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日本の職人と伝統|47都道府県・京都編

京くみひもの丸台と藍色の組紐を、障子越しの柔らかな光とともに描いた水彩画。「一本のひもに、京都の季節を組む。」の文字が添えられている。
京くみひもの丸台と藍色の組紐を、障子越しの柔らかな光とともに描いた水彩画

一本のひもに、京都の季節を組む。——京くみひも、装いと暮らしをつなぐ手仕事

着物姿を思い浮かべる。

最初に目に入るのは、着物の色や柄だろうか。それとも、背中に結ばれた帯の姿だろうか。

その装いをよく見ると、帯の上を一本の細い線が横切っている。

帯締め。

面積はわずかでも、その色が入ることで、装い全体の表情が変わる。淡い色を引き締めたり、落ち着いた取り合わせに明るさを添えたりする。

京都で受け継がれてきた「京くみひも」は、そんな小さな場所に、糸の色と技術を重ねてきた工芸だ。

一本のひもをたどると、そこには装いだけに収まらない歴史がある。祈りの場、武具、茶の道具。そして今では、毎日の移動を支える地下鉄にも、その技が使われている。

京都の手仕事は、思いがけないほど身近なところで、今の暮らしにつながっている。

Contents

結び、支え、飾る。京都で広がったひもの役割

ひもは、人がものを包み、運び、身に着けるとき、いつも近くにあった。

口を閉じる。ほどけないように留める。大切なものを結んでおく。

そうした働きに、色や文様を表す技術が重なっていった。

京都府の資料によれば、飛鳥・奈良時代に中国や朝鮮から高度なくみひもの技術が伝わり、平安・鎌倉時代には、服飾や巻物、箱、楽器、調度などへ用途が広がった。室町時代には茶道とも結び付き、桃山・江戸時代には庶民にも広まっていったという。pref.kyoto.jp

ここで見えてくるのは、ひもの形の向こうにある、人の営みだ。

装束を整えるためのひも。茶入れを包む仕覆の緒。箱を閉じ、大切なものを収めるひも。

何に使われ、誰が手にし、どんな場に置かれるのか。それによって、求められる色も、形も変わっていく。

京くみひもは、京都に積み重なった文化の細部を担ってきた。

目立つ場所ばかりではない。けれど、その一本がなければ整わないものが、確かにあった。

糸を「組む」という仕事

くみひもは、複数の糸の束を交差させながら、一本のひもにしていく。

京くみひもには丸台、角台、高台、綾竹台などの道具が使われ、つくるひもの種類に応じて組台を使い分ける。材料には絹糸や金銀糸などが用いられる。伝統工芸 青山スクエア

色の異なる糸が、交わる順番を変えながら模様になる。

完成した一本だけを見ると、その模様は初めから糸に備わっていたようにも見える。けれど、細い線が連続する表情は、組み進める動作の積み重ねから生まれる。

そして、その動作に入る前にも仕事がある。

糸割り、糸合わせ、経尺などの準備を経て、組む工程へ進む。その後も房付けや湯のしなどを行い、仕上げていく。特許庁による京くみひもの紹介にも、こうした工程が記されている。経済産業省 特許庁

店先で手に取る一本には、表からは見えにくい準備が含まれている。

糸を整え、組み、仕上げる。その一連の仕事を経て、ようやく誰かの装いに加わることができる。

小さな工芸だから、仕事も小さいとは限らない。

むしろ、細い一本へ収めるために、多くの判断が必要になるのだろう。

細い線で、季節を感じさせる

京都の工芸を考えるとき、色の取り合わせは興味深い入口になる。

一本ずつでは控えめに見える色が、隣り合うことで違う表情を見せる。どの色を、どれだけ見せるか。糸を組む技術は、色の関係を組み立てる技術でもある。

たとえば、帯締めを一本替える。

着物も帯も同じなのに、その日の装いが少し変わる。季節が進んだことや、今日は少し華やかにしたいという気持ちを、細い線に託すことができる。

京くみひもの魅力は、こうした小さな変化を楽しめるところにもあるのではないか。

全体を大きく変えずに、印象を動かす。

その感覚を、現代の生活のなかで具体的に見せている場所がある。京都市営地下鉄だ。

地下鉄の吊手にも、京都の季節がある

京都市営地下鉄烏丸線の20系車両では、一部の吊手の鞘に北山丸太が使われ、その周囲に京くみひもが巻き付けられている。city.kyoto.lg.jp

着物や茶の道具を想像していたところに、通勤や通学の風景が入ってくる。

これは、工芸との距離を変える使い方だと思う。

京都市交通局によると、第1編成から第5編成までは、衣服を重ねたときの色の取り合わせである「襲の色目」がテーマ。第6編成以降は、桜、清流、菊、椿という、植物や自然の風景をテーマにした色が使われている。city.kyoto.lg.jp

地下を走る車両のなかに、四季の色がある。

急いで乗り込んだ日は、気付かないかもしれない。けれど、ふと目を上げたとき、木と糸を使った細部に出会う。その理由を知ると、いつもの移動の景色が少し違って見える。

工芸を知るために、特別な場所へ出かける入口もある。

同時に、毎日使う場所へ工芸が入ってくる入口もある。

京くみひもの可能性は、その両方に開かれている。

今の身体に合う、新しい役割を探す

宇治で組紐づくりを続ける昇苑くみひもは、手組の技術を継承しながら、製紐機も活用してものづくりを行っている。島津製作所の紹介ページに寄せた同社の言葉では、和装に加え、アクセサリーやジュエリー、建築などへ用途を広げていることが分かる。島津製作所

ここには、受け継いだ技術を、今ある必要へつなぐ姿勢がある。

2026年には、昇苑くみひもから手組みの肩掛け組紐も発表されている。一本のなかで組み方を変え、肩に当たる部分には丸い八つ組を用いるなど、装いと使い方を考えた製品だ。昇苑くみひもウェブショップ

美しいから身に着けたい。

身体に触れる部分が心地よいから、使い続けたい。

そうした実感から、工芸との付き合いが始まることもある。

歴史を詳しく知らなくても、最初の一本を選ぶことはできる。使っているうちに、組み目の違いや色の組み合わせが気になり、つくり手の仕事を知りたくなる。

暮らしに入ることで、関心が育っていく。

その道筋を増やすことは、技術を次へ渡すうえでも、大切な仕事になるはずだ。

受け継ぐ手が、続けて働けるために

工芸の継承を考えるとき、後継者を育てることに目が向きやすい。

ただ、技術を学んだ先には、その技術で働き続ける時間がある。

注文を受け、材料を用意し、つくり、届ける。次の製作を考えられるだけの収入と、技術を磨く機会が必要になる。

京くみひもの用途の広がりを見ていると、継承には、仕事を生み出す相手も必要なのだと感じる。

装いを提案する人。製品を設計する人。建築や公共空間を考える人。そして、気に入った一本を日々使う人。

職人の技術に、別の分野の知識や生活の実感が加わることで、新しい役割が見つかる。

その接点をつくることも、工芸を支える仕事のひとつだろう。

EDITOR’S NOTE — NEOTERRAIN

京くみひもの資料を読んでいて、地下鉄の吊手に使われていることが、強く印象に残った。

京都の伝統というと、私たちは寺社や着物、茶の湯の風景を思い浮かべる。

けれど、その技術は、通勤する人の頭上にもある。季節の色をまといながら、今日の街を走っている。

このことに、工芸の未来を考える手掛かりがあるように思う。

いつもの生活のなかで、きれいだと感じる。使いやすいと感じる。そこから、その一本に重なった仕事を知る。

背景を知ったあとには、同じ色も、同じ組み目も、少し違って見えるはずだ。

京くみひもを受け継ぐということは、組み方を残すこととともに、その一本が必要とされる場面をつくり続けることでもある。

次は、どんな暮らしのそばで、この糸が組まれていくのだろう。


参考資料

※本記事は自治体・関係機関・事業者の公開資料をもとに構成しています。現地取材・職人への直接インタビューは行っていません。

文・構成:三宅雅之/NEOTERRAIN Journal

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