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日本と南アフリカのマーケティング比較——「欲しい」の前に、「買える」をつくる

Colorful illustration of Japanese and South African neighborhood shops, with people exchanging goods and a bicycle nearby. Japanese text reads, “I want it. But can I buy it?”
日本と南アフリカのマーケティング比較|「買える」をつくる仕組み

同じパンを買うにも、買い物の意味は人によって違う。

通勤途中に立ち寄る人。家計の残りを数えて選ぶ人。アプリで注文し、届くまでの時間を別のことに使う人。

商品を選ぶ理由は、味やブランドだけでは決まらない。店までの距離、今日使えるお金、支払い方法、受け取れる時間。その条件が、選択肢そのものを変えている。

日本と南アフリカの小売を比較すると、マーケティングの仕事が、魅力を伝えることから「購入が成立する条件をつくること」へと広がって見える。

本記事では食品・日用品の小売と配送を中心に考える。企業事例を国全体の特徴と同一視せず、異なる生活条件にどう応えるかを読み解きたい。

Contents

1.近くの店は、商品の置き場所以上の存在になる

日本のコンビニは、食品や日用品を売るだけでなく、暮らしの用事が重なる場所でもある。

セブン‐イレブンの公式案内では、現金、クレジットカード、交通系IC、コード決済などの支払い方法や、ATM、宅配便の発送などが紹介されている。サービスの有無には店舗による違いがある。[1]

この仕組みをマーケティングの視点で見ると、来店理由が一つに限定されていないことが分かる。商品を買う用事と、別の用事が同じ場所でつながる。

南アフリカで注目したいのは、スパザショップ(spaza shop)という地域の小規模な食料品・日用品店だ。

政府広報SAnewsは、これらの店がタウンシップや農村で生活必需品へのアクセスを支え、地域の雇用や経済にも関わっていると説明している。[2]

タウンシップとは、南アフリカの歴史的な人種隔離政策と深く関わる居住地域を指す言葉である。現在の地域ごとの状況は多様で、一括りにはできない。

日本のコンビニとスパザショップは、事業規模や運営の仕組みが異なる。それでも比較の接点はある。

「何を売っているか」と同時に、「どの生活動線にあるか」が価値を決めるという点だ。

遠くの大型店のほうが安くても、移動に費用と時間がかかるなら、近くの店が合理的な選択になることがある。売場の比較には、売場へ行くまでの負担も含まれている。

2.「単価が安い」と「今日買える」は違う

価格を考えるとき、私たちはよく一個あたり、一キログラムあたりの金額を比べる。まとめ買いのほうが割安なら、大きいほうがお得だと考える。

けれど、それを選ぶには、一度に支払えるお金、持ち帰る手段、保管場所が必要になる。

たとえば、小容量の商品と大容量の商品があるとする。大容量のほうが単価は低くても、今日の予算を超えていれば買えない。小容量のほうは単価が高くても、支払える金額に収まる。

これは生活条件を考えるための例であり、南アフリカの消費者全体を説明するものではない。日本でも同じ問題は起こりうる。

南アフリカの大手小売グループShopriteの2025年統合報告書には、600グラムのブラウンブレッドを5ランドで提供する取り組みが記載されている。同社は、この価格を2016年4月の導入以来維持してきたとしている。[3]

注目したいのは、安さの宣伝に加え、一定の金額で生活必需品を買えるようにする商品設計だ。

顧客にとって意味を持つのは、比較表で最安かどうかだけではない。「手元の金額で、何が手に入るか」でもある。

ここから日本の企業が考えられるのは、入口となる価格の設計だ。

初回利用にまとまった支出が必要なら、小さく試せる商品を用意できないか。セット販売しかないなら、必要なものだけ買えるようにできないか。

値下げする前に、容量、提供単位、購入頻度を見直す余地がある。

3.小さな店と即時配送は、同じ市場に存在する

南アフリカを「価格に敏感な市場」とだけ捉えると、見落とすものがある。

Shopriteグループの2025年サステナビリティ報告書は、Checkersを比較的所得の高い顧客に向けたブランド、Shopriteを中低所得の顧客に向けたブランドとして説明している。また、Sixty60は食品などの1時間配送を掲げるサービスとして紹介されている。[4]

同じグループの中に、異なる生活条件に応える仕組みがある。

ここから読み取れるのは、「南アフリカ人には何が響くか」という大きな問いでは、顧客理解が足りないということだ。

ある買い物では支払額を抑えたい。別の買い物では移動や待ち時間を減らしたい。同じ人でも、その日の事情によって優先順位は変わる。

日本でも、節約のためにスーパーを選ぶ人が、忙しい日にはコンビニや配送を利用することがある。「節約派」「便利さ重視」と固定した人物像だけでは、実際の行動を捉えきれない。

比較すべきなのは、顧客の属性だけでなく、買い物が起きる場面だ。

何を急いでいるのか。何を節約したいのか。どこで手間を感じているのか。

その問いに応えることで、同じ商品でも別の価値として届けられる。

4.ネットで注文できても、受け取れなければ買い物は完結しない

ECでは、商品ページや購入ボタンが注目される。しかし、顧客にとって買い物が終わるのは、商品を手にしたときだ。

南アフリカのPargoは、オンラインで注文した商品を受取拠点で引き取る「クリック&コレクト」を提供している。公式サイトでは、4,000か所以上のPargo Pointsを案内している。[5]

自宅配送以外の選択肢があることは、受け取り方を生活に合わせる余地になる。

自宅で待つより、通勤や買い物の途中で受け取りたい人もいるだろう。大切なのは、どちらが先進的かではなく、顧客の生活に合うかである。

配送日が読めない。送料が最後まで分からない。受取条件が複雑である。こうした問題は、商品への関心が高くても購入をためらう理由になる。

日本のECや地域ビジネスでも、同じ視点を使える。

商品を詳しく説明するだけでなく、いつ、どこで、どのように受け取れるかを、選ぶ段階で見せる。対応エリアや条件も明確にする。

顧客が欲しいのは、購入ボタンを押す体験だけではない。買ったものを、予定どおり使える体験だ。

5.「買わない理由」を、好みだけで説明しない

マーケティングでは、売れないときに「訴求が弱い」「ブランドが知られていない」と考えがちだ。

もちろん、それが原因の場合もある。しかし、買わない理由が購入条件にあるなら、コピーを変えるだけでは解決しない。

店へ行きにくい。必要な量で買えない。使える支払い方法がない。受け取れる時間が合わない。

これらは、商品の魅力とは別の場所で起こる問題だ。

南アフリカの事例から学べるのは、顧客の関心を引く前後に、どんな負担があるかを探す姿勢である。

日本でも、都市で成立するサービスが、そのままほかの地域で使いやすいとは限らない。移動手段、生活時間、利用できる店舗が違えば、同じ提供方法でも負担は変わる。

顧客起点とは、顧客の好きな言葉を探すことだけではない。

その人が買い物を始め、支払い、受け取り、使うまでを具体的に理解することだ。

6.PSELで考える、「買える」を支えるマーケティング

日本と南アフリカの比較を、PSELの四つの視点で整理してみよう。

視点問い事業への応用
Product:商品必要な量を、支払える金額で買えるか容量、セット内容、初回商品を見直す
Story:物語どんな生活の場面で役に立つか品質の説明を、使う場面と結びつける
Energy:熱量・関係約束を守り、継続して利用してもらえるか店頭対応、欠品時の案内、配送連絡を整える
Land:土地距離や生活動線に合った提供方法か店舗、配送、受取拠点の組み合わせを考える

これは両国の優劣を示す表ではなく、確認した事例から導いた実務上の問いである。

Productを変えずに広告だけ変える。Storyを磨いても、受け取る方法は分かりにくいままにする。そうした状態では、関心が購入へつながらないことがある。

四つをつなぐと、マーケティングは商品の外側まで広がる。売場、支払い、接客、配送も、顧客に価値を届ける仕事の一部になる。

7.日本の事業者が、明日から確認できること

まず、購入を見送った人に「どこで迷ったか」を聞いてみる。

価格そのものなのか。一度に払う金額なのか。送料なのか。受取条件なのか。「高い」という一言の中にも、異なる問題がある。

次に、商品の価格と一緒に、購入に必要な総額を見せる。追加料金があるなら、その条件も伝える。

そして、小さく始める方法を考える。少量の商品、単発の利用、短い体験。最初の選択を、顧客の生活に合う大きさにできないか。

最後に、購入後まで約束をつなげる。確認の連絡、受取案内、使い方、困ったときの相談先。そこでの経験が、次に選ぶ理由になる。

日本と南アフリカの違いは、「日本は品質、南アフリカは価格」という言葉では捉えられない。

どちらにも、異なる予算、時間、移動条件の中で暮らす人がいる。その違いを見ずに、一つの便利さ、一つのお得さを届けても、届かない人が残る。

「欲しい」と思ってもらうこと。
そして、その気持ちを行動に変えられる条件を整えること。

パン一つを買うまでの道のりにも、マーケティングの仕事がある。


参考資料

企業のサービス説明・自己報告と、それを踏まえた考察を区別して記述しています。企業資料は主に2025年度のものを使用。サービスの利用条件や提供範囲は地域・店舗によって異なります。

  1. セブン‐イレブン・ジャパン「FAQ」
  2. SAnews「Empowering communities through sustainable spaza shops」(2026年8月4日)
  3. Shoprite Holdings「Integrated Report 2025」
  4. Shoprite Holdings「Sustainability Report 2025」
  5. Pargo公式サイト

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