NEOTERRAINの書籍・Tシャツ・トートバッグを公開中

カナダは、自然を守る国なのか。未来を掘る国なのか。

カナダの雪山、湖、針葉樹林、焼けた森、地下の鉱物層を組み合わせたアイキャッチ画像。「カナダは、自然を守る国か。未来を掘る国か。」という文字が中央に配置されている。
カナダの雪山、湖、針葉樹林、焼けた森、地下の鉱物層

カナダと聞いて、私たちはどんな風景を思い浮かべるでしょうか。

深い森。静かな湖。雪を抱いた山々。そして、どこまでも続く大地。

カナダは、世界の中でも特に「自然が美しい国」として知られています。カナディアンロッキー、ナイアガラの滝、バンクーバー周辺の海と山の景観。そこには、自然と共にある国という強いイメージがあります。

しかし、その美しい自然の下には、もうひとつの顔があります。

それは、未来産業を支える資源国家としてのカナダです。

EV、蓄電池、再生可能エネルギー、AIインフラ。私たちが「クリーンな未来」と呼ぶものには、リチウム、ニッケル、コバルト、銅、レアアースなどの重要鉱物が欠かせません。

自然を守ること。資源を使うこと。未来産業を支えること。気候変動に向き合うこと。

そのすべてが、カナダという同じ地図の上に重なっています。

Contents

美しい自然は、経済の土台でもある

カナダは、国土の広さで見ても、自然環境の豊かさで見ても、非常に大きな存在です。

森林、湖、氷河、山岳地帯、北極圏。そのスケールは、日本の感覚ではなかなか想像しにくいものがあります。

カナダには、約3億6900万ヘクタールの森林があります。これは、世界の森林のおよそ9%にあたる規模です。つまりカナダは、世界でも有数の森林大国です。

ただし、ここで大切なのは、カナダの自然は単なる「風景」ではないということです。

それは観光資源であり、生活の基盤であり、文化であり、同時に国家経済を支える土地でもあります。

カナダの自然資源セクターは、2025年第4四半期時点で、年率換算およそ3540億カナダドル。カナダ経済全体の11.5%を占めています。

森、鉱物、エネルギー、水。

自然は、カナダにとって美しい背景ではなく、国家経済を支える基盤でもあるのです。

カナダの静かな湖畔に深い針葉樹林が広がり、奥には雪を抱いた山々が霧の中に見えている。

地下に眠る、未来の資源

そして、その自然の下に眠っているのが、鉱物資源です。

カナダ政府は、重要鉱物戦略を進めています。2024年に更新された重要鉱物リストには、34種類の鉱物が含まれています。

その中でも、リチウム、黒鉛、ニッケル、コバルト、銅、レアアースは、特に重要な鉱物として位置づけられています。

EV、蓄電池、再生可能エネルギー、半導体、デジタル産業。私たちが「未来」と呼ぶものは、こうした鉱物なしには成立しません。

つまり、クリーンな未来は、きれいな理念だけでできているわけではありません。

その裏側には、掘られる土地があり、動かされる資源があり、変化する地域があります。

化石燃料を減らすために、世界は鉱物を必要としています。しかし、鉱物を掘るということは、必ず土地に手を入れるということです。

ここに、大きな矛盾があります。

自然を守るために、別の自然を掘る。未来をつくるために、今ある土地を変える。

カナダは、その矛盾の中心にいる国のひとつです。

カナダの湖と森を背景に、手前には黒い岩盤と鉱物を含む地層が露出している。

森は、残っているだけでは語れない

一方で、カナダの森もまた、変化の中にあります。

ただ、ここは丁寧に見なければいけません。カナダの森林は、単純に急激に減っている、という話ではありません。大きな森林面積は、今も維持されています。

けれど、面積だけでは見えない現実があります。

例えば、山火事です。

2024年のカナダでは、山火事によって約530万ヘクタールが焼失しました。これは、25年平均のおよそ290万ヘクタールのほぼ2倍にあたります。

つまり、森がどれだけ残っているかだけではなく、どの森が燃えているのか。どの地域に被害が出ているのか。生態系や暮らしにどんな影響があるのか。そこまで見なければ、森の現在は見えてきません。

美しい森は、ただの風景ではありません。

火災、乾燥、気候変動、資源利用、地域経済。そのすべてが重なった、非常に複雑な現場です。

カナダの森は、世界の森林資源として重要です。同時に、気候変動の影響を受ける最前線でもあります。

森は残っている。けれど、その森の質、リスク、使われ方は変わっている。

ここに、自然大国カナダの現在があります。

カナダの森の中で、火災後の黒く焼けた地面から薄い煙が立ち上っている

先住民の土地と、未来産業

資源開発や自然保護を考える上で、もうひとつ避けて通れないのが、先住民の土地や権利の問題です。

カナダの多くの土地には、先住民の歴史、文化、信仰、生活の記憶が深く結びついています。

そこに、鉱山開発、エネルギー政策、観光、森林管理、環境保護の計画が重なっていきます。

だから、カナダの資源問題は、単に「どこに鉱物があるか」という話ではありません。

誰の土地で、誰の合意のもとに、誰の未来のために、その資源を使うのか。

その問いが重なっています。

クリーンエネルギーのため。脱炭素のため。未来産業のため。

そうした大きな言葉の下で、地域の声や土地の記憶が置き去りにされてはいけません。

カナダが問われているのは、資源を持っているかどうかだけではありません。その資源を、どのようなルールと信頼のもとで使うのか。

そこに、これからの資源国家の責任があります。

カナダの深い針葉樹林の中を、大きな川が蛇行しながら流れている。

自然を守る国か、未来を掘る国か

カナダは、美しい自然の国です。同時に、未来産業を支える資源の国でもあります。

約3億6900万ヘクタールの森林。経済の11.5%を占める自然資源セクター。34種類の重要鉱物。そして、拡大する山火事のリスク。

数字で見ていくと、カナダの自然は、ただ美しいだけではないことが分かります。

自然を守るためには、クリーンテクノロジーが必要です。しかし、クリーンテクノロジーには資源が必要です。

資源を掘れば、環境への負荷が生まれます。でも、掘らなければ、脱炭素の未来も進まない。

この矛盾を、どう引き受けるのか。

カナダは、その問いを世界に突きつけている国だと思います。

自然を守る国なのか。未来を掘る国なのか。

もしかすると、その二つは対立するものではなく、これからの時代に同時に考えなければならないテーマなのかもしれません。

美しい自然は、ただ眺めるものではない。

それは、私たちの未来の選択を映す鏡でもある。

カナダは、自然の国ではない。

自然と未来の矛盾を、抱え続ける国だった。

カナダの広大な草原地帯に、細い道が奥へと続いている。

NEOTERRAINは、これからの社会・経済・文化を、現場の視点から描くメディアです。

自然、資源、都市、地域、産業、文化。 その交差点にある変化を、これからも見つめていきます。

また読み返したい方は、ぜひブックマークしておいてください。

この記事が響いたら、シェアしていただけると嬉しいです。
  • URLをコピーしました!
Contents