川を上空から見ると、不思議なことに気づきます。
山から平野へ出た川は、一本の線のように海へ向かうのではなく、右へ左へと大きく曲がりながら流れています。
けれど町の中へ入ると、川は急にまっすぐになります。両岸をコンクリートや堤防で囲まれ、人間が引いた線のように流れていきます。
NOLUは観測ノートに、ひとつの問いを書きました。
地球人は、なぜ川をまっすぐにしたの?
川は、迷っているわけではない
流れの穏やかな平野では、川は少しずつ岸を削り、削った土砂を別の場所へ運びます。
曲がった川の外側では流れが速くなり、岸が削られます。内側では流れが遅くなり、砂や土がたまります。
この繰り返しによって、川の曲がり方は少しずつ変化します。長い時間で見ると、川は土地の上を動いているのです。
蛇行は、川が目的地を見失った結果ではありません。
水、土砂、地形が互いに影響しながらつくる、川本来の動きです。
人間にとって、曲がった川は扱いにくかった
人間が川の近くに町や農地をつくるようになると、自由に動く川は大きな問題になりました。
大雨が降れば水があふれる。川岸が削られれば、農地や家が失われる。川が大きく曲がっていれば、水が流れる距離も長くなります。
そこで人間は、川の流れを管理しようとしました。
曲がった区間をショートカットする「捷水路」をつくり、川幅を広げ、堤防や護岸で流路を固定する。川をまっすぐにすることで、大量の水を短時間で下流へ流そうとしたのです。
国土交通省が紹介する熊本県の加勢川でも、蛇行し狭かった河道の洪水対策として、捷水路の建設や堤防・護岸の整備が進められています。国土交通省・加勢川改修事業
川の直線化は、人間が安全に暮らせる土地を確保するための選択でした。
まっすぐにすると、土地も使いやすくなる
川を固定する目的は、洪水対策だけではありません。
蛇行していた川を整理すれば、その周囲に農地、住宅、工場、道路、鉄道を配置しやすくなります。
川がどこを流れるか予測できれば、橋も架けやすくなります。都市にとって川は、自然の一部であると同時に、土地利用を左右する大きな条件でもありました。
つまり人間は、川をまっすぐにすることで、水の流れだけでなく、その周囲にある町の未来まで設計しようとしたのです。
しかし、水は線の中だけを流れているわけではない
川を直線化すると、その区間では水を速く流せる場合があります。
けれど、流された水は消えるわけではありません。短時間に下流へ届く水の量が増えれば、下流側の負担が大きくなる可能性もあります。
さらに、川底や水際の形が単調になると、流れの速い場所、遅い場所、浅瀬、深み、湿地など、多様な環境が失われやすくなります。
魚が休む場所、水生昆虫が育つ場所、鳥が餌を探す場所。川の曲がりや凹凸は、多くの生き物にとって重要な生活空間でした。
人間にとって分かりやすい一本の水路が、生き物にとって暮らしやすい川とは限らないのです。
川を昔の姿に戻せばよいのか
だからといって、すべての堤防をなくし、川を昔の姿へ戻せばよいわけではありません。
現在の川沿いには、多くの住宅や産業、交通網があります。人間の安全を守りながら、川本来の働きをどこまで取り戻せるかを考える必要があります。
日本では、河川全体の自然の営みと、地域の暮らし、歴史、文化との調和を考える「多自然川づくり」が進められています。1990年にモデル事業として始まり、2006年からは、すべての川づくりの基本として位置づけられました。国土交通省・多自然川づくり
近年は、河川改修や維持管理の機会を利用し、生物の生息・生育・繁殖環境をできる限り改善する考え方も示されています。国土交通省・河川環境の評価と改善
まっすぐにした川を、単純に曲げ直すのではありません。
水があふれられる場所を確保する。水際に植物が育つ余地を残す。流れに速い場所と遅い場所をつくる。川と町の間に、少しだけ自由な空間を取り戻す。
いま人間は、川を完全に支配するのではなく、川の性質を理解しながら共に暮らす方法を探し始めています。
NOLUの観測メモ
川をまっすぐにしたことは、間違いだったのでしょうか。
NOLUには、そう単純には判断できませんでした。
川をまっすぐにしたから守られた命や暮らしがあります。一方で、その過程で失われた生き物の居場所や、別の土地へ移された負担もあります。
大切なのは、人間が自然に手を加えたことではなく、その選択によって何が守られ、何が見えなくなったのかを観測し続けることなのかもしれません。
NOLUは、曲がりくねった川を見下ろしながら、ノートにこう残しました。
川は、曲がっていたのではない。
生きていた。

