「ターゲットを設定してください」
マーケティングやコンテンツ制作の現場では、よく使われる言葉です。
それと並んで登場するのが、「ペルソナ」という考え方です。
ターゲットとペルソナは、どちらも「誰に届けるか」を考えるためのものですが、意味も役割も同じではありません。
ターゲットは、届けたい人々の範囲を定めるもの。
ペルソナは、その範囲にいる一人を具体的に描くものです。
この違いを理解しないまま人物像をつくると、細かなプロフィールを設定しただけで満足し、肝心のコンテンツづくりに生かせないことがあります。
大切なのは、架空の人物を細かくつくることではありません。
届ける相手が、何を見て、何を感じ、どこで迷い、どのような情報を必要としているのかを理解することです。
今回は、ターゲットとペルソナの違いを整理しながら、実際のコンテンツ企画に生かす方法を考えます。
ターゲットとは「届けたい人々の範囲」
ターゲットとは、商品やサービス、コンテンツを届けたい人々の集まりです。
たとえば、次のように設定します。
- 20代から30代の会社員
- 子育て中の共働き世帯
- 地方への移住に関心がある都市部の生活者
- SNS運用を担当している中小企業の広報担当者
- 動画制作を仕事にしたいクリエイター
ターゲットを設定する目的は、届ける範囲を決めることです。
誰にでも届くようにしようとすると、伝える内容や表現が曖昧になります。
一方で、「中小企業の広報担当者」と範囲を定めれば、その人たちが必要とする情報を考えやすくなります。
ただし、ターゲットだけでは、相手が実際にどのような場面で困っているのかまでは見えてきません。
同じ広報担当者でも、置かれている状況は異なるからです。
一人で広報業務を担当している人もいれば、制作会社を管理する立場の人もいます。
SNSの投稿に悩んでいる人もいれば、経営層へ成果を説明できずに困っている人もいるでしょう。
ターゲットは方向を定めるために必要ですが、それだけでは相手の姿を十分に想像できないことがあります。
そこで役立つのが、ペルソナです。
ペルソナとは「届けたい一人の具体像」
ペルソナとは、ターゲットの中にいる代表的な一人を、具体的な人物像として描いたものです。
たとえば、「中小企業の広報担当者」というターゲットを、次のように具体化します。
従業員50人ほどのメーカーで広報を担当する35歳。専任ではなく、営業企画と兼務している。会社からSNSの強化を求められているが、投稿内容を毎回考えることに負担を感じている。フォロワー数だけでは成果を説明できず、何を基準に改善すればよいのか分からない。
ここまで描くと、必要なコンテンツが見えやすくなります。
この人が知りたいのは、「SNSマーケティングとは何か」という一般的な説明だけではないでしょう。
限られた時間で投稿を続ける方法や、社内に説明できる指標の選び方、投稿企画をつくる手順など、実務に結びつく情報を求めていると考えられます。
ペルソナをつくる目的は、架空の人物に名前や趣味を与えることではありません。
相手が置かれている状況を具体化し、何を伝えるべきかを判断しやすくすることです。
ターゲットとペルソナの違い
二つの違いを整理すると、次のようになります。
| 項目 | ターゲット | ペルソナ |
|---|---|---|
| 捉える対象 | 人々の集まり | 代表的な一人 |
| 主な役割 | 届ける範囲を決める | 相手の状況を具体的に理解する |
| 設定する内容 | 年代、職業、地域、関心など | 課題、行動、感情、迷い、目的など |
| 企画での使い方 | 発信の方向性を定める | 内容や言葉、表現を選ぶ |
| 主な問い | どの層に届けるか | その人は、なぜ必要としているか |
ターゲットは、地図上で進む方向を決めるようなものです。
ペルソナは、その方向にいる一人の生活や仕事を詳しく見るためのものです。
どちらか一方だけを使うのではなく、ターゲットで範囲を定め、ペルソナで理解を深める。この順番で考えると、コンテンツの軸がつくりやすくなります。
年齢や趣味を細かく設定するだけでは足りない
ペルソナをつくるとき、次のような情報を設定することがあります。
- 名前
- 年齢
- 居住地
- 職業
- 家族構成
- 年収
- 趣味
- よく見るSNS
- 休日の過ごし方
こうした情報は、人物を想像する手がかりになります。
しかし、細かく設定すれば、相手への理解が深まるとは限りません。
たとえば、「休日はカフェ巡りが趣味」という情報が、企業向け動画制作の企画に必要でしょうか。
その情報によって、伝える内容や表現が変わらないのであれば、無理に設定する必要はありません。
重要なのは、企画の判断につながる情報です。
- どのような状況で情報を探しているのか
- 何に困っているのか
- なぜ今まで解決できなかったのか
- 何を不安に感じているのか
- 何を基準に選ぶのか
- 誰の意見が意思決定に影響するのか
- どのような状態になりたいのか
ペルソナは、プロフィール帳ではありません。
相手の行動や判断を理解するための設計図です。
ペルソナは想像だけでつくらない
ペルソナは架空の人物ですが、根拠まで架空でよいわけではありません。
つくり手の思い込みだけで設定すると、実際の顧客とは異なる人物像ができあがります。
「きっと価格を重視しているだろう」
「若い人だから短い動画が好きだろう」
「地方に住みたい人は、自然の豊かさを求めているだろう」
一見もっともらしくても、実際には違うかもしれません。
価格ではなく、購入後のサポートを重視している可能性があります。
短い動画を見たあとに、詳しい記事で確認したい人もいます。
地方移住に関心を持つ理由も、自然だけではなく、働き方や子育て環境、地域との関係性かもしれません。
ペルソナをつくるときは、できる限り実際の情報を集めます。
顧客や読者の声を聞く
問い合わせ、商談、取材、アンケートなどで寄せられた言葉を振り返ります。
特に重要なのは、相手が実際に使った表現です。
つくり手が考えた専門的な言葉よりも、本人が口にした悩みのほうが、コンテンツの見出しやメッセージに生かしやすくなります。
検索されている言葉を調べる
検索キーワードには、相手の疑問や目的が表れます。
同じテーマでも、「意味」「比較」「方法」「費用」「事例」といった言葉が加わることで、知りたい内容や検討段階が見えてきます。
SNSやコメント欄を観察する
投稿への反応やコメントには、相手が共感した点、疑問に感じた点、もっと知りたいことが表れます。
ただし、一部の目立つ意見だけを全体の声だと判断しないことも大切です。
アクセスや行動を見る
どの記事が読まれているのか、どこから訪れたのか、どのページで離れているのかを確認します。
数字だけで人物の気持ちは分かりませんが、仮説を見直す材料になります。
ペルソナに必要なのは「場面」の具体性
届ける相手を考えるとき、人物そのものだけでなく、情報に触れる場面を想像することが重要です。
たとえば、「動画制作を検討している企業担当者」という設定だけでは、まだ幅があります。
次のように場面を加えてみます。
新商品の発売を3カ月後に控え、動画制作を任された。社内からは「印象に残る映像にしてほしい」と言われているが、目的や予算が整理されていない。複数の制作会社を比較する前に、依頼内容をどうまとめればよいか調べている。
この場面が見えると、必要な記事も具体的になります。
- 動画制作を依頼する前に整理すべき項目
- 目的に合った動画形式の選び方
- 制作費を決める要素
- 制作会社へ伝えるべき情報
- 社内で企画を通すための説明方法
人物の属性よりも、「今、何が起きているか」を描く。
それが、コンテンツに生かせるペルソナをつくるポイントです。
一人に絞ると、他の人へ届かなくなるのか
ペルソナを設定すると、「対象を狭くしすぎるのではないか」と感じることがあります。
しかし、一人を具体的に考えることと、一人にしか届けないことは違います。
特定の状況にいる一人へ向けて丁寧に説明すると、同じような悩みを持つ人にも伝わりやすくなります。
反対に、誰にでも当てはまるように言葉を広げすぎると、内容が抽象的になります。
「仕事をもっと良くしたい人へ」
「発信に悩んでいるすべての人へ」
こうした表現は広く見えますが、自分に向けられた言葉だと感じてもらうことは難しくなります。
たとえば、
SNSを任されたものの、毎回の投稿企画を一人で考えることに疲れている担当者へ。
と書けば、その状況にいる人は「自分のことかもしれない」と感じます。
具体的な一人を描くことは、入口を狭くするためではありません。
相手が自分との関係を見つけやすくするためです。
ペルソナは一人だけとは限らない
商品やサービスによっては、複数のペルソナが必要になります。
たとえば、企業向けの動画制作では、次のような人が関わります。
- 情報を集める担当者
- 企画を社内で提案する責任者
- 予算を承認する経営層
- 実際に出演や撮影へ協力する現場担当者
それぞれ知りたいことが異なります。
担当者は制作の進め方を知りたい。
責任者は成果やスケジュールを確認したい。
経営層は、費用に対する効果や事業との整合性を判断したい。
一つのコンテンツですべてに応えようとすると、焦点がぼやけます。
そこで、誰のどの疑問に応えるコンテンツなのかを分けて考えます。
ただし、最初から多くのペルソナをつくりすぎる必要はありません。
まずは、最も重要な一人を設定する。
その人に必要なコンテンツをつくり、反応を見ながら、別の立場や状況へ広げていくほうが実践的です。
ペルソナをコンテンツ企画へ落とし込む
ペルソナを設定しただけでは、コンテンツは生まれません。
人物像から、実際の企画へ変換する必要があります。
次の四つの視点で整理すると、発信内容を考えやすくなります。
1.相手の疑問をテーマにする
つくり手が話したいことではなく、相手が知りたいことを起点にします。
たとえば、映像制作会社が「私たちの撮影技術」を伝えるだけでは、相手の疑問に応えていないかもしれません。
「初めて動画を依頼するとき、何を準備すればよいか」というテーマなら、検討中の担当者にとって必要な情報になります。
2.相手が使う言葉で伝える
専門用語を知っていることを前提にせず、相手が普段使っている言葉に置き換えます。
専門用語を使う場合も、その意味や必要性を説明します。
分かりやすくすることは、情報を単純にすることではありません。
相手が理解できる順番に編集することです。
3.相手の不安を先回りする
人が行動しない理由は、魅力が伝わっていないからだけではありません。
失敗への不安、費用への疑問、手間への抵抗、周囲への説明の難しさなどが、行動を止めていることがあります。
コンテンツでは、利点だけでなく、迷いや不安にも答える必要があります。
4.次の行動を明確にする
記事を読んだあと、動画を見たあと、相手に何をしてほしいのかを決めます。
関連記事を読む。
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メールへ登録する。
商品を比較する。
問い合わせる。
相手の検討段階に合った、小さな次の行動を用意します。
ペルソナは一度つくって終わりではない
ペルソナは、最初に決めたら変えてはいけないものではありません。
発信を始めると、想定とは異なる反応が見えてきます。
初心者向けにつくった記事が、実際には現場経験のある担当者によく読まれることもあります。
価格への不安が大きいと考えていたものの、実際には社内で説明する材料がないことが課題だったと分かることもあります。
重要なのは、最初から完璧な人物像をつくることではありません。
仮説として設定し、発信し、反応を観察し、修正することです。
ペルソナは、顧客を固定的に決めつけるためのものではなく、理解を深めるための道具です。
実際の声や行動と異なっていたら、迷わず見直します。
実践ワーク:届けたい一人を描いてみる
自分の商品、サービス、発信について、次の項目を書き出してみましょう。
1.ターゲットを一文で表す
私が届けたいのは、【どのような人々】である。
例:
自社の魅力を伝えるコンテンツづくりに悩んでいる、中小企業の広報・マーケティング担当者。
2.その中の一人が置かれている状況を書く
その人は今、【どのような状況】にいる。
例:
SNS運用を任されたが、ほかの業務と兼任しており、毎回の投稿企画を考える時間がない。
3.表面的な要望と、本当の課題を分ける
表面的な要望:
SNSの投稿数を増やしたい。
その奥にある課題:
何を発信すれば成果につながるのか分からず、社内にも運用の意味を説明できない。
4.相手が望む変化を書く
その人は、【どのような状態】になりたい。
例:
発信するテーマと目的を整理し、無理なく継続できる運用の仕組みをつくりたい。
5.必要なコンテンツを考える
- 最初に知りたいことは何か
- どこで迷うのか
- 何を不安に感じるのか
- どの情報があれば行動できるのか
- SNS、記事、映像のどれが適しているか
最後に、次の一文へまとめます。
【現在の状況】にいる【届けたい一人】へ、【必要な価値】を伝え、【望む変化】につなげる。
この一文が、コンテンツ企画の判断軸になります。
届ける相手が見えると、伝える言葉が変わる
ターゲットは、届ける範囲を決めるもの。
ペルソナは、その中にいる一人の状況や感情、行動を具体的に理解するものです。
大切なのは、細かなプロフィールをつくることではありません。
相手が今どこにいて、何に困り、何を知れば次へ進めるのかを考えることです。
届ける一人が見えてくると、記事のテーマ、映像の構成、SNSの言葉、次に促す行動が変わります。
誰にでも伝わる言葉を探すのではなく、必要としている一人に、深く届く言葉を考える。
その具体性が、結果として同じ課題を持つ多くの人との接点を生み出します。
ペルソナは、コンテンツを狭くするためのものではありません。
つくり手の視点を、受け取る人の視点へ移すためのものです。
次回は、動画・記事・SNSがそれぞれ持つ役割を整理し、目的や相手の状態に合わせてコンテンツを使い分ける方法を考えます。
学びを、次の実践へ。
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