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「何でもできます」では選ばれない—制作が民主化した時代のポジショニング設計

青い石の構造物の間に明るい入口が現れ、「できることは広く、相談の入口は明確に。」と記された抽象ビジュアル
制作会社のポジショニングと相談の入口

映像制作会社のWebサイトを見ると、よく似た言葉が並んでいる。

企画から撮影、編集まで一貫して対応。
企業映像、採用動画、商品紹介、SNS動画にも対応。
マーケティング視点から成果につながる映像を提案。
経験豊富なスタッフが高品質なコンテンツを制作。

どれも間違いではない。

実際に、幅広い映像をつくることができ、企画から納品まで対応できる会社は多い。

しかし、同じような強みを多くの会社が掲げるようになると、それは差別化ではなく、業界の標準になる。

できることが増えた。
対応領域も広がった。
それなのに、顧客から見ると違いが分からない。

制作が民主化した時代には、技術や対応範囲の広さだけでは、選ばれる理由になりにくい。

では、企業は専門領域を一つに絞るべきなのだろうか。

必ずしも、そうではない。

必要なのは、できることを減らすことではなく、顧客が相談を始める入口を明確にすることである。

Contents

制作できること自体が、特別ではなくなった

かつて映像制作には、高価な撮影機材、大規模な編集設備、多くのスタッフ、専門的な技術が必要だった。

しかし現在は、カメラや編集環境の低価格化が進み、個人でも高品質な映像を制作できる。

さらに生成AIによって、企画案、構成、絵コンテ、ナレーション、音楽、画像、映像の一部まで、一人で制作できる範囲が広がっている。

これは、制作の価値がなくなったということではない。

むしろ、つくれる人が増えたことで、顧客が比較しなければならない選択肢が増えたのである。

大手制作会社だけでなく、中小の制作会社、フリーランス、広告会社、マーケティング会社、Web制作会社、AIクリエイターも、映像制作を提供する。

「映像をつくれます」という言葉だけでは、選択肢の中に埋もれてしまう。

「企画から納品まで一貫対応」も差別化になりにくい

ワンストップで対応できることは、顧客にとって便利である。

窓口が一つになり、情報共有がしやすくなり、制作全体の整合性も保ちやすい。

ただし、多くの会社が「企画から撮影、編集まで一貫対応」と掲げれば、その言葉だけでは一社を選ぶ理由にならない。

デジタルマーケティングに対応していることも同様である。

映像制作だけでなく、Web、SNS、広告運用、コンテンツマーケティングまで支援する会社は増えている。

対応領域が広いことは、受注後には強みになる。

しかし、発注前の顧客にとっては、何を相談すればよい会社なのかが分かりにくくなることもある。

何でもできる会社は、何を頼むべき会社なのかが見えにくい。

これが、幅広い能力を持つ会社が直面する矛盾である。

顧客が探しているのは、制作会社ではなく「課題の解決先」

顧客は、必ずしも最初から「映像制作会社を探そう」と考えているわけではない。

その前には、具体的な課題がある。

新商品を発売したが、特徴がうまく伝わらない。
通販番組をつくりたいが、売れる構成が分からない。
採用サイトへの応募者を増やしたい。
経営者の思想や創業の物語を残したい。
地域で取り組んでいる活動を社会へ伝えたい。
SNSを継続したいが、制作する人手が足りない。

顧客が探しているのは、映像そのものではない。

商品を売ること。
人を採用すること。
企業への理解を深めること。
社会との関係をつくること。
発信を継続すること。

映像は、その目的を実現するための手段の一つである。

したがって、企業側も「何を制作できるか」だけではなく、どのような課題から相談できるかを提示する必要がある。

ポジショニングは、仕事を一つに絞ることではない

ポジショニングという言葉には、「自社の専門分野を一つに決める」という印象がある。

たとえば、

通販映像だけをつくる。
採用動画だけに特化する。
飲食業界だけを顧客にする。

確かに、対象を絞ることで専門性が伝わりやすくなる。

しかし、実際の会社には、複数の経験や技術がある。市場環境や売上を考えれば、すべての仕事を一つの分野に限定できるとは限らない。

特に中小企業は、一つの専門領域だけで安定した売上をつくることが難しい場合もある。

ポジショニングは、できる仕事を捨てることではない。

社内に持っている能力と、市場に提示する入口を分けて考えることである。

たとえば、社内には次のような能力があるとする。

  • 企画を考える
  • 顧客インサイトを整理する
  • 映像を撮影する
  • 編集する
  • Web記事を制作する
  • SNSへ展開する
  • AIを活用して制作量を増やす
  • プロジェクト全体を管理する

これらをすべて並べて「何でもできます」と伝えるのではなく、顧客の課題ごとに組み合わせ直す。

すると、同じ能力から複数の相談入口をつくることができる。

一つの会社に、複数の相談入口があってよい

会社の看板は一つでも、顧客が入ってくる入口は一つである必要はない。

たとえば、映像制作会社であれば、次のような入口を設計できる。

通販商品の売上につながる映像をつくりたい

ここでは、撮影技術よりも、商品理解、顧客心理、構成、オファー、レスポンス設計の経験が重要になる。

「通販映像を制作できます」ではなく、「商品の魅力を購入理由へ変換する映像を設計します」と伝える。

企業の思想や歩みを映像に残したい

ここでは、取材力、関係構築、質問設計、物語の編集、人物を魅力的に描く力が求められる。

「企業映像を制作します」ではなく、「企業の中にある、まだ言葉になっていない価値をドキュメンタリーとして残します」と伝える。

継続的な情報発信を始めたい

ここでは、一本の映像をつくることよりも、テーマ設計、記事、SNS、短尺映像への展開、制作体制の構築が重要になる。

「SNS動画にも対応します」ではなく、「一つのテーマを複数のコンテンツへ展開し、発信を継続できる仕組みをつくります」と伝える。

地域や社会課題を企業活動と結びつけたい

ここでは、広告表現だけでなく、土地、文化、産業、自然環境を理解し、企業の存在意義と結びつける編集力が必要になる。

「PR映像を制作します」ではなく、「地域と企業の関係を、社会へ伝わる物語に編集します」と伝える。

これらは別々の会社のように見えるが、根底では同じ能力を使っている。

企画する。
取材する。
撮影する。
編集する。
届け方を設計する。

違うのは、能力ではなく、顧客が相談を始める理由である。

入口は狭く、対応は広く

ポジショニングを考えるうえで重要なのが、入口は狭く、対応は広くという考え方である。

入口では、顧客の具体的な課題に焦点を当てる。

「通販商品の魅力を伝えたい」
「会社の思想を映像にしたい」
「コンテンツ発信を継続したい」

相談が始まった後は、課題に応じて幅広い能力を提供する。

映像だけでなく、記事が必要かもしれない。
SNSへの展開が必要かもしれない。
Webサイトの改善や広告運用が必要になるかもしれない。

最初からすべての能力を見せると、何の会社か分からなくなる。

しかし、一つの課題から相談が始まれば、幅広い対応力は大きな価値になる。

広い能力を持ちながら、狭い入口から出会う。

これが、制作領域が広がった時代の現実的なポジショニングである。

「誰に」だけでなく「どんな状況に」を決める

従来のマーケティングでは、ターゲットを業種、企業規模、年齢、性別などで設定することが多かった。

しかし、同じ企業でも、置かれている状況によって必要なサービスは変わる。

商品を発売したばかりなのか。
既存広告の反応が下がっているのか。
採用に困っているのか。
周年を迎え、企業の歴史を残したいのか。
新規事業を社会へ理解してもらいたいのか。

顧客像だけでなく、顧客が相談を必要とする瞬間を考える。

すると、発信すべき記事や実績も見えてくる。

たとえば「映像制作会社の選び方」という広い記事よりも、

  • 通販映像で商品の説明が長くなってしまう理由
  • 企業ドキュメンタリーの取材で本音を引き出す方法
  • 採用動画が会社紹介だけで終わってしまう問題
  • 一本の映像を記事やショート動画へ展開する方法

といった具体的なテーマのほうが、課題を抱えた顧客との接点をつくりやすい。

コンテンツもまた、相談入口の一つなのである。

強みは、能力と経験と課題の掛け算でつくられる

「映像制作ができます」だけでは、同じ会社が多い。

「マーケティングもできます」と加えても、まだ競合は多い。

そこで、強みを三つの要素に分けて考える。

能力

何ができるのか。

企画、撮影、編集、マーケティング、取材、AI活用など。

経験

どのような仕事をしてきたのか。

業界、案件の種類、担当年数、役割、制作過程など。

課題

顧客の何を解決するのか。

売上、採用、理解促進、ブランド形成、継続発信など。

たとえば、

映像制作 × 長年の通販案件経験 × 購入理由の設計

という組み合わせなら、単なる制作会社とは異なる説明ができる。

あるいは、

取材・編集 × 企業や自治体案件の経験 × 社会的価値の可視化

という組み合わせもつくれる。

個々の能力は一般的でも、経験と課題を掛け合わせることで、その会社ならではのポジションが生まれる。

ポジショニングだけで、仕事が来るわけではない

自社の強みを整理し、相談入口をつくれば、すぐに仕事が増えるわけではない。

Webサイトを整えただけで、顧客が自動的に集まるとは限らない。

特に知名度の低い企業や新しい会社には、営業活動が必要である。

見込み客を探す。
問い合わせる。
過去の関係者へ連絡する。
協業できる会社と接点をつくる。
案件情報を確認する。
提案書を送る。

こうした地道な行動は、ポジショニングとは別に必要になる。

ただし、ポジショニングが明確であれば、営業の伝わり方が変わる。

「映像制作なら何でもできます」と営業するのと、

「通販商品の魅力を、購入理由へ変える映像設計を得意としています」

と営業するのでは、相手が理解する速さが違う。

ポジショニングは、営業を不要にするものではない。

営業したときに、自社の価値を短時間で理解してもらうための土台である。

現在の売上をつくる仕事と、未来をつくる事業を分ける

企業には、現在の売上を支える仕事と、将来の成長をつくる事業がある。

映像制作の受託によって、現在のキャッシュをつくる。
一方で、自社メディア、独自企画、教育、協賛事業など、将来の収益源を育てる。

この二つは、同じ方法で売る必要はない。

受託制作では、顧客がすでに持っている課題を解決する。

独自事業では、まだ市場に十分認識されていない価値を提案し、共感する企業や人を探す。

必要な営業先も、提案内容も、成果が出るまでの時間も異なる。

一つの言葉ですべてを説明しようとすると、会社の輪郭がぼやける。

だからこそ、事業ごとに相談入口を分け、それぞれの役割を明確にする必要がある。

現在を支える入口。
未来を育てる入口。

両方を持つことは、ポジショニングが曖昧なのではない。

それぞれの目的を整理せず、同じ言葉で伝えることが問題なのである。

何でもできる会社から、相談しやすい会社へ

制作が民主化したことで、企業や個人ができることは増えた。

これからもAIの進化によって、制作可能な領域は広がっていくだろう。

その中で、すべての競合より技術的に優位であり続けることは難しい。

しかし、顧客の課題を理解し、適切な相談入口をつくることはできる。

重要なのは、何でもできることを大きく見せることではない。

どのような状況で、誰の役に立てるのか。
なぜ、その課題を解決できるのか。
どのような経験が、その根拠になっているのか。

それを具体的に伝えることである。

ポジショニングとは、仕事を一つに絞ることではない。

顧客が自分の課題と、企業の強みを結びつけられる「相談の入口」をつくることである。

「何でもできます」と伝える会社から、
「この課題なら、ここへ相談してみよう」と思われる会社へ。

制作が民主化した時代に選ばれるのは、最も多くのことができる会社ではない。

顧客が、自分のための会社だと理解できる会社なのである。


あなたの会社は、「できること」を並べるだけの発信になっていないでしょうか。

技術や実績を、顧客が抱える具体的な課題と結びつけることで、それらは初めて「相談する理由」に変わります。

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