記事を書いているとき。
動画をつくっているとき。
SNSに投稿するとき。
「できるだけ多くの人に見てもらいたい」
そう考えるのは、自然なことです。
しかし、多くの人に届けようとするほど、言葉が曖昧になり、誰の心にも残らないコンテンツになってしまうことがあります。
大切なのは、最初から大勢を狙うことではありません。
まず、目の前の「たった一人」に届けることです。
誰に届けるのかが明確になれば、伝える内容も、使う言葉も、写真も、タイトルも変わります。
コンテンツづくりは、「何をつくるか」から始まるのではありません。
「誰に届けるか」から始まります。
「みんなに伝えたい」が、伝わらない理由
多くの人に見てもらおうとすると、できるだけ嫌われない表現を選びたくなります。
専門的すぎないようにする。
強く言い切らないようにする。
誰にでも当てはまりそうな言葉を使う。
すると、文章は次のようになっていきます。
より良い未来のために、新しい一歩を踏み出しましょう。
間違った言葉ではありません。
しかし、誰が、どのような悩みを抱え、何を始めるための言葉なのかが見えてきません。
「みんな」に向けた言葉は、受け手にとって「自分に向けられた言葉」になりにくいのです。
一方で、相手を具体的にすると、言葉は変わります。
SNSを毎日更新しているのに、仕事につながらない。そんな個人クリエイターが、発信の方向を見直すための第一歩です。
対象となる人は狭くなりました。
しかし、該当する人にとっては、「これは自分のための話だ」と感じられます。
届ける相手を絞ることは、可能性を狭めることではありません。
言葉の解像度を上げることです。
年齢や性別だけでは、相手は見えてこない
マーケティングでは、届けたい相手を考えるときに「ペルソナ」を設定することがあります。
たとえば、次のような情報です。
- 35歳
- 女性
- 東京都在住
- 会社員
- 既婚
- 趣味は旅行とカフェ巡り
これだけでも、対象を考える手がかりにはなります。
しかし、この情報だけでは、その人が今どのようなことで困り、何を求めているのかまでは分かりません。
同じ35歳の会社員でも、置かれている状況は一人ひとり異なります。
会社を辞めて独立したい人もいれば、今の仕事を続けながら副業を始めたい人もいます。
SNSで自分を表現したい人もいれば、発信することに怖さを感じている人もいます。
重要なのは、年齢や職業といった属性だけではありません。
その人が抱えている悩みや迷い、望んでいる変化を考えることです。
ペルソナより先に「たった一人」を思い浮かべる
架空の人物を細かく設定しようとすると、かえって相手の姿が見えにくくなることがあります。
そんなときは、実際に知っている「たった一人」を思い浮かべてみましょう。
過去の自分でも構いません。
以前相談を受けた相手。
一緒に仕事をした人。
教室で質問してくれた生徒。
SNSで反応してくれた読者。
実在する一人であれば、その人が使う言葉や、困ったときの表情、行動まで想像しやすくなります。
たとえば、次のように考えます。
- 今、何に困っているのか
- どのような言葉で悩みを表現しているのか
- これまで何を試したのか
- なぜ行動できずにいるのか
- どのような状態になりたいのか
- 何を伝えれば、次の一歩を踏み出せるのか
ここまで考えると、伝えるべき内容が具体的になります。
コンテンツのテーマは、つくり手の頭の中だけで決めるものではありません。
相手の悩みと、望んでいる変化の間から見つけるものです。
相手が変われば、伝え方も変わる
同じ「動画制作を学ぶ」というテーマでも、相手によって伝え方は変わります。
これから動画制作を始めたい学生に届けるなら、
初めてでも大丈夫。スマートフォンから始める動画制作
というタイトルが考えられます。
すでに映像制作の経験がある人に届けるなら、
映像はつくれる。でも仕事につながらない人が見直したい3つのこと
のほうが、自分ごととして捉えてもらいやすくなります。
企業の広報担当者に届けるなら、
制作会社に依頼する前に整理しておきたい動画企画の目的
という切り口が適しているでしょう。
扱っているテーマは同じでも、相手の経験や課題によって、必要な情報は異なります。
届ける相手が決まると、次の要素も自然に決まっていきます。
- タイトル
- 導入文
- 使用する写真や映像
- 説明する内容
- 言葉の難易度
- 具体例
- 読後に促す行動
誰に届けるかは、コンテンツ全体の設計を決める起点なのです。
相手の「悩み」だけではなく「感情」を考える
人は、情報だけで行動するわけではありません。
感情が動いたときに、読み進めたり、保存したり、誰かに共有したりします。
たとえば、「SNSのフォロワーが増えない」という悩みの背景には、さまざまな感情があります。
「自分には才能がないのではないか」
「努力が無駄になっている気がする」
「ほかの人だけが成長しているように見える」
「何を発信すればよいのか分からない」
表面的な課題だけを扱うなら、「フォロワーを増やす5つの方法」という記事になります。
しかし、その奥にある感情まで理解すると、導入文は次のように変わります。
毎日投稿しているのに、反応が増えない。ほかの人の数字を見るたびに、自分の発信には価値がないように感じてしまう。けれど、必要なのは投稿数を増やすことではなく、届けたい相手を見直すことかもしれません。
読者は、自分の感情を言葉にしてもらったとき、「分かってもらえた」と感じます。
信頼は、正しい情報を伝えるだけでは生まれません。
相手の気持ちを理解し、それを適切な言葉で表現することから始まります。
つくり手の思いだけでは、届かない
コンテンツには、つくり手の思いが必要です。
なぜ、このテーマを伝えたいのか。
社会に対して、どのような問題意識を持っているのか。
自分の経験から、何を残したいのか。
その思いは、コンテンツの核になります。
しかし、思いをそのまま語るだけでは、相手に届かないことがあります。
受け手が知りたいのは、「それが自分にどう関係するのか」ということだからです。
つくり手の思いと、受け手の関心をつなぐ必要があります。
たとえば、
地域文化を守ることが大切です。
と伝えるだけでは、距離を感じる人もいるでしょう。
そこで、
あなたが旅先で出会った風景や祭りも、記録されなければ、次の世代には残らないかもしれません。
と表現すれば、地域文化の問題を自分の経験と結びつけて考えやすくなります。
伝えるとは、自分の言葉を押し出すことではありません。
相手が受け取れる場所まで、言葉を運ぶことです。
たった一人に届けるための5つの質問
コンテンツをつくる前に、次の5つの質問を書き出してみましょう。
1.誰に届けたいのか
「20代」「会社員」といった属性だけではなく、顔が思い浮かぶくらい具体的に考えます。
2.その人は、今何に困っているのか
本人が普段使っている言葉で書き出します。
3.その悩みの奥に、どのような感情があるのか
不安、焦り、迷い、諦め、期待など、行動に影響している感情を考えます。
4.読んだあと、どのように変わってほしいのか
知識を得るだけなのか、考え方を変えるのか、実際に行動してもらうのかを決めます。
5.その人に、最初にどのような言葉をかけるか
タイトルや導入文を、広告コピーではなく、目の前の相手への声かけとして考えます。
この5つが明確になれば、コンテンツの方向性は大きくぶれにくくなります。
届けたい一人は、過去の自分でもいい
届けたい相手が思い浮かばないときは、過去の自分を対象にしてみましょう。
まだ知識がなかった頃の自分。
仕事で失敗したときの自分。
何から始めればよいか分からなかった自分。
当時の自分は、何に困っていたでしょうか。
どのような言葉をかけてもらえれば、少し前に進めたでしょうか。
自分が実際に経験した悩みであれば、表面的ではない言葉を書くことができます。
成功した現在から教えるのではなく、迷っていた頃の自分の隣に立って伝える。
その姿勢が、同じ悩みを持つ人の心に届くコンテンツを生みます。
深く届く言葉は、結果として広がっていく
「たった一人に向けてつくると、多くの人に届かなくなるのではないか」
そう感じるかもしれません。
しかし、人が抱える悩みや感情は、完全に一人だけのものではありません。
一人の悩みを深く掘り下げると、同じような経験をしている多くの人に重なります。
反対に、大勢に当てはまるように表現を薄めると、誰にとっても印象に残らないものになります。
広く届けるために、最初から広く語る必要はありません。
一人の心に深く届いた言葉が、共感によって保存され、共有され、少しずつ広がっていきます。
まとめ|コンテンツは「誰に届けるか」から始まる
コンテンツをつくるとき、私たちは「何を伝えるか」を先に考えがちです。
しかし、その前に決めるべきことがあります。
誰に届けるのか。
その人は何に悩んでいるのか。
どのような感情を抱えているのか。
読んだあと、どう変わってほしいのか。
相手が見えれば、言葉が変わります。
タイトルが変わります。
写真や映像の選び方も変わります。
そして、コンテンツは単なる情報ではなく、誰かのためのメッセージになります。
みんなに伝えようとしなくて大丈夫です。
まずは、たった一人を思い浮かべてください。
その一人に本当に届くものをつくることが、多くの人へ広がる最初の一歩です。
あなたが次につくるコンテンツは、誰に届けたいものでしょうか。
年齢や職業だけではなく、その人が今抱えている悩みや感情まで、ひとつずつ書き出してみてください。
「つくる力」と「届ける力」を身につけるための実践的なヒントを、これからもお届けします。
制作とマーケティングを一緒に学びたい方は、メール登録から次の記事を受け取ってください。

