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海の森が消えると、魚はどこで育つのか――藻場の衰退と磯焼けを読み解く

海中の左側に茂る海藻と、右側に広がる岩場を描いた水彩画。小魚やウニが見え、「魚が消える前に、森が消えていた。」と書かれている。
海中の左側に茂る海藻と、右側に広がる岩場を描いた水彩画

岸から見る海は、昨日と変わらない。波が寄せ、岩が濡れ、船が通る。けれども水の下では、岩を覆っていた海藻が減り、海底の景色が変わっている場所がある。

海藻がまとまって生える場所を「藻場」という。魚の隠れ場所、産卵や成長の場となり、小さな生き物の暮らしを支える。第2弾では、海洋熱波によって魚の居場所が変わり得ることを考えた。今回の問いは、魚が移動する先にある海の住まいそのものだ。

Contents

「海の森」とは、何を指すのか

海の森と聞くと、海底に背の高い海藻が揺れる風景を思い浮かべるだろう。日本の沿岸には、コンブ類やカジメ類、ホンダワラ類など、地域や水深によって異なる海藻の群落がある。アマモ場も海の重要な生息場所だが、アマモは海藻ではなく、花を咲かせる海草である。この違いを踏まえ、ここでは主に岩礁に生える大型海藻の藻場を扱う。

海藻は光を受けて育つ。そこに生まれる立体的な空間が、魚や甲殻類などの隠れ場所になる。葉や付着物を食べる小さな生き物も集まる。藻場は一種類の魚のためだけに存在するのではなく、食べる、隠れる、育つという複数の営みが重なる場所だ。

だから、海藻の量だけを見ても十分ではない。どの種類が、どの季節に、どれほど密に生え、どんな生き物が利用しているか。海の森の状態を知るには、景色の中身を見る必要がある。

水温が上がると、何が変わるのか

海藻には種類ごとに生育に適した水温がある。高温が続けば、成長や生殖がうまく進まない場合がある。第2弾で取り上げた海洋熱波は、ある場所の季節的な水温と比べて異例の高温が一定期間続く現象だ。NOAAは、熱波の強さだけでなく、継続期間や広がりも生態系への影響を考えるうえで重要だとしている。NOAA「Marine Heatwaves」

ただし、「暖かい年だったから海藻が減った」と一言では断定できない。海流の変化、波の強さ、濁り、海底の状態、栄養塩、そして海藻を食べる動物も関わる。一時的に海藻が少なく見えても、季節的に葉が落ちただけかもしれない。問題を見極めるには、同じ場所を複数年にわたり、同じ季節に観察することが大切だ。

食べる生き物が増えると、森は戻りにくくなる

海藻は成長しながら、ウニや植食性の魚などに食べられている。通常は「生える量」と「食べられる量」の間に釣り合いがある。しかし海藻の成長が弱ったところへ食圧が重なると、芽生えた海藻まで食べられ、藻場が回復しにくくなることがある。

岩肌が露出し、大型海藻が長期間育ちにくくなる状態は、日本では「磯焼け」と呼ばれる。ただし、何も生きていない海底という意味ではない。小型の藻類やウニなどが存在する場合もある。変わるのは、立体的な大型海藻の群落と、それを利用していた生き物の関係だ。

ウニが多い場所ではウニの影響を、植食性魚類による食害が強い場所ではその影響を見なければならない。原因が違えば対策も違う。海藻の種をまくだけで回復すると考えると、食べられる側と食べる側の関係を見落とす。

魚が泳いでいても、生態系は変わっている

藻場が減った海にも、魚がまったくいなくなるわけではない。別の魚が入り、別の小さな生き物が増えることもある。しかし、藻場を隠れ場所や餌場として利用していた種類にとっては、暮らしの条件が変わる。

特に小さな魚にとって、身を隠せる複雑な場所があるかどうかは重要だ。大きな魚がその海域に残っていても、次の世代が育つ場所が縮めば、変化は時間差で表れるかもしれない。海藻の衰退を、水揚げの増減だけで評価しにくい理由でもある。

また、漁業と藻場は一方向の関係ではない。ウニや植食性魚類の資源量、人の採捕、海藻を利用する産業、沿岸の管理が重なっている。「海藻を増やせば魚が増える」という単純な約束ではなく、どの生き物の生活史を、どんな海域で支えるのかを考えたい。

磯焼けは、地域ごとに違う顔を持つ

磯焼けを全国一律の現象として扱うことはできない。外洋に面する岩礁と静かな湾内では波の条件が違い、北と南では生える海藻の種類も異なる。海水温の上昇が強い場所、食害が目立つ場所、海藻が着生しにくい場所では、回復の妨げも変わる。

地域で調べるなら、まず「昔と今」の比較に具体性を持たせたい。漁師や潜水調査者の記憶は重要な入り口になる。そのうえで過去の写真や分布図、海水温の観測記録、海藻や食べる動物の調査を重ねる。経験とデータを同じ海図に置くことで、何が変わったかを確かめられる。

第3弾で見た栄養塩もここに関わる。海藻に必要な栄養がどの程度届くかは、海域や季節によって異なる。一方で、栄養塩だけから藻場の状態を説明することもできない。水温、光、食害、波、海底の条件を一緒に見る必要がある。

回復とは、何を取り戻すことか

藻場の再生では、海藻の移植や種苗の設置、食害を抑える取り組みなどが検討される。けれども、海藻を一度植えて終わりではない。生え続ける条件があるか、翌年も新しい海藻が育つか、魚や小さな生き物が利用するかを確かめて、方法を調整していく必要がある。

目標も「昔の写真どおりの景色」とは限らない。海の温度が変わり、かつての種類に適した条件が失われた場合、同じ種類を同じ密度で戻すことが難しい場所もある。何を守りたいのか。海藻の種類か、生き物の育つ場か、漁業や地域の暮らしとの関係か。目標を具体的にしなければ、再生の成否も測れない。

海の変化を、住まいから読む

第1弾は酸素、第2弾は熱、第3弾は川から届く栄養を追った。それらは別々の話ではない。魚の体を取り巻く水と、魚が身を寄せる海藻の森は、同じ環境の中で変わっていく。

魚が見えなくなったとき、魚だけを探すのではなく、その魚が育った場所を見に行く。岩の上に何が生え、何が食べ、どんな小さな命が隠れているか。そこに、港からは見えない変化の始まりがある。

海の森が変わるとき、変わるのは海底の色だけではない。次の世代が生きる場所の地図そのものだ。


参考資料・確認の起点

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