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山の雪が減ると、人はどこから水を得るのか——アフガニスタンの農地とカブールの地下水

Ink-wash illustration of snow-covered mountains in Afghanistan and a river winding through a dry valley. Japanese text reads, “From mountain snow to a cup of water in everyday life.”
アフガニスタンの水問題|山の雪から暮らしの一杯まで

世界の環境地誌|第4回 アフガニスタン

冬、アフガニスタンの山に雪が積もる。

春になると雪は解け、谷へ流れ、川となる。その水が用水路に入り、小麦畑や果樹園へ届く。山から遠く離れた土地でも、人は季節を少し遅れて流れてくる水を待っている。

同じ国の首都カブールでは、暮らしを支える水の多くが地面の下にある。井戸を掘り、地下水を汲み上げる。蛇口から水が出るまでにも、見えない水の経路が続いている。

山の雪、農地の用水路、都市の井戸。一見別々の風景は、水を介してつながっている。

ただ、アフガニスタンの水の問題を「雨や雪が足りない国」とだけ表現することはできない。季節によって水の量は変わり、地域によっても状況は異なる。水があっても、届ける施設が壊れていれば畑には届かない。地下に水があっても、汲み上げる速さが補給を上回れば、井戸は深くなっていく。

この国で問われているのは、水がどこにあるかだけでなく、いつ届き、誰が使えるかということだ。

Contents

山の雪は、春を越えて届く水

アフガニスタンを含むヒンドゥークシュ・ヒマラヤ地域では、冬の積雪が春から夏の河川流量に関わる。雪は寒い季節に水を蓄え、気温が上がるにつれて少しずつ放出する。その時間差が、雨の少ない時期の農業を支えてきた。ICIMOD

ここで大切なのは、雪が「降ったかどうか」だけではない。

どれくらい積もり、いつまで地表に残り、どの速さで解けたか。早い時期に一度に解ければ、農作物が水を必要とする時期に、十分な流れが残らない可能性がある。

地域の雪を観測する国際山岳総合開発センター(ICIMOD)は、2026年のヒンドゥークシュ・ヒマラヤ全域で、積雪が地表に残る期間を示す指標が長期平均を27.8%下回り、四年連続で平年より低かったと報告した。ただし、これは広大な山岳地域全体の指標であり、アフガニスタンのすべての流域で、同じ割合だけ雪や水が減ったという意味ではない。ICIMOD

山の雪を測ることは、遠くの農地の季節を読むことでもある。

干ばつの年と、実りの年を一つにしない

アフガニスタンでは、干ばつが繰り返し暮らしを脅かしてきた。だが、毎年、国土のすべてが同じように乾いているわけではない。

国連食糧農業機関(FAO)の2026年の国別報告によれば、2025年末は乾燥した一方、2026年第1四半期には平年を上回る降水があり、春の雪解けによる土壌水分や灌漑用水が、多くの小麦産地の作柄を支えた。fao.org

この事実は重要だ。

「気候変動で農業ができなくなった」と一方向に語れば、雨が届いた年の回復も、農家が水を管理してきた努力も見えなくなる。一方、一年の収穫が改善したからといって、水の問題が解消したわけでもない。

冬の雪が少ない年。春の雨が多い年。川の水が十分でも用水路が壊れた村。雨が降っても、必要な時期と場所がずれた農地。

水の不足は、年間降水量という一つの数字では測れない。農家にとっては、種をまく日、苗が育つ時期、実りを迎える前に、水が届くかどうかが切実なのだ。

用水路は、土地に刻まれた社会の仕組み

山から流れてきた水は、自然に畑の隅々まで行き渡るわけではない。川から水を取り入れる施設があり、用水路があり、流れを調整する人がいる。

東部ラグマーン州のナフル・エ・カリム用水路は、100年以上にわたり周辺の農地へ水を運んできた。FAOによれば、気候の極端な変化や紛争などで施設が傷み、水の分配が難しくなっていたが、2025年までに用水路の一部が修復された。fao.org

別の地域、ロガール州の村々では、川から用水路へ水を取り入れる施設が長く不安定だった。FAOが紹介する修復事業では、取水施設を造り直すことで、農家が水の流れをより確実に調整できるようになった。fao.org

用水路は、地図では細い線に見える。

しかし、その線が途切れると、川に水があっても畑には届かない。小麦だけでなく、家畜の餌となる作物や果樹にも影響する。水のインフラを直すことは、コンクリートの構造物を造ることにとどまらない。次の季節にも土地で働けるという見通しを、村に戻すことでもある。

そして、水を「届ける」仕組みを考えると、都市では別の問題が見えてくる。

カブールの井戸は、どこまで深くなるのか

首都カブールには、人と暮らしが集まる。家庭、商店、学校、医療施設。それぞれが水を必要とする。

世界銀行は、カブールを含むアフガニスタンの都市部で、地下水の大規模な汲み上げにより水位が低下してきたと指摘している。過去の水・衛生事業の資料でも、カブールの地下水への過度な依存を和らげるため、河川などの地表水を利用する計画が検討されていた。thedocs.worldbank.org

地下水は、地中に隠された無限の貯水槽ではない。雨や川の水が地面へ浸み込み、時間をかけて補われる。汲み上げる量と補われる量の釣り合いが崩れれば、水位は下がる。

水位が下がると、浅い井戸では届かなくなる場合がある。より深く掘り、汲み上げるための設備を整えるには費用がかかる。同じ街でも、その費用を負担できる家庭とできない家庭で、水への距離が変わってしまう。

地下水の問題は、量だけでもない。下水道や適切な排水処理が不足する場所では、水質への懸念も重なる。世界銀行は以前から、カブールの地下水の枯渇と汚染の可能性を合わせて指摘してきた。documents1.worldbank.org

「井戸を掘れば水が出る」という考え方は、街全体の井戸が同じ地下の水を使っているとき、成り立ちにくくなる。

水が届かない理由は、自然だけではない

アフガニスタンの水不足を、すべて気候変動のせいにすることはできない。

長引く紛争や経済的な困難は、水道や灌漑施設の整備・修復を難しくしてきた。施設があっても、維持する資金や人手が要る。井戸の水質を測り続け、地域で水を分ける仕組みも必要だ。

南部の水問題について、国連開発計画(UNDP)は、長引く干ばつに加え、減りゆく地下水への過度な依存や、不十分なインフラが水不足を深めていると報告している。水質の悪化や水を得る費用の上昇は、健康と家計にも影響する。United Nations Development Programme

国連児童基金(UNICEF)が紹介するカブール州の地域では、地下水が減っていくなか、水を得ること自体が難しくなり、汚染された水を安全に使うための浄水設備が導入された。UNICEF Afghanistan

水をめぐる問題には、いくつもの距離がある。

山から村までの距離。川から畑までの距離。井戸の地表から水面までの距離。そして、安全な水を手に入れられる人と、そうでない人の距離だ。

どれか一つを縮めるだけでは、水の不安は消えない。

「もっと掘る」の先にある選択

水が足りないとき、井戸を深くすることは目の前の対策になる。壊れた用水路を直すことも欠かせない。

だが、長く水を使うには、別の問いを重ねる必要がある。

雪と雨を継続して観測し、農業に水が必要な季節を予測できるか。川の水を効率よく分けられるか。地下水がどれだけ補われ、どれだけ汲み上げられているかを把握できるか。安全な飲み水と農業用水を、それぞれどう確保するか。

ICIMODは積雪不足への対応として、季節ごとの貯水、雪解け水の効率的な利用、干ばつへの備え、観測情報を水管理に生かすことを挙げている。こうした提案を地域で使える形にするには、設備だけでなく、それを運営する人と継続的な支援が要る。ICIMOD

山に雪が積もることを、人が決めることはできない。

しかし、届いた水をどう蓄え、どう分け、地下の水をどこまで使うかは、人の選択に委ねられている。

一杯の水の、見えない地図

アフガニスタンを遠くから見れば、険しい山と乾いた大地が目に入る。

けれど、水の経路をたどると、そこには細かな関係が見えてくる。冬の雪が春の川となり、用水路から農地へ届く。街では地中に浸み込んだ水を汲み上げ、人が暮らす。その途中のどこかで流れが細くなれば、畑の収穫や、家庭の一杯の水に影響が及ぶ。

アフガニスタンの環境問題は、「水のない国」という言葉では捉えきれない。

ある年には雪が少なく、別の季節には雨が作物を助ける。川に水があっても、施設が壊れていれば届かない。地下水を汲めても、その先の補給や水質を考えなければならない。

山の雪が減ると、人はどこから水を得るのか。

その答えは、新しい井戸を一つ掘ることだけにない。山から農地、都市の地下まで続く水の経路を、誰もが暮らしを続けられる形で守り直すことにある。

主な参照資料

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