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香川県の地政学|瀬戸内海に開き、水を引き込む「四国の玄関口」

瀬戸内海の島々と遠景の瀬戸大橋を描いたイラスト。「海を越え、水を引く。」の文字
瀬戸内海の島々と遠景の瀬戸大橋を描いたイラスト

「うどん県」と聞くと、穏やかな瀬戸内の風景が浮かぶ。しかし香川の地図を少し引いて見ると、別の輪郭が現れる。南には讃岐山脈、北には島々が連なる瀬戸内海。東西に長い平野を、短い川が海へ向かって流れる。

海を越えれば本州に近い。一方で、暮らしや産業に必要な水を県内だけで確保するのは容易ではない。この「外へ開く力」と「内側に抱える制約」の組み合わせが、香川の都市、交通、農業、産業を形づくってきた。

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瀬戸内海は、県境ではなく通路だった

香川県は面積で日本最小の県だ。だが、面積の小ささだけではその位置を読み違える。県の北側に広がる瀬戸内海は、本州との間を隔てる海であると同時に、人と物が行き来する通路でもあった。

かつて宇野と高松を結んだ宇高連絡船は、本州から四国へ入る代表的な動線だった。1988年の瀬戸大橋開通で、その動線は船から鉄道・道路へ大きく移る。国の当時の資料によれば、宇野―高松間で約1時間かかっていた海上移動に対し、児島―坂出間の橋を渡る移動は約10分になった。橋は単に時間を縮めただけではない。四国への入口の重心を、高松港だけでなく坂出・宇多津周辺にも移したのである。

ただし、橋ができたから海の役割が終わったわけではない。高松港などから島々へ向かう船は、島民の生活と観光の双方を支える。香川には「橋で本州とつながる県」と「船で島をつなぐ県」という二つの交通地図

雨が少ない平野に、ため池が増えた

香川のもう一つの地図は、水の流れから見えてくる。南の讃岐山脈から北の海までの距離は短く、河川の流域は広くない。降水量も比較的少ない。平野で耕作を続けるには、雨が降る時と水を使う時のずれを埋める必要があった。

その答えの一つが、平野に点在するため池である。満濃池をはじめとする池は、水をため、配り、田畑へ届けるための装置だった。県の資料では、ため池は1万2千か所余り。数の多さは、自然条件の厳しさだけでなく、地域が長い時間をかけて水を共同管理してきた歴史も示している。

さらに香川用水は、吉野川水系の水を県境を越えて運んだ。ここで重要なのは、香川の水問題が香川県内だけで完結しないことだ。上流の降雨、ダムの貯水、四国各県の利水調整が、讃岐平野の暮らしにつながる。2026年8月にも吉野川水系の取水制限に伴い、香川用水調整池・宝山湖から水道用水を補給する措置が公表された。水の安定供給は、現在進行形の広域課題である。

香川を地政学的に読むなら、瀬戸大橋という「人と物を運ぶ線」と、香川用水という「水を運ぶ線」を並べて見るとよい。県の発展は、外から何を、どの経路で受け取れるかに深く関わっている。

高松と坂出、異なる玄関口

高松は、港を背に都市機能が集まる中心地である。一方、坂出周辺は瀬戸大橋の四国側の結節点となり、臨海部には工業用地や物流機能が展開する。香川の玄関口を一つの都市に代表させると、この役割分担が見えなくなる。

さらに県内を東西にたどれば、東かがわの手袋産業、中讃の丸亀・坂出周辺、西讃の観音寺・三豊、海上の小豆島や直島など、異なる経済圏が現れる。香川県は小さいが、一枚岩ではない。県も手袋、家具、伝統工芸を地場産業として紹介し、造船・建設機械などの鋼構造物関連の企業集積を産業戦略に位置づけている。

ビジネスの視点では、この違いは大きい。高松で必要な都市サービス、坂出で重要な広域物流、東讃で培われたものづくり、島々で問われる船便と滞在の設計は、それぞれ別の条件で成り立つ。「香川県市場」という一つの言葉だけでは、立地や顧客の実態を捉えきれない。

島は観光資源である前に、暮らしの場である

瀬戸内の島々は、芸術や風景によって世界に知られるようになった。だが、島を観光客が訪れる場所としてだけ見ると、船便、通学、通院、物資輸送といった日常のインフラが視界から消える。

たとえば豊島には、高松、宇野、直島、小豆島などを結ぶ複数の航路がある。島の価値は、作品や景観だけで独立して存在するのではない。港を介して人が到着でき、暮らす人が移動できることに支えられている。交流人口を増やす施策と、生活航路を維持する施策を同じ地図の上で考える必要がある。

「うどん県」の奥にある、接続と管理の技術

讃岐うどんは香川の強い入口だ。ただ、その一杯を育てた土地へ視線を戻すと、平野、水利、交易、地域ごとの手仕事が見えてくる。香川の魅力は、名物が一つあることだけではない。限られた水を管理し、海を渡る流れを受け止め、場所ごとに異なる産業を育ててきたことにある。

瀬戸大橋が本州との距離を縮めても、島々には船が必要だ。香川用水が水の安定に寄与しても、渇水への備えは続く。交通の便利さと資源の制約は、同時に存在している。

日本で最も小さい県を、縮小した地図として見ない。その内部に引かれた水路と、外へ伸びる航路・鉄路をたどる。すると香川は、四国の端ではなく、瀬戸内海と四国の資源を結び直してきた場所として見えてくる。

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