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なぜ、バーガーキングは客をマクドナルドへ向かわせたのか?|「Whopper Detour」に学ぶ、行動を生むマーケティング

マクドナルドとバーガーキングを結ぶ曲がりくねった道、地図を表示したスマートフォン、ハンバーガーのイラスト。「なぜ、客をライバル店へ向かわせたのか。」の文字。
マクドナルドとバーガーキングを結ぶ曲がりくねった道、地図を表示したスマートフォン、ハンバーガーのイラスト

世界のマーケティングを読み解く|アメリカ・バーガーキング

顧客に、自分の店へ来てもらう。

飲食店の広告なら、当然の目的だろう。ところがバーガーキングは、客にライバルの店へ向かうよう呼びかけた。

マクドナルドの近くへ行くと、ワッパーが1セントで買える。

2018年、アメリカで実施された「Whopper Detour(ワッパー・ディツアー)」だ。Detourとは「回り道」のこと。その名のとおり、顧客に回り道をしてもらうキャンペーンだった。

ただし、マクドナルドでワッパーが受け取れるわけではない。そこに近づくとバーガーキングのアプリで特典が利用でき、注文後は近くのバーガーキングへ案内される仕組みだった。

なぜ、わざわざ遠回りをさせたのか。

この一見ふざけた施策を読み解くと、広告で人の関心を集めることと、実際の購買行動を生むことを、どう結びつけるかが見えてくる。

Contents

課題は「アプリをつくったのに、使ってもらえない」

キャンペーンの背景にあったのは、バーガーキングのモバイルアプリの刷新だ。事前注文機能を備えたアプリに、どう関心を持ってもらうかが課題だった。

制作側がThe One Showに提出した説明でも、事前注文への対応は競合に後れを取っており、それ自体ではニュースになりにくかったと振り返っている。

企業にとって、新機能の追加は大きな出来事だ。しかし、顧客にとっては「便利なアプリが、また一つ増えた」という程度かもしれない。

スマートフォンにアプリを入れ、必要な情報を登録し、操作を覚える。その手間をかける理由がなければ、利用は始まらない。

ここから考えられるのは、機能の便利さを説明するだけでは、最初の利用を促すには足りない場合があるということだ。

バーガーキングは、その最初の一回に、参加したくなる理由をつけた。

マクドナルドに近づくと、特典が開く

仕組みを支えたのは「ジオフェンシング」という技術だった。

地図上の特定の場所に仮想的な境界を設け、利用者がその範囲に入ったことを位置情報で判定する。

Whopper Detourでは、全米の約1万4,000のマクドナルド店舗を対象に設定。店舗から600フィート、約183メートル以内に入ると、バーガーキングのアプリで1セントのワッパーを注文できた。注文後は、受け取り先となる近くのバーガーキングへ案内された。

流れは、次のようになる。

顧客の行動施策の中で果たす役割
キャンペーンを知る「なぜマクドナルド?」という疑問が生まれる
アプリをダウンロードする特典を利用する入口になる
マクドナルドの近くへ行く位置情報によって特典が利用可能になる
アプリで注文する新しい注文機能を実際に使う
バーガーキングへ移動する店舗への来店と商品受け取りにつながる

重要なのは、話題を知った後の行動が、アプリの利用へつながっている点だ。

「面白い広告だった」で終わらず、その面白さを体験する過程で、企業が使ってほしかったサービスに触れることになる。

ライバルの店舗数を、自社の入口に変えた

なぜ、特典を利用できる場所をマクドナルドにしたのか。

当時のグローバルCMO、フェルナンド・マチャド氏の寄稿によると、企画の出発点には、アメリカでバーガーキングの店舗数がマクドナルドより少ないという状況があった。

バーガーキングを食べたい人が、より遠くまで移動しなければならない。その「余分な距離」に報いるという発想から、企画が育っていったという。

マーケティングの視点から見ると、ここには競争条件の捉え直しがある。

通常、競合の店舗が多いことは、自社にとって不利な条件になる。顧客は、近くにある店を選びやすいからだ。

ところがこの施策では、マクドナルドの店舗がある場所を、バーガーキングの特典に触れる場所として利用した。

店舗を新設したわけでも、競合の店内に広告枠を買ったわけでもない。スマートフォン上の仕組みによって、既存の街の中に新しい接点をつくったのである。

競合の強みを観察し、その存在を自社の施策にどう組み込めるかを考えた。 挑戦者ブランドの戦略として、ここは学ぶ価値がある。

1セントの安さに「参加する面白さ」が加わった

もちろん、ワッパーが1セントという価格には強い魅力がある。

ただ、価格だけで考えると疑問も残る。アプリを入れ、位置情報を有効にし、指定の場所へ行き、注文して、別の店へ移動する。顧客に求める行動は多い。

それでも参加する理由を、どうつくったのか。

ここからは、施策の構造についての考察になる。

Whopper Detourには、「ライバル企業へのいたずらに、自分も参加できる」という面白さがあった。顧客は広告を見る側から、出来事を起こす側へ回れる。

さらに、人にも説明しやすい。

「マクドナルドの近くに行くと、バーガーキングが1セントになるらしい」

この一文に、価格の魅力、意外性、参加方法の核心が含まれている。「どういうこと?」という会話も生まれやすい。

こうした仕組みは、利用までの手間を、体験の一部として受け止めてもらう設計と捉えられる。

ただし、手間を増やせば面白くなるわけではない。参加したいと思う理由と、その手間の釣り合いが必要だ。

値引きで得たかったものは、最初の注文体験

飲食店の値引きでは、その日の販売数に目が向きやすい。

しかし、この施策で顧客が経験したのは、安いハンバーガーの購入だけではない。アプリを入れ、注文し、店で受け取るという一連の操作だった。

一度使い方を知れば、次回の利用では「どう注文するのか」を最初から覚える必要がなくなる。

この点で、1セントという価格は、新しい注文方法を試してもらうためのきっかけとして機能したと考えられる。

広告で関心を集めること、特典で利用を促すこと、アプリ上で注文を完了してもらうこと。それぞれを一つの体験として組み立てた点に、この事例の特徴がある。

成果はどうだったのか

The One Showの掲載資料によれば、9日間でアプリのダウンロードは150万件を超えた。

また、マチャド氏は2019年の寄稿で、キャンペーン期間中のアプリ経由の売上金額が従来の3倍となり、終了後も従来の2倍の水準だったと報告している。いずれも実施側が公表した数字で、同氏は社内データに基づくと説明している。

ここで注意したいのは、アプリ経由の売上と、企業全体の売上を分けて読むことだ。

店頭で注文していた人がアプリへ移れば、アプリ経由の売上は増える。新たな購入が増えた部分と、注文経路が変わった部分を、この数字だけで切り分けることはできない。

同様に、ダウンロード数は継続利用者数ではない。

この施策を評価するなら、話題の大きさに加えて、その後の利用率、再購入、追加注文、顧客獲得にかかった費用なども見たい。

公開情報から確認できるのは、短期間に大きな利用の入口をつくり、実施側がキャンペーン後のアプリ売上にも効果を報告していることだ。

「思いつき」を動く仕組みにするまで

短く説明できる企画ほど、簡単に実施できたように見えることがある。

しかし、マチャド氏によれば、実現には約1年を要した。アプリの注文・決済機能と位置情報による判定を、安定して連動させる必要があったという。

顧客が指定の場所まで行ったのに、特典が表示されない。注文できたのに、受け取る店が分からない。そんなことが起きれば、期待はすぐに不満へ変わる。

この企画では、意外なアイデアを考える力と、顧客が迷わず利用できる仕組みをつくる力の両方が必要だった。

企画の魅力は、現場で体験できて初めて顧客に届く。そのことも、この事例から読み取れる。

日本の企業や地域は、何を持ち帰れるか

Whopper Detourの表面だけをまねれば、「競合の近くでクーポンを出す」という施策になる。

より広く応用できるのは、顧客に起こしてほしい行動から、企画を組み立てる考え方だ。

例えば、地域の観光施策であれば、動画を見てもらった後に、何をしてほしいのか。地図を開くのか、店を予約するのか、現地で回遊するのか。

商品のプロモーションであれば、認知の先に、試用、会員登録、再購入のどれを求めるのか。

その行動を妨げている理由を確かめ、参加したくなるきっかけを設ける。さらに、途中で迷わず完了できるようにする。

バーガーキングの事例が教えるのは、意外性と事業上の目的を、一つの体験としてつなぐ設計である。

EDITOR’S NOTE — NEOTERRAIN

街には、すでに多くの看板がある。

人はそれを目印に道を曲がり、店を選び、いつもの昼食へ向かう。企業が長い時間をかけて築いた店舗網は、人々の習慣の一部になっている。

Whopper Detourは、その見慣れた街に、別の行き先を重ねた。

マクドナルドの看板を見つけることが、バーガーキングへ向かうきっかけになる。スマートフォンの画面を通すことで、同じ場所に違う意味が生まれた。

この企画の面白さは、ライバルをからかった大胆さにある。同時に、顧客の移動、注文、受け取りまでを見通していたことにもある。

人が面白がる気持ちを、実際の行動へつなぐ。その接点を考えるところに、クリエイティブとマーケティングが出会う余地がある。

参考資料

※2018年にアメリカで実施された施策を扱っています。成果数値は、実施側の公表資料に基づきます。

NEOTERRAIN JOURNALでは、マーケティングやクリエイティブ、社会の変化を、表面的な手法ではなく、その背景にある構造から読み解いています。

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