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観光地は“未来実装フィールド”へ─全国で加速する「観光 × DX × 産学官連携」の潮流を読む

地域の地形にデジタル情報が重なる抽象イラスト。光の軌跡が人の動きを示し、観光地が未来のプラットフォームへ進化する姿を象徴している。

三重県多気町「VISON」で始動した Taki-VISON Open Lab(2025年11月発表)は、大学・自治体・企業が連携し、 地域の課題を解決する次世代技術の社会実装を目指す新たな拠点だ。 自動運転、健康・医療、防災、観光、教育─地域の未来に直結するテーマを横断しながら、 “観光地を持続可能な実験場(living lab)として再定義する”構想である。

11/28記者会見の様子 多気町役場にて 左から中野公彦氏(モニター)、久保行央町長、立花哲也

この取り組みは、佐賀県 嬉野温泉シリコンバレー構想(行政、地元企業、大学などが連携し、温泉街を「課題解決の実証拠点」として活用するプロジェクト)とも軌を一にしている。 両者に共通するのは、「観光地が単なる宿泊地ではなく、地域の暮らし・産業・未来をつくるプラットフォームへ進化している」という点だ。

佐賀県嬉野市の老舗温泉旅館「和多屋別荘」
Contents

なぜ今、全国で同様の施策が増えているのか?

① 人口減少・高齢化が“観光だけでは地域を支えられない”現実を突きつけた

観光収益は地域経済の一部でしかなく、恒常的な人口流出・高齢化は、医療、交通、買い物、雇用など生活インフラの持続を揺るがしている。
そのため自治体は、「観光 × 暮らし × 技術 × 産業」という複合的な視点でまちづくりを再構築せざるを得なくなっている。

② 観光地の“差別化競争”が激化─温泉や自然だけでは戦えない

全国に温泉地・自然観光地は数多い。
これからの差別化は、“何が体験できるか”
“どんな未来をつくっている地域なのか”

といった「地域のストーリー・思想」の魅力に移りつつある。

嬉野温泉のような「温泉 × 技術」のモデルは、単なる観光資源にとどまらず、
地域そのものの価値をアップデートする先進事例になっている。

③ 国の政策─観光・地方創生・デジタル田園都市構想の後押し

国土交通省・各省庁の政策により、観光を軸とした地域産業構造の転換
産学官連携による地方創生が明確に推進されている。
特に「観光地域づくり法人(DMO)」制度の整備は、観光地域がDX・データ活用しやすい土台を整えた。

④ テクノロジーの進化が“観光地=実証の場”として最適化

自動運転、モビリティ、オンライン医療、AI観光案内、防災DXなど、
最新技術は「地方=課題が可視化された環境」でこそ価値を発揮する。
そのため、企業や大学にとって地方は最適な実験場(SandBox)となりつつある。

全国の主要事例(俯瞰)

地域施策名特徴引用元
三重県・多気町Taki-VISON Open Lab観光地VISONを「産学官・技術実証拠点」に再構築PR TIMES
佐賀県・嬉野市嬉野温泉シリコンバレー構想温泉街を“実証フィールド”とし、課題解決型イノベーションを誘発PRTIMES
北海道・ニセコ国際観光地 × 外資企業 × インフラ投資観光地を国際人材・移住のハブとして活用ニセコ町公式 — まちづくり・国際観光・環境モデル
大分県・別府温泉×アート×都市DX(インバウンド戦略)温泉都市を「文化・創造拠点」として再構築“別府市創造都市推進部” — アート×温泉の政策
長野県・白馬長期滞在/ワーケーション都市への転換グローバルリゾート化の加速、移住促進長野県観光機構

これらに共通する“5つの成功パターン”

  1. 地域を「観光地」ではなく「実証フィールド」として開く
  2. 地域資源(温泉・自然・文化)を“未来文脈”で再解釈している
  3. 産学官が“ひとつのプロジェクトチーム”として動いている
  4. 住民の生活改善(医療・交通・教育)と観光を同時に設計している
  5. 観光収益に依存しない「地域エコシステム化」を志向

地域DX・観光地再構築が抱える“影の側面”─やみくもには進められない理由

観光地を「実証フィールド」として開く動きは、地域に可能性をもたらす一方で、 いくつかの重要なリスクを孕んでいる。成功している地域ほど、この“負の側面”と真剣に向き合い、丁寧な合意形成を進めている。

① 地域住民の生活との摩擦─“技術優先”がコミュニティを壊す危険性

自動運転、MaaS、防災DX、オンライン医療─これらは地域課題の解決に見えるが、 実装の方法次第では、住民の不安や反発につながる可能性がある。

「便利になる」より先に「私たちの生活はどう変わるのか?」
という不安に丁寧に向き合わなければ、地域DXは“外から来た実験”として拒絶される。

② 文化・景観の“希薄化リスク”─良かれと思った開発が、地域の魅力を消す paradox

観光地でよく起きるのが、
「観光客向けの整備が進むほど、地域の固有性が失われる」という逆説である。

景観が均質化し、商店街が画一化し、地元の文化が“演出化”すると、
本来の価値である“土地の物語性”が弱まる。これは温泉地やリゾートで顕著な現象だ。

③ 外部資本・外部企業への“依存構造”─撤退した瞬間に残る空洞化

産学官連携は強力な推進力になる一方で、外部企業・大学の力に依存しすぎると、 プロジェクトが「地域の外に主導権を握られる」リスクがある。

特に技術実証プロジェクトは、事業終了後の「誰が維持するのか?」
が曖昧なまま進むケースも多い。撤退後の空洞化は避けたい。

④ 実証実験“止まり”になる危険性─“ショーケース化”への警戒

行政・企業が注目されるために実証実験を行い、ニュースになる。しかし、 「その後どう持続させるか」まで設計されているケースは、実は少ない。

「観光地でロボットが走りました」
「温泉街で自動運転をテストしました」

で終わってしまえば、それはショーケースでしかない

⑤ “観光 × DX”偏重の課題─医療・交通・教育など本質課題への接続が弱まる

観光に寄りすぎたDXは、地域の本質課題(医療、交通、買い物、教育)を支えきれないことがある。
観光客向けのサービスは整っても、住民の生活基盤が弱いままでは持続性はない。

「観光の未来」と「暮らしの未来」が一致してこそ、地域DXは力を発揮する。

⑥ インバウンド依存リスク─需要ショックに弱い構造

パンデミックや国際情勢で観光需要は一瞬で消える。
過度なインバウンド依存は、地域の経済構造を脆弱にする可能性がある。

多気町や嬉野温泉のように、観光と産業・教育・医療・暮らしを多層構造で設計することが重要となる。

⑦ データ活用とプライバシーの問題─地方ほど“線引き”が曖昧になりやすい

観光DXでは、移動、決済、行動履歴などのデータを活用するが、
地方ではガバナンスが弱く、透明性が不足するとトラブルを招く。

地域の信頼を損なわない設計、説明責任、データの扱い方が求められる。

だからこそ必要なのは、“技術”ではなく“合意形成”

地域DXの本質は、テクノロジーではなく、「地域の未来を、誰と、どうつくるのか」である。

嬉野温泉でも VISON でも、成功している地域に共通するのは、
住民・自治体・企業が同じテーブルで議論し、“更新された合意”を積み上げていることだ。

観光 × DX × 産学官連携は、地域に大きな可能性をもたらす。
しかし、その力を持続可能な形にするためには、
生活・文化・産業への配慮と、丁寧なプロセスが不可欠である。

まとめ:観光地は“未来の社会を先に試す場所”へ

観光は、もはや「旅の目的地」ではなく、
社会課題の実験場であり、人の流れを生む“地域OS”になりつつある。

VISONや嬉野温泉の施策は、その潮流を象徴する“次の観光地モデル”といえる。
地域の暮らし、産業、文化、テクノロジーを統合しながら、未来の日本の姿を先取りする。

NEOTERRAINとしても、こうした「地域の未来実装」を記録し、問い続けることには大きな意味がある。
地域がどのように変容していくのか─その現場には、必ず“次の物語”が生まれている。


【引用元】

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