地下水から、高い濃度のPFASが検出された。
その知らせを聞けば、多くの人が最初に抱くのは、素朴な疑問だろう。
「いったい、どこから流れてきたのか」
近くに工場がある。
空港や基地がある。
消防施設や廃棄物処理施設がある。
過去にPFASを含む薬剤や製品が使われていた可能性があれば、その施設が発生源ではないかと考えるのは自然なことだ。
しかし、地下水からPFASが検出されたという事実だけでは、近隣の施設を発生源と断定することはできない。
水は地表から土壌へ浸透し、複数の地層を通りながら、長い時間をかけて移動する。過去に排出されたPFASが、現在とは異なる地下水の流れによって運ばれている可能性もある。
発生源が一つとは限らない。
使用記録が残っているとも限らない。
土地の所有者や事業者が変わっていることもある。
見つかった汚染と、過去の排出を結びつける。
PFAS問題の本当の難しさは、この「見えない因果関係」にある。
PFASは、どのような場所から環境へ出たのか
PFASは、水や油をはじき、熱や薬品にも強いという性質から、長年にわたり幅広い製品や産業で使用されてきた。
代表的な用途には、次のようなものがある。
- 泡消火薬剤
- 半導体や電子部品の製造
- 金属メッキ
- フッ素樹脂の製造・加工
- 繊維や紙製品の撥水・防汚加工
- 界面活性剤
- 食品包装材
- 工業用洗浄剤や各種薬剤
現在、水環境で特に注目されているPFOSとPFOAは、国際条約と国内法によって製造・輸入などが原則禁止されている。
しかし、規制が始まる以前には、さまざまな場所で使われていた。
製造工程からの排水だけではない。製品の洗浄、薬剤の保管、火災や訓練での泡消火薬剤の使用、廃棄物の埋め立て、保管設備からの漏出など、環境へ出る経路は一つではない。
PFASは分解されにくいため、使用をやめた後も、土壌や地下水に残り続ける可能性がある。
現在の土地利用だけを見ても、発生源が分からない場合があるのはそのためだ。
注目される泡消火薬剤
PFASの発生源を考えるうえで、しばしば注目されるのが泡消火薬剤である。
石油などによる火災では、水だけでは燃料が水面に浮き、消火が難しい。そこで、燃料の表面を泡で覆い、酸素を遮断して再燃を防ぐ泡消火薬剤が使われてきた。
こうした薬剤は、空港、基地、消防施設、石油コンビナート、危険物を扱う工場などで保有・使用されてきた。
環境省の全国在庫量調査によると、PFOSなどを含む泡消火薬剤は、規制後も交換や処分の途中にある施設が確認されてきた。また、防衛省も、自衛隊施設で保有していたPFOS含有泡消火薬剤や、PFOS・PFOAが混入した泡消火設備の水槽水について調査と処分を進めている。
防衛省が2022年に公表した調査では、過去にPFOSなどを含む泡消火薬剤を使用していた可能性がある全国229の水槽のうち、125水槽でPFOS・PFOAの合算値が1リットル当たり50ナノグラムを超えていた。
その後、防衛省は薬剤の交換・処分を進め、混入が確認された水槽水についても、2025年2月末までに処理を完了したと公表している。
ただし、施設内の水槽からPFASが確認されたことと、周辺の地下水汚染がその施設に由来することは、同じではない。
周辺環境との因果関係を判断するには、施設内外の濃度分布、地下水の流向、過去の漏出や使用の記録などを重ねて調べる必要がある。
地下水は、地図の矢印どおりには流れない
河川であれば、上流と下流が地表から見える。
しかし地下水は、地面の傾斜だけで流れる方向を判断できない。
地下には、水を通しやすい砂礫層もあれば、水を通しにくい粘土層や岩盤もある。深さの異なる複数の帯水層があり、それぞれ別の方向へ水が動いている場合もある。
さらに、地下水の流れは、次のような条件にも影響される。
- 雨量や季節
- 河川や水路との関係
- 地下水のくみ上げ
- 地下工事や土地造成
- 地層の亀裂
- 井戸の深さ
- 過去の地形や土地利用
PFASが検出された井戸と、疑われる施設が近いからといって、地下水がその施設から井戸の方向へ流れているとは限らない。
反対に、発生源から離れた場所でも、透水性の高い地層に沿ってPFASが運ばれ、高い濃度が検出されることがある。
現在の濃度分布は、地下水が長い時間をかけてつくった結果である。
地上の距離だけでは、汚染の経路を説明できない。
一つの井戸だけでは、発生源は分からない
発生源を調べるには、一つの測定地点を見るだけでは不十分である。
環境省が2026年6月に公表した「PFOS及びPFOAに関する対応の手引き(第3版)」では、目標値を超える地下水が確認された場合、飲用によるばく露を防ぐとともに、必要に応じて周辺調査を行う考え方が示されている。
調査では、検出地点を中心に井戸の分布を確認し、地下水の流向に対して上流側と下流側の水を比較する。汚染の広がりが帯状なのか、面的なのかも見ていく。
深さの異なる帯水層が汚染されている可能性がある場合には、帯水層ごとに範囲を把握することが望ましいとされている。
既存の井戸だけでは調査地点の空白が大きい場合、観測井を新たに設けることも検討される。
つまり、必要なのは単なる「点」の測定ではない。
複数地点の濃度、深さ、時間的変化を重ね、地下に広がるPFASの立体的な分布を描くことである。
濃度の高い方向に、発生源があるとは限らない
一般的には、発生源に近い場所ほど濃度が高く、離れるほど低くなると考えたくなる。
しかし、実際の地下環境はそれほど単純ではない。
PFASが土壌の粒子に付着すれば、移動速度が遅くなる。一方、水に溶けたPFASは地下水とともに移動する。物質の種類や地質によって、残り方や広がり方も異なる。
雨が多い時期には、地表付近に残っていたPFASが地下へ浸透する可能性がある。地下水を大量にくみ上げる施設があれば、周辺の流れが変化することも考えられる。
また、過去に高濃度の排出があり、その後排出が止まった場合、汚染の中心がすでに発生源から下流側へ移動している可能性もある。
現在最も濃度が高い地点が、過去の排出地点とは限らないのである。
過去の使用記録をたどる難しさ
発生源の特定には、水の調査だけでなく、土地と産業の履歴が必要になる。
いつ、どの施設で、どの製品が使われていたのか。
どの成分が含まれていたのか。
排水はどこへ流されていたのか。
薬剤の漏出や火災、消火訓練はあったのか。
廃棄物は、どこで処理されたのか。
こうした記録が長期にわたり保存されていれば、調査の重要な手掛かりになる。
だが、PFASが広く使われていた時代には、将来の地下水汚染を想定して記録を残す制度や意識が十分ではなかった。
製品名は分かっても、その時期の成分構成が分からないこともある。事業者の廃業、合併、土地の売却、建物の解体によって、情報が失われている場合もある。
PFASは何十年も環境に残り得る一方、企業や行政が持つ記録には保存期間がある。
物質は残っている。
しかし、記録は残っていない。
この時間のずれが、原因究明を困難にしている。
発生源は一つとは限らない
一つの地域に、複数の潜在的な発生源が存在することもある。
上流側に工場があり、別の場所に消防施設や廃棄物処理施設がある。過去には農地や空き地だった場所に、現在は住宅が建っている。
それぞれの場所から異なる時期にPFASが環境へ入り、地下で混ざり合っている可能性も否定できない。
PFOSとPFOAの濃度比や、ほかのPFASを含めた物質の組成は、発生源を推定する手掛かりになり得る。しかし、同じ用途でも製品や時代によって成分が異なり、環境中を移動する過程で組成が変化する場合もある。
「この物質が多いから、必ずこの用途が原因だ」と単純には言えない。
化学分析は、発生源を絞り込むための証拠の一つであり、それだけで原因者まで確定できるとは限らないのである。
現在の事故には対応できても、過去の排出は追いにくい
2023年2月、PFOSとPFOAは水質汚濁防止法上の「指定物質」に追加された。
これにより、これらの物質を製造、貯蔵、使用、処理する施設で事故が起き、PFOS・PFOAを含む水が公共用水域へ排出されたり、地下へ浸透したりするおそれがある場合、事業者には応急措置と都道府県知事への届出が求められる。
これは、新たな流出を防ぐための重要な仕組みである。
一方で、現在見つかっている地下水汚染の中には、規制が整うより前の排出に由来する可能性があるものも含まれる。
いつ起きたか分からない。
排出量も分からない。
当時の事業者が存在しない。
複数の原因が重なっている。
こうした状況では、現在の事故対応制度だけで過去の汚染原因をさかのぼることは難しい。
土壌という「空白」をどう調べるか
地下水汚染の経路を考えるうえで、土壌調査は欠かせない。
PFASが地表で使われたり、漏れたりした場合、一部は雨水とともに地下へ移動し、一部は土壌に残る。土壌は、過去の排出と現在の地下水汚染をつなぐ場所になり得る。
しかし、日本ではPFOSとPFOAについて、地下水や公共用水域の測定が先行してきた一方、土壌中の分布や移動に関する知見は、なお集積の途中にある。
環境省は土壌中のPFOS、PFOA、PFHxSについて暫定的な測定方法を自治体に周知し、調査方法などの知見を蓄積している。
地下水だけを測っても、そのPFASがどの場所から地中へ入ったのか分からないことがある。
水、土壌、地質、土地利用履歴を一体として調べなければ、地下の汚染経路は見えてこない。
発生源が分からなくても、飲用対策は待てない
原因究明には時間がかかる。
しかし、住民が井戸水を飲んでいる場合、発生源が確定するまで何もしないわけにはいかない。
環境省の対応の手引きでは、目標値を超過した場合、まず飲用によるばく露を防ぐことが重視されている。
地域の水道事業者へ情報を伝え、飲用井戸の利用者には水道水などへの切り替えを促す。周辺の飲用井戸を優先して調査し、汚染範囲を把握する。そのうえで継続監視や排出源調査を進める。
この順番は重要である。
「原因が分からないから対策できない」のではない。
発生源の特定と、住民の安全を守る措置は、並行して進める必要がある。
原因者が分からないと、誰が費用を負担するのか
PFAS汚染への対応には費用がかかる。
水質検査、観測井の設置、地下水流動の解析、土壌調査、代替水の供給、活性炭などによる浄水処理、使用済み吸着材の適切な処理。調査範囲が広がれば、負担も大きくなる。
原因となった事業者が科学的、法的に明確であれば、対策費用の負担を求める議論が可能になる。
しかし発生源を特定できなければ、自治体や水道事業者が公費や水道料金で対応せざるを得ない場合がある。民間の井戸では、所有者自身が検査や代替水の確保を迫られる可能性もある。
ここで問われるのは、単なる水質管理ではない。
過去の産業活動が残した環境負荷を、誰が調べ、誰が除去し、誰が費用を負担するのか。
発生源を特定できないという問題は、責任の所在を決められないという問題でもある。
疑いと断定を分ける
PFAS問題では、住民の不安に寄り添うことが必要である。
同時に、科学的に分かっていることと、まだ推定の段階にあることを分けて伝えなければならない。
近くにPFASを使用した可能性のある施設があること。
その施設内でPFASが確認されたこと。
周辺の地下水でPFASが検出されたこと。
その施設が地下水汚染の発生源であること。
これらは、それぞれ異なる事実である。
施設の存在だけで原因を断定すれば、正確な調査を妨げる可能性がある。一方、「因果関係が確定していない」という言葉だけを繰り返し、必要な情報開示や調査を先送りすることも許されない。
必要なのは、疑わしい場所を調べることと、調査結果がそろう前に断定しないことを両立させる姿勢である。
発生源を探すことは、土地の記憶をたどること
PFASの発生源調査は、現在の地図を見るだけでは終わらない。
地下水の流れを調べる。
複数の井戸を測定する。
土壌を分析する。
古い航空写真や住宅地図を確認する。
工場や施設の操業履歴をたどる。
薬剤の購入記録や事故記録を探す。
かつて働いていた人から話を聞く。
それは、土地がどのように使われ、どのような物質が持ち込まれ、どこへ排出されたのかを復元する作業でもある。
地上の施設は姿を変える。
工場は閉鎖され、空き地になり、住宅や商業施設へ変わる。企業名も、土地の所有者も、行政区域の役割も変わっていく。
それでも、地下水には、過去の痕跡が残る。
PFASは、私たちの社会が便利さの裏側で何を使い、何を記録せず、何を地中へ残してきたのかを映し出している。
見つける責任、記録する責任
PFAS汚染を将来へ残さないために必要なのは、発生源が見つかった後の対策だけではない。
現在PFASを保有・使用している場所を把握すること。
事故や漏出を記録し、速やかに共有すること。
土地利用や事業者が変わっても、化学物質の使用履歴を引き継げるようにすること。
水質と土壌の調査結果を、自治体の境界を越えて共有すること。
汚染は、記録が失われた瞬間に消えるわけではない。
むしろ、物質だけが残り、責任の手掛かりが失われていく。
PFASはどこから来たのか。
その問いに答えるためには、水の流れを測るだけでは足りない。
土地の過去を記録し、施設の内外を調べ、行政と事業者が持つ情報をつなぎ、長い時間をかけて因果関係を組み立てていく必要がある。
見えない汚染を見つけること。
そして、次の世代が同じように発生源を探し続けなくて済むよう、現在の情報を残すこと。
それもまた、PFAS問題に向き合う社会の責任ではないだろうか。
参考資料
- 環境省|有機フッ素化合物(PFAS)について
- 環境省|PFOS及びPFOAに関する対応の手引き(第3版)
- 環境省|PFASハンドブック
- 環境省|PFASに関する今後の対応の方向性
- 環境省|水質汚濁防止法施行令の一部を改正する政令
- 防衛省|自衛隊施設における泡消火設備専用水槽水質調査結果
- 防衛省|自衛隊施設における泡消火設備専用水槽水の処理完了
※この記事は2026年7月時点で公表されている情報をもとに構成しています。
この問題を、あとで改めて考えるために。
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