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30by30とは何か─自然を守る場所は、国立公園だけではない

水田と里山、鎮守の森が広がる山あいの集落風景
水田と里山、鎮守の森が広がる山あいの集落風景

自然を守る場所と聞くと、多くの人は国立公園や世界自然遺産を思い浮かべるかもしれない。

屋久島の森。
知床の海。
尾瀬の湿原。
白神山地のブナ林。

人の手が入りすぎていない、特別で、遠くにある自然。

もちろん、そうした場所を守ることは大切だ。
しかし、これからの自然保護は、それだけでは足りない。

私たちの暮らす町の近くにある雑木林。
企業が管理する森。
学校の裏山。
神社の鎮守の森。
農村の田んぼや水路。
漁師が守ってきた藻場。
工場や事業所の敷地内に残された緑地。

そうした場所もまた、生き物にとっては大切なすみかであり、人間にとっては水、空気、食、景観、防災、文化を支える基盤でもある。

「30by30」という言葉がある。

読み方は、サーティ・バイ・サーティ。

2030年までに、陸と海の30%以上を健全な生態系として保全しようという国際的な目標である。環境省は30by30を、2030年までに生物多様性の損失を食い止め、回復させる「ネイチャーポジティブ」に向けた取り組みとして説明している。

一見すると、これは国際会議や環境政策の話に聞こえる。

けれど、30by30の本質はもっと身近にある。

自然を守る場所は、国立公園だけではない。
自然を守る人も、専門家だけではない。
地域に暮らす人、土地を持つ人、企業、自治体、学校、寺社、農家、漁師、そして私たち一人ひとりが、自然との関係をどう作り直すのか。

30by30は、その問いを投げかけている。

Contents

なぜ今、30%なのか

地球上の生物多様性は、急速に失われている。

森林の減少、湿地の消失、海洋環境の悪化、外来種の拡大、気候変動、過剰な開発。
それらが重なり、生き物のすみかは分断され、減少している。

生物多様性が失われるということは、単に珍しい動植物が減るという話ではない。

水をきれいにする湿地。
土砂災害を防ぐ森林。
魚を育てる藻場。
作物の受粉を助ける昆虫。
地域の気候を和らげる緑地。

こうした自然の働きが弱くなるということでもある。

2022年12月には、生物多様性に関する新たな世界目標である「昆明・モントリオール生物多様性枠組」が採択された。その中には、2030年までに陸域と海域の30%以上を保全する30by30目標などが含まれている。

30%という数字は、単なるスローガンではない。

生態系を点ではなく、面として守るための目安である。

ひとつの森だけを守っても、生き物はそこだけで完結して生きているわけではない。
川、湿地、農地、里山、海、草地、都市の緑。
それらがつながることで、生き物は移動し、繁殖し、命をつないでいく。

自然を孤立した保護区として残すのではなく、地域の中でつなぎ直す。

30by30は、自然を「残す」だけでなく、自然のつながりを「回復する」ための考え方でもある。

自然共生サイトという考え方

30by30を考える上で、重要になるのが「自然共生サイト」である。

環境省は自然共生サイトを、民間の取組等によって生物多様性の保全が図られている区域を国が認定する制度として位置づけている。認定された区域のうち、保護地域と重複しないものは、OECMとして国際データベースにも登録される流れがある。

OECMとは、国立公園などの法的な保護地域ではないものの、生物多様性の保全に効果的に貢献している場所を指す考え方である。日本自然保護協会も、OECMを「保護地域ではないが、効果的な保全が行われている場」と説明している。

ここが面白い。

自然保護というと、国が指定し、専門家が管理し、一般の人は外から眺めるものだと思われがちである。

しかし自然共生サイトでは、企業の森、社寺林、里地里山、都市緑地、学校林、漁場、ビオトープのような場所も対象になり得る。

つまり、自然保護の舞台が広がる。

遠くの原生林だけではない。
観光地だけでもない。
人の暮らしのすぐそばにある自然が、保全の対象になる。

これは、NEOTERRAIN Journalが見つめてきたテーマとも重なる。

地域には、まだ言語化されていない価値がある。
古い道、雑木林、田んぼ、水路、海辺、鎮守の森。
それらは、ただの風景ではなく、地域の記憶であり、生き物のすみかであり、暮らしを支える環境装置でもある。

30by30は、そうした場所にもう一度、価値を与え直す取り組みでもある。

国立公園だけでは守れない自然がある

国立公園や自然公園は、自然保護の重要な柱である。

しかし、日本の自然の多くは、人の暮らしと重なりながら存在してきた。

里山。
棚田。
ため池。
水路。
雑木林。
海藻場。
河川敷。
社寺林。

これらは、人の手が入ることで維持されてきた自然である。

草刈りをする。
水路をさらう。
田んぼに水を張る。
薪や落ち葉を利用する。
漁場を守る。
森に人が入る。

そうした営みがあることで、多様な生き物が暮らせる環境が保たれてきた。

ところが、人口減少や高齢化、農業・林業・漁業の担い手不足によって、こうした場所の管理が難しくなっている。

人が関わらなくなった自然は、必ずしも豊かになるわけではない。

草地は藪になり、田んぼは荒れ、ため池は埋まり、水路は詰まる。
開けた環境を必要とする生き物は姿を消し、外来種が広がることもある。

自然を守るということは、ただ人間が手を引くことではない。

場所によっては、人が関わり続けることが自然を守ることになる。

30by30の重要性は、そこにある。

「保護する自然」と「利用する土地」を分けるのではなく、暮らしや経済活動の中で、生物多様性をどう守るのか。

その視点が求められている。

企業にとっての30by30

30by30は、企業にとっても無関係ではない。

むしろ、これからの企業活動にとって、自然資本や生物多様性は重要なテーマになっていく。

企業は土地を持っている。
工場を持っている。
物流を動かしている。
原材料を使っている。
水を使い、エネルギーを使い、地域環境に影響を与えている。

つまり、企業活動は必ず自然とつながっている。

環境省は30by30アライアンスについて、地域、企業、一人ひとりの力を結集し、オールジャパンで取り組む必要があるとしている。さらに、OECM認定によって期待される効果として、脱炭素、循環経済、農山村、食、健康などの領域も挙げている。

これは、企業にとって単なる社会貢献ではない。

企業の敷地内にある緑地を、生物多様性の視点で管理する。
工場周辺の水辺を整備する。
社員参加型で森や里山を保全する。
地域の自然共生サイトと連携する。
商品やサービスの背景にある自然資本を見直す。

こうした取り組みは、企業のブランド価値、地域との信頼関係、採用、ESG、サステナビリティ戦略にもつながる。

ただし、注意も必要である。

30by30やネイチャーポジティブという言葉を使うだけでは意味がない。
ロゴや宣言だけで自然を守ったことにはならない。

本当に重要なのは、その場所で何が守られているのか。
どんな生き物がいるのか。
誰が管理しているのか。
地域の人にとって、その自然がどんな意味を持つのか。
そして、その取り組みが継続できるのか。

自然保護は、短期キャンペーンではなく、長い関係の設計である。

自治体にとっての30by30

自治体にとっても、30by30は地域づくりの視点になる。

自然環境は、観光資源であり、防災インフラであり、教育資源であり、地域のアイデンティティでもある。

川がある。
海がある。
山がある。
森がある。
湿地がある。
田んぼがある。

それらは、ただ「自然が豊か」という一言で片づけられるものではない。

どの自然を守るのか。
誰が守るのか。
どう使いながら守るのか。
観光や教育、地域産業とどうつなげるのか。

30by30は、自治体が地域の自然を棚卸しするきっかけになる。

たとえば、地域に残る里山を自然共生サイトとして認定する。
学校教育と結びつける。
企業のCSRやESG活動と連携する。
観光客に消費される自然ではなく、守ることに参加できる自然として発信する。
地域住民が誇りを持てる場所として再編集する。

自然を守ることは、地域の価値を守ることでもある。

地方創生という言葉がある。
しかし、地域の自然資本を失った地方創生は、持続しない。

美しい川を失った町。
海藻場を失った漁村。
里山を失った農村。
鎮守の森を失った集落。

そこから、地域の魅力を語ることは難しい。

30by30は、地域の自然を未来の資産として見直すための考え方でもある。

身近な自然を、どう見直すか

私たちは、自然を遠くに置きすぎてきたのかもしれない。

自然は旅行先にあるもの。
自然は国立公園にあるもの。
自然は専門家が守るもの。
自然は行政が管理するもの。

そう考えてしまうと、日々の暮らしの中にある自然は見えなくなる。

通学路の水路。
住宅地の小さな森。
神社の木々。
使われなくなった田んぼ。
海辺の草地。
工場の緑地。
街路樹の下の土。

そうした場所にも、生き物はいる。

そして、そうした場所が消えていくと、私たちの暮らしの質も静かに変わっていく。

夏の暑さが厳しくなる。
雨水が一気に流れる。
鳥や虫の声が減る。
子どもが自然に触れる機会が減る。
地域の風景から季節感が失われる。

自然は、遠くの絶景だけではない。

日常の中にある小さな自然こそ、私たちの感覚を支えている。

30by30は、その小さな自然を見直すためのレンズになる。

自然を守ることは、関係を守ること

自然を守るとは、何を守ることなのだろうか。

木を守ること。
鳥を守ること。
魚を守ること。
水を守ること。
土を守ること。

もちろん、それらは大切である。

けれど、もう少し深く考えるなら、自然を守るとは、関係を守ることなのだと思う。

山と川の関係。
川と海の関係。
森と農地の関係。
生き物同士の関係。
人間と土地の関係。
地域と記憶の関係。

自然は、単体で存在しているわけではない。
あらゆるものがつながりながら、ひとつの環境を形づくっている。

30by30が問いかけているのは、単に「30%を守りましょう」という数字の話ではない。

私たちは、自然との関係をどこまで失ってきたのか。
そして、その関係をどう作り直すのか。

その問いである。

国立公園の外にある自然へ

国立公園は、これからも大切に守るべき場所である。

けれど、国立公園の外にも自然はある。

人が暮らす場所のすぐそばに。
企業の敷地の中に。
学校の裏山に。
神社の森に。
田んぼの水路に。
漁村の海に。
都市の小さな緑に。

そこには、まだ名前を与えられていない価値がある。

30by30とは、その価値を見つけ直す取り組みでもある。

自然を守る場所は、遠くの特別な場所だけではない。
自然を守る人は、専門家だけではない。
自然を守る行為は、大きな政策だけではない。

草を刈ること。
水路を守ること。
森に入ること。
外来種を見つけること。
地域の自然を記録すること。
企業が土地の使い方を見直すこと。
自治体が地域資源として自然を位置づけること。

その一つひとつが、人間と自然の関係をつなぎ直す行為になる。

30by30は、環境政策の言葉であると同時に、地域の未来を考える言葉でもある。

自然を守るとは、遠くの森を眺めることではない。
自分たちの暮らす場所にある自然を、もう一度見つめ直すことから始まる。

国立公園だけではない。
世界遺産だけではない。
観光地だけでもない。

私たちの足元にも、守るべき自然はある。

その小さな自然を見つけることが、30by30の第一歩なのかもしれない。

引用・参考

環境省「30by30」
https://policies.env.go.jp/nature/biodiversity/30by30alliance/

環境省「自然共生サイト」
https://policies.env.go.jp/nature/biodiversity/30by30alliance/kyousei/

環境省「認定サイト一覧|自然共生サイト」
https://policies.env.go.jp/nature/biodiversity/30by30alliance/kyousei/nintei/index.html

環境省「昆明・モントリオール生物多様性枠組」
https://www.env.go.jp/nature/biodiversity/kmgbf.html

日本自然保護協会「人と自然の共生地域 OECM」
https://www.nacsj.or.jp/magazine/27851/


30by30は、遠くの自然だけでなく、私たちの暮らしのすぐそばにある自然を見つめ直す考え方です。
これからも、地域の風景の奥にある自然環境と社会のつながりを掘り下げていきます。
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