世界の環境地誌|アラブ首長国連邦
砂漠の上に、ガラスの高層建築が立ち並ぶ。街路樹が影を落とし、ホテルの水栓をひねれば水が出る。
アラブ首長国連邦(UAE)の都市を見ていると、水不足という言葉は少し遠く感じられるかもしれない。けれど、その一杯の水は、雨が川となって街へ流れてきたものとは限らない。海水から塩を取り除き、エネルギーを使ってつくり、都市へ運ばれた水かもしれない。
都市の外へ目を向けると、もう一つの水がある。地中に蓄えられ、農地や緑地を支えてきた地下水だ。
UAEの水問題を考えるには、砂漠と海の両方を見る必要がある。
雨が少ない土地に、水を必要とする都市がある
UAEは乾燥した地域に位置する。雨は限られ、年間を通じて流れる大きな河川にも恵まれていない。その土地で人口が増え、都市が広がり、農業や産業も営まれてきた。
水が足りなければ、外から運ぶか、別の場所にある水を使える形に変えるしかない。UAEが発展させてきた方法の一つが、海水淡水化である。
海から取った水の塩分を取り除き、生活や事業に使える水にする。海に面した都市にとって、これは水を安定して得るための重要な技術だ。
ただし、海水を淡水に変えられることと、水の問題がなくなることは同じではない。水をつくる設備にはエネルギーが必要で、塩分を分けた後には濃い塩水が残る。水道から見えるのは透明な水だけだが、その背後には海、発電、処理施設、配水網がつながっている。www.moei.gov.ae
地下水は、砂漠に残された「蓄え」
UAEの水源を海水淡水化だけで語ると、土地の内側で起きている変化を見落とす。
アブダビ首長国の環境当局が公表した水資源管理計画によると、当時の同首長国における水利用は、地下水が約60%、淡水化した水が約30%、処理済み排水が約10%を占めていた。また、水資源の約65%が農業、森林、庭園、公園などの灌漑に使われていた。これはアブダビ首長国について公表された時点の数値であり、UAE全土の現在の構成比を示すものではない。ead.gov.ae
ここに、都市の蛇口だけでは見えない水問題がある。
地下水は地中に蓄えられていても、無限に湧き出すわけではない。雨などによって補われる量を上回る速度で汲み上げれば、水位は下がる。水質、とりわけ塩分濃度も、利用を左右する。
アブダビの環境当局は、地下水を汲み上げる量が自然に補給される量を大きく上回ることを課題としている。地下水の塩分が増せば、農業に使いにくくなるだけでなく、灌漑設備の維持にも負担が生じる。ead.gov.ae
地表に緑があるから、その土地の水が豊富だとは限らない。緑を保つために、地中の水を使い続けている場合もある。
海水を飲み水に変えた後、塩はどこへ行くのか
海水淡水化では、取水した海水のすべてが淡水になるわけではない。水から分離された塩分は、濃い塩水に残る。
その排出水が海へ戻されるとき、十分に薄められ、拡散するように管理されているかが重要になる。国連環境計画(UNEP)は、適切に処理・管理されない濃縮塩水が沿岸や海洋の生態系を損なう可能性を指摘している。同時に、淡水化には多くのエネルギーが必要だ。www.unep.org
もちろん、淡水化施設があるというだけで、周辺の海に一律の被害が起きているとは言えない。影響は排出方法、海水の流れ、周辺環境、施設の運用によって変わる。
それでも、問いは残る。都市が海から水を得るなら、海へ戻すものまで含めて、その仕組みを考える必要がある。
蛇口の向こう側には、取水口も、発電設備も、排出口もある。
水を「増やす」だけでは足りない
水が不足するとき、新しい水源をつくることは分かりやすい解決策に見える。淡水化施設を増やせば、使える水も増える。
だが、水の需要も増え続けるなら、必要な設備やエネルギーはさらに大きくなる。地下水の汲み上げを減らすために淡水化した水へ切り替えても、その水をつくる費用や環境負荷を考えなければならない。
そこで重要になるのが、用途に応じた水の使い分けだ。飲用に求められる水質と、緑地への散水や一部の灌漑に求められる水質は同じではない。使った水を適切に処理し、再利用できれば、新たな水源への負担を抑えられる可能性がある。
UAE政府の「水安全保障戦略2036」は、水資源に対する総需要を21%減らし、処理済み水の再利用率を95%に高めることなどを目標に掲げている。これらは達成済みの実績ではなく、戦略上の目標値である。水を供給する技術と並んで、水の使い方を変える政策が位置づけられている。u.ae
見えない地下水を、どう守るか
地下水の難しさは、減っていく様子が地上から見えにくいことにもある。
川なら水位が目に入る。湖なら岸辺の変化に気づける。しかし地下水は、井戸を掘り、水位や塩分を測って初めて状態が分かる。地面の上の日常が変わらないまま、地中の蓄えが減ることもある。
UAEのエネルギー・インフラ省は、地下水の汲み上げ量や水質、土壌、代わりとなる灌漑用水の有無などを踏まえ、地下水の価値と利用を評価するための指針を示している。水をただ「使える資源」として数えるのではなく、どれだけ残り、どのように補われるのかを把握するための取り組みだ。moei.gov.ae
水を守る仕事は、井戸を閉じるか開くかという二択では終わらない。農業で何を育て、どんな方法で水を与えるか。都市の緑をどう維持するか。再生水をどこへ届けるか。土地の使い方そのものが、地下水の行方を決めていく。
一杯の水に、砂漠と海が入っている
UAEの都市の水は、自然環境から切り離されているわけではない。
海水を淡水に変えれば、海とエネルギーに関わる。地下水を汲み上げれば、地中に蓄えられた水に関わる。農地や街路樹を潤せば、その風景を保つための水が必要になる。
問われているのは、砂漠に都市を築けるかどうかだけではない。そこで暮らし続けるために、どの水を、何に、どれだけ使うのか。そして水を得る過程で、土地と海に何を残すのか。
砂漠の都市で蛇口から流れる一杯には、目に見えない長い道のりがある。その道をたどると、水不足は単に「水がない」という話ではなく、水をつくり、分け、使い、守る仕組みの問題として見えてくる。
参照資料
- UAE政府「The UAE Water Security Strategy 2036」
- Environment Agency – Abu Dhabi「Integrated Water Resources Management Plan」
- Environment Agency – Abu Dhabi「Policy for Managing and Protecting Groundwater」
- UAE Ministry of Energy and Infrastructure「National Guide for Assessing the Economic Value of Groundwater」
- UNEP「Five things to know about desalination」

