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観光で農業を支えるとは何か─山梨・北杜に広がる“続けるためのワイン”-#45【山梨県篇】

山梨県・北杜市のぶどう畑と山並みを背景に、「一杯のワインが、畑を未来へつなぐ。」というコピーを重ねたNEOTERRAIN Journalのアイキャッチ画像。
山梨県・北杜市のぶどう畑と山並みを背景イメージ

「観光で農業を支える」と聞くと、少し不思議に感じるかもしれません。

観光は、訪れること。
農業は、育てること。

一見すると、別々の営みに見えます。

けれど、山梨県・北杜市の風景を歩いていると、その二つが静かにつながっていることに気づきます。

南アルプスや八ヶ岳を望む畑。
冷涼な空気。
日照時間に恵まれた土地。
そして、その土地で育つワイン用ぶどう。

ここでは、ワインは単なる嗜好品ではありません。

土地を守り、作り手を支え、飲み手を地域へ誘うための、小さな入口になり始めています。

Contents

“飲む”だけでは、農業は続かない

ワインというと、多くの人はグラスの中を想像します。

香り。
味わい。
食事との相性。
誰かと過ごす時間。

もちろん、それはワインの大きな魅力です。

しかし、グラスに注がれるその一杯の手前には、長い時間があります。

土を整える。
枝を剪定する。
気候を読む。
病害を防ぐ。
収穫のタイミングを見極める。

ぶどう栽培は、自然と人間の対話のような仕事です。

しかも近年、農業は人手不足、気候変動、資材価格の上昇、後継者不足といった複数の課題に直面しています。

つまり、ワインを「おいしい商品」として売るだけでは、畑を未来へつなぐには足りない。

そこで重要になるのが、ワインを中心に人が地域を訪れ、畑を知り、作り手の思想に触れ、その土地を応援する仕組みです。

それが、ワインツーリズムです。

山梨県・北杜市のぶどう畑の上をドローンが飛行している様子。

北杜という土地が持つ、ワインの余白

山梨県は、日本を代表するワイン産地のひとつです。

その中でも北杜市は、八ヶ岳南麓や南アルプスの山並みに囲まれた、標高差のある地域です。冷涼な気候、日照、清らかな水、昼夜の寒暖差。そうした自然条件が、ワイン用ぶどうの栽培に適した環境を形づくっています。

北杜市周辺では、土地の個性を生かしたワイナリーやヴィンヤードの取り組みが広がり、滞在型の体験や地域の食との接続も進んでいます。ワインは、地域の風土を味わうメディアになりつつあります。

ワインを飲むことは、単にアルコールを消費することではありません。

どんな土で育ったのか。
どんな風が吹く畑なのか。
誰が、どんな思いでこの一房を育てたのか。

その背景を知ることで、一本のワインは「商品」から「物語」へと変わります。

そして、その物語に触れた人は、またその土地を訪れたくなる。

ここに、観光と農業が交わる理由があります。

山梨県・北杜市のぶどう畑で、生産者が訪問者にワインづくりや畑について説明している様子。

空から畑を見る─農業を支えるテクノロジー

もうひとつ、北杜や山梨の農業を考える上で欠かせない視点があります。

それが、テクノロジーです。

山梨県では、ぶどう栽培にICTやドローン、AIを取り入れるスマート農業の実証が進められてきました。環境データや作業記録の可視化、ドローンによる散布技術の検証、AIによる熟練農家の技術継承支援など、農業を“経験と勘”だけに頼らない仕組みへ変えようとする取り組みが見られます。

ドローンは、空から畑を見る。

AIは、目に見えにくい変化を読み取る。

それは、農業を人間から奪う技術ではありません。

むしろ、作り手が長く続けるための補助線です。

高齢化が進む農業現場で、すべてを人の手だけで見回り、判断し、作業し続けることは簡単ではありません。

だからこそ、テクノロジーは“効率化”だけでなく、“継続可能性”のために使われるべきものになります。

空から畑を見守るドローン。
データから土や葉の状態を読むAI。
作業の記録を蓄積する仕組み。

それらは、未来の農業にとっての新しい道具です。

ぶどう畑で農業従事者がタブレットを使い、栽培データを確認している様子。

ワインツーリズムは、地域の“関係人口”を育てる

観光には、一度きりの消費で終わる観光もあります。

名所を見て、写真を撮り、帰る。

それも観光のひとつです。

けれど、ワインツーリズムが持つ力は、もう少し深いところにあります。

畑を訪れる。
作り手の話を聞く。
その土地の食と合わせて味わう。
季節を変えて、また訪れる。

そうした体験は、訪問者を単なる観光客ではなく、地域の“応援者”へと変えていきます。

ワインを買うこと。
誰かに紹介すること。
次の収穫期にまた訪れること。
その土地の宿や飲食店を利用すること。

小さな行動の積み重ねが、地域の経済を支えます。

そして何より、作り手にとっては「この土地で続けていく意味」を確認する時間にもなります。

観光で農業を支えるとは、単に観光客がお金を落とすという話ではありません。

作る人と、飲む人。
暮らす人と、訪れる人。
畑と、テーブル。

その間に、関係をつくることです。

山梨県・北杜市のワイナリーをイメージした窓辺の風景。

“おいしい”の奥にある社会構造

私たちは、食べ物や飲み物を「味」で判断しがちです。

おいしいか。
高いか。
有名か。

けれど、これからの時代、その判断軸は少しずつ変わっていくのかもしれません。

誰が作っているのか。
どんな土地で育ったのか。
その生産は、環境に無理をかけていないか。
次の世代にも続けられる仕組みなのか。

ワインは、その問いを私たちに投げかけます。

グラスの中にあるのは、液体だけではありません。

気候があり、土壌があり、人の手があり、技術があり、地域経済があります。

つまりワインは、地域の構造を映すメディアでもあるのです。

山梨県のぶどう畑と夕暮れのワイナリー。

テクノロジーは、風景を消すのではなく、守るためにある

農業にAIやドローンと聞くと、少し冷たい印象を持つ人もいるかもしれません。

自然の営みに、機械が入り込む。
人の勘や手仕事が、データに置き換わっていく。

しかし、北杜のような地域で見えてくるのは、別の姿です。

テクノロジーは、風景を壊すためではなく、風景を残すために使われている。

畑を守るため。
作り手の負担を減らすため。
若い世代が農業に入りやすくするため。
地域の産業を、次の時代へ渡すため。

ドローンやAIは、未来的な装置でありながら、その目的はとても人間的です。

この土地で、これからも作り続けたい。

その願いを支えるために、テクノロジーがあるのです。

観光は、未来への参加になる

山梨・北杜のワインツーリズムが示しているのは、観光の新しい役割です。

観光は、消費ではなく参加になれる。

訪れることが、畑を知ることになる。
飲むことが、作り手を支えることになる。
買うことが、次の収穫への投票になる。

その循環が生まれたとき、地域の未来は少しだけ強くなります。

ワインは、グラスの中で完結しない。

畑へ続いている。
人へ続いている。
風景へ続いている。

そして、その先には、農業と観光とテクノロジーが重なり合う、新しい地域のかたちがあります。

NEOTERRAINが見つめる、山梨から始まる問い

「観光で農業を支える」とは、何か。

それは、地域を一度きりの消費対象として見るのではなく、続いていく営みとして見つめることです。

ワインを飲む。
畑を訪れる。
作り手の声を聞く。
テクノロジーが支える未来を知る。

その体験の中で、私たちは気づきます。

地域の未来は、行政や生産者だけが守るものではない。

訪れる人も、味わう人も、選ぶ人も、その未来に少しずつ関わっている。

山梨県・北杜市の風景には、そんな静かな問いが広がっています。

一杯のワインの向こうに、どんな未来を見るのか。

NEOTERRAINは、山梨から始まる「農業×観光×テック」の挑戦を追いました。

Until the next field,
this has been NEOTERRAIN.

Youtubeチャンネル「NEOTERRAIN」と連動企画です。動画もチェック!
山梨県篇

NEOTERRAINの案内人が現場で取材する様子

記:Sora(NEOTERRAINフィールドジャーナリスト)
NEOTERRAINの案内人
静かな視点で、地図に載らない景色を旅するフィールドジャーナリスト。
北の大地の牧場から、南の市場のざわめきまで。
人と社会の営みの中にそっと寄り添い、記憶と問いかけを言葉に残します。
この視点が、あなたの旅の地図になりますように。

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