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“聖地巡礼”の先へ─コンテンツが地域経済を動かす時代

夕暮れの日本の地方都市の通りに、物語の舞台としての地域を象徴するコピーが重ねられたアイキャッチ画像
夕暮れの日本の地方都市の通りに、物語の舞台としての地域を象徴するイメージ

アニメや映画の舞台を訪ねる旅は、かつて「聖地巡礼」と呼ばれるファン文化の一部だった。

好きな作品に登場した駅に立つ。キャラクターが歩いた商店街を歩く。物語の中で見た景色を、自分の目で確かめる。

それは、観光というよりも、作品世界にもう一度入り直すような体験だった。

しかし今、その動きはファンの熱量だけに支えられた現象から、地域経済を動かす新しい仕組みへと変わり始めている。

内閣府のクールジャパン戦略会議は、コンテンツ産業と地域経済の活性化の好循環を目指す地域一体の取組を「コンテンツ地方創生拠点」として選定し、2025年度は全国各地の23拠点を選定した。※1

そこに見えてくるのは、アニメや映画を単なる観光誘客の入口として使うだけではない、もう少し大きな変化だ。

地域は、観光地ではなく“物語の舞台”として再設計されようとしている。

Contents

コンテンツ地方創生拠点とは何か

「コンテンツ地方創生拠点」は、アニメ、マンガ、映画、ドラマ、ゲーム、特撮などのコンテンツを起点に、地域の観光や産業、文化資源を結び直していくための取組である。

内閣府の資料では、2025年度の選定拠点は大きく、コンテンツ観光振興型、コンテンツ産業振興型、複合型に整理されている。※2

たとえば、福島県須賀川市では、ウルトラマンや特撮コンテンツを活かした魅力拡大プロジェクトが選定されている。須賀川市は円谷英二の出身地としても知られ、特撮文化と地域の歴史が結びついている。

山梨県や身延町などでは、アニメ『ゆるキャン△』シリーズと連携した地域周遊観光促進が選ばれている。キャンプ、自然、鉄道、地域の食といった要素が、作品世界を通じて旅の動機へと変わっていく。

静岡県沼津市では、『ラブライブ!サンシャイン!!』などを活用した「聖地沼津×観光推進プロジェクト」が選定されている。ファンが作品をきっかけに街を訪れ、地域の店舗やイベント、まち歩きへと接続していく事例だ。

鳥取県北栄町では、「名探偵コナンに会えるまち」として、誘客や滞在促進による消費拡大を目指す取組が選ばれている。香川県土庄町では、『からかい上手の高木さん』の舞台モデル地として、作品の世界観を活かした周遊施策やイベント展開が評価された。※3

これらに共通しているのは、作品の知名度だけに頼っているわけではないという点だ。

作品と地域資源をどう接続するか。

訪れた人を、どのように地域の消費や滞在へ結びつけるか。

そして、一過性のブームではなく、継続的な関係人口や産業振興へどう広げるか。

そこに、これからのコンテンツ地方創生の本質がある。

“聖地巡礼”は、なぜ経済になるのか

聖地巡礼が一般的な観光と違うのは、出発点が「情報」ではなく「感情」であることだ。

旅行者は、単に有名な場所を見たいわけではない。

その場所に、自分の好きな物語が宿っているから行く。

キャラクターが見た景色を見たい。物語の空気を感じたい。作品の中の時間を、現実の場所で追体験したい。

そこには、通常の観光パンフレットでは生まれにくい深い動機がある。

この感情の強さが、移動を生み、滞在を生み、消費を生む。

グッズを買う。地元の店に入る。宿泊する。イベントに参加する。何度も訪れる。SNSで共有する。さらに別のファンを連れてくる。

つまり、コンテンツは地域にとって、広告ではなく“関係の入口”になる。

一度きりの観光客ではなく、その土地を特別な場所として記憶してくれる人を生み出す。

ここに、物語経済の力がある。

地域は“背景”から“共演者”になる

これまで多くの地域は、作品の中で背景として描かれてきた。

駅、商店街、海岸、山道、学校、神社。

それらは物語の舞台でありながら、現実の地域にとっては、日常の風景でもある。

しかし、コンテンツ地方創生の文脈では、この日常の風景が経済資源へと変わる。

ただし、それは風景を“消費される素材”にするという意味ではない。

むしろ、地域が作品と向き合い、自分たちの歴史や暮らし、産業、文化を重ね合わせていくことで、風景に新しい意味が生まれる。

たとえば、ある商店街が作品に登場したとする。

そこを単に「作中に出た場所」として紹介するだけなら、聖地巡礼は写真を撮って終わる。

しかし、その商店街の成り立ち、店主たちの思い、地元の食文化、昔から続く祭り、地域が抱える課題まで重ねて伝えることができれば、ファンはその場所をもっと深く理解する。

作品を通じて訪れた人が、地域そのものに関心を持つ。

その瞬間、地域は作品の背景ではなく、物語の共演者になる。

コンテンツ産業振興型というもうひとつの視点

注目すべきは、「コンテンツ地方創生拠点」が観光だけに閉じていない点だ。

選定類型には「コンテンツ産業振興型」もある。これは、ロケ誘致、映像制作、アニメ、ゲーム、デザイン、クリエイター育成、関連企業の集積など、地域にコンテンツ産業そのものを育てていく視点である。

たとえば、札幌市では、一般財団法人さっぽろ産業振興財団の「クリエイティブ産業振興事業」がコンテンツ産業振興型として選定された。発表では、フィルムコミッション、コンテンツ、デザインなどを軸に、地域発のコンテンツ創造、クリエイター育成、関連企業の集積・誘致に取り組むとしている。※4

これは、非常に重要な流れだ。

なぜなら、コンテンツを使った地域活性化は、外から作品を呼び込むだけでは限界があるからだ。

本当に持続可能な仕組みにするには、地域の中に作り手が育つ必要がある。

映像を撮れる人。脚本を書ける人。地域資源を物語化できる人。イベントを設計できる人。SNSで発信できる人。海外に向けて翻訳できる人。

地域にクリエイティブ人材が育てば、コンテンツは一過性の観光キャンペーンではなく、地域の産業基盤になっていく。

“訪れてもらう地域”から、“物語を生み出す地域”へ。

この転換こそ、聖地巡礼の先にある次のステージかもしれない。

ファン文化を、地域がどう受け止めるか

一方で、コンテンツによる地域活性化には繊細な難しさもある。

ファンは、地域を単なる観光商品として見ているわけではない。

作品への愛着があり、キャラクターへの思いがあり、その場所を大切にしたいという感情を持っている。

だからこそ、地域側が短期的な集客だけを目的にすると、ファンとの温度差が生まれる可能性がある。

大切なのは、ファンを“消費者”として扱うのではなく、地域と作品をつなぐ共創者として迎えることだ。

ファンが訪れやすい導線を整える。地域の人が作品を理解する。店舗や施設が自然な形で参加する。過度に商業化しすぎず、作品世界への敬意を保つ。

聖地巡礼が長く続く地域には、この距離感がある。

地域がファンを歓迎し、ファンが地域を尊重する。

その関係性があるからこそ、物語は現実の場所に根づいていく。

“物語経済”は、地域ブランディングの新しい形である

地域ブランディングというと、ロゴやキャッチコピー、特産品のパッケージ、観光ポスターを思い浮かべることが多い。

しかし、コンテンツ地方創生が示しているのは、ブランドはもはや一方的に発信するものではないということだ。

作品があり、ファンがいて、地域の人がいて、実際の場所がある。

それらが重なり合うことで、地域のブランドは育っていく。

物語経済とは、単にアニメや映画で人を呼ぶことではない。

地域が、物語を通じて新しい意味を獲得し、その意味が人の移動、滞在、消費、発信、再訪を生み出す仕組みである。

そこでは、地域資源も変わる。

古い駅舎は、ただの交通施設ではなくなる。

海辺の道は、ただの風景ではなくなる。

商店街の一角は、ただの買い物の場所ではなくなる。

作品を知る人にとって、それらは記憶の装置になる。

そして、その記憶が経済を動かす。

聖地巡礼の先にある、地域の編集力

コンテンツ地方創生の成否を分けるのは、作品の人気だけではない。

もちろん、強い作品は大きな入口になる。

しかし、入口だけでは人は滞在しない。入口だけでは、地域の消費も広がらない。入口だけでは、地域の未来は変わらない。

問われるのは、その先をどう設計するかだ。

作品に惹かれて来た人を、地域の食へ、宿へ、文化へ、産業へ、人へ、どのようにつなげるか。

作品の世界観と、地域の現実を、どのように無理なく重ねるか。

ファンの熱量を、地域の一過性の売上ではなく、長期的な関係へどう育てるか。

そこに必要なのは、地域の編集力である。

観光、商業、文化、教育、産業、人材育成。

それぞれをバラバラに動かすのではなく、ひとつの物語として編み直す力。

コンテンツ地方創生拠点という動きは、地域にその力を問うている。

地域は、物語の“消費地”から“生産地”へ

“聖地巡礼”は、作品の舞台を訪れる文化として広がってきた。

しかし、その先にあるのは、もっと大きな可能性だ。

地域が、作品に選ばれる場所になる。

地域が、作り手を育てる場所になる。

地域が、物語を生み出す場所になる。

観光地として消費されるのではなく、コンテンツを生み、育て、発信する場所へ。

その変化は、地方創生のあり方そのものを変えていくかもしれない。

人口が減り、商店街が静かになり、若い人が都市へ流れていく時代に、地域がもう一度“物語の中心”になる。

それは、決して夢物語ではない。

なぜなら、人は今も、物語に動かされて旅をするからだ。

そして、物語のある場所には、もう一度訪れたい理由が生まれる。

“聖地巡礼”の先へ。

コンテンツが地域経済を動かす時代に、本当に問われているのは、地域がどんな物語を受け取り、どんな未来へ編集できるかである。


参考
※1 内閣府「コンテンツと地方創生の好循環プラン」2025年度選定結果。
※2 内閣府「2025年度『コンテンツ地方創生拠点』選定結果一覧」。
※3 香川県土庄町「2025年度『コンテンツ地方創生拠点』に選定されました(内閣府)」。
※4 一般財団法人さっぽろ産業振興財団「2025年度『コンテンツ地方創生拠点』への選定について」。

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