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水は、地下でつながっている―全国の地下水に広がるPFAS問題

山間を流れる川と地下水の断面を描き、見えないPFAS汚染を表現したイラスト
山間を流れる川と地下水の断面を描き、見えないPFAS汚染を表現したイラスト

蛇口から注がれる水は、透明で、においもほとんどない。

けれど、その透明さだけで、水の安全を判断することはできない。

いま、日本各地の河川や地下水から「PFAS」と呼ばれる有機フッ素化合物が検出されている。環境中で分解されにくく、長い時間をかけて水や土壌、生物の体内に残り続けることから、「永遠の化学物質」とも呼ばれる物質群だ。

2024年度に全国3,941地点で行われた調査では、PFOSとPFOAの合算値が指針値を超えた地点が、26都府県の629地点で確認された。

見えない汚染は、どこから来たのか。

そして、水道水や井戸水を利用する私たちの暮らしに、どのような影響があるのだろうか。

Contents

PFASとは何か

PFASは「有機フッ素化合物」の総称で、炭素とフッ素が強く結びついた人工的な化学物質の一群である。

水や油をはじき、熱にも強い。その性質から、長年にわたりさまざまな製品や産業で使われてきた。

代表的な用途には、次のようなものがある。

  • 衣類や布製品の撥水・防汚加工
  • 食品包装材
  • 半導体や電子部品の製造
  • 金属メッキ
  • 界面活性剤
  • 泡消火薬剤

PFASには多くの種類があるが、現在、日本で水質管理の対象として特に注目されているのが「PFOS」と「PFOA」だ。

PFOSは主に泡消火薬剤やメッキ処理剤などに、PFOAは撥水剤や界面活性剤などに使われてきた。

環境中に長く残留することや健康への影響が懸念されたため、国際的な規制が進み、日本でも現在はPFOSとPFOAの製造・輸入などが原則として禁止されている。

しかし、使用が制限されたからといって、過去に環境へ排出された物質がすぐに消えるわけではない。

そこに、PFAS問題の難しさがある。

なぜ「永遠の化学物質」と呼ばれるのか

PFASの特徴は、炭素とフッ素の結合が非常に強いことにある。

熱や化学反応に強く、製品を長持ちさせるうえでは有用だった。一方で、自然界では分解されにくく、河川や地下水、土壌の中に長期間残り続ける。

工場や施設からの排水、泡消火薬剤の使用、廃棄物の処理などによって環境へ出たPFASは、雨や地表水とともに土壌へ浸透する。その後、地下水に入り込み、地中をゆっくりと移動していく可能性がある。

発生源での使用が終わっていても、過去の排出による影響が何年、何十年と残ることも考えられる。

「いま使っていないから、問題は終わった」とは言えないのである。

全国3,941地点で調査、26都府県で指針値を超過

環境省がまとめた2024年度の調査では、全国47都道府県の3,941地点で、公共用水域と地下水に含まれるPFOS・PFOAが測定された。

内訳は次のとおりだ。

  • 河川:1,469地点
  • 湖沼:37地点
  • 海域:115地点
  • 地下水:2,320地点

このうち、PFOSとPFOAの合算値が1リットル当たり50ナノグラムという指針値を超えたのは、26都府県の629地点だった。

629地点の内訳を見ると、過去に超過が確認され、継続して測定している地点が282地点。汚染範囲などを調べるため、その周辺を調査した地点が217地点。概況調査などで新たに超過が確認された地点が130地点となっている。

ここで注意したいのは、629地点すべてが、新たに発見された汚染地点ではないということだ。

調査には、すでに超過が確認されている場所や、その周辺を重点的に測定した結果も含まれている。そのため、この数字だけで「日本全国の地下水の一定割合が汚染されている」と判断することはできない。

それでも、新たに130地点で超過が確認されたことは、PFASが特定地域だけの問題ではなく、各地で継続的な調査が必要な課題であることを示している。

環境省「令和6年度公共用水域水質測定結果及び地下水質測定結果について」

地下水は行政区分を越えて流れる

PFAS問題を複雑にしているのが、地下水の存在だ。

河川は地表に流れが見えるため、上流と下流の関係を比較的把握しやすい。しかし地下水の動きは、地形や地質、雨の浸透、地下水のくみ上げなど、さまざまな条件に左右される。

地表から浸透した水は、土や砂、岩盤の隙間を通り、長い時間をかけて移動する。

地下水は、市町村や都道府県の境界線に沿って流れるわけではない。

ある自治体で確認されたPFASの発生源が、別の自治体の井戸や河川に影響する可能性もある。逆に、測定地点の近くに工場や基地があったとしても、直ちにそこが発生源だと断定できるわけではない。

水の流れ、過去の土地利用、施設で使われた物質、排水経路、土壌の状態を重ね合わせて調べる必要がある。

地下でつながっている水を、地上の行政区分ごとに管理する。

ここに、PFAS対策の構造的な難しさがある。

PFASはどこから来たのか

PFOSやPFOAの発生源としては、過去にこれらの物質を製造・使用していた工場、泡消火薬剤を保有・使用していた施設、廃棄物処理施設などが想定されている。

泡消火薬剤は、石油などによる火災への対応を目的として、空港、基地、消防施設、石油関連施設などで使用・保管されてきた。

ただし、PFASが検出されたからといって、近隣の特定施設が原因であるとは限らない。

過去の使用記録が十分に残っていないこともある。複数の発生源が存在する場合もあれば、地下水の流れによって、発生源から離れた場所で高い値が検出される可能性もある。

さらに、PFASは長年にわたり幅広い用途で使われてきた。どの時点で、どの経路から環境に出たのかを遡ることは容易ではない。

汚染が見つかっても、その原因者を特定できない。

原因者が分からなければ、除去や補償に必要な費用を誰が負担するのかという問題も生じる。

PFASは、化学物質の問題であると同時に、過去の産業活動を誰が記録し、誰が責任を引き受けるのかという社会制度の問題でもある。

健康への影響をどう考えるべきか

PFASをめぐっては、発がん性、免疫系、脂質代謝、出生時体重などとの関連が国内外で研究されている。

一方で、PFASが検出されたことや、ある時点で指針値を超えた水を飲んだことが、直ちに健康被害につながるわけではない。

内閣府食品安全委員会は2024年、PFOSとPFOAについて、それぞれ体重1キログラム当たり1日20ナノグラムを耐容一日摂取量として設定した。

耐容一日摂取量とは、生涯にわたって毎日摂取し続けても、健康への悪影響がないと推定される量である。

環境省も、水質基準値を超えた水を一時的に飲んだからといって、直ちに健康への影響が生じるものではないと説明している。

重要なのは、「検出された」「基準を超えた」「健康被害が確認された」という三つを混同しないことだ。

PFAS問題を過小評価するべきではない。しかし、検出の事実だけで過度な不安を広げることも、正確な理解から遠ざかってしまう。

食品安全委員会「有機フッ素化合物(PFAS)の評価に関する情報」

環境省「PFASに関するよくある質問」

2026年、水道水の基準はどう変わったのか

日本では2020年から、水道水に含まれるPFOSとPFOAについて、合算で1リットル当たり50ナノグラム以下という暫定目標値が設定されていた。

そして2026年4月1日、この数値は水道法に基づく正式な水質基準となった。

これにより、水道事業者や専用水道の設置者には、基準値を守ることと、原則としておおむね3カ月に1回以上検査することが義務付けられている。

基準を超えた場合には、該当する水源からの取水停止、水源の切り替え、活性炭による処理などの対策が求められる。

実際、環境省が公表している水道調査では、過去に暫定目標値を超えた水道事業者などが、取水停止や水源切り替え、浄水処理を行っている。

水道水と、河川や地下水の調査結果は、同じものではない。

近くの地下水でPFASが検出されたとしても、その水がそのまま家庭の蛇口から供給されているとは限らない。水道水は浄水場で処理され、複数の水源が使われることもあるため、地域の水道事業者が公表する検査結果を確認することが重要だ。

環境省「PFOS・PFOAの水道水質基準に関する省令改正」

井戸水を使っている場合はどうすればよいのか

水道水質基準は、水道事業者などが供給する水に適用される。

一方、個人や事業者が所有する井戸の中には、水道法の適用を受けないものもある。井戸水を飲用している場合は、所有者自身による水質の確認が重要になる。

周辺でPFOS・PFOAの指針値超過が確認された場合、自治体から飲用を控えるよう案内されることがある。その際は、自治体の情報を確認し、水道水や安全が確認された水へ切り替える必要がある。

PFASは水を煮沸しても除去できない。むしろ、水だけが蒸発することで濃度が高くなる可能性があるため、煮沸を対策として考えるべきではない。

家庭用浄水器についても、すべての製品がPFASの除去に対応しているわけではない。利用する場合は、PFOS・PFOAに関する除去性能、交換時期、第三者機関による試験結果などを確認する必要がある。

不安がある場合は、自己判断だけで対応するのではなく、自治体の環境部門や保健所、水道担当部署に確認することが第一歩となる。

問われているのは「測る仕組み」である

見えない汚染に対応するためには、まず測らなければならない。

測定されていない水からは、PFASが存在するかどうかさえ分からない。調査地点が増えれば、これまで見えていなかった超過地点が新たに確認される可能性もある。

だからこそ、「新たな超過地点が見つかった」という事実を、汚染が突然拡大したことと同じ意味で受け取るべきではない。

調査が進んだことで、以前から存在していた問題が可視化された可能性もあるからだ。

必要なのは、全国で一度だけ調べることではない。

地下水の流れや地域の産業史を踏まえて測定地点を設定し、継続的に変化を追うこと。調査結果を住民が理解できる形で公開すること。超過が確認された場合には、飲用を避ける措置と並行して、汚染範囲と発生源を調べることが必要になる。

水の記憶を、社会が引き受ける

PFAS問題は、過去に使われた化学物質が、時間を越えて現在の暮らしに現れる問題である。

便利さや産業の発展を支えた物質が、土壌へ入り、地下水へ移動し、かつての使用者すら分からなくなった後も残り続ける。

地下水は、私たちから見えない。

けれど、見えない場所でも、水は流れている。

山に降った雨が地中へ浸透し、土地の下を通り、井戸や川、海へとつながっていく。その流れは、自治体の境界も、企業の敷地も、現在と過去の区切りも越えていく。

PFASをめぐって問われているのは、単に基準値を超えた水を止めることだけではない。

私たちが過去の産業活動をどのように記録し、見えない環境負荷をどのように測り、将来世代に残さない仕組みをつくれるかということだ。

透明な水の中に、何が含まれているのか。

その事実を知ることから、水と暮らしの安全を守るための議論が始まる。


参考資料

※この記事は2026年7月時点で公表されている情報をもとに構成しています。

この問題を、あとで改めて考えるために。
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