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地域は“撮られる場所”から“つくる場所”へ─ロケ誘致が変える地方創生

夜の地方都市の道路風景に、物語を生み出す地域の可能性を象徴する光のラインとコピーが重ねられたアイキャッチ画像
夜の地方都市の道路風景に、物語を生み出す地域の可能性を象徴する光のライン

映画やドラマの撮影地になることは、地域にとって大きなチャンスだった。

有名俳優が訪れる。作品の中に街並みが映る。放送後には、ロケ地を訪ねる人が増える。商店街にポスターが貼られ、観光マップがつくられ、SNSには「ここ、あの作品の場所だ」という投稿が並ぶ。

ロケ誘致は、地域を知ってもらうための入口になる。

けれど、これからの地方創生において、本当に問われるのはその先かもしれない。

地域は、ただ“撮られる場所”であり続けるのか。

それとも、物語を生み出す“制作拠点”になれるのか。

Contents

ロケ誘致は、観光施策だけではなくなっている

これまでロケ誘致は、観光プロモーションの一環として語られることが多かった。

作品に地域の風景が映れば、認知が広がる。ファンが訪れる。飲食店や宿泊施設に経済効果が生まれる。撮影隊が滞在することで、弁当、交通、宿泊、機材、警備など、地域内の事業者にも仕事が生まれる。

たしかに、それは大きな効果だ。

しかし、ロケ誘致の価値は、単に「作品に映ること」だけではない。

撮影現場には、都市では得られない風景がある。古い駅舎、港町の光、山あいの集落、工場地帯の夜景、雪に閉ざされた通り、祭りの熱気、生活の匂い。

それらは単なる背景ではなく、物語の質を変える要素になる。

地域の空気が、作品に深度を与える。

つまり、ロケ誘致とは、地域が作品に“場所”を貸すことではない。

地域の風景、歴史、人の営みが、作品づくりに参加することでもある。

コンテンツ地方創生拠点が示す、次のステージ

内閣府のクールジャパン戦略会議は、コンテンツ産業と地域経済の活性化の好循環を目指す地域一体の取組を「コンテンツ地方創生拠点」として選定しており、2025年度は全国各地の23拠点が選ばれている。

この動きが興味深いのは、コンテンツを活用した地方創生を、観光誘客だけで終わらせていない点にある。

内閣府の資料では、取組類型として「コンテンツ観光振興型」「コンテンツ産業振興型」「複合型」が示されている。観光振興型は、食や文化などの地域資源とコンテンツの魅力を掛け合わせ、地域の価値向上や消費拡大を目指す。一方、コンテンツ産業振興型は、地域発のコンテンツ創造、クリエイター育成、関連企業の集積・誘致などを重視する類型である。

これは、非常に重要な変化だ。

地域は、作品の舞台として消費されるだけではなく、作品そのものを生み出す場になろうとしている。

観光客を呼ぶためにコンテンツを使うのではなく、コンテンツを生み出す力を地域の産業として育てる。

この発想が広がれば、地方創生は「来てもらう」だけでなく、「つくる人が集まる」「若い人が働く」「企業が拠点を持つ」「地域発の作品が生まれる」という方向へ進んでいく。

札幌が示す“制作拠点”としての地域

たとえば、2025年度の「コンテンツ地方創生拠点」では、一般財団法人さっぽろ産業振興財団による「クリエイティブ産業振興事業」が、コンテンツ産業振興型として選定されている。対象ジャンルには、実写、アニメ、ゲーム、デザインが含まれている。

札幌の取組概要では、映像産業に関する条例やプランを持ち、長年にわたって映像活用施策を進めてきたこと、クリエイター支援拠点施設を開設し、クリエイターやクリエイティブ企業の成長・集積を推進してきたことなどが示されている。

また、札幌市のクリエイティブ産業振興のページを見ると、フィルムコミッション事業、映像・コンテンツ制作補助事業、札幌映像撮影コーディネーター、Sapporo Game Campなど、制作や人材育成に関わる施策が並んでいる。

ここにあるのは、「撮影に来てください」という受け身の姿勢だけではない。

地域の中に、作り手を育てる。

地域の中に、制作会社やクリエイターが活動しやすい環境をつくる。

地域の中に、映像、ゲーム、デザイン、アニメが交差する土壌をつくる。

そうすることで、都市の一極集中ではなく、地域からコンテンツが生まれる可能性を開いている。

“撮られる場所”には限界がある

もちろん、ロケ地になることには意味がある。

作品に映ることで、その地域を知らなかった人に届く。ファンが訪れる。風景に物語が宿る。観光資源としての価値も高まる。

しかし、“撮られる場所”に留まる限り、地域は外部の企画に依存することになる。

どの作品に選ばれるか。

どのシーンで使われるか。

作品がヒットするか。

ファンが訪れてくれるか。

その多くは、地域側だけではコントロールできない。

撮影後に一時的な注目が集まっても、その熱量を地域の産業や人材育成に接続できなければ、ブームは過ぎていく。

だからこそ、次に必要なのは、ロケ誘致の先を設計することだ。

撮影隊が来た。

作品が公開された。

観光客が訪れた。

その後に、地域は何を残せるのか。

この問いが、これからのロケ誘致には欠かせない。

ロケ地観光から、制作エコシステムへ

地域が“つくる場所”になるためには、ロケ地観光だけでは足りない。

必要なのは、制作エコシステムである。

たとえば、地域にフィルムコミッションがある。撮影許可やロケ候補地の調整ができる。地元の宿泊、交通、弁当、警備、機材、エキストラ募集などのネットワークがある。

さらに、撮影を経験した若者が現場を知り、映像制作に興味を持つ。地元の学校や専門機関がクリエイター教育に関わる。デザイナー、編集者、音楽制作者、ゲーム開発者、アニメーターが地域内でつながる。

そこに、企業や自治体、大学、商工会、観光団体が連携する。

こうした循環が生まれると、地域は単なるロケ地ではなくなる。

作品を支える場所になる。

作り手が育つ場所になる。

そして、地域発の物語が生まれる場所になる。

ロケ誘致の本当の価値は、撮影当日の経済効果だけではない。

その経験を、地域のクリエイティブ産業へどう蓄積できるかにある。

風景は、物語の資本である

地域には、都市のスタジオでは再現できないものがある。

潮風の匂い。

雪の重さ。

古い商店街の看板。

工場の灯り。

祭りの太鼓。

昼と夜で表情を変える駅前。

そうした風景は、単なる撮影素材ではない。

物語の資本である。

なぜなら、物語は場所によって変わるからだ。

同じ台詞でも、東京のビル街で語られるのと、冬の港町で語られるのとでは意味が変わる。

同じ別れのシーンでも、地方の無人駅で撮られることで、そこに時間の厚みや社会の余白が生まれる。

地域の風景は、作品に現実の重みを与える。

そして、作品は、その風景に新しい記憶を与える。

ロケ誘致とは、この交換を設計することでもある。

地域に必要なのは、撮影対応力だけではない

地域が制作拠点になるためには、単に「撮影できます」と言うだけでは足りない。

必要なのは、編集力である。

どんな風景があるのか。

どんな歴史があるのか。

どんな人がいるのか。

どんな産業があるのか。

どんな物語が生まれ得るのか。

地域の魅力を、撮影候補地リストとして並べるだけではなく、作品づくりの文脈として提示する力が求められる。

たとえば、廃校があるなら、それは単なる建物ではない。

人口減少、記憶、学び、再生、コミュニティの変化を宿した空間である。

港町があるなら、それは単なる海の風景ではない。

物流、移民、漁業、気候変動、家族の記憶が交差する場所である。

工場地帯があるなら、それは単なる夜景ではない。

産業、労働、エネルギー、脱炭素、未来の都市像を語る舞台である。

こうした文脈を提示できる地域ほど、作品との接点は深くなる。

若いクリエイターにとって、地域は可能性のフィールドになる

コンテンツ産業が都市に集中してきた理由は明確だ。

仕事がある。人がいる。スタジオがある。クライアントがいる。発注者がいる。

しかし、AIやリモート制作、クラウド編集、生成ツールの普及によって、制作環境は少しずつ変わっている。

すべてを大都市に集めなくても、企画、撮影、編集、デザイン、音楽、発信の一部は地域から担える時代になってきた。

そのとき、地域は若いクリエイターにとって、単なる地方ではなくなる。

撮れる風景がある。

語れる歴史がある。

参加できる現場がある。

自分の作品を社会と接続できるフィールドがある。

地域に制作の仕事が生まれれば、若者が残る理由にもなる。

外へ出た人が戻る理由にもなる。

都市の下請けではなく、地域発の企画を生み出す理由にもなる。

“つくる地域”が、次のブランドになる

地域ブランディングは、長い間「何を見せるか」を中心に考えられてきた。

美しい景色。

おいしい食。

歴史ある文化。

温かい人。

それらは今も大切だ。

しかし、これからは「何をつくれる地域なのか」も問われるようになる。

映画が撮れる地域。

アニメが生まれる地域。

ゲームクリエイターが育つ地域。

デザインと産業が交差する地域。

地域資源を物語化できる地域。

そのような“つくる地域”は、単なる観光地とは違うブランドを持つ。

人が訪れるだけでなく、人が関わりたくなる。

企業が撮影するだけでなく、拠点を持ちたくなる。

若い人が消費するだけでなく、参加したくなる。

そこに、ロケ誘致の次の可能性がある。

地域は、物語を生み出す場所になる

ロケ誘致は、地方創生の入口である。

だが、それだけでは十分ではない。

作品に映ること。

観光客が訪れること。

一時的に話題になること。

その先に、何を残すのか。

地域の中に、制作の経験を残す。

若いクリエイターの学びを残す。

地元事業者とのネットワークを残す。

地域発の企画を生み出す土壌を残す。

そこまで設計できたとき、ロケ誘致は観光施策を超えて、地域の産業政策になる。

地域は、撮られる場所から、つくる場所へ。

物語の背景から、物語の生産地へ。

コンテンツが地域経済を動かす時代に、本当に問われているのは、作品に選ばれることだけではない。

その地域が、自らどんな物語を生み出せるかである。


参考
※1 内閣府「コンテンツと地方創生の好循環プラン」2025年度選定結果。
※2 内閣府「2025年度『コンテンツ地方創生拠点』選定結果一覧」。
※3 一般財団法人さっぽろ産業振興財団「2025年度『コンテンツ地方創生拠点』への選定について」。
※4 札幌市「クリエイティブ産業の振興」。

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