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砂漠はどこから始まるのか——アルジェリアの草原、放牧と土地の劣化

Illustration of livestock grazing among sparse grasses and shrubs on an Algerian steppe, with dry soil in the foreground and distant hills.
アルジェリアのステップ草原と土地の劣化

世界の環境地誌|アルジェリア

アルジェリアの地図を南へたどると、広大なサハラ砂漠がある。けれど、土地の劣化を考えるために目を向けたいのは、砂漠の真ん中ではない。

地中海沿岸の山地とサハラの間には、乾燥に適応した草や低木が育つステップ地帯が広がる。雨は多くない。それでも、植物が根を張り、家畜が草を食べ、人が生計を営んできた土地だ。

ここで草が減り、土が風に運ばれ、再び植物が育ちにくくなる。それが、アルジェリアの砂漠化を考えるうえで大切な風景である。

砂漠化とは、砂丘が少しずつ北へ移動して、すべてを覆い尽くすという話だけではない。もともと乾燥した土地で、草を育て、家畜を養い、暮らしを支える力が弱まっていくことでもある。

Contents

サハラの手前にある、草の土地

アルジェリアの北部には地中海沿岸の都市や農地があり、その南側には山地と乾燥した高原が続く。さらに南へ進むとサハラへ至る。

この間に広がるステップ地帯は、海沿いの緑豊かな土地とも、草木の乏しい砂漠とも異なる。少ない雨を利用して育つ植物が、まばらに地面を覆っている。

国連食糧農業機関(FAO)は、アルジェリアのステップ放牧地を約2,000万ヘクタールと説明している。地域によって植生や雨量は異なるが、そこは長く牧畜を支えてきた場所だ。FAO

草が生えているという事実は、小さく見えるかもしれない。しかし乾燥地では、その草が重要な役割を担う。家畜の餌となり、地表を覆い、風が直接土をさらうことを抑える。雨が降ったときには、地面の状態が水のしみ込み方にも関わる。

ステップの草原は、何もない砂漠の手前に残った余白ではない。それ自体が、人と動物を支える生態系なのだ。

草を食べる速さと、草が戻る速さ

ステップ地帯では、羊などの家畜が草を食べる。それ自体が土地の劣化を意味するわけではない。放牧は、この土地に根づいてきた営みでもある。

問題になるのは、草を食べる量や頻度が、植物の回復する力を上回るときだ。雨の少ない年には、芽吹きや成長も限られる。同じ場所に放牧の負荷が集中すれば、地面を覆う植物は戻りにくくなる。

一方で、人々の暮らしも変化している。家畜の数、耕作地の使い方、放牧できる土地へのアクセスが変われば、以前と同じように草地を使い続けることは難しくなる。アルジェリアの放牧地を扱った研究では、干ばつに加え、過度な放牧や農地利用の変化が植生に影響することが指摘されている。agris.fao.org

だから、土地の劣化を「羊が草を食べすぎたから」とだけ説明することはできない。どこで放牧できるのか。いつ土地を休ませられるのか。干ばつの年をどう乗り切るのか。草原の状態は、雨と家畜の数だけでなく、土地を使う仕組みにも左右される。

草が消えると、土の動きが変わる

乾燥した土地では、植物が失われた後の影響が長く残りうる。

地面を覆う草が減れば、土は風を直接受ける。細かな粒子が運ばれ、植物が育つための表土が失われる。雨が降っても、傷んだ地面では水が十分にしみ込まず、表面を流れて土を削ることがある。

草が減る。土が失われる。次の草が根づきにくくなる。

この連鎖が進むと、放牧を控えるだけでは元の植生がすぐには戻らない場合もある。アルジェリアのステップを長期に観察した研究では、放牧を制限した区域でも、厳しい干ばつや土壌の劣化が重なると、従来の植生の回復が難しくなる事例が報告されている。agris.fao.org

ただし、すべての草地が同じ速さで劣化するわけではない。雨量、土壌、植物の種類、人の利用によって変化は異なる。「アルジェリアの草原が一様に砂漠へ変わっている」と見るより、それぞれの土地で何が起きているかを確かめる必要がある。

「緑のダム」は、何を守ろうとしたのか

アルジェリアでは、砂漠化に対抗するため、「緑のダム(Barrage Vert)」と呼ばれる取り組みが1970年代から進められてきた。

名前からは、木を一直線に植え、迫る砂漠をせき止める壁を想像するかもしれない。しかし、広大なステップ地帯の課題は、一本の緑の線だけでは解決しない。植えた木がその土地で育つこと、周囲の草地が回復すること、そして地域の人々が土地を使い続けられることまで考える必要がある。catalogue.unccd.int

現在の再生に向けた取り組みでも、森だけでなく、乾燥した森林やステップ、農業と放牧が重なる土地が対象とされている。FAOが示す「緑のダム」関連事業の枠組みには、傷んだ土地の回復と、農村の人々の気候変動への対応力を高める目的が掲げられている。fao.org

ここで問われる「緑」とは、植えた木の本数だけでは測れない。草が戻ったか。土が残ったか。家畜を養えるか。干ばつの年にも、その土地で暮らしていけるか。再生の成果は、植物と人の両方から見る必要がある。

守るために、使い方を変えられるか

草原を回復させる方法の一つに、一定期間、家畜を入れずに土地を休ませることがある。植物が種をつけ、根を広げる時間を確保するためだ。

しかし、放牧地を休ませるという決定は、その土地を利用していた人にとって、目の前の餌場が減ることも意味する。代わりの場所や飼料をどう確保するのかを考えずに制限だけを設ければ、暮らしと土地の保全が対立してしまう。

逆に、利用を続ければ必ず土地が傷むわけでもない。降雨や植生を見ながら放牧の時期と場所を調整し、回復の時間をつくる。乾燥地の管理には、そうした地域ごとの判断が欠かせない。

FAOも、放牧を営む人々が保全の意思決定に関わることの重要性を指摘している。草原のことを知る人が、土地の未来を決める場にいる。それは、自然を守るための条件でもある。FAO

砂漠との境界は、地図に一本では引けない

サハラには、乾燥した土地ならではの生態系がある。砂漠そのものを、失われた草原として捉えるべきではない。

アルジェリアの環境問題が現れるのは、草が育っていた場所で草が戻りにくくなり、土を支えていた植生が弱り、そこで続いてきた放牧が難しくなるときだ。

砂漠はどこから始まるのか。

その問いへの答えは、地図上の一本の境界線だけにはない。雨が降った後に草が芽吹くか。羊が食べた後に、次の草が育つか。土が風の中に消えずに残るか。

アルジェリアのステップ地帯では、そうした小さな変化の積み重ねが、土地の未来を決めている。


参照資料

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