験になる

台湾の交通部観光署は、夜市を観光のカテゴリーとして紹介している。各地の夜市には、その土地の料理や名物があり、食べ物を選ぶことが地域を知る入口になっている。

マーケティングの視点から見ると、夜市の強みは、複数の接点が同じ場所に重なっていることにある。

料理の香りで気づく。調理する様子で興味を持つ。店先の人の動きを見て立ち止まる。そして、一品を買って確かめる。

認知、関心、購入、体験が、歩く距離のなかでつながっている。

ただし、行列や活気は、品質や衛生の保証ではない。それでも「ほかの人が注目している」という情報は、初めての店を選ぶ際の手がかりになる。

ここから読み取れるのは、広告だけで価値を伝える必要はないということだ。

作る過程、売る人の振る舞い、周囲の風景。それらも、顧客が判断する材料になる。

日本の飲食店や商店街でも、この工夫は生かせる。商品の説明を増やすことに加えて、仕込みの手元や素材を選ぶ理由を見せれば、顧客は完成品の奥にある仕事まで感じられる。

2.一杯のお茶に、顧客が参加する

台湾の茶飲料を考えるうえで、甘さや温度などを選ぶ注文体験は興味深い。

たとえば台湾の茶飲料チェーン「清心福全」は、公式の商品ページで、糖度や冷温の条件に応じた栄養情報を掲載している。商品によって甘さの上限も示されており、選べる範囲は無制限ではない。

ここには、マーケティングの大切な設計がある。

品質を保つための共通部分と、顧客に委ねる部分を分けること。

茶の品質や衛生管理は、店が担う。そのうえで顧客が好みを反映できれば、同じ商品でも「自分に合った一杯」になる。

このとき、商品価値は材料の組み合わせだけでは決まらない。好みを伝え、それが反映されたという手応えも価値になる。

ただし、選択肢を増やせば体験がよくなるとは限らない。初めての客には、甘さや茶の種類を一度に選ぶことが負担になる場合もある。

だからこそ、標準のおすすめを示し、変えたい部分だけ選べる仕組みが役立つ。

顧客参加を設計するとは、選択の責任をすべて顧客に渡すことではない。店の専門性を土台に、好みを受け止める余白をつくることである。

3.日本の「安心して選べる」仕組みも、参加へ向かう

日本のセブンカフェは、豆や焙煎などの品質への取り組みを公式に紹介している。また、対応するタッチパネル式マシンでは、コーヒーの味わいを「軽め・ふつう・濃いめ」から選べる。

一定の品質を提供する仕組みのなかに、顧客の好みを取り入れているわけだ。

この事例を見ると、「日本は標準化、台湾は自由」といった区分では説明できないことが分かる。

両方の市場にあるのは、安定した品質と、個人の好みをどう組み合わせるかという課題である。

台湾の茶飲料の注文と、日本のコンビニコーヒー。商品も提供方法も違うが、顧客にとっての問いは近い。

「安心して買えるか」
「今日の自分に合っているか」

マーケティングには、その両方に応える設計が必要になる。

4.春水堂に見る、伝統の使い方を変える戦略

台湾の春水堂は、公式の沿革で、1983年に台中で創業したこと、伝統的な熱いお茶を冷たい甘い茶へと展開し、シェーカーを使った茶飲料を提供したことを説明している。

この事例は、伝統産業のマーケティングを考えるうえで示唆に富む。

お茶の歴史を説明するだけでも、その価値は伝えられる。しかし、歴史に関心のない人が、日常的に飲む理由まで生まれるとは限らない。

冷たい一杯として楽しめる。人と集まる場所で飲める。新しい食感や組み合わせに出会える。

春水堂の展開をマーケティングとして読むなら、伝統を現代の生活に接続する、飲み方と場の再設計と捉えられる。

日本茶、日本酒、工芸にも通じる視点だ。

産地や技術の深さを伝えることに加えて、「いつ、誰と、どんな気分で使えるか」を示す。そうすれば、文化を詳しく知らない人にも入口ができる。

伝統を未来へ運ぶには、受け継ぐ技術と、新しく開く接点の両方が必要になる。

5.街の接点を、次の来店につなげる

台湾の商いを、夜市の対面体験だけで捉えることもできない。

台湾の7-ELEVENでは、OPENPOINTアプリの会員バーコードを提示するなどして、対象の集点活動のポイントを会員アカウントに蓄積できる仕組みを提供している。

店頭の買い物と、デジタル上の会員関係がつながっている。

ポイントそのものは、日本にも広くある仕組みだ。比較から考えたいのは、目新しさよりも、一度の購入が次の接点へどう続くかである。

初回購入の理由と、再来店の理由は同じとは限らない。

最初は新商品が気になった。次は使いやすかったから立ち寄った。その次は、いつもの商品を受け取りに来た。

値引きだけに頼らず、思い出しやすさ、手間の少なさ、好みに合う提案を組み合わせることで、来店する理由を育てられる。

ただし、会員制度があるだけで関係が深まるわけではない。登録や通知が負担になれば、接点は遠ざかる。仕組みの中心に置くべきなのは、顧客にとっての使いやすさである。

6.PSELで読む、台湾と日本の商い

NEOTERRAINのPSELで整理すると、商品だけを比較していては見えない関係が浮かび上がる。

視点台湾の事例から考えること日本の事例とつなげて考えること
Product:商品茶飲料の好みを反映する余地安定した品質と選択を両立する
Story:物語茶文化を現代の飲み方に接続する歴史や技術を、使う場面へ翻訳する
Energy:熱量調理や対話が興味を生む作り手の仕事が伝わる接点をつくる
Land:土地夜市の名物を通じて地域を知る産地や商店街を体験の一部にする

この表は、両国全体の特徴を分類したものではない。具体的な事例から、商いを設計するための視点を取り出したものである。

とりわけ大切なのは、Landを単なる所在地として扱わないことだ。

その街の時間の流れ、人が集まる場所、食べる習慣。商品が選ばれる場面には、土地の暮らしが入り込んでいる。

海外へ展開するときも、国内の別地域へ届けるときも、広告の言葉を変えるだけでは足りない。買われる時間、注文の手順、受け取り方まで考える必要がある。

7.顧客は、価値を感じる順序まで含めて買っている

台湾と日本の事例を重ねると、二つの問いが浮かぶ。

ひとつは、「買う前に、どれだけ安心できるか」。

もうひとつは、「買う過程で、どれだけ自分との接点を感じられるか」。

品質の説明は、安心を支える。
調理する手元は、興味を生む。
好みを選ぶ注文は、自分に合う感覚をつくる。
会員サービスは、次に買う手間を減らす。

それぞれが、価値の違う部分を担っている。

広告では魅力を語っているのに、店頭では選びづらい。丁寧に作っているのに、その仕事が見えない。初回は買われるのに、再び訪れる理由がない。

そんなとき必要なのは、新しいキャッチコピーだけではない。顧客が気づき、選び、体験し、また戻るまでの接点をつなぎ直すことだ。

台湾の夜市にも、日本のコンビニにも、そのための知恵がある。

一杯のお茶が、人の好みに近づく。
店先の湯気が、街の記憶になる。
いつもの一杯が、忙しい朝を支える。

マーケティングは、商品と暮らしの間に、繰り返し通える道をつくる仕事なのだ。


参考資料(企業・公的機関の公式情報)

※企業の施策・沿革は公式情報に基づく。価値の届け方や顧客体験についての解釈は、NEOTERRAINの編集・分析による。

NEOTERRAIN JOURNALでは、マーケティングやクリエイティブ、社会の変化を、表面的な手法ではなく、その背景にある構造から読み解いています。

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