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土はなぜ循環しないのか—建設発生土を分断する「時間・距離・責任」

異なる土質の建設発生土が積まれた山間の保管場所と、その間を延びる搬出路のイメージ
異なる土質の建設発生土が積まれた山間の保管場所と、その間を延びる搬出路のイメージ

都市の地下では、今日も土が掘り出されている。

ビルの基礎、地下鉄、道路、下水道、トンネル。都市が新しい機能を獲得するたびに、その足元から大量の土が地上へ運び出される。

一方、都市の外では、堤防、造成地、道路の盛土などをつくるために土が必要とされている。

土が余る場所があり、土を必要とする場所がある。

それなら、両者を結べばよい。建設発生土の問題は、一見すると単純な需給調整に見える。

しかし、現実にはそうならない。

ある現場では、土を運び出すために費用を払う。その近隣の別の現場では、山砂などの新しい土を購入する。使える可能性のある土が「余剰」となり、別の土地を削って得た土が「商品」として運ばれる。

なぜ、このすれ違いは起きるのか。

建設発生土の問題を深く見ていくと、そこには土質だけではなく、工期、距離、保管場所、契約、責任が分野ごとに分断された、日本の開発の構造が見えてくる。

Contents

土は「ごみ」ではない。しかし、いつでも資源になるわけでもない

まず押さえておきたいのは、建設発生土は、原則として廃棄物処理法上の廃棄物ではないということだ。

国土交通省は、建設工事から搬出される土砂を「建設発生土」と定義し、建設汚泥とは区別している。

土は、盛土、埋め戻し、造成、堤防などに利用できる。適切な場所と用途があれば、捨てるものではなく、別の土地をつくる材料になる。

ただし、ここに難しさがある。

コンクリート塊や金属のように、一定の工程を経れば比較的規格化された再生材になるものとは異なり、土の性質は場所ごとに違う。

砂質土なのか、粘性土なのか。水分を多く含むのか。締め固めやすいのか。目的とする構造物に必要な強度を確保できるのか。自然由来を含む有害物質の確認が必要なのか。

つまり、土は存在するだけでは資源にならない。

必要とする場所、用途、時期、品質がそろったときに、初めて資源になる。

価値が物の中だけにあるのではなく、周囲との関係によって生まれる。その点で、建設発生土は極めて「土地的な資源」なのである。

全国で約1億3,000万立方メートルが現場外へ運び出された

国土交通省の2018年度調査によると、全国の建設現場から搬出された建設発生土は約1億3,263万立方メートルだった。建設発生土の有効利用率は79.8%とされている。

東京ドームの容積を約124万立方メートルとして単純換算すれば、100杯を超える規模である。

ただし、この数字を「約8割が別の建設工事で循環した」と読むことはできない。

有効利用率には、現場内利用や工事間利用だけでなく、適正に行われた採石場跡地の復旧や農地への受け入れなども含まれる。土地の機能回復に役立つ受け入れは重要だが、掘削した土が次の建設資材として循環した割合と、完全に同じ意味ではない。

なお、次の全国調査は2024年度を対象に実施され、結果は2026年中に公表予定とされている。本稿執筆時点では、2018年度の79.8%が公表済みの最新全国値である。

数字の背後で問うべきなのは、単に「利用されたか、されなかったか」ではない。

どれだけの土が工事と工事の間を循環したのか。どれだけが長距離を運ばれたのか。どれだけが一度受け入れ地に置かれたまま、次の用途を持てなかったのか。

土の循環を理解するには、率だけでなく、その経路まで見る必要がある。

循環を止める、四つの不一致

建設発生土の工事間利用を難しくする要因は、大きく四つある。

1.量が合わない

一つのトンネル工事から、短期間に大量の土が発生する。一方、近隣で行われる造成工事が必要とする土量は、それよりはるかに少ないかもしれない。

土を出す側の規模と、受け入れる側の規模が一致しなければ、一部を再利用できても残りの行き先が必要になる。

2.質が合わない

受け入れ先が求めているのが締め固めやすい良質な砂質土でも、搬出側から出るのが水分の多い粘性土であれば、そのまま利用できない場合がある。

土質改良によって用途を広げることはできる。しかし、改良設備、品質管理、費用、作業場所が必要になる。

「土がある」ことと、「その工事に使える土がある」ことは違う。

3.時期が合わない

最も見えにくく、重要なのが時間である。

搬出工事が4月に土を出しても、受け入れ工事が必要とするのが10月なら、半年間の保管場所が必要になる。都市部では、何万立方メートルもの土を安全に仮置きできる土地を確保すること自体が難しい。

工事の遅延や設計変更もある。予定していた搬入先が土を必要とする時期を変えれば、搬出側は新しい行き先を短期間で探さなければならない。

土の循環に必要なのは、輸送網だけではない。

時間を吸収する場所が必要なのである。

4.距離が合わない

土は単価に対して重く、かさばる。運ぶ距離が長くなるほど、燃料、人件費、車両、交通負荷、二酸化炭素排出が増えていく。

遠くに理想的な受け入れ工事があっても、近くの適正な受け入れ地へ搬出する方が、事業費と工期の面では合理的になる場合がある。

公共工事の「リサイクル原則化ルール」では、工事現場から50キロメートルの範囲を一つの目安として、受け入れ時期や土質を考慮した建設発生土の利用が求められてきた。それでも、地域によっては範囲内に需要がない。国土交通省近畿地方整備局の事例でも、周辺に受け入れ工事や民間の受け入れ先が少なく、工事間利用が難しい実情が報告されている。

土の余剰は、全国一様に発生するのではない。

都市圏、山間部、沿岸部によって、出る量も必要量も違う。建設発生土は全国市場で自由に取引できる商品というより、移動可能な範囲が限られた地域資源なのである。

「捨てる土」と「買う土」が同時に存在する矛盾

ここで一つの逆説が生まれる。

同じ地域で、不要な土を搬出する工事と、新しい土を購入する工事が同時に存在することがある。

この矛盾は、担当者が怠慢だから生じるわけではない。

工事ごとに予算、発注者、設計、契約、工期が分かれているからだ。搬出側にとっては、決められた期限までに土を適正な場所へ運び出すことが責任になる。搬入側にとっては、品質が保証された土を必要な日に確実に調達することが責任になる。

両者がそれぞれの工事を最適化すると、地域全体では非効率が残る。

これは、個々の現場の問題ではなく、全体をつなぐ仕組みの問題である。

都市計画では建物や道路の配置を考える。物流計画では資材の搬入を考える。しかし、掘り出される土の量と行き先を、複数事業にまたがる「地域の土の収支」として設計する視点は、十分に定着しているとはいえない。

都市が完成後の空間を設計する一方で、建設過程で動く地盤そのものは、工事単位で処理されやすかったのである。

ストックヤードは、「土の倉庫」ではなく時間のインフラである

量、質、時期の不一致を調整するために重要になるのが、ストックヤードと土質改良プラントである。

ストックヤードがあれば、春に出た土を一時的に保管し、秋に必要とする工事へ届けられる。土質改良プラントがあれば、そのままでは使いにくい土の性状を整え、利用先を広げられる。

つまり、これらの施設は単なる置き場ではない。

  • 工事と工事の時間差を吸収する
  • 異なる土量をまとめ、必要量に分ける
  • 土質を確認し、用途に合う状態へ整える
  • 搬出元と搬出先の記録をつなぐ

という、循環の中継拠点である。

しかし、次の利用先が見つからなければ、仮置きは長期化する。循環のための施設が、事実上の最終的な受け入れ地へ近づいてしまう危険もある。

2024年の国土交通省の検討資料では、土質改良プラントやストックヤードを工事間利用の調整施設として位置づける一方、十分に再搬出されず「残土処分地化」する課題も指摘された。同資料は、搬出先を探す情報だけでなく、土が再び出ていくところまで見る必要性を示している。

問われるのは、入ってきた量ではない。

次の用途へ、どれだけ接続できたかである。

熱海土石流後、「行き先を確認する責任」は強化された

2021年7月に静岡県熱海市で発生した土石流災害は、盛土をめぐる制度の転機となった。

従来は、土地の用途や区域によって規制に差があり、危険な盛土を包括的に捉えきれない場所があった。これを受けて制定された盛土規制法は、土地の用途にかかわらず、危険な盛土等を全国一律の基準で規制する仕組みとして2023年5月に施行された。

同時に、資源有効利用促進法に基づく建設発生土の搬出先計画制度も強化された。一定規模以上の工事では、元請業者が搬出先を記載した再生資源利用促進計画を作成し、搬出前の適正確認や、受領書等による搬出後の確認を行う仕組みが整えられている。国土交通省の案内によると、土砂については500立方メートル以上を搬出する工事などが計画作成の対象となる。

また、適正な管理と記録を担うストックヤード運営事業者登録制度も始まった。

これは大きな前進である。

これまで見えにくかった「誰が、どの土を、どこへ運んだのか」を追跡しやすくし、責任が途中で途切れることを防ぐ方向へ制度は動いている。

ただし、規制によって不適正な搬出先を減らすことと、土を資源として循環させることは同じではない。

適正な行き先を確認できても、利用需要そのものが生まれるわけではない。安全な受け入れ地を増やすだけでは、土の循環は完成しない。

入口を規制し、経路を記録し、出口の需要までつくる。

三つがそろう必要がある。

必要なのは、「工事の最適化」から「地域の土収支」への転換

建設発生土を本当に循環させるには、工事が始まってから搬出先を探すだけでは遅い。

計画段階で、地域内の複数事業を横断して土の収支を把握する必要がある。

今後数年間に、どの工事から、どのような土が、どれだけ発生するのか。同じ地域で、いつ、どのような土が必要になるのか。時期がずれる場合、どこで安全に保管できるのか。改良によって利用可能になる土はどれだけあるのか。

いわば、地域ごとの「土の予算書」をつくるのである。

そのためには、次のような転換が求められる。

発生してから探すのではなく、設計時に行き先を組み込む

掘削量を抑える設計、現場内での再利用、近隣工事との調整を、施工後の努力ではなく、計画・設計・積算の条件にする。

公共工事と民間工事の情報をつなぐ

道路、河川、建築、宅地造成を発注主体ごとに分けず、土量、土質、時期、位置の情報を地域単位で共有する。情報交換システムは、登録される情報の早さと正確さがあって初めて機能する。

ストックヤードを地域インフラとして位置づける

単なる受け入れ地ではなく、短期保管、品質確認、土質改良、記録管理、再搬出を担う拠点として評価する。入庫量より、再利用先へ接続した量を成果として見る。

安さの中に、遠距離輸送と土地リスクを含める

目の前の処理費だけで搬出先を選べば、運搬による環境負荷や、受け入れ地が将来負う維持管理の責任が価格の外へ押し出される。

短期的に安いことと、社会全体で負担が小さいことは同じではない。

土の履歴を、土地の履歴として残す

どこから来た土が、どのような性状で、どこに、どのように造成されたのか。その記録は工事完了時の事務資料にとどめず、土地の維持管理や災害リスク評価へ引き継ぐ必要がある。

建物に設計図があるように、造成された土地にも「地盤の来歴」が必要である。

土を循環させることは、都市と地方の関係を編集し直すこと

建設発生土は、ただの物質ではない。

都市では、地下空間を生み出した結果として現れる。地方や郊外では、造成や復旧の材料として受け入れられる。そして、置かれた後は、その土地の地形となり、水の流れや安全性に長く関わり続ける。

搬出側にとっては、一台のダンプトラックが現場を出れば土は見えなくなる。

しかし、土そのものは消えていない。

別の自治体、別の流域、別の地権者のもとへ移動し、そこで新しい時間を生き始める。

だから、建設発生土の問題は、「残土をどう処分するか」では終わらない。

都市の更新によって生まれた負担を、誰が、どの土地で、どの時間軸まで引き受けるのかという問題である。

土を出す工事と、土を使う工事。

都市と地方。

建設時の費用と、完成後の維持管理。

これらを別々の帳簿で管理する限り、土は循環の途中で「余りもの」になる。

必要なのは、土の移動を一つの地域システムとして捉え直すことだ。

建設発生土の循環とは、単なるリサイクルではない。

分断された工事、時間、土地、責任を、もう一度つなぎ直すことである。

都市が掘り出した土の未来まで設計して、初めて開発は完成する。

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