竹の線が、余白をつくる。——静岡・駿河竹千筋細工、細いひごに託す空間のかたち
窓辺に、竹の花器が置かれている。
細い線の向こうに、壁が見える。
花を挿すと、茎の影が竹の線と重なり、置いた場所まで少し違って見える。
器を眺めているのに、その向こう側にも目が向く。
静岡市を中心に受け継がれてきた「駿河竹千筋細工」。
細い竹ひごを組んだ姿には、輪郭の確かさと、向こうが透ける軽やかさがある。
この繊細なかたちは、どんな仕事から生まれるのだろう。竹の線をたどると、その間の何もない場所にも、職人が整えたことが見えてくる。
東海道の往来が、竹細工を運んだ
静岡市の紹介によれば、静岡県中部では古くから竹製品が親しまれ、江戸時代には籠枕や笠、花器、虫籠などが、東海道を行く人々の間で人気を集めた。
さらに1840年、岡崎藩士の菅沼一我が静岡に立ち寄り、細く割った竹を丸く削る「丸ひご」の技法を伝えたことが、今日につながる繊細な細工の始まりとされている。[1]
土地に材料がある。
そこへ、外から技術が届く。
そして、出来上がった品を持ち帰る人がいる。
産地の歴史には、つくる場所だけでなく、ものや技術が移動した道も重なっている。
旅の途中で手に取った品が、別の土地の暮らしに入っていく。東海道の往来を想像すると、駿河の竹細工は、人が行き交うなかで知られていった仕事でもあったことが分かる。
「細い竹」は、最初から用意されていない
駿河竹千筋細工を特徴づけるのは、断面を丸く整えた「丸ひご」だ。
静岡特産工業協会は、細く割った竹を直径一ミリ前後の丸ひごに加工し、「曲げ」や「継ぎ手」の技法で、花器や虫籠、菓子器などへ仕上げる仕事を紹介している。[2]
完成品を見ると、同じような細さのひごが並んでいる。
けれど、その一本も、材料として最初から存在していたわけではない。
照明メーカー・オーデリックが公開する製作紹介では、刃の付いた丸い穴へ竹を通し、繰り返し引くことで角を落とし、細い丸ひごへ整えていく工程が示されている。[3]
組み立てる前に、組み立てに使える一本をつくる。
目に入るのは軽やかな完成形でも、その前には、竹を細くし、丸くし、そろえる時間がある。
ひごの並びを近くで見ることは、形づくる仕事とともに、材料を整えた仕事に気づく入口になる。
曲げることと、つなぐこと
駿河竹千筋細工には、直線だけでなく、やわらかな曲線がある。
その曲線を支えるのが、熱を加えて竹を曲げる技術だ。
星野リゾートが公開した職人・杉山茂靖さんへの取材では、輪をつくる際、竹の性質や季節による伸縮を考慮しながら、手の感触で熱の加減や曲がり方を見極める仕事が紹介されている。
さらに、輪の両端を斜めに切り、接ぎ合わせ、段差ができないよう仕上げる。継ぎ目をなめらかに整えるところまでが、一続きの仕事になる。[4]
丸い輪を見て、その始まりと終わりを探す。
どこかでつながっているはずなのに、すぐには分からない。
その自然な輪郭のなかに、切り口を整え、接ぐ技術が収まっている。
目立つ形を生む技と、仕事の跡を目立たなくする技。
どちらも、この細工の表情を支えているのだろう。
一本を組むたび、間のかたちも決まる
丸ひごを組むには、それを受け止める枠が必要になる。
オーデリックの製作紹介では、ひごを通す穴を一つずつ開け、そこへ一本ずつ差していく様子が示されている。[3]
一本の位置が決まると、隣の一本との間隔も決まる。
曲がり方が変わると、間にできる空間のかたちも変わる。
そうして見ると、職人がつくっているのは、竹の線だけではないように思えてくる。
器の向こうが、どのくらい見えるか。
光が、どこを通るか。
重なった線が、どんな密度に感じられるか。
材料のある部分と、材料のない部分が、一緒に姿をつくっている。
駿河竹千筋細工の軽やかさは、竹を細くすることに加え、その間をどう整えるかにも宿っているのではないか。
虫籠から、住まいを照らす道具へ
かつて東海道を行き交う人に親しまれた竹細工は、今日の住まいにも届いている。
静岡市は、行灯やランプシェード、風鈴、花器、バッグ、菓子器などへの商品展開を紹介している。[1]
なかでも照明は、竹の線と余白の両方が働く用途だ。
オーデリックは、駿河竹千筋細工を用いた照明を製品化している。工芸の技が、住まいで使う照明器具のかたちとして届けられている。[3]
明かりをつける前には、竹の曲線や輪郭を見る。
明かりをつけると、線と線の間に光が加わる。
素材の姿を眺める時間と、その素材が空間へ働きかける時間がある。
伝統の技術を新しい用途へつなぐとは、こんなふうに、その技が生きる場面を見つけることでもあるのだろう。
組んでみると、見え方が変わる
静岡市の「匠宿」には、駿河竹千筋細工の製作を体験できる「工房 竹と染」がある。花器や虫籠、行灯などをつくる体験が用意されている。[5]
完成品の前では、まず全体のかたちが目に入る。
自分でひごを組むときには、目の前の一本へ注意を向けることになる。
どこへ差すか。どう支えるか。隣のひごと、どう並ぶか。
体験することで、普段とは違うところに目が留まるかもしれない。
もちろん、ひごづくりや曲げ、継ぎまでを担う職人の仕事には、その先の長い習熟がある。
それでも、一部の工程に触れることは、完成品を見る目を変える入口になりうる。
「きれいだ」と思った理由を、自分の手の記憶と一緒に持ち帰れる。
工芸を伝える場として、そこにも意味があるのだと思う。
次の一本を、仕事につなぐために
細い竹ひごが並ぶ姿に、思わず足を止める。
その関心を、使う関係へ育てるには、置く場所や用途も一緒に伝えたい。
花器なら、花を挿したときの姿。
菓子器なら、食卓に置いたときの大きさ。
照明なら、明かりをつけた空間。
自分の生活に重なる場面が見えると、選ぶ理由が具体的になる。
同時に、細いひごをつくり、輪を曲げ、接ぎ、組む工程が伝われば、価格の背景にある仕事も見えやすくなる。
工芸が続くには、材料を加工できる人がいて、その仕事に注文が届くことが必要だ。
駿河竹千筋細工協同組合の紹介も、新商品の開発とともに、若い職人への技術の継承・育成を掲げている。[2]
技を教えることと、その技を生かせる用途を育てること。
両方の仕事がつながって、次の一本を組む時間が生まれていく。
EDITOR’S NOTE — NEOTERRAIN
駿河竹千筋細工の資料を読んでいて、輪の継ぎ目をなめらかに整える仕事が心に残った。
つながっていることを、目立たせない。
そのために、手をかける。
完成した品からは、何度曲げ方を確かめたのか、どれほど切り口を整えたのかまでは分からない。
けれど、仕事は、その輪郭のなかに残っている。
そして、竹の線を眺めているうちに、線のない場所まで気になってくる。
向こうに見える壁。
差し込む光。
花を挿したあとに生まれる重なり。
一つの品が、置かれた場所との関係で、違う姿を見せる。
次に竹細工を手にするときは、竹そのものと一緒に、その間にも目を向けてみたい。
職人が整えた余白に、自分の暮らしがどう映るのかを。
参考資料
- 静岡市「駿河竹千筋細工」
- 静岡特産工業協会「駿河竹千筋細工協同組合」
- オーデリック「駿河竹千筋細工|made in NIPPON」
- 星野リゾート「星野リゾートを支える人たちの手しごと VOLUME11 駿河竹千筋細工職人」
- 匠宿「工房 竹と染」
※本記事は自治体・関係機関・事業者の公開資料をもとに構成しています。現地取材・職人への直接インタビューは行っていません。
文・構成:三宅雅之/NEOTERRAIN Journal

