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相模湾に漂う見えないごみ─マイクロプラスチックはどこから来るのか

相模湾を背景に、海辺に立つ少女のシルエットが小さな光を見つめている抽象的なビジュアル。砂浜には都市から海へ流れる経路を思わせる光の線が走り、「その小さな光は、都市から海への地図だった。」というコピーが配置されている。

海は、遠くにあるものではない。

街で使われたものが、雨に流され、側溝へ入り、川を下り、やがて海へ届く。

相模湾の波打ち際に立つと、目の前には美しい海が広がっている。江の島を望む湘南の海岸。釣り人、サーファー、観光客、散歩する人たち。その風景は、どこか日常の延長にある。

けれど、その砂の中には、目に見えにくいごみが混ざっている。

マイクロプラスチック。

それは、5ミリメートル以下の小さなプラスチック片のことだ。大きなごみのように目立たない。波打ち際で拾えるものもあれば、砂の粒に紛れて見過ごされるものもある。さらに小さくなれば、私たちの感覚ではほとんど捉えられなくなる。

問題は、その小ささだけではない。

マイクロプラスチックは、一度環境中に出ると、簡単には消えない。波や紫外線によってさらに細かくなり、海岸、河川、海中、生きものの体内へと移動していく可能性がある。

相模湾に漂う見えないごみは、どこから来るのか。

その問いは、海ではなく、私たちの暮らしの側から始まる。

Contents

相模湾のごみは、外から来るだけではない

海洋ごみと聞くと、どこか遠い海から流れ着くものを想像しがちだ。

外洋を漂うごみ。海外から流れ着くごみ。船から捨てられたごみ。もちろん、海流によって運ばれるごみも存在する。

しかし、相模湾のマイクロプラスチックについて、神奈川県環境科学センターは2017年度以降、汚染の実態や発生源の調査を続けている。

その調査では、相模湾に漂着するマイクロプラスチックは、外洋から流れ着くものよりも、内陸部から河川を通じて海へ運ばれている可能性が高いと推察されている。

つまり、相模湾の海岸にある小さなプラスチック片は、必ずしも「海の向こう」から来たものではない。

街から来ている。

住宅地、道路、駐車場、工場、商業施設、公園、学校、家庭。私たちが日々暮らしている内陸の風景から、雨や風によって小さなプラスチック片が動き出し、川を通じて海へ向かう。

海のごみは、海だけの問題ではない。

都市生活の下流に、相模湾がある。

人工芝、樹脂ペレット、三角コーン─小さな破片の出どころ

マイクロプラスチックと聞くと、ペットボトルやレジ袋が細かく砕けたものを思い浮かべる人も多いかもしれない。

もちろん、そうしたプラスチックごみが劣化し、細かくなったものも存在する。

しかし、神奈川県の調査では、海岸に漂着している特徴的なプラスチックの中に、人工芝の破片や樹脂ペレットなどが確認されている。

人工芝の破片は、玄関マットなどに由来する可能性があるとされている。樹脂ペレットとは、プラスチックなどの工業原料を加工しやすいように粒状にしたもので、3〜5ミリメートル程度の粒子状の素材だ。

また、内陸部の道路路肩に散乱したプラスチック片の調査では、工業地域などと比べて、住居地域でプラスチック片の重量が多いことも確認されている。

要因として、ごみ集積場に由来するプラスチックごみの散乱や、駐車場に設置された三角コーンの不適切な管理などが推測されている。

ここで見えてくるのは、マイクロプラスチックが特別な場所だけで生まれるものではないということだ。

玄関マット。人工芝。ごみ集積場。駐車場の三角コーン。道路の端に落ちた小さな破片。

どれも、私たちの生活圏の中にある。

つまり、相模湾のマイクロプラスチックは、特別な誰かが出しているごみではなく、日常の中で少しずつ発生しているごみでもある。

雨の日に、街は海へつながる

晴れた日、街と海の距離は遠く感じられる。

けれど、雨が降ると、その距離は一気に縮まる。

道路に落ちていた小さなプラスチック片は、雨水とともに側溝へ流れ込む。側溝は水路へつながり、水路は川へつながり、川は海へつながっている。

神奈川県では、河川における定常時の調査に加えて、雨天時の調査も実施し、人工芝の破片や樹脂ペレットなどが実際に流出していることを確認している。

雨の日、街は海へつながる。

それは美しい循環でもあるが、同時に、都市の小さな汚れが海へ運ばれる経路でもある。

相模湾の問題を考えるとき、海岸での清掃活動だけでは足りない理由がここにある。

海岸に着いてから拾うことも大切だ。けれど、その前に、街の中で流れ出すものを減らさなければならない。

マイクロプラスチック対策は、海辺だけでは完結しない。

住宅地のごみ置き場、道路管理、駐車場、商業施設、学校、公園、河川流域の暮らし方まで含めて考える必要がある。

相模川、境川、引地川─流域として見る相模湾

相模湾を考えるとき、私たちはつい海岸線だけを見てしまう。

江の島、片瀬海岸、茅ヶ崎、平塚、大磯、小田原、真鶴。

しかし、海は川の出口でもある。

相模川、境川、引地川、酒匂川。神奈川県内には、街を流れ、住宅地や商業地、工業地を通り、相模湾へ注ぐ河川がある。

川は、山と海をつなぐだけではない。街と海もつないでいる。

だから、相模湾のマイクロプラスチック問題は、海岸の環境問題であると同時に、流域の生活問題でもある。

海に近い人だけが関係者なのではない。内陸に住む人も、川を通じて相模湾とつながっている。

相模湾は、沿岸の人だけの海ではない。

流域に暮らす人たちの行動が、最後に集まる場所でもある。

見えないごみは、見えない責任を問いかける

大きなごみは、わかりやすい。

ペットボトル、ビニール袋、発泡スチロール、空き缶。見つければ拾うことができる。誰が見ても、ごみだとわかる。

けれど、マイクロプラスチックは違う。

砂粒のように小さく、色も形もさまざまで、見つけにくい。拾いにくい。流れ出た後では、回収が難しくなる。

だからこそ、マイクロプラスチックの問題は、私たちの想像力を試している。

見えないものを、どこまで自分ごととして考えられるか。

海岸で見えないごみは、もしかすると、街にあったときも見えていなかったのかもしれない。

道路の端にある小さな破片。劣化したプラスチック製品。風で飛ばされた包装材。雨で流れた粒状の素材。

誰かが意図的に海へ捨てたわけではなくても、管理されなかったものは、少しずつ海へ向かう。

見えないごみは、見えない責任を問いかけている。

海岸清掃から、発生源のデザインへ

海岸清掃は大切だ。

実際に海岸に行き、砂の中にあるごみを拾うことで、私たちは海と自分の生活がつながっていることを身体で理解できる。

しかし、マイクロプラスチックの問題を考えるなら、清掃だけでは限界がある。

必要なのは、発生源を減らすことだ。

壊れやすいプラスチック製品をどう管理するのか。屋外に置かれた人工芝やマット、三角コーン、プラスチック製品が劣化したときにどう回収するのか。ごみ集積場からごみが散乱しないように、地域でどう仕組み化するのか。雨水が流れる前に、街の中でどれだけごみを止められるのか。

これは、環境意識だけではなく、都市デザインの問題でもある。

ごみを出さない仕組み。流れ出さない管理。壊れにくい素材。回収しやすい設計。地域で気づける仕組み。

マイクロプラスチック対策は、清掃活動から、発生源のデザインへ移っていく必要がある。

相模湾は、都市生活を映す鏡である

相模湾は、美しい。

けれど、その美しさの中には、街で生まれた小さな破片も混ざっている。

海が汚れているのではない。

私たちの暮らしが、海に映っている。

相模湾のマイクロプラスチック問題は、環境問題であると同時に、都市生活の問いでもある。

便利さのために使われる素材。安価で軽く、加工しやすく、どこにでもあるプラスチック。その恩恵を受けながら、私たちはその行き先を十分に見てこなかった。

海に流れ着いた小さな破片は、便利さの最後の姿なのかもしれない。

だからこそ、相模湾を守ることは、海をきれいにすることだけではない。

街の使い方を見直すこと。ものの管理を見直すこと。流域として地域を考え直すこと。見えないごみを、見える課題へ変えていくこと。

相模湾は、都市生活を映す鏡である。

越境する環境問題としてのマイクロプラスチック

マイクロプラスチックは、分野を越境する問題だ。

環境問題であり、都市計画の問題であり、流域管理の問題であり、生活習慣の問題であり、企業の製品設計の問題でもある。

海岸で見つかる小さな破片は、ひとつの結果にすぎない。

その背後には、どんな素材を使い、どこに置き、どのように管理し、劣化したときにどう回収するのかという、社会の設計がある。

NEOTERRAIN Journalの越境企画では、こうした「ひとつの分野だけでは語れない問題」を追いかけていきたい。

海から街を見る。

街から川を見る。

川から暮らしを見る。

そして、暮らしの中から、もう一度海を考える。

相模湾に漂う見えないごみは、私たちに静かに問いかけている。

この海を汚しているのは、誰なのか。

そして、この海を変えられるのは、誰なのか。

おわりに

相模湾の波打ち際に立つと、海は今日も美しい。

けれど、その美しさは、何もしなくても続くものではない。

砂の中に混ざった小さな破片。雨の日に街から流れ出すごみ。川を通じて海へ届く見えない流れ。

マイクロプラスチックは、私たちの生活が海とつながっていることを、もっとも小さな形で示している。

海を守ることは、海辺だけで始まるのではない。

家の前の道路から、街のごみ置き場から、川へつながる側溝から、すでに始まっている。

相模湾の変化を、これからも少しずつ追いかけていきます。気になった方は、ぜひブックマークしておいてください。

引用・参考資料

神奈川県 環境科学センターの研究成果

神奈川県 マイクロプラスチック対策について

環境省 Plastics Smart 相模湾沿岸域におけるマイクロプラスチック汚染の実態解明

神奈川県環境科学センター 相模湾に漂着するマイクロプラスチック

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