バンコクは、いま「未来を先に生きている都市」として世界から注目されている。
気温の上昇、ヒートアイランド、海面上昇、地盤沈下─都市の人々が日々向き合う“熱”の問題は、もはや異常ではなく「日常」となりつつある。
本稿では、NEOTERRAINのフィールドリサーチをもとに、バンコクの街角から見える「熱の時代を生き抜く都市の姿」を描き出す。
■ ベンジャキティ湿地─“再生する都市”の象徴
都市の中心に広がる Benjakitti Forest Park(ベンジャキティ湿地) は、バンコクの未来を語る上で欠かせない存在だ。
かつて工場跡地だった場所は、現在、湿地帯として再生され、水と植生がゆっくりと都市に「冷気」を届けている。
水面に風が走ると、周囲の温度がほんの少し下がる。その変化は小さくても、積み重ねは都市にとって大きい。
湿地は単なる公園ではなく、都市の生命維持装置だ。
水が流れ、光が揺れ、植生が根を張るこの場所には、「都市の再生は自然の力と共にある」という確かな示唆がある。
■ 路地の“影の文化”─生活者が作る涼しさ
バンコクのSoi(路地)を歩くと、都市の“影の文化”に出会う。
布製の屋根、植木鉢、屋台のテント──それらはすべて「日陰をつくるための装置」だ。
団扇をあおぐ人々、ベンチに座る高齢者、屋台の主の短い休憩。
あらゆる“影”が、生活者の知恵として街に根づいている。
ハードではなく、生活者が自らつくり出す微気候(micro-climate)。
都市が気候変動に向き合うためのヒントは、こうした日常の中にも潜んでいる。
■ 団扇が語る、都市の“熱”
団扇をあおぐ手の動きは、熱に耐える街のリズムそのものだ。
アスファルトには熱がこもり、建物は昼の熱を夜まで抱える。
そんな中で、団扇で風を起こすという行為は、最もプリミティブで効果的な“都市との対話”でもある。
エアコンでもなく、科学技術でもなく、人が自ら風をつくる。
そこには「都市を生き抜く身体感覚」が宿る。
■ 垂直緑化・河川再生─建築と自然の再接続
高層ビルの壁面につくられる垂直緑化、河川沿いの遊歩道や公共スペースの整備。
バンコクの都市計画は、熱に対抗するための「自然との再接続」を加速させている。
風の通り道をつくり、水辺を整え、緑を増やす。
それは対症療法ではなく、“自然を都市のインフラに戻す”という思想だ。
熱の時代、都市はもはや「人工物だけで成立する空間」ではいられない。
■ ムエタイ─身体が知っている“熱との向き合い方”
ムエタイのジムに入ると、熱気のなかで身体を研ぎ澄ます選手たちに出会う。
汗、呼吸、打撃音─そのすべてが都市のリズムと重なる。
ムエタイは暴力ではなく、気候と都市の厳しさに向き合う身体の知恵でもある。
“耐える”のではなく、“循環させる”強さ。
■ 静寂と祈り─仏像が教える都市の未来
バンコクの喧騒から少し離れると、寺院の前に静かに佇む仏像に出会う。
風が止み、街が静まり、未来が見えてくる。
仏の前に立つと、都市の温度がひとつ下がるように感じられる。
それは、都市が熱と向き合ううえで必要な「内側の静けさ」だ。
■ 都市は熱に負けないか?
都市は、どこまで熱に耐えられるのか。
それとも、熱と共に形を変えながら“再生”していくのか。
バンコクは、未来都市の課題と希望を先に経験している。
その姿は、世界の都市が向かう方向を静かに示している。
NEOTERRAINは、これからも現場に立ち、 “未来への問い”を拾い上げ続けたい。
■ 参考・引用元(Related Sources)
- Bangkok Metropolitan Administration (BMA). “Bangkok’s Climate Action Plan (CAP) 2023–2030.” https://www.bangkok.go.th
- Thailand Department of Marine and Coastal Resources. “Sea Level Rise Observation in the Gulf of Thailand.” (海面上昇に関する公開資料) https://www.dmcr.go.th
- Benjakitti Forest Park Project — Thailand Ministry of Natural Resources and Environment (ベンジャキティ湿地再生プロジェクト) https://www.mnre.go.th
- IPCC AR6 (Intergovernmental Panel on Climate Change) “Urban Heat & Southeast Asia Risk Profiles.” https://www.ipcc.ch
- NEOTERRAIN Field Notes(現地観察・映像記録) (本記事の多くは現地取材による記述)
取材・構成:NEOTERRAIN

