「競合はどこですか?」と聞かれたら、多くの企業は同じ商品やサービスを扱う会社を挙げるだろう。映像制作会社なら別の制作会社。飲食店なら近隣の飲食店。それは間違いではない。ただ、それだけでは顧客の選択を捉えきれない。
顧客の頭の中には、もう一つの選択肢がある。今回は買わずに、今のままで済ませるという選択だ。
顧客は「会社」を選ぶ前に「変えるか」を決めている
ある企業が採用動画を検討しているとしよう。制作会社を比較する前に、担当者には別の判断がある。
- 社員がスマートフォンで撮影する
- 既存の会社紹介動画を使い続ける
- 写真と文章だけで採用ページを更新する
- 今年は予算を使わず、制作を見送る
制作会社から見れば、どれも受注に至らなかった案件だ。しかし顧客にとっては、それぞれ異なる理由で選んだ「解決策」である。
この段階で「他社より映像が美しい」「価格が安い」と伝えても、相手がまだ制作の必要性を判断できていなければ、比較の土俵にすら上がれない。
「買わない」にも、理由がある
買わなかった理由を一律に「予算がない」と考えると、提案は値下げに向かいやすい。けれど実際には、次のような障壁が隠れていることがある。
| 顧客の状態 | 頭の中にある問い | 必要な情報 |
|---|---|---|
| 現状維持 | 今の方法で困っているのか | 現状で起きている損失や機会の見落とし |
| 自力で対応 | 社内制作では足りないのか | 社内で担える範囲と外部に任せる意味 |
| 先送り | なぜ今、着手するのか | 時期を逃した場合の影響と着手の目安 |
| 他社との比較 | 誰に頼むべきか | 実績、進め方、費用、成果の判断材料 |
同じ「問い合わせが来ない」という状況でも、必要なコンテンツは顧客の状態によって変わる。比較記事を充実させても、現状維持を選んでいる人には届かないことがある。
本当の比較相手は、顧客の行動に表れる
競合を見つけるには、「どの会社と比較しましたか」だけでなく、次の問いを聞いてみたい。
「これを導入する前は、どうやって対処していましたか?」
たとえば企業研修なら、以前は上司が個別に教えていたのかもしれない。健康管理アプリなら、手帳に記録していた人もいれば、何も記録していなかった人もいるだろう。どちらも同じ市場にいるが、伝えるべき価値は違う。
顧客がこれまで使ってきた方法には、欠点だけでなく利点もある。手間が少ない、費用がかからない、社内の説明が不要。新しい提案は、その慣れた方法を変えるだけの理由を示して、初めて検討される。
コンテンツは、比較表の前から始まる
そこで記事や動画を企画するときは、顧客の判断を三つの場面に分けると考えやすい。
- 変える必要に気づく——いまの方法で何ができ、どこに限界があるかを示す。
- 解決方法を選ぶ——自力で行う場合と依頼する場合の条件を整理する。
- 依頼先を決める——実績、制作過程、費用の考え方を具体的に示す。
採用動画なら、「採用動画の制作会社5選」だけでなく、「社員が撮る動画で十分な場合、外部制作が必要な場合」という記事も役に立つ。自社への依頼が不要なケースまで正直に示すことで、読者は自分の状況を判断できる。
「何を買ったか」の前に「何をやめたか」を見る
顧客が商品を選ぶとき、何かを新しく始める一方で、これまでの方法を手放している。その方法は、競合他社の商品とは限らない。手作業かもしれないし、先送りという習慣かもしれない。
自社の顧客を思い浮かべて、こう問い直してみる。
「私たちを選んだ人は、その前に何で済ませていたのだろう?」
答えが分かると、訴求すべき価値も変わる。競合より優れている点を並べる前に、顧客が使い慣れた方法から一歩踏み出す理由を言葉にする。そこから、伝わるコンテンツ設計が始まる。

