SNSマーケティングは、長いあいだ「どれだけ届くか」を競ってきました。
フォロワー数。再生回数。いいね数。エンゲージメント率。
企業はインフルエンサーを起用し、商品やサービスを短期間で多くの人に届ける。新商品の認知拡大やキャンペーン告知において、この手法が一定の効果を持ってきたことは間違いありません。
しかし、いま問われているのは、その先です。
投稿が流れたあと、ブランドと生活者のあいだに何が残るのか。 一度きりの接触ではなく、継続的な信頼はどう育つのか。 そして、発信者は単なる広告塔なのか、それともブランドと共に事業を育てる存在なのか。
ペット同伴施設情報メディア「Petmo」を運営するペットモ株式会社は、2026年5月より、業務委託契約に基づくパートナー型ペットアンバサダー制度「Buddy(バディ)」を本格運用すると発表しました。Petmoは、フォロワー数や拡散力だけではなく、ブランドへのコミットメントを軸にした契約パートナー体制を構築しようとしています。※
これは、単なるペットメディアの施策ではありません。
インフルエンサーマーケティングが一般化した時代に、企業と発信者、そして生活者の関係をもう一度設計し直す試みです。
インフルエンサーは「拡散」を担ってきた
インフルエンサーマーケティングの強みは、明確です。
短期間で多くの人に情報を届けられること。 既に信頼や関心を集めている発信者を通じて、商品やサービスの存在を認知してもらえること。 広告よりも自然な文脈で、生活者のタイムラインに入り込めること。
特にInstagramやTikTokのようなプラットフォームでは、発信者の存在そのものがメディアになりました。
企業は、テレビCMや雑誌広告だけでは届きにくくなった層に対して、インフルエンサーを通じて接点をつくるようになりました。これは、広告の中心が「枠」から「人」へ移ったことを意味しています。
けれども、インフルエンサー施策には構造的な限界もあります。
多くの場合、関係は案件ごとに区切られます。 投稿が終われば、ブランドとの接点も一区切りになる。 生活者から見れば、「いつもの投稿」ではなく、「今回のPR」として受け止められることもある。
つまり、インフルエンサーは強い“瞬発力”を持つ一方で、ブランドの世界観や事業の思想を長期的に育てるには、別の設計が必要になります。
Petmoが選んだのは「契約型アンバサダー」だった
Petmoが本格運用を始めた「Buddy」は、単発の投稿依頼ではなく、業務委託契約に基づくアンバサダー制度です。
Petmoバディは、愛犬との日常を発信するパートナーとして、SNS投稿、サンプリング体験、調査協力などを行います。特徴的なのは、発信者を単なる情報の拡散者としてではなく、ブランドと愛犬家のあいだに立つ「現場の声の届け手」として位置づけている点です。
Petmoは、アンバサダーマーケティングの要素として、次の3つを挙げています。
- 単発ではなく、契約に基づく継続的な関係性
- 定例ミーティングや意見交換による双方向の対話
- 商品開発・体験設計・サービス改善への接続
ここで重要なのは、アンバサダー活動を「広告施策」として閉じていないことです。
発信して終わりではなく、生活者の声を集め、事業改善へつなげる。 投稿の見栄えだけではなく、実際に愛犬家が何に困り、どんな場所を安心して利用したいのかを、継続的に蓄積していく。
これは、マーケティングというより、事業の一部としてのコミュニティ設計に近い発想です。
「ファン」と「パートナー」は違う
今回のリリースで特に興味深いのは、Petmoが示した「同意率20%」という数字です。
Petmoは2026年春、ファンコミュニティ「Petmoバディ」全員に業務委託契約書の雛形を共有し、契約という形での参加を希望する人を募りました。その結果、契約締結に至ったのは全体の約20%だったといいます。
この数字は、非常に示唆的です。
ブランドを好きでいることと、契約を結んでブランドと共に走ることは違う。 応援することと、責任を持って関わることは違う。 ファンコミュニティをそのまま契約型のパートナー組織に移行できるわけではない。
むしろ、20%という数字は、アンバサダー運用の現実をよく表しているのかもしれません。
熱量のあるファンは多くても、契約という重みを引き受け、継続的に協業できる人は限られる。だからこそ、数を追うのではなく、少数精鋭で丁寧に育てる必要がある。
これは、これからのブランドコミュニティにとって重要な視点です。
ペット領域だからこそ、信頼は日常の中で育つ
Petmoの取り組みが興味深いのは、ペット領域という生活に近いテーマで実装されていることです。
ペットとの暮らしは、一度きりのイベントではありません。 散歩、食事、移動、旅行、施設利用。 それは、日々繰り返される生活の連続です。
だからこそ、広告的に作り込まれた一枚のビジュアルよりも、実際の飼い主と愛犬の日常に近い発信のほうが信頼される場面があります。
Petmoは、サンプリング案件で愛犬の健康リスクが生じないよう、契約時にアレルギー情報を申告する制度も設けています。また、発信スタイルも「日常の延長」を基本にするとしています。
これは、ペットを単なる被写体として扱わない姿勢でもあります。
愛犬家にとって、ペットはコンテンツではなく家族です。 その感覚を前提にしなければ、ペット領域のマーケティングは表層的なものになってしまう。
だからこそ、PetmoのBuddy制度は、発信者との関係だけでなく、愛犬との暮らしそのものへの配慮を契約に組み込もうとしているのです。
マーケティングは「届く力」から「育つ関係」へ
これまでのSNSマーケティングでは、「誰に頼めば広がるか」が重要でした。
しかし、これからは「誰となら育てられるか」が問われていくのではないでしょうか。
商品を広める人。 ブランドを語る人。 生活者の声を届ける人。 事業の改善に関わる人。
その境界線は、少しずつ溶け始めています。
インフルエンサーが短期的な認知拡大を担う存在だとすれば、アンバサダーは長期的な信頼構築を担う存在です。どちらが優れているという話ではありません。役割が違うのです。
短く届けるためのインフルエンサー。 深く育てるためのアンバサダー。
PetmoのBuddy制度は、その役割分担を明確にしようとする試みと言えます。
NEOTERRAINの視点:ブランドは、生活者と共に編集される
今回のPetmoの取り組みから見えてくるのは、ブランドづくりの重心が変わり始めているということです。
かつてブランドは、企業が設計し、広告で伝えるものでした。
しかし、SNS以降のブランドは、生活者との接点の中で編集され続けます。 使われ方、語られ方、共有され方。 その一つひとつが、ブランドの輪郭をつくっていく。
だからこそ、企業に必要なのは、単に発信者を起用することではありません。
誰と、どのような関係を結ぶのか。 その関係を、どのように事業へ接続するのか。 そして、生活者の声をどう未来のサービスへ変えていくのか。
PetmoのBuddy制度は、ペット領域における小さな実験でありながら、これからのマーケティング全体に通じる問いを投げかけています。
“拡散”の先に、関係性は残るのか。
その答えは、フォロワー数ではなく、共に走る人の存在によって測られていくのかもしれません。
※参照:ペットモ株式会社「同意率20%——インフルエンサーマーケティングが主流の時代に、なぜPetmoは『アンバサダーマーケティング』を軸に据えるのか。」PR TIMES、2026年5月12日発表。

