都市は、山から運ばれた無数の粒でできている。
住宅、オフィスビル、学校、橋、道路、地下構造物。その姿は鉄やガラスで覆われていても、都市の重量を支えているのは大量のコンクリートだ。
コンクリートには、セメントと水だけでなく、細骨材となる砂、粗骨材となる砂利や砕石が欠かせない。
新しい都市をつくるたびに、どこかの山が削られ、川底や海底から砂が採取される。一方、都市の内部では、古くなった建物が解体され、大量のコンクリート塊が発生している。
外から新しい資源を運び込み、内側から古い資材を運び出す。
この一方通行を止めることはできないのだろうか。
世界は、年間500億トンの砂と砂利を使っている
砂は、ありふれた資源に見える。
海岸にも、川にも、砂漠にも存在する。しかし、コンクリートに適した粒の大きさや形状、品質を備えた砂は、どこにでもあるわけではない。
国連環境計画(UNEP)によれば、世界で使われる砂と砂利は年間約500億トンに達する。水に次いで大量に利用される天然資源であり、建築分野だけでも、その需要は2060年までに最大45%増える可能性があるという。UNEP「Sand: Wanted dead and alive」
砂の採取は、単に地面を掘る行為ではない。
河床が低下すれば、水の流れや地下水位が変わる。沿岸や海底から砂を取り除けば、海岸侵食や生態系の損失につながる。濁りの発生によって、水生生物の生息環境が損なわれることもある。
砂は、使えばすぐに戻る資源ではない。
河川が岩石を削り、細かな粒を下流へ運び、海岸に堆積させるまでには長い時間がかかる。私たちは、自然がつくる速度を超えて砂を消費している。
都市には、すでに大量の骨材が眠っている
その一方で、都市には膨大な量のコンクリートが蓄積されている。
建物や橋、道路の中に固定された砂や砂利は、見方を変えれば、将来利用できる「都市の鉱山」である。
建物を解体すると、コンクリートは大きな塊として搬出される。これを破砕し、鉄筋や異物を除去し、粒の大きさを整えることで「再生骨材」として利用できる。
つまり、新しい山を削る代わりに、古い都市を資源として掘り直すのである。
日本では、一定規模以上の建設工事に対して、コンクリートや木材などの分別解体と再資源化を求める建設リサイクル法が施行されている。環境省「建設リサイクル法の概要」
2018年度には、建設廃棄物全体の再資源化・縮減率は97%を超えた。数字だけを見れば、日本の建設リサイクルはすでに高い水準にある。国土交通省「建設リサイクル推進計画2020」
しかし、ここには一つの落とし穴がある。
「リサイクル率97%」でも、循環しているとは限らない
コンクリート塊を砕き、道路の路盤材や埋め戻し材として利用することも、制度上はリサイクルに含まれる。
もちろん、廃棄物を埋め立てず、別の用途で使うことには意味がある。
ただし、建物だったコンクリートが、再び建物のコンクリートに戻らず、より低い品質要求の用途へ移るだけなら、資源の循環はそこで途切れる。
道路や造成工事の需要が減れば、再生砕石の行き先も失われる。使い道のない再生材が増えれば、いくら高いリサイクル率を掲げても、循環の仕組みは持続しない。
国土交通省が「量を増やすリサイクル」から「質を高めるリサイクル」への転換を掲げているのも、そのためである。
重要なのは、どれだけ処理したかではない。
解体された建材が、次にどのような価値を持つ資材として使われたかである。
再生骨材には、品質の違いがある
再生骨材は、処理の程度や品質によって大きく区分される。
| 区分 | 特徴 | 主な考え方 |
|---|---|---|
| 再生骨材H | 古いモルタルなどを高度に除去した高品質骨材 | 構造体への利用を検討しやすい |
| 再生骨材M | 一定量のモルタル分を含む中品質骨材 | 品質や用途を管理して利用する |
| 再生骨材L | モルタル分を比較的多く含む骨材 | 非構造部材など用途を限定して利用する |
解体コンクリートには、以前使用されたセメントペーストやモルタルが付着している。そのため、天然骨材より水を吸収しやすく、強度や乾燥収縮、耐久性にばらつきが生じやすい。
高品質な再生骨材をつくるには、破砕、選別、摩砕、洗浄などの工程が必要になる。
処理を重ねれば品質は上がるが、エネルギーと費用も増える。さらに、骨材を取り出す過程では細かなコンクリート粉が発生し、その利用先まで確保しなければ、本当の意味での循環にはならない。
再生骨材は、廃材を砕けば完成する単純な資材ではない。
解体から製造、品質管理、設計、施工までを一つの流れとして組み直す必要がある。
技術があっても、使われない理由
再生骨材の普及を阻んでいるのは、技術だけではない。
第一に、品質への不安がある。
建物の築年数や使用された材料、塩分、化学物質、劣化状態が分からなければ、解体後のコンクリートを新しい構造物に使う判断は難しい。
第二に、価格の問題がある。
地域によっては、天然の砂や砕石を購入する方が、高度処理された再生骨材より安い。環境負荷が価格に十分反映されていなければ、発注者は従来の材料を選びやすい。
第三に、距離の問題がある。
コンクリートは重い。解体現場、再生施設、生コンクリート工場、新しい建設現場が離れていれば、輸送費とCO₂排出量が増え、再生する環境上の利点が小さくなる。
循環型建築は、材料だけの技術ではない。
都市の中で、どこから廃材が発生し、どこで加工し、どこで再利用するかを設計する物流の問題でもある。
本当に必要なのは、リサイクルより前の設計
再生骨材を広げることは重要だ。
しかし、建物を壊して細かく砕き、再び材料に戻す工程には、多くのエネルギーが必要になる。
だからこそ、循環型建築には順番がある。
まず、既存建物をできるだけ長く使う。次に、構造体や部材を壊さず再使用する。それが難しい場合に、材料として再生する。
建物の寿命を延ばす改修、用途変更しやすい構造、交換可能な設備、分解しやすい接合方法。さらに、どの建材が、どこで、どれだけ使われているかを記録する「マテリアルパスポート」も重要になる。
建物を完成した瞬間だけで評価するのではない。
50年後、100年後に、どのように解体され、何が次の建物へ引き継がれるのか。その出口まで考えて設計する必要がある。
都市を「資源の終着点」から「一時保管庫」へ
砂をまったく使わずに、すべての都市をつくることは、現段階では現実的ではない。
再生骨材だけでは満たせない品質や供給量があり、新しい砂や砕石が必要な場面も残る。
それでも、新しい天然資源への依存を減らすことはできる。
- 建物を長寿命化し、解体そのものを減らす
- 解体時に建材を細かく分別する
- 再生骨材を再びコンクリートへ戻す
- 解体現場と再生施設、新築現場を地域内で結ぶ
- 公共工事や大規模開発で再生材の需要をつくる
- 建材の履歴と品質を記録する
この仕組みが整えば、都市は資源を消費して廃棄する場所ではなく、資源を一時的に預かり、次の世代へ渡す場所になる。
建物は、完成した製品ではない。
未来の建物に使われる材料を、数十年間だけ組み立てている姿なのかもしれない。
都市は、自らを掘り直せるか
これまで都市は、山や川、海から資源を集めることで成長してきた。
しかし、すでに巨大な都市を築いた私たちが、同じ方法で成長を続ければ、自然から持ち出す資源は増え続ける。
次の都市をつくる材料は、遠くの山だけにあるのではない。
目の前に立つビルの壁にも、老朽化した橋にも、役割を終えた道路にも眠っている。
問われているのは、廃材を処理する技術ではない。
古い都市を、次の都市へ引き継ぐ思想である。
都市は、山を削り続けるのか。
それとも、自らを資源として掘り直すのか。

