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黒い傷跡に、緑は根づくのか─インドネシア炭鉱跡地が試す“育てる脱炭素”

インドネシアの炭鉱跡地を思わせる黒や赤茶の荒れた地形と、その周囲に広がる緑の森を対比的に描き、「黒い傷跡に、緑は根づくのか」という文字が配置されたアイキャッチ画像。
黒く削られた採掘跡と赤土の露出した地形、そしてその周囲に広がる濃い緑の植生を対比的に描いたイメージ

掘り尽くされた土地には、時代の痕跡が残ります。

むき出しの土。
途切れた地形。
失われた植生。
そして、資源を取り出したあとの沈黙。

炭鉱跡地とは、エネルギーの歴史が残した“黒い傷跡”なのかもしれません。

けれど今、その傷跡を、次のエネルギーの起点に変えようとする実験が始まっています。

商船三井など6社のコンソーシアムは、インドネシア南カリマンタン州タピン県の約10ヘクタールの炭鉱跡地で、油糧植物ポンガミアの試験栽培プロジェクトを開始しました。期間は2026年から2031年までの5年間。検証対象は、栽培適性、生育データ、バイオ燃料原料としての活用可能性、サプライチェーン、炭鉱跡地の再生利用、カーボンクレジット創出可能性、そして将来的な商業化に向けた課題整理まで含まれています。

これは単なる植林ではありません。

化石燃料の採掘で傷ついた土地を、脱炭素時代の資源供給地へ変えられるのか。

この問いが、今回のプロジェクトの核心です。

Contents

“掘る脱炭素”の次に、“育てる脱炭素”は来るのか

インドネシアは、すでに脱炭素時代の重要な供給地として世界に組み込まれています。

EVバッテリーに使われるニッケル。
世界のエネルギー転換を支える鉱物。
そして、その採掘によって変わっていく土地と森。

これまでの議論では、脱炭素のために何を“掘るか”が中心でした。

けれど今回のポンガミアは、少し違います。

ここで行われようとしているのは、資源を地中から掘り出すのではなく、土地の上で育てることで燃料原料を得る試みです。

つまり、ニッケルが「掘る脱炭素」だとすれば、ポンガミアは「育てる脱炭素」とも言える。

もちろん、植物を育てることがただちに持続可能性を保証するわけではありません。けれど、採掘の傷跡が残る場所で、次の燃料原料を育てようとする発想には、強い象徴性があります。

ポンガミアは、なぜ注目されるのか

ポンガミアは、インド原産のマメ科植物です。中国南部、沖縄、台湾から、インド、東南アジア、オーストラリア、西太平洋諸島などの温暖で湿潤な地域に自生し、沖縄県が分布北限とされています。種子には30〜45%程度の油が含まれ、非可食油であることから、食料生産と競合しにくいバイオ燃料原料としての可能性が期待されています。

ここが重要です。

バイオ燃料はしばしば、食料との競合という課題を抱えてきました。

燃料をつくるために土地を使うことが、食料価格や農地利用に影響を与えてしまう。 その矛盾が、持続可能性への疑念を生んできたわけです。

その点、ポンガミアは非可食です。 少なくとも設計思想としては、「食べるための土地」と「燃料のための土地」をぶつけない方向を目指している。

さらに今回の計画では、炭鉱跡地を使うことで、新たな農地開発ではなく、既に傷ついた土地の再利用という文脈も加わっています。

これは緑化ではなく、事業化の実験である

このプロジェクトを、単なる“緑を増やす話”として読むと、本質を見失います。

リリースに明記されている検証項目を見ると、この取り組みはかなり実務的です。

栽培適性。
生育データ。
バイオ燃料原料としての活用可能性。
サプライチェーン。
炭鉱跡地の再生利用。
カーボンクレジット創出可能性。
商業化に向けた課題整理。

つまり、目指しているのは“きれいな風景”だけではありません。

再生と収益性は両立するのか。
環境修復は、供給網として成立するのか。

そこまで含めて試しているのが、今回の実験です。

言い換えれば、これは“自然を戻す”だけの話ではなく、 “脱炭素時代の経済をどう成立させるか”という話でもある。

炭鉱跡地は、負の遺産から再生インフラになれるのか

炭鉱跡地には、ある種の後ろめたさがあります。

そこは、かつて化石燃料の時代を支えた場所であり、同時に、環境負荷の痕跡を残した土地でもあるからです。

だからこそ、その場所をどう扱うかには、その社会の姿勢が現れます。

放置するのか。 緑化するのか。 新たな開発に変えるのか。 それとも、次のエネルギーの実験場にするのか。

今回のプロジェクトは、その第四の道を試しています。

約10ヘクタールという規模は、巨大ではありません。けれど、小さいからこそ、実証としての意味があります。現場で何が育つのか。どう管理するのか。どこにコストがかかるのか。どこに供給網の難しさがあるのか。炭鉱跡地の再利用がどこまで現実的かを、抽象論ではなく現地で確かめる設計になっています。

ここで問われるのは、炭鉱跡地を単なる“負の遺産”のままにしないための方法です。

つまり、土地の再生は、美観の問題ではなく、インフラの問題でもあるのです。

脱炭素は、過去の傷跡をどこまで引き受けられるのか

このテーマが興味深いのは、脱炭素を“未来だけの話”にしていないからです。

多くの脱炭素施策は、つい「これから何をつくるか」に集中しがちです。

新しい燃料。 新しい設備。 新しい市場。 新しいクレジット。

けれど、本当はその前に、過去の資源開発が残したものがあります。

削られた地形。 失われた土壌。 採掘のあとに取り残された土地。 そして、化石燃料の時代が刻んだ傷跡。

脱炭素とは、新しい資源を得る話だけではない。 過去の採掘の痕跡を、どこまで引き受け、どこまで再設計できるかという話でもあるのだと思います。

だから今回のポンガミア実験は、単なるバイオ燃料の実証以上の意味を持っています。

それは、脱炭素が“加点の物語”だけでなく、“修復の物語”になれるのかを試す実験でもあるからです。

それでも、問いは残る

もちろん、このプロジェクトをそのまま理想化することはできません。

ポンガミアは本当に安定的な原料供給源になれるのか。 炭鉱跡地の土壌条件で、事業として成立するのか。 カーボンクレジットは、どこまで実効的な価値を持つのか。 現地に利益はどう分配されるのか。 持続可能性は、誰の視点で評価されるのか。

また、非可食であることや跡地利用であることが、即座に持続可能性の証明になるわけでもありません。

重要なのは、美しい言葉ではなく、土地・生育・供給網・採算・地域との関係が現実にどう動くのかです。

だからこそ、この5年間の実証には意味があります。

持続可能性は、理念として語るだけでは成立しない。 実際に育て、運び、使い、検証してみてはじめて、次の段階に進めるからです。

黒い傷跡に、緑は根づくのか

インドネシアでは、ニッケルが「掘る脱炭素」の現場を示しました。 そして今回の炭鉱跡地では、「育てる脱炭素」の可能性が試されています。

この二つは矛盾しているようでいて、実は同じ問いにつながっています。

脱炭素は、どの土地の上で、どんな痕跡を引き受けながら成立するのか。

未来のエネルギーは、過去の傷跡と無関係にはつくれません。

だからこそ、炭鉱跡地に植えられる一本の木は、ただの緑ではない。 それは、化石燃料の時代から脱炭素の時代へ移るとき、私たちが何を忘れず、何を修復し、何を次の資源に変えようとしているのかを映すものです。

黒い傷跡に、緑は根づくのか。

その答えはまだ出ていません。 けれど、その問いを現場で試し始めたこと自体に、今の時代の手触りがあるのだと思います。

NEOTERRAINは、これからも世界と地域の現場から、見えない構造と未来への問いを読み解いていきます。

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