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なぜ運動すると、頭がスッキリするのか?──身体を動かすと「脳」まで変わる理由

運動すると頭がスッキリする理由を、HUEとルーモが脳血流やBDNF、創造性の視点から解説するイラスト
運動すると頭がスッキリする理由を、HUEとルーモが脳血流やBDNF、創造性の視点から解説するイラスト

ずっとパソコンに向かっている。

考えても、考えても、アイデアが出てこない。

集中力も落ちてきた。

そこで、少し外へ出て歩いてみる。

10分。20分。

すると不思議なことに、さっきまで絡まっていた考えが整理されたり、急にアイデアが浮かんだりすることがあります。

身体を動かしたのだから、本来なら疲れるはず。

それなのに、

なぜ頭は、逆にスッキリするのでしょうか。

人間って、不思議ですよね。

Contents

脳も、身体の一部である

私たちはつい、

「考えるのは脳」

「運動するのは身体」

と分けて考えます。

でも当然ながら、脳も身体の一部です。

運動を始めると、心拍数が上がり、呼吸が変化し、血液循環や代謝も変わります。

そして、その影響から脳だけが切り離されているわけではありません。

一回の有酸素運動でも、その後の注意、実行機能、情報処理などの認知機能に小さいながらプラスの効果がみられることが、複数の研究をまとめたメタ分析で報告されています。

ただし、ここで大切なのは、

「運動すれば必ず頭が良くなる」という話ではない

ということです。

運動の種類、強度、時間、年齢、体力、その日の状態によって影響は異なります。

それでも「身体を動かした後、なんとなく頭が冴える」という私たちの日常的な感覚には、研究上も興味深い背景があります。

運動すると、脳への血流も変化する

運動をすると筋肉は、より多くの酸素やエネルギーを必要とします。

心拍数が上がり、循環が変化する。

同時に、脳への血流も運動強度などに応じて変化します。

特に軽度から中程度の運動では、脳血流が増加することが報告されています。

ただし、

「血流が増えた=そのまま頭が良くなる」

と単純化することはできません。

脳血流は運動強度によって変わり、高強度になると異なる反応も起こります。

それでも運動中の脳は、椅子に座っているときとまったく同じ状態ではない。

身体を動かすことで、

脳を取り巻く生理的な環境そのものが変化している

のです。

脳の中では「化学的な環境」も変わる

さらに面白いのは、血流だけではありません。

運動すると、脳内ではさまざまな神経伝達物質や成長因子に関係する変化が起こります。

よく研究されているものの一つが、

BDNF(脳由来神経栄養因子)

です。

BDNFは神経細胞の生存や可塑性、学習・記憶などに関係するタンパク質です。

急性運動や継続的な運動とBDNFの関係については多くの研究があり、運動後に末梢血中のBDNF濃度が一時的に上昇することなどが報告されています。

ここでも、

「運動 → BDNF → 頭がスッキリ」

という一本の矢印だけで説明できるわけではありません。

人間の脳は、それほど単純ではないからです。

でも少なくとも、

身体を動かすことは、筋肉だけの出来事ではない。

脳内の環境にも変化を与えている。

これはかなり興味深い事実です。

「気分が変わる」ことも大きい

散歩したあと、

「なんとなく気分が軽くなった」

と感じたことはないでしょうか。

運動と気分の関係も長く研究されています。

身体活動は、気分や不安感、ストレス反応などとも関連します。

さらに、運動すると私たちは一度、

パソコン。

スマートフォン。

仕事。

同じ姿勢。

同じ視界。

同じ思考。

から離れます。

これは非常に重要です。

頭がスッキリする理由を、すべて「脳内物質」だけで説明する必要はありません。

環境が変わる。身体感覚が変わる。注意の向き先が変わる。

これらも同時に起きています。

だから「散歩すると考えが整理される」という現象は、一つのメカニズムだけではなく、複数の変化が重なった結果と考える方が自然でしょう。

なぜ歩いていると、アイデアが出るのか?

ここからは、クリエイティブな仕事をしている人には特に面白い話です。

スタンフォード大学の研究者らが2014年に発表した実験では、座っている場合と比べ、歩いているときに発散的思考を測る課題の成績が高まったことが報告されています。

つまり、

「正解を一つ探す」

というより、

「いろいろなアイデアを生み出す」

タイプの思考です。

ただし、歩けばあらゆる知的作業の成績が上がるわけではありません。

同研究でも、収束的思考では同じ効果は確認されませんでした。

ここが面白い。

歩くことは、

「考える能力そのものを万能に高める」のではなく、思考のモードに影響している可能性がある。

ということです。

だから、

企画に詰まった。

文章が書けない。

アイデアが出ない。

そんなときに自然と立ち上がって歩きたくなるのは、案外理にかなっているのかもしれません。

人間の脳は「机に座るため」に進化したのか?

少し視点を変えてみましょう。

現代人は、一日のかなり長い時間を椅子の上で過ごします。

仕事。

勉強。

会議。

動画。

SNS。

移動。

しかし、人類の歴史全体から見れば、

一日中ほとんど動かず、画面を見ながら思考する生活は極めて新しいものです。

私たちの祖先は、

歩きながら周囲を見る。

食べ物を探す。

危険を察知する。

場所を覚える。

他者と協力する。

といった行動をしてきました。

「身体を動かすこと」と「情報を処理すること」は、現在のオフィスのように明確に分離していなかったはずです。

もちろん、

「だから歩けば脳が本来の状態に戻る」

とまで言うことはできません。

進化の話を単純な健康法へ結びつけるのは危険です。

それでも、

人間にとって運動と思考は、私たちが想像するほど別々の活動ではない

という視点は持てます。

「疲れる運動」と「頭が冴える運動」は同じではない

運動量を増やせば増やすほど、認知機能が上がるわけではありません。

極端に激しい運動をすれば、当然疲労も大きくなります。

脱水や体温上昇、エネルギー消費などによって、一時的に集中しにくくなることもあります。

だから、

「頭をスッキリさせるなら激しく運動すればいい」

という話ではありません。

研究でも、運動強度と認知機能の関係は単純ではなく、課題や条件によって結果が変わります。

私たちが日常で経験する、

「少し歩いたら頭が整理された」

という現象は、マラソンを走り切った後の身体とはまったく違います。

座って考えることだけが「思考」ではない

学校でも会社でも、

「考える」

という行為は、机に座って行うものだと思われがちです。

腕を組む。

画面を見る。

資料を読む。

頭の中で考える。

しかし、人間の思考は頭蓋骨の中だけで完結しているわけではありません。

歩く。

景色を見る。

呼吸が変わる。

身体のリズムが生まれる。

外から新しい刺激が入ってくる。

そのすべてを脳は受け取っています。

だから、

「考えるために、身体を動かす」

という選択肢があってもいい。

BODYとBRAINは、本当に別々なのか?

ここまでHUEでは、

#01「疲れているのに、なぜ眠れないのか?」

#02「緊張すると、なぜお腹が痛くなるのか?」

を見てきました。

一見すると別々の話です。

でも、共通していることがあります。

眠るのは身体。

お腹が痛くなるのも身体。

歩くのも身体。

しかし、そのすべてに脳が関わっています。

そして逆に、脳も身体から切り離されてはいません。

BODYとBRAINの境界は、私たちが思っているほど単純ではない。

HUEが観察しているのは、その境界です。

人間って、不思議ですよね。

考えに詰まったとき、私たちは頭を使おうとします。

もっと考える。

もっと画面を見る。

もっと情報を探す。

でも、そんなとき。

椅子から立って、少し歩く。

それだけで、景色が変わることがあります。

身体を動かす。

心拍が変わる。

呼吸が変わる。

脳を取り巻く環境が変わる。

注意が変わる。

そして、ときには思考まで変わる。

もしかすると人間にとって、

「考える」という行為は、頭だけでするものではないのかもしれません。

身体を動かすと、頭が動き始める。

人間って、不思議ですよね。

参考資料

Oppezzo M, Schwartz DL. “Give Your Ideas Some Legs: The Positive Effect of Walking on Creative Thinking.” Journal of Experimental Psychology: Learning, Memory, and Cognition, 2014.

Chang YK, et al. “The effects of acute exercise on cognitive performance: a meta-analysis.” Brain Research, 2012.

Szuhany KL, et al. “A meta-analytic review of the effects of exercise on brain-derived neurotrophic factor.” Journal of Psychiatric Research, 2015.

Herold F, et al. “Functional and/or structural brain changes in response to resistance exercises and resistance training lead to cognitive improvements – a systematic review.” European Review of Aging and Physical Activity, 2019.

※本記事は運動・脳・認知機能に関する一般的な科学情報を紹介するものであり、個別の医学的助言や運動指導を目的としたものではありません。持病がある場合や運動中に体調の異変を感じる場合などは、必要に応じて医療専門家へご相談ください。

HUE|HUMAN SERIES #03
SCIENCE × ART × HUMAN

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