NEOTERRAINの書籍・Tシャツ・トートバッグを公開中

なぜ、フランスのスーパーは「不格好な野菜」を広告の主役にしたのか?|Intermarchéに学ぶ、選ばれる理由のつくり方

曲がったニンジンや形のいびつな果物、ジュース、スープを描いたイラスト。「なぜ、不格好な野菜を広告の主役にしたのか。」の文字。
曲がったニンジンや形のいびつな果物、ジュース、スープを描いたイラスト

世界のマーケティングを読み解く|フランス・Intermarché

曲がったニンジン。形のいびつなリンゴ。でこぼこしたオレンジ。

スーパーの売り場では、形がそろった商品のほうへ、つい手が伸びる。見た目の整い方を、品質を判断する手がかりにしている人もいるだろう。

では、その「選ばれにくい見た目」を、広告の主役にしたらどうなるか。

2014年、フランスのスーパーマーケット、Intermarché(アンテルマルシェ)は、広告会社Marcelと「Inglorious Fruits & Vegetables」を展開した。不格好な野菜や果物に光を当て、食品ロスの問題と商品の販売を結びつけるキャンペーンだ。

この事例を「規格外の野菜を安く売って成功した話」として読むと、大切な部分を見落とす。

なぜ、見た目の欠点を大きく見せたのか。なぜ、広告に加えて試食まで用意したのか。そして、社会に良いという理由は、どこまで購買につながるのか。

そこには、商品の見られ方を変え、実際に選んでもらうための設計があった。

Contents

売れない理由は、商品のどこにあるのか

野菜や果物の価値には、味、鮮度、価格、調理のしやすさなど、複数の要素がある。

しかし、買う前に味を確かめられる機会は限られる。売り場では、色や形、大きさなど、目で確認できる特徴を使って判断することになる。

曲がっていると調理しにくそう。いびつだと、味も違うかもしれない。

こうした印象が、購入をためらう理由になる。

もちろん、形状が使い勝手に影響する場合はある。また、外観の違いと、傷みや品質上の問題は区別しなければならない。

そのうえで考えたいのは、食べるうえで問題のない外観の違いにまで、必要以上に低い評価を与えていないかということだ。

Intermarchéは、通常の売り場で目にしにくかった、形や大きさのそろわない農産物を販売する実験を行った。公式の紹介によれば、舞台となったのは2014年春のプロヴァンの店舗だった。

商品を変える前に、商品を見る側の判断を変える。その課題に取り組んだのである。

不格好さを隠さず、名前と写真で目立たせる

キャンペーンでは、いびつな野菜や果物を、大きな写真とユーモアのある呼び名で紹介した。

D&ADの作品紹介には、「Ridiculous Potato」「Hideous Orange」「Failed Lemon」といった表現が並ぶ。不格好さを取り繕わず、広告の中心に据えたことが分かる。

ここからは、マーケティングの視点で読み解いてみたい。

欠点を隠そうとすると、顧客は「何か説明されていないことがあるのでは」と感じるかもしれない。一方、企業の側から特徴をはっきり示せば、その違いについて会話を始められる。

さらに、呼び名がつくことで、形の違いは覚えやすい個性になる。

売り場で見過ごしていた野菜が、広告で見た「あの野菜」になる。選ぶ際の手がかりが一つ増えるのである。

これは、商品の捉え方を変える「リフレーミング」の事例と考えられる。

同じ形を見ても、「基準から外れたもの」と受け止めるか、「面白い個性があるもの」と受け止めるかで、関心の向き方は変わる。

広告で興味を引き、試食で疑問に答える

ただし、見て面白いことと、買いたいと思うことには距離がある。

「形は面白い。でも、おいしいのだろうか」

その疑問が残れば、写真が話題になっても、購入には進まない。

Intermarchéは売り場で、不格好なオレンジを搾ったジュースや、ニンジンのスープを試食・試飲できるようにした。公式の説明でも、先入観を取り除き、味を確かめてもらうことが目的として示されている。

この組み合わせが興味深い。

広告は、見た目の違いへ注意を向ける。試食は、味について自分で判断する機会をつくる。

「おいしいです」という企業の説明を、顧客自身の経験で確かめられるようにしたのである。

ジュースやスープという形には、使い方を想像しやすくする効果も考えられる。搾る、刻む、煮込む。調理後の姿を思い浮かべれば、購入時の形へのこだわりが弱まる人もいるだろう。

関心を集める表現と、購入をためらう理由への対応が、売り場でつながっていた。

価格は30%安く。それでも、安さだけの話ではない

対象の商品は、形や大きさのそろった通常の商品より、30%安く販売された。

この価格差は、試してみる理由になる。

ただ、価格だけを下げれば、「品質が悪いから安いのでは」という疑問が生じる可能性もある。そこで、価格の背景を伝える広告と、味を確認する体験が意味を持つ。

施策を整理すると、次のようになる。

施策の要素顧客にとっての役割
不格好な姿を大きく見せる広告商品の存在に気づく
ユーモアのある呼び名特徴を覚え、親しみを持つ
食品ロスという背景の説明販売する理由を理解する
ジュースやスープの試食・試飲味への疑問を自分で確かめる
通常品より低い価格試しに購入する負担を下げる
店頭で購入できる売り場関心をその場で行動に移す

表の役割は、施策内容をもとにした本記事の分析である。

一つひとつは、特別に新しい手法ではない。広告、価格、試食、売り場。小売業が日常的に扱う要素だ。

それらが「不格好でも、食べる価値がある」という一つの理解へ向かうよう、組み合わされていた。

食品ロスへの共感を、買い物の理由にする

社会課題を扱う広告では、「良い取り組みですね」という反応と、実際の購買が一致するとは限らない。

顧客には、その日の予算や献立、家族の好みがある。社会への配慮だけで、毎回の商品選択が決まるわけではない。

この施策では、食品ロスを減らすという意味に加えて、価格の利点と、味を確かめる機会があった。

社会への貢献と、買い手自身の納得が重なる設計だったと考えられる。

また、スーパーが農産物の仕入れや売り場を通じて食品ロスに取り組むことは、事業との関係が分かりやすい。

広告で示した姿勢を、実際の商品と販売方法で確認できる。その点は、ブランドへの信頼を考えるうえでも重要だ。

成果はどうだったのか

Intermarchéは、プロヴァンでの実験について、用意した不格好な野菜や果物をすべて販売したと報告している。

また、D&ADに掲載されたキャンペーン紹介では、来店客数が24%増え、青果の売上が10%増えたとされる。これらは実施側の成果報告として読む必要がある。

ここで、異なる成果を分けて考えたい。

一つは、商品が売れたこと。もう一つは、店への来訪や青果の売上が増えたこと。そして、食品ロスがどれだけ減ったかである。

販売できた数量を、そのまま社会全体の食品ロス削減量とみなすことはできない。

その農産物は、施策がなければどう扱われたのか。通常品の購入から置き換わった分はどの程度か。家庭で食べ切られたのか。継続的な取引になったのか。

こうした点も確認して初めて、環境面や生産者への影響を評価できる。

公表された来店や売上の数字は、施策への反応を示す手がかりになる。一方で、長期の利益や廃棄削減まで説明するには、追加の情報が必要だ。

日本の規格外農産物にも応用できるのか

日本でも、規格外の農産物を扱う際には、同じ問いが生まれる。

「なぜ買われないのか」を、どこまで具体的に把握しているか。

見た目への抵抗なのか。量が多すぎるのか。調理が面倒なのか。品質の説明が足りないのか。理由が違えば、必要な施策も変わる。

例えば、使いにくさが問題なら、切り方やレシピを示す。食べ切れないことが不安なら、販売単位を見直す。味への疑問があるなら、試食や加工品で確かめてもらう。

「規格外」という分類だけで、顧客のためらいを一括りにしないことが大切だ。

生産者にとっても、継続できる価格や選別・配送の負担を考える必要がある。安く売れることと、無理なく続けられることは、別に確かめなければならない。

Intermarchéの事例から持ち帰れるのは、不格好さを面白く見せる表現に加えて、買われない理由を分解し、広告と販売の両方で答える考え方だ。

選ばれる理由は、商品の中だけにあるのか

マーケティングでは、商品の特徴や優位性を探すことが多い。

この事例が示すのは、商品がどう理解されているかにも、改善の余地があるということだ。

同じ野菜でも、説明もなく安売りされている場合と、特徴や販売の背景を知り、味を確かめて選ぶ場合では、購入の意味が変わる。

広告はその入口をつくり、売り場は判断を支える。

商品の価値を伝える仕事は、言葉を添えるだけでは完了しない。価格、体験、買いやすさまで含めて、顧客が納得できる状況をつくる必要がある。

EDITOR’S NOTE — NEOTERRAIN

畑から届くものは、いつも同じ形をしているわけではない。

それでも、整った商品が並ぶ棚を見慣れるうちに、私たちは、その姿を野菜の標準だと思うようになる。

Intermarchéの広告は、棚の外側にいた野菜を、大きな写真で見せた。ユーモアに引かれて目を向けると、普段の買い物では考えなかった問いが現れる。

自分は何を見て、良い商品だと判断しているのだろう。

もちろん、形が違うだけで、すべてに価値が生まれるわけではない。味も、鮮度も、使いやすさも大切だ。

その一つひとつを確かめる機会をつくることで、選択肢は広がる。

NEOTERRAINがこの事例に見いだすのは、見過ごされていたものへ関心を向け、買い物という日常の行動につなげる力だ。広告の表現と、売り場での小さな納得。その両方が、新しい選び方を支えていた。

参考資料

※2014年にフランスで実施された施策を扱っています。成果数値は、企業の公式紹介および広告賞掲載の施策資料に基づきます。

NEOTERRAIN JOURNALでは、マーケティングやクリエイティブ、社会の変化を、表面的な手法ではなく、その背景にある構造から読み解いています。

新しい記事や思考のヒントを受け取りたい方は、メールマガジンにご登録ください。

つくる力を、届く力へ。

映像・記事・SNS、マーケティングや企画など、
現場で培った「伝わるコンテンツ」のヒントをお届けします。

この記事が響いたら、シェアしていただけると嬉しいです。
  • URLをコピーしました!
Contents